2014年8月1日金曜日

7月書評の2

7月は、毛色の変わった作品をよく読んだような気もする。来月は、すべてはそうならないが、夏の名作ミステリー特集にしようかな〜と思っている。では後半。

浅田次郎「地下鉄に乗って」

うむ。なかなか味わい深いファンタジーだった。

浅田次郎は、「日輪の遺産」「鉄道員」に続いて3作目。大作は読んでないが、いずれもそれなりに心に残る作品だった。今回は、まったく予備知識なく読み始めたのだが、決して見ることの出来ない、家族と自分の過去に邂逅する、というのはありそうでいて、あまり読んだことがない。

婦人肌着のセールスマン、真次は、地下鉄で移動する時、何度もタイムトリップし、巨大産業を築き上げた父や自殺した兄の過去の場面に出会う。

もちろんラストには全てが繋がって行くのだが、戦後戦中の情景とキャラクター設定、地下鉄をキーワードとした東京の描写は、物語に深みを与えていて、引き込まれる。

ちょっとテレビドラマのような感じは否めないが、喪失と前向きな感情、ラストのバランスが良く、読後感がいい作品だと思う。ちょっとお父さん可哀想かな。

若き日のアムールのイメージが、吉本新喜劇の某氏にしか思えず、苦笑しながら読んでいた。

梨木香歩「冬虫夏草」

待望の続編。

「家守綺譚」では、京都?の山中、亡くなった親友から譲り受けた家に住む、新米文士・綿貫征四郎が様々な不思議のことを経験する話で、ひとつの独自の世界を存分に表現した梨木香歩。今回は、行方不明の飼い犬ゴローを探して、またイワナ夫婦の宿、というのに非常な興味を感じた征四郎が、鈴鹿の山中を駆け巡る。

「家守綺譚」もそうだが、この不思議な小説のモチーフは自然であり、伝承の世界。古式ゆかしいファンタジーの連続に、どこからどこまで伝承なのか、梨木オリジナルなのかが分からないくらいである。その奇妙な現象を、綿貫征四郎ばかりでなく登場人物たちが普通に受け入れているから、コミカルな味わいも増す。

続編読みたかったので、出て良かった。それにしても、北村薫には、これは北村薫にしか書けない、というテイストの作品も多いと思うが、綿貫征四郎シリーズは、梨木香歩にしか描けないな。

柳広司
「吾輩はシャーロック・ホームズである」

「ジョーカー・ゲーム」でブレイクした形の作者の、ホームズ・パロディ。若き日の夏目漱石が、ワトスンを連れて、ロンドン狭しと駆け回る!

ワトスンの所へ、自分がシャーロック・ホームズであるという妄想に取り憑かれた日本人・ナツメが預けられる。当のホームズは事件で出張中。降霊会に招かれたワトスンらは、あのアイリーン・アドラーの妹・キャスリーンと出逢うが、会の最中に霊媒師が毒殺される。

私の、そんなに本格的ではないホームズ・コレクションのうちの一冊で、再読である。しかし、ストーリーは全くもって忘却の彼方だったから楽しめた。(笑)

作者はホームズと夏目漱石に私淑しているのが読み取れる。ロンドン留学時代の夏目漱石をホームズと邂逅させた長編パロディはもうひとつ、島田荘司「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」というのがあるが、こちらの方はホームズの方が少々おかしくなっているから面白い。

ロンドン塔の歴史や、シェイクスピア、幻想、アイリーン・アドラー、自転車というキーワード、スタンフォド、ドイルも多用した植民地の話、また最後の台詞など、時代とロンドンを反映させ、ホームズものとして気の利いた内容になっている。夏目漱石をコミカルに扱いつつも彼の苦悩を描いてミックスさせている。脱線ぶりも面白い。ただ、犯罪トリックは正直もうひとつだった。

中田永一「百瀬、こっちを向いて」

なかなかツンツンする高校生ラブストーリー集。目立たない男女、がキーワードだ。

中田永一は、覆面作家とのこと。短編4作中のひとつにも、覆面作家のネタがある。これは名前からも、かつての北村薫を意識してると分かって、ちょっとニヤリとしてしまう。

映画にもなった「百瀬、こっちを向いて」は、福岡、久留米が舞台で、よく遊びに行った筑後川が出てくることもあり、親近感をもって読んだミニなラブストーリー。

クラスでも目立たないノボルは、幼なじみでバスケ部の宮崎先輩から、百瀬陽という同学年の女子を紹介され、つき合うことになる。しかしそれは、モテる先輩の偽装工作だった。

短編それぞれに、ミステリー風味を加えてある。「百瀬、こっちを向いて」も良かったが、「なみうちぎわ」も微妙なところに突っ込んでいる。どれかというと少女マンガ風味が強いが、「小梅が通る」も捨てがたい。さわやかで、ほろ酸っぱい作品集だ。

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