2014年4月30日水曜日

アリス

4月29日は、みどりの日。東京の頃、仕事先のみどりさんが、みどりの日に入籍した、ということがあった。今年は、一日中雨の休日となった。息子が軽い頭痛がするといい、ソファに横になり、パパはJリーグを見て、久々に時間をかけて靴を磨いた。

東京はスーツ職場だったから、週に1回は全部の靴を磨いていた。いまも、毎日ではないが、革の靴は多いし、埃をとって、クリーナーで、丁寧に拭ってやる。なんか靴と会話してるみたいで好きである、なんてね。まあピカピカになると気持ちがいい。

のんびり低気圧?で、夜まで、ずっと雨。時折激しく降っているようだった。寝かしつけの時の会話。

「ボクさあ、朝から1人で外に出ていって、その辺一周して帰った事ある。すごい霧の日だった。」

「へえそれなら、霧で別の世界に行って、あるはずの場所におうちが無い!ってなったら面白いのにね。」

「うーん、ちょっと怖いかな。」

「霧の中歩いていると、すぐ横を、ウサギが、懐中時計を見ながら『時間が無い、遅れちゃう』と言いながら通り過ぎたので、ついて行きました。すると、ウサギは大きな穴に飛び込み、自分も後を追って入ってみると、どこまでもどこまでも落ちて行きました・・。」

そう、いつの間にか思いつきで「不思議の国のアリス」にしてしまった。話を知らない息子は、すごく興味を示して、次は次は、と催促するので夢から目が醒めるとこまで行った。もちろんうろ覚えだから、後でウィキペディアを引いて、そうかそうかとなった。教示的だった英国の童話に終止符を打ち、聖書と同じくらい世界に翻訳されて出版されている、へえー。

「不思議の国のアリス」っていう話だから借りておいで、と図書委員の息子に言ったが、ちょっと年齢が外れている気もする。まあ借りて来たらまた楽しく読めせてもらおう。

2014年4月28日月曜日

サクラ

木金は東京と横浜の間くらいに出張。日中は暑かったのに、夜外仕事で、冷たい風がびゅうびゅう吹いて、ひどく寒かった。

近くに公園があって、そこで遅咲きの、花が膨らむ桜が咲いていた。これは東京在住時、住んでいた家の庭に咲いていた桜と同じ。よく仲のいい隣家と、子供たち合わせて4人で、お花見ランチしたなあと、思い出していた。BGMはゆずの「さくら」森山直太朗も好きだけど。

泊りは久々の新宿。こちらは通勤ルートから外れていたし、小さい子供連れには合わない街なので、家族ではあまり行ったことがなかった。東京オペラシティは行ったな。独りで。闇に浮かぶ高層ビル群が、やっぱちょっと怖い。

疲れてたけど、一杯くらい飲まな眠れんわー、と近くのBARへ。閉店間際で最初飲むだけの客と思ったマスターは、けっこうがっうり食べますね、と笑ってた。そりゃそうだ。夕方にサンドイッチ食べただけなんだから。腹が温まった我々は、すやすやと寝たのでした。

土曜はやっとの休日。忙しいときは仕方が無い。借りた少女マンガ「青空エール」を4巻イッキ読み。恥ずかしい高校ラブストーリーだけど、高校野球とブラバンの物語でなかなか気に入っている。13巻で、予選と全道大会でやっとメンバー入りした主人公が、全国大会でメンバーから外れ「全国で吹きたかった!」と泣くシーンは秀逸。バスケこれくらい悔しがれるくらい、もっとやってりゃよかったなと、ちょっとだけ思うな。

日曜は神戸へお仕事。どピーカン、いつもは行きのバスから読書なのだが、きょうは、山の、新緑を眺めていた。夕夜寒い時もあるが、昼間の陽射しは強くなってきた。

さて月末月初めだ。ここから忙しさ本番だな。

2014年4月20日日曜日

ハルキ

木金と東京・千葉。新入社員の東京研修ピークに重なったとかで、東京はどこもホテルが取れず、結局夜の仕事先の近く、幕張の奥地に泊まってきた。昔の旅館がホテル化したような感じで、立地も駅から遠くて、ラブホが数件集まった中にあってびっくりした。

意外に、女性を含む旅行添乗員さんたちが泊まってたり、もっと周りが騒がしいかと思いきや静かに過ごせたり、一種類しかない朝ご飯が美味しかったりと、ミョーにシンパシーを感じる点もありつつ(笑)、やっぱボロくて狭いしもう泊まることはないだろうな。

帰りは京葉線で東京まで出たら、東京駅の書店で、村上春樹の新刊を並べ、店員が声を張り上げて売り出していた。去年の今頃も千葉に同じような出張をして、同じ書店で同じように「色彩のない多崎つくると彼の巡礼の旅」を売り出していた。奥に並べられていたハルキ訳のサリンジャー文庫本にはちと心惹かれたが、やめた。ともかく春の東京駅はハルキのイメージだ。

土日と仕事。日曜は三重の伊賀まで行ってきた。両日ともひどく冷え込んで、日曜は雨。外仕事にはこたえる気候。暑いのも辛いけど、寒いと体力を奪われる。伊賀は忍者フェスタをやっていて、街行く大人も子供も、忍者の格好をしていた。ガイドの小冊子を持って帰ったら、息子が喜んで、すっかりフェスタにお出掛けする気になっている。

家の暖かさが心地よい。さて、まだ忙しいが、もう少ししたら楽になる。合間は出来るだけ身体を休めること。がんばらんば。

2014年4月13日日曜日

ストリックランド

日中は20度を越すこともあり暖かくなってきた。しかし、夕方からぐっと気温が下がって朝方10度を切ることもあり、まだ油断出来ない感じだ。バス停までの道に1本だけ立っている桜もすっかり散って、季節は新緑に向かっている。

土曜日はモスバーガーランチで、ルーフバルコニーで食べた。ブロッコリーが黄色い花を咲かせ、新しい葉の緑が美しい。Jリーグの大阪ダービーを観る。長居が、満員だ。フォルラン大活躍で面白かった。

ストリックランド、というのはこの日読み終わった「月と六ペンス」の主人公の名前だ。英米文学で、最初はもひとつついていけなかったが、物語が転がり出すと面白く、バスや電車で、さあストリックランド読もう、という気になった。ゴーギャンの影響を受けて書いた、架空の画家の物語。

日曜日はお仕事。海沿いの外はやはり寒い。まだ薄手のコートかライトダウンが必要。街中に帰るとそうでもないが、夜はやっぱりちょっと冷えて、息子を寝かしつける時に暖房を入れた。

夜が寒くなくなったら、もう夏だ。いつもあっという間なんだよねえ。

2014年4月6日日曜日

最後の寒?

昨週末の出張から休まず平日も働いて、この土日は久々にのんびり。

土曜は朝起きで、サッカーU-17女子代表のワールドカップ優勝を見届ける。リトルなでしこ、よくやった。いいサッカーだった。

午前はレオンとクッキーと息子と散歩。厚いダウンが必要な山の上。あちこちの桜が満開で、公園の土手上は花が間近で観れて綺麗だった。午後はポケモンセンターにお出掛け。買おうと思っていたものの発売日が実はまだ先で、ゲームしてすぐ帰ってきた。春休み最後の土日とはいえ、人出は少なめだった。

日曜日はお留守番。女子バスケWJBLのセミファイナル第2戦2試合をTV観戦。どちらも接戦。富士通は、惜しかったな・・。去年もシャンソンが一時同点まで追いついたが、そこで勝たせないのが女王JXだ。実際差を広げたい時ほとしたたかでスピーディーなバスケットを展開する。ファイナルの相手は今季こそのトヨタか、新鋭デンソーか。

夕方からは有馬温泉。息子も好きだし、車で20分なのでたまに出掛ける。風呂に入って、フルーツ牛乳飲んで、帰る。明日からは新学期。毎年クラス替えあるし担任も変わる。今夜はかなり寒いけど、明日からは春の陽気。寒もいよいよ最後かな。

夜空は火星が綺麗だ。2年2ヶ月ごとに接近する。今年は14日に、小接近−αの距離まで来る。2018年が大接近。赤い光は、禍々しくも、神秘的でもある。春のイベントだな。

2014年4月1日火曜日

3月書評の2

仙台の食はそれなりに楽しかったが、普通の居酒屋さんだったので特段写真は撮らず。トイレの貼り紙が、上手だった。では後半!

奥田英朗「空中ブランコ」

笑えて、微笑む連作短編集。楽しくてあっという間に読み終わった。

精神科医伊良部一郎シリーズで3まで出ている。これは2作目で、直木賞受賞作品。

うまく空中ブランコが出来なくなったサーカスのスター、先端恐怖症のヤクザ、等々の悩みを抱えた患者がハチャメチャなドクター、伊良部のもとを訪れる。

ひとつひとつのストーリーは、重松清風で恥ずかしあったかなのだが、そこに絶妙の調味料として伊良部が噛んでいる感じだ。

それぞれ設定は非日常。だからか、笑える。「義父のヅラ」は傑作だった。爽快に、笑えた。こういった、一見極端な、軽い作品にこそ、描写の妙って必要なのかなあと思わせるものがある。

奥田英朗は、これもハチャメチャで笑える「サウスバウンド」しか読んだことがなかったが、改めてこの流行作家の持ち味って?と考えた。伊良部シリーズはまた読もう。

小関順二 「2014年版 プロ野球 問題だらけの12球団」

2000年から毎年出ているシリーズで、今年で15冊めだそうだ。

スポーツニュースは基本的には断片的な情報で、それも12球団全て、となるとなかなか追い切れないものだ。

この本には、おなじみの、ストップウォッチで計測した、打者の一塁への到達タイムや捕手の送球タイムなど独自のデータも駆使し、小関さんの代名詞である、ドラフト戦略と指名選手の分析を交えて各球団ごとの特徴や問題点がまとめてある。

まさに12球団の「現在地」を示すものだ。野球好きがフツーに考えて、マー君が抜けた楽天は、大谷二刀流の日ハムは、ドラフトに成功したオリックスは、落合GMが激しくコストカットした中日は、傍目にも捕手余りの阪神は、そして大型補強の巨人、ソフトバンクは、と興味は尽きない。その年限りしか通じないとはいえ、シーズン前にこのような作品は、需要もあるかと思う。

分析された意外な球団の思想、習慣、また、それに対する時に辛辣な著者の意見も新鮮。なかなか楽しめた。

モーリス・ルブラン
「8・1・3の謎」

息子が「8・1・3の謎」あった!と借りてきてくれた。これこそルパンの最高傑作だ。芯となる謎のタネも覚えていた。

国際的大陰謀の秘密を知る、南アフリカのダイヤモンド王ケスルバッハが殺された。陰謀の果実を狙い暗躍するルパンを、黒いマントの殺人魔が悉く邪魔立てする。

初っぱなから息をつかせぬ展開で、陰謀あり、血も涙もない連続殺人あり、美少女あり、変装あり、絶体絶命のピンチあり、そして手がかりの少ない、大きな謎あり、さらには姿を見せない謎の殺人魔あり、で大いに楽しめる。大人用もいつか読もう。「カリオストロ伯爵夫人」も興味あるな。

北森鴻・浅野里沙子
「邪馬台 蓮丈那智フィールドファイル�」

神代ものは好きで、半年に一度くらい読む。ひと月に一度はお好み焼などソース辛いものが食べたくなるようなものだ。説得力ない例えで恐縮。

美貌で異端の民俗学者、蓮杖那智の下へ、「阿久仁村異聞」という和綴じ本が届く。明治期にいったん島根県に吸収された鳥取再配置の際、消滅した阿久仁村。邪馬台国、出雲、大和政権と、明治期の陰謀が絡む大きな謎へ蓮杖那智が挑む。

民俗学者蓮杖那智シリーズ初の長編となったこの作品を執筆中に、北森鴻は亡くなり、3分の1ほどを、公私共にパートナーだった作家の浅野里沙子が補完して出版されたものだ。

660ページの大作。邪馬台国、出雲、大和朝廷、古事記、日本書紀と、興味有るところを衝いてくれているので、じっくり読めて大変楽しかった。

北森作品は、これが初めて。蓮杖那智は、美貌という割には、性別を超越したキャラクターなので、女性的な魅力は無い。また、助手の内藤三國は極度に那智を怖れているが、この作品にはその原因が感じられない。病室だろうとお構いなしにメンソールの煙草をくゆらし、ドライマティーニや美味いコーヒーを愛する部分は愛せるとは思うのだが。いまいちキャラが訴えかけて来ないのは、シリーズを読んでないからか。

陰謀とそれに絡む関係者の動きにもう一つ納得出来ず、さほど入り込めないのだが、この扱いづらいテーマを網羅し、面白く掘り下げ、大胆な説に繋げたことには、北森、浅野両氏に拍手を送りたい。他作品も読んでみようかな。

青山潤「アフリカにょろり旅」

東大海洋研究所に所属する2人のウナギ研究員たちが、世界にいる18種類のウナギのうちまだ採集していない「ラビアータ」を求め、アフリカの奥地を、這いずり回る旅、旅したご本人が書いたエッセイだ。

舞台はアフリカ西南部マダガスカル島に近いマラウイ、モザンビーク、ジンバブエ。中には高層ビルの建つ都市もあるが、もちろん大半はインフラなどとても望めない地域での冒険。

ほとんど情報が無く言葉も通じない地域で、地元民に幻のウナギのことを手描きの絵で説明し、酷暑で治安や衛生状態が悪い中をウナギを探し求めて当たりまくる、行き当たりばったりと言っても差し支えない調査行。予算を使わないために、移動は激しく混み合うバス。宿は水も出ない安宿である。

まさにドタバタかつ過酷を極める旅で、自分は絶対無理(笑)。紀行もの、アフリカものはそれなりに読んで来たが、ミッションに従い、猛烈な勢いで過酷な旅を続けるこのコンビには、笑えて、惹きつけられる。また、締めの方向性もいい。

千葉のリサイクル書店でたまたま見かけて、たまには好きな紀行ものでも、と購入したもの。いい時期にいいもの読んだな、という気になった。

井村君江「アーサー王ロマンス」

魔法使いマーリン、アーサー、名剣エクスキャリバー、円卓の騎士、ラーンスロット、聖杯探求・・言葉は断片的に知っていても、そういえば、アーサー王物語はちゃんと知らないな、とwebで検索したところ、入門書として最適、と紹介されていた一冊。1992年に、専門の研究者が書いた本である。

噂通りというか、登場人物が多いので、最初は作者もこなしきれていない学者感があったが、少し読み進むと、おおむね把握出来るようになっていて、面白い、核になる話だけを持ってきているので、けっこう夢中になった。

ケルトの神話をベースに、キリスト教的価値観を取り入れたある意味俗っぽい騎士道物語、といったところか。無邪気なパーシヴァルもなかなか愛せる。悲恋が多く、残酷な面もあり、現象的にも綺麗なばかりではないが、そこが逆に、日本や世界の民話に似ている気もする。

最後は、国は崩壊し、主な登場人物は皆死んでしまい、アーサー王は、三人の王妃とともに小舟でアブァロンの島に消える。今でもアーサー王と騎士達は生きている、という説まで有るくらいだ。ある意味イギリスの背骨ともなる国産みの物語の一種でもあるのだろうか。違うかな。(笑)

児童書「マジックツリーハウスシリーズ」にもマーリンという魔法使いが出てくるし、サッカーアニメ「イナズマイレブン」にもランスロットという化身が出てくる。アーサー王ではないが、寝かし付けのお話の時に登場させた、八岐大蛇や九尾の狐、金角銀角はいま「妖怪ウォッチ」に出てきている。

子供の物語、アニメなどにはこのような民話、神話から取られたネーミングのキャラが多いんだなあ、と今さらながら思うこの頃でした。

3月書評の1

仙台に2泊3日の出張。気温の上下が激しく、23度の翌日は日中でも10度を切って雨。次は半年後かな。空港には、ダンボールアートのモビルスーツが聳え立っていた。

さて、3月は11作品13冊。児童書のルパンも仲間入り。懐かしかった。ではレディゴー♪レッツゴー仙台〜

高村薫「レディ・ジョーカー」(3)

ハードだった。いや〜スーパーハード。高村薫は作品をよく改訂する、クラシック音楽でいえばブルックナーのような人らしい。今回も新しく文庫化するのにあたり、全面的に改訂し、単行本では上下巻だったのが、上中下巻になっている。

自分の兄が、業界最大手の日之出ビールからかつて不当解雇された物井は、それぞれの事情を抱えた競馬仲間たちとともに、日之出から現金を奪うことを考える。やがて、日之出ビールの社長・城山が行方不明となったー。

大企業を相手の犯行、裏取引、さらに絡む総会屋、闇の金融世界、新聞社の最前線の記者たち。そして未曾有の犯罪の捜査に当たる警察。

舞台は犯行グループ、警察、企業、新聞社の間をグルグル回る。上巻は暗いが、事件が動いてからは面白い。特に、ストーリーを側面から盛り上げる、新聞、取材する側の描写は綿密だ。事件発生からしばらくは、犯行グループの章は無く、そこがまた上手い。さらに、金融の大規模事件も絡む、重層的な構成ともなっている。

それぞれの立場の、何人かの主役級の人たちの生き様の物語でもあり、非常に丹念に、詳細に描いている。また、何かに、破滅に向かって動かされているような狂気を描くカミュのような感覚も、ずっとある。ただの事件小説だけ、という訳ではなくやや文学的要素も盛り込んである。

初高村薫は、なかなかハードな世界だった。これだけ長ければ丹念に描けるだろうが、ちょっと心象の部分の描きこみが冗長とも思える。また、謎が充分に解明される訳ではないので、あれ、どうなった?と思う部分もあった。でも、面白かった。また気が向いたらまた別作品も読むことにしよう。とりあえず次は、短くて軽くて楽しめるのを読みたい(笑)。

高橋克彦「空中鬼・妄執鬼」

ハマってしまったこのシリーズ。時は平安時代、陰陽寮の頭である弓削是雄は、弟子の紀温史、使用人の甲子丸、未来を見る能力を持った少年淡麻呂、しゃれこうべだけの姿の髑髏鬼、さらに元山賊の女棟梁で美貌の芙蓉らと人に巣食う鬼を暴いていく。夜中に自分の周りを生首が飛ぶ怪現象に見舞われた是雄のもとに、首を残して身体が破裂した死体の検分要請が来る。

弓削是雄と愉快な仲間たちの、陰陽師時代活劇だ。元は1997年に、数人の陰陽師の活躍を描いた「鬼」という短編集が出て、以降弓削是雄シリーズの「白妖鬼」、「長人鬼」、この「空中鬼」と続いて、時代も主人公も別の「紅蓮鬼」という作品もある。いま同じ出版社から続けて復刻刊行されている。

「妄執鬼」はこの新刊のための新たな書き下ろしだが、作者は弓削是雄ファミリーを気に入っていて、「妄執鬼」では新たなキャラを出現させて、続編の執筆を宣言しているのが嬉しい。

ちょっと理屈っぽいが、酒呑童子、茨木童子、髭切の太刀、源頼光、渡辺綱、金太郎こと坂田金時なんかにワクワクする鬼好きの私には、好きなシリーズだ。復刻するということは、売れているのだろう。確かに、面白い。

モーリス・ルブラン
「七つの秘密」

アルセーヌ・ルパンもので7つの短編から成っている。児童用の書籍だ。息子に借りてきてもらったものだが、私が読んでいた頃と同じものなのでびっくりした。

小学校も中学年となり、趣味が仮面ライダーなどから、アニメチャンネルでやっているコナンやルパン三世に移って来た息子は、パパがシャーロック・ホームズが好きだということもすでに認識している。

私は、いまでこそシャーロッキンだが、小学生の頃は怪人二十面相とルパンの大ファンで、図書館にあるものはあらかた読んでしまった。その話をしたところ、図書係の息子が

「ルパン、あるよ。」と言ったので「借りてきてー!『8・1・3』か『奇巌城』!」

と頼んだところどちらも無かったとかでこれになった。訳者は南洋一郎だった、そうだった。

内容は、シャーロック・ホームズにモリアーティ教授あらば、怪人二十面相に明智小五郎あれば、ルパンにはガニマール警部という宿敵あり、というガニマールをルパンが引っ掛けたり出し抜いたりするものや、ルパンが推理力を発揮するもの、はたまた女盗賊に捕まって危機一髪となってしまうものまである。

文章や言葉遣いは思ったよりも荒っぽいが、豪胆で、スーパーで、時に女性や貧しい人たちに優しいルパンは40年近く前のイメージそのままで、楽しめた。大人用の「8・1・3」でも買ってみようか、という気になった。

浅田次郎「鉄道員」

先行きは分かっていたけど、泣かされてしまった。短編で泣いたのは、おそらく初めてだろう。舞台もすべて、出来過ぎなくらい、整えられた最初の表題作。

直木賞受賞の短編集である。
「悪魔」には引き込まれたが、最後があっけなかった。他の短編も、なかなか心に残る。小さな奇蹟が起きる作品集である。明るくはないが、暗すぎもせず、ほっとする部分を備え、無邪気ささえ感じる。

前にも書いたが、短編集は、苦手であった。最初から設定が極端で、余韻が有るのか無いのか分からないものも多いし、こんなに出来すぎてていいのか、と思うから。

今年に入って、桜木紫乃「氷平線」、朱川湊人「花まんま」、木内昇「茗荷谷の猫」、そしてこの「鉄道員」と読み、おおかた短編集の特徴は変わらないが、少しこれまでと違ってきているのも確か。心を「齧られている」ような感じがしている。なあんてね。

読了深夜。いま外は、小雨混じりの大風が吹いている。ちょっと早い、春の嵐、だろうか。

ロバート・A・ハインライン
「夏への扉」

唸るような仕掛けがあるSFではないが、不思議と本当に夢中になれる感覚。宮下奈都「スコーレNo.4」など他の作品でも味わったことがあるが、久々に熱中した。

1970年、猫のピートとともに暮らしているダンは家事ロボットなどを製作できる天才発明家。しかし、共同経営者に発明を騙し取られ、裏切りの片棒を担いだ婚約者には薬を打たれ、ピートとも引き離されて、冷凍睡眠で2000年へと送られる。

海外ものの傑作を検索していたところ、色々なところで紹介されていた、文庫が1979年に発行された作品。SFの名作ということだが、前述のように宇宙人とスペース・シップで戦ったり、地球上に突然変異の恐竜生物が現れたり、といったものではない。ただ、アメリカに核爆弾が落ちたことが物語中の過去にあったり、大アジア帝国という国が出てきたりと、本筋と関係のないところでビミョーに現代を変えてあったりする。

序盤は退屈で、後半も、さして目新しいことのある物語の内容では無いのだが、まさに怒濤のごとくクライマックスへ突っ走るからか、ズンズン読み進んでしまう。

2000年は子供の頃、遠い未来だった。30年後を創作・描写してあるところも興味深いが、それは読んでの楽しみということで。