
土曜仕事して、夏休み最終日は丸1日息子の夏休みの研究仕上げにお付き合い。出来上がったの見たらやはり嬉しいもの。
次月は、特集なしだけど、10月までにまた考えようかな。では後半!
島田荘司「斜め屋敷の犯罪」
名作ミステリー第4弾。再読である。昭和57年というから、すでに32年前の作品だ。時代掛かった表現もあるが、そのトリックと、なんというか、仕掛けに唸った数少ないミステリー。
本格派の王道、つまりおどろおどろしく変な館で起きた殺人事件、もちろん密室、不可解な状況と少しずつ出てくる繋がらない状況、奇想天外なトリック、どうしてもそうしなければならなかった犯罪動機、華麗で明快な謎解き、等々。
北海道の、海を臨む土地に建つ「流氷館」は、日本を代表する企業の社長、浜本が建てた、屋敷全体が傾いている変わった館。提携会社の社長ら数人や浜本の娘、英子の友人達を招いて、クリスマスのミニ・パーティーが開かれるが、不可解な密室殺人が、立て続けに起きる。
私がこれまでミステリーとしてよかったと思う作品は、アガサ・クリスティー「ABC殺人事件」「オリエント急行の殺人」、ヴァン・ダイン「カナリヤ殺人事件」、日本では綾辻行人「十角館の殺人」「時計館の殺人」、東野圭吾「容疑者Xの献身」といったところか。あまり本格的に読んでいるわけではなくて、また北村薫やシャーロック・ホームズは、なんというか、物語や小説としての味を楽しむものとして別ジャンルかと思う。
本格推理ものの王道、館(やかた)ものとして、またミステリーワンダーランドを愛する読者の心に見事に応える作品かと思う。こういうものにありがちな、動機の点に正直弱いところがある。だが、やはり名作だろう。
伊坂幸太郎
「アヒルと鴨のコインロッカー」
ミステリー特集第5弾。伊坂幸太郎初期の青春小説。まあ、これは、本格ではないにしろ、広い意味でミステリーの部類に入るだろう。
伊坂幸太郎の長編第5作。前作「重力ピエロ」がヒット、次回作が待たれていたところにこの作品が出て、吉川英治文学新人賞を受賞となったらしい。その後やはり大学生の小説「砂漠」が直木賞候補となっている。
賞で信用するNo.1は直木賞、次が山本周五郎賞で、江戸川乱歩賞、本屋大賞の順。ただ、いろんな作家の受賞歴を見ていく中で、吉川英治新人賞の候補にはなっても受賞した作品は少ないイメージがある。
関東から仙台の大学に入学すべく、独り暮らしを始めたばかりの椎名は、出会ったばかりのアパートの隣人、河崎に、一緒に本屋を襲って広辞苑を奪わないか、と持ちかけられる。
時間軸をずらした2つの物語が進行していく展開。私にもようやく分かって来たのだが、この頃の伊坂は、行動への理由付けが希薄で、よく分からなかったりするが、ある意味無邪気で伸び伸びとした青春小説を書いていた。
私はミステリ好きも手伝ってか、動機が弱かったり感覚的過ぎるとどうも受け入れ難いと思ってしまい、「砂漠」ももひとつ、と思ったのだが、その後もっと独特のハチャメチャさを持つ小説を書いているので、この頃はかわいいもんだな、などと思う。
同じ理由で伊坂が合わない、という人もいるのだが、この小説は、まずまず面白い。最後にはへえっ、となるし。まあパンチは弱いかな。
高田郁
「天の梯 みをつくし料理帖 」
ミステリーシリーズの途中だが、これが出たなら読まねばならぬ。
大人気シリーズ、ついに完結編の最新刊。数々の名物料理を生み出して来たつる屋の女料理人、澪。幼なじみを吉原から身請けすべく独立する。
澪も手伝いには行っていたが、後に座る料理人、政吉の本懐、そして緊急事態も持ち上がり、次々と変わる状況、そして10巻に渡った物語の結末はー。
解決が一気に来るので、なかなか面白い。そう良く回るものでもないだろう、というのは目こぼしして微笑ましく読むもの。
美味しいシリーズだった。次のハマりものを探さねば。
綾辻行人「十角館の殺人」
ミステリー特集第6弾。これにはかつて衝撃を受けたものだ。初回でビックリし、再読では犯人の動きや手掛かりを追う。でもやっぱ面白い。
ある大学のミステリー研究会のメンバー達は、春休みに、無人島にある「十角館」で1週間過ごすことにする。外界との接触が無い中、次々と殺人が起きる。
1987年の作品、1991年の文庫化。この作品によって新本格派のブームが到来したと言われる、綾辻行人のテビュー作。綾辻行人は、この後「水車館」「迷路館」「人形館」「時計館」「黒猫館」「暗黒館」「びっくり館」「奇面館」と書き、次の10作目を持って、この館シリーズはやめる、と宣言している。
外部から遮断された無人島、変わった館、建築家の壮絶な死、そして連続殺人。アガサ・クリスティ「そして誰もいなくなった」の系譜だ。本格本道である。くすりと笑ってしまう。
この作品のどこに衝撃を受けるかと言えば、「意外な犯人への仕掛け」である。下地は好きだが、トリックや本格の雰囲気に驚いた訳ではなく、「だからそういう描き方をしたんだ」とビックリした。私の場合は。
同期の友人に勧められて衝撃を受け、私はアヤツジストとなった。対談などは読んでないが、彼の著作はほぼ完読している。どれが好きかと言われると、3位が「霧越邸殺人事件」2位が時計館、ダントツの1位がこの十角館だ。
日本で本格、館、というと江戸川乱歩のようなおどろおどろしさを想像してしまう。京大在学中の若き才能が、新しく、若い世代にも受け入れられやすい、キレのある本格ものを書いて、滞留していた雰囲気を一掃したのではないか。
大上段に語るとこうだけど、エラリイ・クイーンの館シリーズ日本版が出現した、という言い方も出来る。
ともかく、私の中のチョー名作であることだけは間違いない。
乾くるみ
「イニシエーション・ラブ」
ミステリー特集第7弾、これで打ち止め。へえ〜・・。が正直な感想だった。もう、仕掛けも分からず、webで調べた。
出た当時、周りの人の多くが読んで、いいよ、と言っていた作品である。一時期ブームを作り出し、最近またよく書店に出ている。ミステリーの傑作ということで読んでみたが、まあその、ミステリーというよりは、ストーリー構成のパズルを楽しむ本だろう。
大学生の鈴木夕樹は人数が足りないからと呼ばれた合コンで、ベリーショートのマユと出逢い、恋に落ちる。
以前、歌野晶午「葉桜の季節に君を想うということ」がこのミス大賞になった時、最後に分かる仕掛けにコロッと騙された。この手法はさっそく他の作家にも取り入れられて流行ったことがあったが、ふうむ、なるほどこんなのもあるのね、と感心した。
まあひとつの形でしょう。それは認めるべき。