長い5月で、GWもあったし、あちこち行った。台風も来たし、なんかいろいろあったなあ。
5月は12作品12冊。移動時間もあったからよく読めた。ではスタート!
川端康成「雪国」
日本人初のノーベル文学賞作家。その作品は美しい。表現方法は独特で、芸術的。なるほど、だった。
島村は、新潟の温泉宿にいる芸者の卵、駒子に惹かれ2度目の訪問へ向かっている。その車中で駒子の友人の葉子に出会う。
まず、有名な冒頭があって、車中の幻想的な風景が、この作品の大きな特徴付けをする。一筋縄では行かない駒子と葉子の、生々しい生き方が、作者独特の美しさを醸す表現方法とリンクして、芳醇で切ない感じを出している。なあんて。
いつも読み終わった後に作家作品のことを調べるのだが、文学的、芸術的な表現の評価が多すぎてついかぶれてしまう。
名作であることに間違いは無い。駒子と葉子と島村のやりとり、ダイアローグは、さして私の心には響かないが、それを媒体とした様々な物事の表現が際立つ。
構成としても、冒頭の、余りに幻想的で、皆が容易に想像出来るシーン、最後の火事と天の河の場面も実に秀逸だ。
初の川端康成は、モノが違う、と思わせる作品だった。「伊豆の踊子」や「山の音」「古都」なんかも読んでみようかな。
阿部和重・伊坂幸太郎
「キャプテンサンダーボルト」
うーむ、伊坂幸太郎らしい作品ですな・・。
相葉時之は、小学校の同級生が金銭を騙し取られたペテン師を懲らしめるつもりで山形市内のホテルに部屋を取るが、行き違いで、国際的陰謀に巻き込まれる。そして逃亡先の仙台の映画館で、やはり小学校の時、野球部の友人だった井ノ原悠に偶然再会した。
ノスタルジー、男の友情、うまくいかない人生で金銭的な苦悩。軽く気の利いた口語風の会話、国際的陰謀にサスペンス、と、私もそんなに伊坂作品を読んだ訳ではないが、これって伊坂幸太郎の得意技じゃないかな、と思ってしまった。
娯楽作品であり、現実離れしたストーリーが次々展開する映画の場面を文章にしたかのような、形で書き連ねられている。特に途中からは一気にテンポも上がってまずまず楽しめた。
阿部和重というのは純文学の作家らしい。機会があれば読んでみよう。
カトリーヌ・アルレー「疑惑の果て」
悪女描きというアルレー。うーん、ドロドロだったな・・。
有名なフランスの作家、フーラーは、高名な文学賞であるゴングール賞の発表を控え、アメリカ旅行に出る。彼は若く美しい女・バーバラを妻にして帰るが、ほどなくバーバラの夫と名乗る男から電話がかかって来た。
カトリーヌ・アルレーは「わらの女」他の作品が日本でもドラマ化された有名な作品で、桜庭一樹「少女には向かない職業」の中でストーリーの要素に使った、と知って興味を持った。「わらの女」以外の小説もドラマの原作になっているようだ。
「疑惑の果て」は1988年、「わらの女」より30年後、晩年の作品である。どんなものかと興味を持って読み進めたが、最初の方からドロリと来て、進むにつれてドロドロとなる。綺麗すぎるよりは、ある意味人間的で、サイコ・サスペンスのような展開もあるが、解決もどうもしっくり来ない。
善と悪、不幸と幸せ、そして結果残るもののバランスが上手く取れてないからかと思える。ある意味因果応報感を漂わせ、芸術映画のような趣きも無いではないが、あまり人に薦める本ではないな。
近藤史恵「ヴァン・ショーをあなたに」
軽く読めるフレンチビストロミステリー。というか、ほのぼの短編集第2弾。
「タルト・タタンの夢」に続き、舞台は小さなビストロ、「パ・マル」。ぶっきらぼうだが腕はいいシェフ三舟、厨房と接客をする志村、ソムリエの紅一点川村、ギャルソンの高築の4人で切り回している。美味しい料理と、店に来る人々の、日常的な謎の答えを、三舟が解き明かすのが読みどころ。
今回は前作と少しだけ趣向が変わっていて、作る方の話があったり、フランス修行時代の三舟が登場したりする。ひとつの作品が短く、すっきりしないところもあるが、匂って来るような料理の美味しそう度合い、またフレンチに、必要以上に説明を加えない部分も相変わらずいい味を出している。謎の切れ味もまずまずだ。
個人的には、前作のテイストをもう少し味わいたかったかな。まあこれからの展開も楽しみだ。
森絵都「リズム」
まっすぐな、森絵都のデビュー作。講談社児童文学新人賞、椋鳩十児童文学賞受賞。
あたし・中学1年のさゆきは、親戚て幼なじみの真ちゃんが大好き。真ちゃんは高校受験をすっぽかし、髪を金色に染め、バイトしながらバンド活動に明け暮れている。さゆきは、母や姉から、もう真ちゃんと付き合わない方がいい、とたしなめられる。
児童文学、だがらか、影が忍び寄ったり、いじめのシーンはあったりするが、毒は全くない。キャラクター構成までの全てがほのぼのと子供っぽく、明るい色を醸し出している。もちろん大人としては、物足りなさも感じるけれど、本格的な毒の無さにホッとするのも事実だ。
昔ながらの親戚付き合い、商店街、近所づきあい、大らかで不思議な先生、古典的ないじめ方など、我々世代が最後に味わったような設定で、主人公の伸び伸びさ加減をいい噛み合いで描いている。忍び寄る影は時代か。
森絵都は大人な短編集「風に舞いあがるビニールシート」で直木賞作家となったが、やはり児童文学ものに力点が置かれている作家だと思う。
気が向いたら、次は「DIVE!」でも読もう。
雫井脩介「つばさものがたり」
硬軟自在という雫井脩介。名作とは言わないが、ほわっとした小説も好きな身としては、いい作品だったなあ、という感じだ。
自由が丘のパティスリーで働いていた君川小麦は、同僚でフランス修行帰り五條朋彦に、新店を出すので手伝って欲しいと頼まれるが、身体の不調のため断り、やがて辞職する。小麦は実家のある北伊豆に自分の店を出すことにするが、天使が見えるという不思議な甥っ子に「ここははやらない」と言われてしまう。
雫井脩介はドラマにもなったサスペンス「火の粉」を読んだが、今回はまったく違うテイストで、女性作家が描きそうなった構成だった。病魔と運命。そこにからむファンタジックな要素。ファンタジーの連想は自由だが、可愛らしくも引き込まれるような内容になっている。もっと甥っ子を見ていたい、物語の終了が残念、というような・・。
そう思わせた時点で、小説としては勝ちだろう。これからの生を対比させることで生きることの煌めきを、うまく引き出している。意外と芸術的な長編かも知れない。
0 件のコメント:
コメントを投稿