暖かい1週間だった。夏冬はあまり困らないが、春の服はあまり無いのでちと考えた週でもあった。
2月は、10作品10冊。それではレッツゴー!
京極夏彦「後巷説百物語」
2004年の直木賞受賞作品。まずもって、長くて冗長。本が箱のように厚くなるのはこの作家の特徴なのであろうが、物語は行きつ戻りつし過ぎで、もっとスリム化出来るんじゃないかな、と何回も思った。私も鬼好きなのを始め、おどろおどろ系はけっこう好みではあるのだが。
東京警視庁の矢作剣之進は不思議な事件に悩まされることが多く、朋輩たちとその謎についてがやがやと話した後、全員で薬研堀に住む老人、山岡百介こと一白翁の元を訪れるのが常だった。一白翁は、自分が若き日に巡り合った、類似の不可思議な件について語るのであった。
剣之進の仲間内のキャラ設定もまあまずだし、エピソードのオチも有る。が、最後のオチは特に、動機の強さが感じられない。全体に、どうにも中身が薄い感じがした。パターンづいていて濃密さに乏しいと思うし、理屈が多く訴えかけて来るものが少ない。
ま、妖怪ものにそういうのも変な気がするけど。直木賞の選考では高評価だったみたいだし。
当時、京極夏彦は数々の賞を取り、また「姑獲鳥の夏」「笑う伊右衛門」などで、センセーションぽいものを巻き起こした。「姑獲鳥の夏」を読んだ際、最初は退屈だったが、後の方はぐいぐい引き込まれたので長い本も気にならなかった。しかし、今回は、長い、長いと思いながら読んだのは否めない。インパクト不足だったと思う。
大ヒットした「嗤う伊右衛門」は読んでみようかな。
木内昇「茗荷谷の猫」
最初退屈で、後半には貪るように・・という本はたまにあるが、ここまで鮮やかにその印象を変える作品も珍しい。
「漂砂のうたう」で直木賞を受賞した木内昇が、注目されることになった作品と言われている。連作短編の作品集である。
最初は、暗い物語が続き、やがて表題作を通過する。あくまで私の感想としては、後半の一つの物語でこの作品集は見事にその向きを変え、色彩豊かな表情までもを見せてくれる。
それまでの、暗い話も、たわけた話も、純文学ぽい色も、ミステリー仕立ての要素も、奇妙にコミカルな話も、まるでそれまでが必要不可欠なベースであったかのように見せてしまうので少々驚いた。私だけかも知れないが。
作中を通じて現れる不思議な人物や軸となる茗荷谷の家ほかもろもろ、各短編を薄く時に強く繋ぐ仕掛けがあって小粋だ。
木内昇、1967年生まれの、女性作家。この作品には、何かある、と直感的に思い、読みたかった。途中までは、実は外したか、と思ってしまったが、矢張りあった。惹きつけられた。次の作品が楽しみだ。
白石一文「ほかならぬ人へ」
「この作家、恋愛を女の子向けにいじりたいだけなんじゃないのか?」
読書を始めた4、5年前、文芸女子たちの間で人気があった「私という運命について」を読了出来ず、不遜にもそう思った。いま読めば違うかも知れないが、その女子的雰囲気の文章についていけなかった。
そもそも恋愛ものは苦手のジャンル。直木賞を取ったのはタイトルも「ほかならぬ人へ」。直木賞作品を読むのが趣味の私は、また読んでしまえなかったらどうしよう、と戦々恐々としていた。いやこれホント。
ところが、読み始めると、トントコトントコ、ページが進む。あっという間に読み終わった。共感も出来た。全面的に同じ経験が有るわけではないが(意味深に、ちょっとポッ。詳細は、読んでください)。確かに恋愛小説とは言えるが、もっと冷めた、大人の、青春の蹉跌的作品とも捉えられる。
直接的で、テーマも、話の流れも、これ以上ないくらい明確で、嫌な粘着感が無い。先読めちゃってるじゃない感はあるが、それも変な感じではない。ある意味普通で、ストンと落ちる。
環境は、ちょっとうまく準備しすぎでしょ、と思わないことはない。ただ、芯のところでは大げさでなく、さっぱりして、シュールで、キレがいい。良い小説の筋は、シンプルで古典的でもある、という私的原則を思い出す。準備しすぎの環境も、あれこれと考えさせる元でもある。
「ほかならぬ人へ」「かけがえのない人へ」の2つの物語で編まれたこの作品は、ぶっちぎれた解説も含め、まとまった佳作だと思う。なんの予備知識もなく読むと、かえっていいかも。
石田衣良「REVERSE」
ラノベである。石田衣良の作品といえば「池袋ウエストゲートパーク」からしばらく間が空いて「波のうえの魔術師」それから直木賞作品の「4TEEN」と、どれかというとやや荒っぽい、やんちゃな部分のあるものを読んできたので、このようなラノベな恋愛小説は初めてで、いささか意外な気もした。
ファッション関係のインポーターでキャリアウーマンの千晶と、ホームページ製作の仕事をしていてややオタクっぽい秀紀はSNSで知り合い、意気投合する。ただし、千晶はアキヒトという男性として、秀紀はキリコという女性として、それぞれ異性を演じていた。やがて、リアルの世界で会うことになるがー。
キャラの立った友人たちのお陰で楽しい騒動になる物語。いやもう、映画がテレビドラマのような感じだった。2007年の作品、石田衣良らしく、世相に寄り添った恋愛小説、ということか。
うーん、先は読めるけど、スラスラ行って、前向きになれるかな。以上。
三谷幸喜「清須会議」
トントンと読んだ。こんな手法もあるのね、というパロディ戦国時代劇である。織田信長亡き後の織田家と後の勢力図を決める清須会議、そこへ臨む柴田勝家、丹羽長秀、池田恒興そして破竹の勢いの羽柴秀吉、他諸々関係者の胸の内、いや権謀術数渦巻く腹の内を入れ替わり立ち替わり描いていく作品である。
言葉遣いは現代語訳、つまりいま我々が使っている日本語英語も普通に遣い、コメディー調に書いてある。ただ一人、実直な前田利家のくだりだけが通常の1人称になっている。
話題の書となり映画化もされたので、なんとなく中身は知っていたから、まあ予想通り、という感じだった。だから、書店に並んでいても当初買う気は無かった。軽そうだし。
たくさん読むようになってから、私の本の入手先は、書店3、ブックオフ5、借りるのが2、という感じである。行きつけのドッグカフェが、本の引き取り、再販も始めたので、1年に1冊くらいそこで買うのだが、最近、出たばかりの文庫を読んだらすぐ持って来る常連さんが居るらしく、年末に寄ったらこの本があった。価格はなんと20円。ピカピカの文庫、話題の書がその値段ならと思わず買った、という経緯の方が心に残った。
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