読む本が尽きたので、きょうの帰りに上下巻の文庫新刊を買った。てっきりハルキかと思い込んでたら、龍だった。初龍、楽しみだ。
では後半。自分の人生の中では、誰もがみな主人公〜♪
野沢尚「龍時01ー02」
めっちゃ面白かったー。サッカーファンとして、文芸好きの端くれとして、今まで読まなかったのが自分でも不思議である。
U-17日本選抜として同じカテゴリのスペイン代表との試合に出場した無名の高校生、リュウジはそのプレーが認められ、スペインの地方チームのユースに入ることになる。
リュウジは日本でサッカーをつまらないと思っていて、スペインでなら、と思っていたが、そうはうまくいかず、というストーリーである。
ひとつひとつのプレーをイメージしながら、緻密に描いてあり、その繰り返しに迫力を感じる。U-17スペインのプレーに、「殺される、と思った」というのは、まさに言い得て妙な表現であり、随所に、当たり、とも言える言葉が出てくる。
スポーツ小説は、うまくいかなくては面白くない。さらに、リュウジはやはり攻撃の選手である。まあそうだよな、というストーリーの進み方ではあるが、鼻白むことなく興奮して読めるのが、この作品のパワーなのだろう。
日本人はやたらに10番タイプが多いが、攻撃的MFはセカンドアタッカーなんだから、パスばっかしてちゃダメだよ、というのは一時期よく議論された。その風潮に乗っ取ったキャラ選びの勝利、とも言えるだろう。
野沢尚「龍時02ー03」
当然のように続けて読んだ。この巻は、最初の仕掛けも長く、恋愛部分も長く、途中で、早くサッカーしろよ、と思ってしまった。
アトランティコのトップチームと契約出来なかったリュウジを代理人が売り込み、強豪ベティスへのレンタル移籍が実現する。
最初はなかなか遠征メンバーに入れないが、だんだん活躍し始めるリュウジ。前巻に続いて、スカッとする。選手名が実名で、もし日本人で本当に戦力になるアタッカーがいたら、その選手がレアルやバルサと戦ったら・・というサッカーファンの願望を叶えてくれている。ジーコジャパンと戦うところなどはもはやノスタルジーだ。(笑)
早く先が読みたいな。
野沢尚「龍時03ー04」
アテネオリンピックに日本代表として挑むリュウジ。しかし監督と温度差があり・・
相変わらず実名と、選手のプレーを詳しく描いているのは面白い。ちなみにリュウジは18歳だから、U-20の世代をスキップした、「飛び級」でのオリンピック代表招集である。
スペインリーグ、リーガ・エスパニョーラでの経験がベースになって、チームメイトやリーガの対戦相手と当たっているのもなかなかそそる。これがまた実在のスーパースターだったりするから尚更だ。ロベカルのフリーキックの壁には、ホンマになりたくないなと、当時私もTVで見ていて思ったものだ。
日本代表に戻ったリュウジ。スペインへと飛び出すきっかけになったのも日本選抜での確執だった。もちろん、ストーリーにはこれまでの流れを踏襲した仕掛けもある。が・・私は、納得できるかというと、そんなんあるんかいな、という感じだった。
面白いのは間違いないけどねー。明らかに続く兆候があるのにもう先は読めない。2014年でリュウジは28歳。誰か、続編を書いておくれよー。
辻村深月「島はぼくらと」
目立つ表紙デザインでストーリーの行く先が見える、ような気がする。
昔「藍色初恋」という台湾映画を観た。恥ずかし系の高校生恋愛ものだったが、特に学生の女子は、やがて来る別れを前提に友人関係を築いている、とその映画のパンフレットで読んで、軽く衝撃を受けた。男は、というか私は、すべて地元の学校に行ったせいか、そこまで考えなかった。
「島はぼくらと」は出逢いと別れがテーマの物語だ。小説の場合作家の調査、取材は表に出ないが、相当の実例を取材しないと描けないだろうと思う。興味深くもあった。
が、島は昔から映画の題材としても取り挙げられやすく、設定として目新しいか、は難しい。文章を超越できるものも感じなかった。もひとつ、上にも書いたが、これは、私はよく言うのだが、お姉ちゃん小説で、この感情に共鳴せよ、うーん、リアライズせよ、というのはかなり難しい。
まとまっていて、読める作品ではあった。
ヴィンセント・スタリット
「シャーロック・ホームズの私生活」
シャーロッキアン本の代表格の作品である。世界のスーパースター、シャーロック・ホームズの誕生秘話、登場から一時的な?死まで、そしてその帰還、ホームズの私生活的性質、ベイカー街221Bの女家主ハドスンさんの研究から、「語られざる事件」、ホームズが書いたとされる論文のタイトル一覧、ドイルの活躍、さらに世界で最初のシャーロッキアン団体「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」通称BSIの設立の経緯なとなど盛り沢山の内容となっている。
この団体がイギリスでなくアメリカで最初に生まれたのは、よりアメリカの方に熱狂的に受け入れられた証左でもある。本国ではそこそこの評価しか受けなかった「四つの署名」が、アメリカではかなりの高評価だったという。
10数年ぶりの再読である。著者はアメリカのシャーロッキアンで、BSI参加者の1人であり、この本は、なんと、1933年に書かれたシロモノだ。「ホームズとハドスンさんが生きていれば、今年は2人とも80歳になるはずである」なんて書けるのが羨ましい。
時代先端の読み物として書かれているので、我々には空気感が読みにくいところもあるが、作品全体を網羅して様々な解説をしているものとして非常によく出来ていると思う。
一つ。訳者は、「緋色の研究」に[「緋色の習作」が正しい訳]などとこだわっておられるが、はっきり言って煩わしい。もはや長年馴染みのある訳だし、「緋色の研究」の方が断然カッコいい!私は「研究」賛成派である。
百田尚樹「ボックス!」(2)
ううーん、百田尚樹は、直接的で、ドラマティックさに重きを置く作家た。「永遠の0」から肌合いの合わなさを感じていたが、この作品もそう思った。
ボクシングの天才で、典型的な大阪のヤンチャ、鏑矢と、その幼ななじみにして親友の優紀。学業の特待生で運動をしたことのなかった優紀は強くなるために、鏑矢のいるボクシング部に入る。
後はもう、アマチュアボクシング、プロのボクシングについての専門的な知識やボクシングへの考え方、そしてリアルな試合の描写と白熱の行き着く先・・面白くて次、次と読むのは確かだが・・。
うん、やっぱ肌が合わない。好みの問題。
三島由紀夫「青の時代」
破滅的な秀才の行動。戦後若者の虚無感を表しているらしい。奇しくも書き終わりの日付が、1950年の10月31日で、読了の日と同じだった。
久しぶりに読んだ三島はまあ、暗い中、やはり何処かに破壊的なところがある物語だった。
千葉の海辺の都市で育った誠は旧制一高、つまり東大に合格するが、詐欺で大金を騙し取られてしまう。その学友とともに嘘の金融会社を設立すると、経営が軌道に乗り高利貸しも始める。
戦争を挟んで復学してからの金融業である。このころのモダンな文学には、割り切った機械的なものではない微妙な、些細な迷いが見られ、たまにあるある、と共感してしまうのだが、今回は秀才のプライドをひたすら見せているだけのような気がして、また難しくていけない。
ストーリーも自滅的で、なにか自らの作り出す理屈に合わせているようである。当時の風俗は興味深い部分もあるが、まあもうふたつ、だった。
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