2015年11月29日日曜日

プレーする方♯3





5回表、先頭打者は6番の草野球フリーク。軟式ではよくある、力入って回転のかかった内野前フライだったが相手サードがワンバウンドをバンザイして出塁。続く7番は第1打席に続き力ないゴロ。しかしこれで1塁ランナーセカンドへ。

ここでバッター私。力の入った前打席を反省して、リラックス。投手は相変わらず、アウトコースに投げてくる。2球見送り2ボール。3球目、アウトコースストライクか、というボール。もう一度流してみよう、でバットを振ると、

「シュキーン!」

カクテル光線の中、センター右へライナーが飛んで行った。続いてベンチからの声が上がる。

「や、やった!」

この声を聴いて、1塁に走りながら、そういえばチャンスだったと思い直す。2塁ランナーが3塁を回ってホームへ。楽勝でセーフ、タイムリーだ!あっセンターは直接バックホームした、と2塁へダッシュ。しかし相手経験者のピッチャーがカット。1、2塁間に挟まれタッチアウト。がーっ。くそ。

でも、0-0で来ていた5回に均衡破れる。ついに先制!皆の「ナイスバッティング」の声がチョー気持ちいい。右方向狙いが上手くいった。タイムリー打って監督の責任を果たすことが出来た。

5回裏、相手は攻撃前に円陣を組んで声を出してきた。しかしこの回も0点に抑えた。試合が動いて、期待感と、これが本当の試合での緊張感。攻撃中は、自分には回ってこないし、1塁側からグラウンドに出てすぐの灰皿でタバコを一服。月がきれいだ。

6回裏は、サウスポーが「バテた」ということで、私が再びマウンドに。どうだかな、と思ったが無事ゼロに抑える。ひょっとして、このままいけるか?チームにもほの温かい自信が生まれている。

7回表、打席が回る。ワンアウトランナーなし。この回から左投手に。左なんて、対戦したのは少年野球に遡るんじゃないかなあ。どちらかというと得意だ。相手の外野は極端な前進守備で、「あれを越えてやる」という気持ちがあった。

1球目、ややアウトコース、思い切って振ったがファウルチップ。力入ってるなあ。ボール、ボールで次は真ん中、振ったら回転のかかった低いフライ。走ったが、誰も捕れず転がってファウル。うーん、やっぱ前打席のタイムリーでリキんじゃった?両ひざを内また気味に曲げリラックス、打席でつぶやく。「力を抜いて、ヘッドでボールを捉える感じ、内振り、クルッと回る。」5球目はインコース気味に入ってきた。力を抜いて・・

シュキーン!打球はライナーでややセンター寄りのレフト前へ。ジャストミート、気持ちいい〜。2塁行けるか、と思ったが、レフトの処理がよくあきらめる。マルチヒット、自然に定めた、というか私が押し付けた、マネージャー賞確定。

次のバッターはフォアボール、2塁へ進んでバッターは1番に置いたキャプテンのソフトボール女子。右投げ左打ち。前日練習ではミート力が素晴らしく、私の投げる球をパカパカ打ってたがこの日は勝手が違うのか音なし。

この子がこの日初めて打った。レフト線へ上がった当たり。「よっしゃ来たー!」私の脳裏には、相手が極端な前進守備、というのはどこかにあった。しかし常識的には明らかにヒット性、落ちれば回れる、という意識が先走り、飛び出してしまった。結果はレフトがキャッチ、戻れずアウト。観客席のおっさんから「罰金じゃコラ〜という野次が飛んだ。ちっ。

7回裏、私もこれ以上投げれず、中学野球部のルーキーと交代。私はレフト。ここから試合は大波にー。

プレーする方♯2




声出しは指名した女子のキャプテン。「しまっていこう!」監督の私は審判役で駆け出しまでやって「ケガしないように、楽しみましょう」礼で散る。我が方は先攻。

相手投手はかねてから聞いていた、高校野球投手経験者。なんか余裕で投げている。でももちろん手加減付き。2番がきれいに三遊間を破るヒット!しかしこの日不調の3、4番が返せず。

予告先発だった私がマウンドに上がる。そりゃあ若い頃はビュンビュン投げてたけど、たぶん10年以上ぶりのマウンド。届くだろうか。ここ数日は息子とキャッチボールをし、まっすぐ立って、足をキレイに上げて、左腕は壁を作り、右腕はたたんで身体の動きに連動させ、上から叩くように投げる、出来ればキャッチャーを突き抜けてバックネットに当たるイメージで、というのを旨にシャドーピッチングを重ねてきた。

やはり遠く感じる。しかし第1球は入った。おじぎボールだけど、フォームにブレがないからけっこういける。振りかぶるとぶれるから途中からノーワインドアップに。最初は三振!うそみたい。サードゴロエラーで出塁を許す。セットポジションで首を1塁方向へ振ると痛い素人。次のバッター。

カーン!鋭い当たりのショートゴロが二遊間に。しかし前日参戦を決めた草野球好きがここにいた。たぶん守備位置を変えていた。捕って、2塁ベースを踏んで、ファーストへ。アウト!なんとダブルプレー成立!めっちゃうそみたい。前日練習ではダブルプレーなんて永久にムリ〜とか言ってたのに。士気大いに上がる。

2回、6番ヒットで出塁、ワイルドピッチで2塁へ。7番の内野ゴロで3塁へ。バッター私。前日練習では、ボール気味の球はうまく当てられたが、ストライクゾーンはファウルだった。ここまでのバッティングセンターでもあんまり自信なし。アウトコースを右へ打とうとしたが、案の定力入って回転のかかったピッチャーゴロ。打点かと思ったけど、先頭の5番打者が倒れていたのでチェンジ。くっそ。

このウラから投手は経験者のサウスポーに交代。キャッチャー私。さすがにコントロールが良くてボールがおじぎしない。私はキャッチャーも若い頃はずいぶんやっていたが、なかなか反応できない。やっぱ怖いし。ワンバウンドみぞおちに入ってぐっとかなるし。ちなみにこの頃からキャッチャーそらしても走らない、というのが暗黙のルールになる。

三振と内野ゴロで三者凡退。「速い・・」という声も上がる。100キロくらいかな。ここから試合は膠着状態に。予想に反して0対0が続いた。相手の経験者も一発狙いだからかクリーンな当たりが出ない。

ふと観客席を見ると、子供が2人スタンドで遊んでいる。お母さんらしき人は試合を見ているようだ。バックネット裏やや1塁より高いところに陣取ったおっさんがたまに野次を飛ばしてくる。私は左手親指が痺れるように痛くなって、キャッチャーを代わってもらいファーストに入った。

ファースト守ってて守備機会はほぼゼロ。でもランナー出た時左投手がこちらを見ると、本当に投げそうな気がして、見るだけで牽制になる、というのもよくわかった。

さて、5回。我が方の攻撃ー。

2015年11月28日土曜日

プレーする方 ♯1




草野球。水曜日早朝練習、用具も借りてノックにバッティング、ベースランニングなんかもやったが、すぐに筋肉痛に。でも広々としたところで走るのはやっばり面白い。

朝めっちゃ早起きして、6時前の始発バス。私の家は山にあるので、真っ暗な中をバスがカーブを回ってくるヘッドライトを見ると、トトロの世界だなあ〜などと思ってしまう。でも、遊びの早起きはぜんぜん辛くない。さあ、あすはスタジアムで試合だ。

足はなんとかなるだろうけれど、肩をケアしないと。東京時代に隣のお兄ちゃんとキャッチボールをして、翌日肩甲骨がひどく痛み、整骨院で痛み止めの注射をしてもらったことあり、風呂でマッサージしてバンテリン塗って寝なければ。ここ数日は息子とキャッチボールしてたから多少は大丈夫だろうけど。

夜は雨でグラウンドコンディション心配。まあ当日は晴れ予報だし、だいじょぶでしょ。前に大学野球入ってるから、学生のトンボ掛けに期待。(笑)でも明日の夜遅くは寒波が入るから雪とか。えーっ?

さて迎えた当日朝。幸い右肩は問題なし。ただ軸足、右足太ももが痛い。って、家出ると、雨まだ降ってんじゃん!まあ止むでしょなんせ晴れ予報・・。

会社に着いても降っている、どころかザザ降り?こっちの心配はしてなかったー。球場では午前から大学の新人戦があり、整備して30分遅れで始めたようだ。まあこれでなんとか・・。

我が野球部には元名門サッカー部出身の女子がいるのだが、朝の会話で笑ってしまった。彼女はライトを守る予定だった。

「フィーゴ♪さん、雨降ってるやないですか〜。」
「学生野球やってるし、昼には止むでしょ。外野の芝は水が残るかも知れんけど。」

すると、予想外の返答が。

「自分は芝ならなんでもだいじょぶっす!」

さすがサッカー女子、さすが体育会系!

ソワソワしながら仕事をして、車手配で出発。上司が送ってくれ、さらに相手さんの分まで差し入れ買ってくれた。ホロリ。どでーんと聳える球場に着く。試合を終えた大学生が目につく。スタンドから覗くと、ファーストはちょっと泥っぽいが、他は大丈夫そう。球場さんに「やりますか?」と訊かれたので、当然やります!と答える。内野スタンド完備。やっぱスタジアムはいいなあー。

女子に更衣室を手配して、我々はベンチで着替え。スパイク履いて、ソックスはサッカーソックス、下は防寒ジャージ、上は野球のアンダーシャツに阪神の黄色ユニ、帽子は神宮で買って来た早稲田のWマーク帽子。「ちぐはぐ〜」とからかわれながらグラウンドに出る。夕焼けがライトの向こう、照明が点灯されて実にいい雰囲気だ。

ちょっと固めのケン・グリフィー型グラブでキャッチボール、黒土がいい感じ。やっぱこれだなあ、本日その1だ。最初はノック。昨日練習したから、だいぶサマになっていてびっくり。相手のノックを打ってるのは明らかに経験者だなと分かる。いよいよプレイボールー。

2015年11月23日月曜日

休休休




この3連休は全休み。この2ヶ月ほどの生活を考えると、なんて贅沢なんだと思う(笑)。

関西に戻ると寒くてびっくり。夜ももう薄い上着では冷える。

ママ車で迎えに来た息子の目が輝く。ワン2頭も飛びついて来る。帰りをこんなに喜んでくれるというのは嬉しいねえ。でもパパ業というのは毅然としていなければならない(笑)。アニメのラストを車で見るというので、1人で先に家に入ったが、迎えてくれたのは毎年の、雪だるまの風船だった。いつのまにか季節はクリスマスに向かっている。

初日は寝て寝て寝て、寝た。実際には午前遅くに起きて、シャワー浴びて、またベッドに引っ込んで、「ダイヤのA」読んでケイタイをいじったりして、昼ごはん食べてからは明治神宮野球大会の高校決勝を観ながらときどき落ちていた。いくら寝ても眠い。晩御飯はサンマ塩焼きにあさりの酒蒸し。息子は奥歯が抜けかかっていて、かなり痛いらしいが、好物のあさりは食べていた。

昼寝たので夜更かし気味で、千早茜「あやかし草子」読了する。鬼や天狗の話だが、きれいで独特の雰囲気を出し、なかなかだった。

朝はまたゆっくり。ママ髪チョキチョキで息子と軟球キャッチボールをする。少しずつ捕れるようにはなっているが、まだ怖いとか。広いところで思い切り投げさせたいなあ。捕るほうも広い方がやりやすいし。こちらも草野球を控え、フォーム固めと動きの確認。

家に入るときにカマキリ発見。ずっと山が近いところに住んでいるから珍しくないが、普段あまり家にいないだけに目が行く。そろそろ卵を産み付ける時期かな。

ケーキ食べて勉強させてワンコに餌をやってママ帰る。阪神のデパ地下弁当定食。息子と腹いっぱい食べて食べ過ぎて、2人とも苦しんだ。(笑)

人生ゲームをして、風呂入って寝る。この日も夜更かし気味。「鏡の国のアリス」ちょっと読んで、寝る。

翌日はまたゆっくり。ママは陶芸家のルーシー・リー展観に姫路へお出かけ。留守番。姫路城の近くだけに、息子一緒に行ったら、と促したが、家に居る、とか。

午前ぐうたらして、昼は2合ご飯を炊く。ラーメンか、パスタか、おう、インスタントカレーあるな、と言ったら息子がじゃあぼくカレー、と言ったからだ。

パパはラーメンライス、海苔に昨日晩御飯で余ったカラアゲを1個。息子はご飯いっぱい入れて、というので1合盛ってやったが、ペロリとたいらげたからちょっとびっくりした。

勉強させて、キャッチボール。ぼちぼちノーバウンドでも捕る。速い球までもう少し。

だんだんフォームも固まってきて、身体は痛いが、まずまず。明日からは運動出来ないから、シャドーを念入りにすること。

ママ帰って、ブリしゃぶ鍋と練り物で晩ご飯。まあ観たいもの楽しんで、ストレス解消するのはいいものだ。息子は土曜音楽会だったから火曜も休み。パパは明日休みじゃないのと甘えるが、パパは厳しいお仕事。もうすでにメール入ってるし。みんなよく働くよなあ。 

寝かしつけ完了。風呂入って、苦いコーヒー飲んで、「アリス」読んで寝よう。

2015年11月19日木曜日

忙秋終またスタート





東京8泊9日の仕事もようやく終了。今年はとこへ行っても雨にたたられる。毎年恒例だけど、今年は稀にみる気温の高い日々で、いつもダウンを着たりするのに、今回防寒着は1回も着なかった。

これで多忙の秋は全終了。やっと終わった。長かった。
 
しかし、年明けにかなり重い長い仕事を振られていて、すぐに準備となりそうだ。やれやれ。

本読みながら、取り掛かろう。ふー。

2015年11月8日日曜日

高知で豪雨。





今週は木曜日から高知出張。さすがは高知、日が射したら暑い。太平洋はきれい、穏やかな気分になれる、晩ごはんのカツオのたたきもカマも上手い。林ではキツツキがドラミングして、のどかな雰囲気を楽しんだのもつかの間、日曜日は豪雨。坂道に濁流のように雨水が流れ、危険を感じながら登る。

濁流をなんとか避けようとつかまったガードレールの白ペンキが剥げまくり、気がつくと手も薄い上着も真っ白に。あーあー。クリーニングして落ちるかなあ。傘差しててもずぶ濡れだし。

夕方仕事終わりのタイミングで天気ごっつ良くなり、青空が恨めしかったのでした。月曜返ってすぐ東京だ。

2015年11月1日日曜日

気分転換とは





写真は「火怨」この5年間、読んだ本を記録、作品数・冊数を数えてきたが、記念すべき500作品めとなった。よく読んだなあ、次は1000を目標に。

さて忙しい季節、ただでさえストレスがたまる。そんな時に、読者に没頭すると、楽な気持ちになるから不思議だ。

その昔、もう亡くなられた上司が「なにか一つでもいいから夢中になれる趣味を持っとけ。ストレスは気付かないうちに溜まっていく。いつ破裂するか分からんからな。」と言ってくれた。その言葉もひとつのきっかけとなり、私はたくさんの事を試した。映画もそう、芝居もそう、そしてある時ひとつの現象に突き当たった。

一時期少し本格的なスケッチをしてみた。陰影や細かい線、シワまでそっくりに描こうと、静物スケッチに集中した。気付くと、1時間半経っていた。すると、達成感もあったが、ストレスがきれいに消えていることに気がついた。

ストレス解消と言うと、運動、楽しい食事に酒、ショッピング、男女交際、などなどいかにもリラックス出来そうな方法が思い浮かぶ。これらの全部がストレス解消につながることは経験的にも間違いない。

しかし、「集中すること」も大事な、ストレスを脱出する方法だと思う。

私には読書があって良かったと、いま心から思っている。家庭を持つと独身に比べて制限があるし、忙しい時はゆっくり趣味に時間も割けない。手軽で、集中できる手段を持っていることが大きい。年季もそろそろ入ってきたから、有効に心をコントロール出来るし。

強さが大事。メソッドも大事。まだまだだいじょうぶ。

土曜日は10月5回目の東京。11月も含めて、秋の気候が良い時は旅から旅である。世はハロウィン。六本木にも行ったがたくさん着飾っている人々がいて、土曜日をより実感させた。東京はやたら寒かった。帰って来て、遅い電車に乗ったら、快速ぎゅうぎゅうだった。やはり大阪もハロウィンか?

帰って来て、風呂に入った後、ちょっとだけのびてるな、と思っていた足の指の爪、左中指の爪がポロリととれた。真ん中の方から少し出血している。痛い。バンドエイド貼って寝る。前回3泊4日の時も履いていったのだが、とかく革靴はずっと履いて歩いていると右足の小指を筆頭として足の指が痛くなる。今回はその影響だろう。

日曜日は、完全休。寝て寝て、午後は息子とキャッチボール。柔らかいボールは卒業、重い軟球を使う。いやーこれでこそ。柔らかいボールは軽くて加減が分からず投げにくい。キャッチもやはりこれくらいの重みがあればしやすい。それにしても、ようやくここまできたか。ワンバウンドで投げてやっていて、まだノーバウンドのキャッチは怖いと言ってた。まあこれから。

夜は久々に焼肉。たまには食べとかないとね。パワーが出ない。

もうすぐ、ぐっと寒くなる秋が来る。冬の入り口だ。

10月書評の2





ハロウィンナイトの東京タワー。六本木ヒルズの広場は、どちらかというと家族用のような感じで、夜は寂しげだが、渋谷は仮装の若者たちが集結してえらいことになってたらしい。

もうここまでくると年末の読書大賞が見えたりする。毎年表紙賞を選んでるが、まあこれから考える。昨年の大賞、朝井まかて「恋歌」が文庫で出て、これが装丁もいいので、保存用に買おうかなと思っている。あの作品のように、異質で色のある光を感じる作品に出会いたい。

大賞作って、今回が5回目。来年はグランプリ作品を読み直すかな。

◆上橋菜穂子「虚空の旅人」

今回、バルサは出てこない。でもストレートで面白かった。

新ヨゴ皇国の皇太子で、かつてバルサに命を助けられたチャグムは、星読み博士のシュガとともに、南のサンガル王国を訪問する。しかし島々を勢力圏に持つサンガル王国に対し、深い陰謀が進められていた。

このようなシリーズものは、あまり裏表紙のストーリーを読まずに中身を読み始める。あまり予断を持ちたくないからだが、まさかバルサが出てこないとは思わなかった。しかしたくましく成長したチャグムと、南国サンガルの若き王族、海と船、そして戦、陰謀、権謀術数と読み始めたらかなり引き込まれた。

あとがきにも書いてあるが、最初の巻「精霊の守り人」が新ヨゴ皇国、次の「闇の守り人」が北のカンバル王国と舞台は変わっていったが、ここまではひとつの独立した物語だった。

でもこの先は、異世界をまたにかける壮大な物語が新たに始まるようで、楽しみだ。

◆熊谷達也「相克の森」

今年100作品めなので、好きな作家の本を。現代劇で理屈も多いが、独特の生々しさと底流に流れる東北の、強く男臭いものはやはり好みである。

タウン誌のライター兼編集長である美佐子は、マタギの親睦会で「今の時代、熊を食べる必要はないのではないか」という疑問を口にし、不興を買う。しかし、自身の変転もあり、マタギたちをライターとして追っていくうちに、気持ちが動いていく。

直木賞受賞作である「邂逅の森」、第一次大戦後の樺太などを舞台にした「氷結の森」とともに「マタギ三部作」と呼ばれる、その最初の作品である。「邂逅の森」の主人公は美佐子の曾祖父ということになっていて、両方読んでいる身には、ほう、となる。

熊との共生、なぜマタギたちは熊を獲るのか、というテーマと真っ向から向かい合い、様々な活動や意見、法律も紹介してある。若い理屈が多いきらいはあるものの、現代人の目線から熊狩りを見ている。

私は「邂逅の森」を読んで以来、熊谷達也のその荒々しさ、生々しさ、迫力が気に入っている。今回はまあ、三部作入門編、という感じだった。


◆高橋克彦「火怨〜北の耀星アテルイ」(2)

蝦夷の英雄を巡るスケールが大きい物語。テレビドラマ化もされ、アテルイは舞台でも演じられている。大作で、読むのに時間がかかった。

780年、朝廷に帰順していた蝦夷の伊治公鮮麻呂(これはるのきみあざまろ)が、朝廷側要人を殺し、反旗を翻した。朝廷側の進軍が予想される中、陸奥(みちのく)の蝦夷は若きリーダー阿弖流為(アテルイ)のもと結束し対抗策を練る。

高橋克彦は「写楽殺人事件」という浮世絵ミステリーで江戸川乱歩賞を受賞し、ホラー「緋い記憶」で直木賞を取り、さらにこの作品やNHK大河ドラマになった「炎立つ」など時代劇も手掛けている岩手出身の作家さんで、私はけっこう好きである。熊谷達也もそうだが、やはりみちのくへの想いが感じられる。

物語には、18歳で蝦夷のリーダーとなったアテルイを中心に、戦友たちとの、知恵をこらした戦、蝦夷の位置付け、そして智将にして征夷大将軍、坂上田村麻呂との関係性など、豊穣な内容が詰まっている。戦闘シーンの迫力も抜群で蝦夷が勝つところはスカッとする。こだわりも大いに感じられる。

ドラマチックで綺麗すぎるか、と思う部分もある。あと史実に関して、巻末の解説は学者さんにして欲しかった、という不満はある。が、やはり名作だろう。古代&北方が好きな私は長い間読みたいと思っていたし、一種本懐を遂げた気持ちだ。

高橋克彦は東北が舞台の時代ものも多いらしいし、蝦夷の戦いについては熊谷達也の著作もあるのでまた読んでみようかと思う。

◆長野まゆみ「鳩の栖」

ふうん、もひとつ読んでみたくなる、少年が主人公の短編集。

父親が転勤族の操は、転入した学校で、 樺島というクラスメイトに声を掛けられる。小声で内気な自分に優しく接してくれる樺島に、操は初めて友人を得た気になるが、ある日樺島は学校へ来なくなってしまう。(鳩の栖)

私はよくやることなのだが、先日「感動する本」で検索したサイトを見ていたところ、長野まゆみの「天然理科少年」というのが紹介してあって興味を持った。書店を探しても置いてなく、ブックオフでたまたま見かけたこの本を買ってきた。

言葉遣いが現代的でなく、難しい漢字も多く、昭和期の文学を思い起こさせる。ご本人のあとがきで、主人公はいずれも中学生(ひとつだけ高校生)で、騒がしい思いに駆られがちな少年たちの、静かな部分を描いてみようとした作品群、とある。確かに少年の内気さにスポットを当てた穏やかで味のあるストーリーが多い。

話の成り行きと構成に仕組んだ感があって、パターンづいている印象があるが、ハッとさせられる新鮮さもあったりする。オールドファッションな筆致も心地よい。「天然理科少年」がますます読んでみたくなった。

10月書評の1





10月は9作品11冊。本格ものと、旅ものやエッセイ、新規の作家さんら、バランスが良かったと思う。読みたかった作品が3つも読めて嬉しい月でもあった。ではレッツスタート!


村上春樹「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」

面白いという人が多くて、楽しみに初読み。確かに、ハルキの魅力が詰まっていると言っても差し支えあるまい。

高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街でそこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす"僕"の物語「世界の終り」。老科学者により意識の核にある思考回路を組み込まれた"私"がその回路に隠された秘密を巡って活躍する「ハードボイルド・ワンダーランド」交互に描かれる2つの世界のストーリー。

もう、自分の言葉でまとめるのが面倒だったから、上のあらすじは上巻の裏表紙に書いてあるのをほぼそのまんま書き写した。

2つの世界の、壮大なSF的構成力が素晴らしい。音楽、本、酒、ライフスタイル、舞台など、小粋でハードボイルド。色彩をも意識している。いつものように知的な女が絡み、不敵な会話を展開する。また「やみくろ」など語感を大事にしたのか、何かの暗喩なのか、すべて不明な登場物、小道具的登場人物などいかにも的なハルキワールドである。

闇と光をかなり意識していて息苦しくなる部分もある。

何というか、やはりこれはハルキにしか書けない。ハルキと他の国内の作家とは大きな隔たりがあると、読む人が思い込んでも仕方ないくらいである。

個人的には、ラストに至る道がやや強引で、結論が出やすいようでいて難しいな、と思った。

最後にひとつ。比喩、いわゆる直喩の素晴らしさもまたハルキであるが、ラストに近いところに気に入ったものが有ったので引用して終わりにする。レストランの場面。

「ウェイターがやってきて宮廷の専属接骨医が皇太子の脱臼をなおすときのような格好でうやうやしくワインの栓を抜き、グラスに注いでくれた」

湯本香樹実「岸辺の旅」

芸術映画っぽい話。この作家の、新たな面を見た感じだ。

実際に映画化され、カンヌ「ある視点部門」で監督賞を受賞している。今月からの公開だからと急いで読んだ。深津絵里、浅野忠信主演である。

瑞希(みずき)がしらたまを作っていると、3年前に失踪したはずの夫・優介が台所に立っていた。優介は「自分の身体は、海の底で、蟹に食われてしまった。」といい、瑞希を長い旅に連れ出す。

湯本香樹実(かずみ)という作家は、この春にベストセラーの少年もの「夏の庭」を読んだ。可愛らしい話だし、その後児童文学も書いたようなので、このような、大人芸術っぽい物語というのはイメージ外だった。

突飛な設定を取ることで、互いに理解し合えて無かった部分を表現し、厚く哀しく埋めていく、長い夫婦の旅。恋人や求めている人の幽霊を出す、というのは昔から良くあるが、今回は、ナイーブなストーリーをゆっくりたんたんと追って行くための手段に思える。

直接的な表現が少なく、人や自然、そして心象的なものをキーワードを用いながら表し続く旅。私はかつて単館系の映画をずいぶん観たが、いかにも好かれそうな内容と展開だ。ラストも小粋だと思う。変化球も混ぜているがここもまた映画っぽいな、と思ってしまう。

たんたんとし過ぎているのが欠点といえばそうか?終わる前に観に行こう。

梨木香歩「渡りの足跡」

ネイチャリング・エッセイ集。カメラマンや冒険家の記録とはまた違った味。

梨木香歩の小説には、動植物がやたらと詳しく出てくる。北海道で鳥の渡りを観察したり、開拓民の暮らしから、戦時中の日系人の想いにまで触れる一冊。

私は北の自然もの、アラスカ・シベリアものが好きで、星野道夫や野田知佑、椎名誠の本を読んできたが、そのほとんどが、自然と、その土地であったことの克明な記録っぽいものだった。この作品は、けっこう話があちこちに飛ぶし、表現はやはり小説家のそれで、あたたかい土地の人との触れ合いも独特の筆致で記してある。

特に渡りに関しては、今回梨木香歩の感じているロマンが分かるような気がする。小鳥でも、気の遠くなるほどの距離を飛び続けて渡りをする。関連の本も読みたくなる。

また、作中にたびたび登場する「デルスー・ウザーラ」も面白く読み、いまだに書庫にとってある。

やはりネイチャー系に詳しい人は、行動派。意外な一面を楽しく読ませてもらった。

麻耶雄嵩「隻眼の少女」

うーーーん、しっくりこないかなあ。推理小説界の評価、そのトレンドを知るような気もするな。勉強の一環という事で。

自殺のために山奥の温泉場に逗留していた静馬は伝説のある「龍ノ淵」で牛若丸が来ていたような装束の少女・みかげと出会う。その二日後、村の守り神・スガル様を継ぐ事が決まっていた琴折(ことさき)家の少女が惨殺される。

日本推理作家協会賞、本格ミステリ大賞ダブル受賞。友人からこの作家の別作品の話を聞き探していたところたまたまブックオフで見つけて買った一冊。

さて、村のしきたり、生き神様のような存在はまあ日本ミステリ界の伝統だ。軽くてビジュアル重視の少女探偵も今後の展開かなと許容、最初の派手派手しく残虐な連続殺人事件も、新本格のような感じで、そうすべきだった理由があるんだろなと期待させる。

しかしながら推理の展開はあまり面白くなく、全然謎が解かれてないし、そもそも犯人の次のターゲットは明らかなのに、何でこんなに警戒が緩いのよ、と思ったりする。

で、後段の謎解きとなるのだが、ひと言で言えば、身も蓋もなかった。うーむ、
 
第一部の舞台の組み立てから、数多い旧家の登場人物の書き分け、探偵の突飛さ、ワトスン役の背景、最後の種明かしで全てが繋がるように見えるところなど、工夫はたくさん、現在のミステリー界で称賛される部分はあるのだろう。

でも私の好みでなかったことは確かだな。

下川裕治「世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ」

旅ものはたまに読む気になる。楽しく読めるが、いつも「私には絶対ムリー!」と思う。

ユーラシア大陸東の果て、シベリアのソヴィエツカヤ・ガヴァニ駅から、ヨーロッパ最西端のポルトガルはカスカイス駅まで、できるだけ列車だけで移動しようという旅。サハリンからシベリアに渡り、遅くて停車時間も長い列車に乗ってウラジオストクまで5日間かけて辿りつくのだが、この間は飛行機で行けば1時間。列車というものはすたれつつある、という事もボトムに匂わせる紀行文だ。

ロシア、中国、中央アジア、と移動は続くのだが、乗客が少ないために路線区に車両ごと放置されたり、1本前の列車が爆破テロに遭い、ロシアから目の前のアゼルバイジャンに入国できなくなってしまったり、覚悟のビザ切れオーバーステイで売春宿に隠れ滞在したりと様々なトラブル続きの旅。

作者は列車だけでなく、様々な手段でアジア他の地域を旅する旅行作家で、以前来た時の印象との違い、シベリア、中国、中央アジアとロシアなどの国情の変化も書いてあって興味深い。

やっぱり読んでおくもので、バッグパッカーすら自分にはムリだな。