2014年8月1日金曜日

7月書評の1

梅雨明けから10日過ぎたがさすがに暑い。しかし夏の甲子園が終わったら朝晩涼しくなる・・はずだ。暑さの終わりを夢見て。ではスタート!

恩田陸「蛇行する川のほとり」

女子高生の毬子が、苦手だという、一般的な男の子のイメージを語るぶぶんがある。

「なんだかごつごつして、おっかなくて、いきなり変な方向からゴツンとぶつかってくる、みたいな」

うーん、恩田陸得意の少女小説。こんなところにいかにも恩田っぽいワールドを感じたりしてしまう。

高校1年生の蓮見毬子は、美術部の憧れの先輩、九瀬香澄と斎藤芳野から、文化祭の背景を香澄の家で、泊まりがけで描かないか、と誘われる。喜ぶ毬子だったが、ぶっきらぼうな男の子、貴島月彦に「九瀬に近づくのはよせ」と警告される。

読書を始めたころに、文芸仲間が恩田陸の作品を多く読んでいたのに影響を受け、恩田陸制覇計画を立ててからはや4年、まだ3分の1くらいで進んでいない。まあこうやってのんびりと読んで行こうと思っている。

この小説は、ある意味特異な環境と事件を描きながら、冗長に少女たちのひと夏を描いている。色彩、心象豊かだが、相変わらずというか、ちょっとだらだらしている。

まあ、誰かが言っていたが、恩田陸は、書きたいジャンルを、好きなように描いている作家さんかも知れない。それで、いいのだ。

原田マハ「楽園のカンヴァス」

なるほど、確かに興味深くて、面白い。

原田マハ、という名前を知った作品。文庫発売即購入。ピカソに影響を与えたと言われる、アンリ・ルソーの、幻の名作を巡り、日米の若き男女の研究者が講評の勝負をすることになる。

「総理の夫」を読んで原田マハはマンガドラマ仕立ての人かも、と思ったが、この作品を読んでもその感想は変わらない。謎の裏コレクター、美術品に囲まれた屋敷での謎解きゲーム、陰謀、脅迫、価値が計り知れないブルー・ピカソの噂、劇的で出来過ぎの謎解きと、舞台装置は整い過ぎている。

まずは、作者の専門分野である、着眼点が、すごく興味深い。パブロ・ピカソに影響を与えたルソー、その幻の作品、というだけで惹きつけられるものがある。

劇中劇を感じさせるルソーの物語が挿入されるが、事情がここで簡潔に説明され、さらに真っ直ぐで情緒的。この作品の背骨を貫く純粋性を、うまく支えていて、気分を高揚させてくれる。最後までピュアさが芯となっており、その仕掛けはなかなか粋で絶妙だ。

ルソーもそうだが、パリのピカソ美術館にもう一度行きたくなった。

出来過ぎだなと思うものの、二重三重、また様々な積み重ねと貫く軸が、たまらなく読後感の良さを出す。良き面白き作品かと思う。

アラン・ムーアヘッド
「恐るべき空白」

読んでて、暑く、苦しくなる。

主に1860年に出発した、オーストラリア縦断探検隊、バーク隊の記録を元に書き上げられたノンフィクション。1979年発行の作品。どこかの書評で必ず感動できる本、として紹介されていたが、感動というか、凄まじかった。

当時のオーストラリアは、まだイギリスの植民地。現在の大都市には町が出来ていて、先に探検した者は居たが、依然として内陸部の情報は乏しかった。

バーク隊は、ヴィクトリア州の支援のもと、多くのラクダや馬を引き連れ、生活物資も充分に準備していた。しかし、やはり予想外の苦難にも見舞われ、途中隊の人数を割り、バーク隊長ら4人は、縦断に成功するものの、 悲劇的な運命にさらされる。

悲劇的な運命を辿ったバーク隊は大フィーバーを巻き起こし、オーストラリア中大騒ぎとなる。当時の探検熱、オーストラリアの厳しい自然環境、というものがよく伝わってくる。また、やはり探検するのも人間なんだ、との思いも抱く作品だ。

朝井リョウ「星やどりの声」

しみじみな話。昔、高校生の頃田んぼ沿いの道で、駅から帰りの姉と会い、後ろに乗っけて行った。そんなことを思い出す。

私にとっては、「桐島、部活やめるってよ」「もういちど生まれる」に次ぎ朝井リョウ3作め。なんてこたない話なのだが、やはり独特の、心を引っ掻かれるような、清冽な筆致は健在だ。

早坂家は26歳の長女琴美、大学4年の光彦、高3の双子小春とるり、高1の凌馬、小6の真歩の6人兄弟姉妹と、母の7人家族。母は、純喫茶「星やどり」を経営し、琴美には警察官の夫が、小春には大学生の彼氏が居る。兄弟姉妹は、それぞれ、亡き父への想いが募っていた。

相変わらず細かい表現に特徴があり、また今回は、解説にもあるように3人称と1人称の間で「揺れて」いるような感じである。また、やや大きめの仕掛けも相変わらずである。ただよく思うのだが、小学生の心情って、作り過ぎのような気がする。今回も同じような感想を持った。

兄弟姉妹それぞれの目線からの連作短編で、最後に薄い謎が解けるような感じ。こぢんまりと、ほっこりと、しみじみとした作品だった。

長岡弘樹「傍聞き」

いい感じの短編ミステリ。

救急車の隊員、警察官など、人のために奉仕する職業の者を主人公の、いわば緊急事態に謎を発生させ、鮮やかにそれを解くスタイルをとっている。

ネタも成り行きも面白い。4つの短編にまったく繋がりはなく、それぞれの登場人物の設定に面白く変化をつけている。上手い、という感じだ。

佐々木譲や横山秀夫と似たテイストか。私は、本格ミステリー派なので、謎があって、トリックがあって、名探偵がそれを解く、というのに慣れているが、こういうのもまた面白いと思った。

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