2013年10月31日木曜日

10月書評の1

わーっと読んだ時期もあり、なんかスポーツに寄っていたような、でもいっぱい読んだ10月だった。ホームズものも2つ読んだし。長く感じる読書月だった。

14作品16冊。では行ってみましょう。


殊能将之「ハサミ男」

だいぶ以前に傑作として名前を聞いたことがあったこの作品。おそらくそれは、出版された1999年の頃の事だったのだろう。最近書評を見かけ、読んでみる気になった。

女子高校生を殺し、死体にハサミを突き立てたり、顔を切り裂いたりする「ハサミ男」。ハサミ男は、次のターゲットにした由紀子の家の近くにある公園で、彼女が殺されているのを発見する。死体にはハサミが突き刺してあった。

いきなりシチュエーションの変換から入る、粋なサスペンスである。なんというか、最後までズレているのが特徴か。そして、どんでん返しにより、再読したくなる内容となっている。またクールさが目立つ文体である。

これはまあ、どう特徴を持たせているかはよく分かったが、すっきりしない部分も含めて、名作かと言われると、私的には疑問符が付く。うーん、といったところだ。

桂望実「嫌な女」

評判が高く、書店で目に入って、思わず買ってしまった一冊。女を武器に詐欺を働く夏子と、その縁戚で夏子が起こすトラブルの火消しをする弁護士・徹子の物語。

夏子と徹子は同い年で、若い頃から始まり、70才を超える頃までの、人生を含みこんだストーリー。徹子は一貫して、過剰なほどクールな女で、一方の夏子は女を武器とし、感情を隠さない性格。しかし、夏子は描写か伝聞としてしか登場せず、両方の主人公と距離があるまま話がずっと続いていく感覚に囚われる。

トラブルは起きるものの、全体としては淡々と進行する。静かに迫る感覚。そして、この作品は、人生における孤独との向き合い方もまた一つの芯にしている。よくもまあこんな構成を、キャラクター立てを考えたものだ。読了したとき、感動こそないが、全体としてストン、と落ちた感じがするから不思議である。傑作とは正直思わないが、読んでみてよかったかなと思わせられた。

長友佑都「上昇思考」

2ヶ月続けて、ナガトモの本。「日本男児」が一代記とすれば、こちらはどのように心を保つか、ということをクローズアップしている作品だ。

だからというか、「日本男児」を読んだ前提で書かれているような部分がちらほら見られる。

インテルのサネッティのことなど、特に人との出会いという点では、具体的で面白い。それ以外は、長友も同様なことを書いているが、同じ事を手を替え品を替え説明している感じである。読んでいて少しじれったくなる時もあった。

いつも読み返すという祖母からの手紙、については胸が温かくなる。まずまず楽しんで読んだ。

ジョン・H・ワトスン著
ローレン・エスルマン編
「シャーロック・ホームズ対ドラキュラーあるいは血まみれ伯爵の冒険ー」

難破した船の操舵輪に自らの手を括り付けた船長の死体、その首には2つの噛み傷があったー。

1978年にアメリカで発行されたパロディで、翌年に日本でも出版されている。私が手にしたのは、1992年に文庫版として再訳出されたものである。これが10年ぶり3度目くらいの再読だ。

まあ、パロディここに極まれり、というくらいのものなのだが、中身は真剣そのもの。ホームズはドラキュラと真っ向から対峙し、ブラム・ストーカーの小説に登場したヴァン・ヘルシング教授一行とも邂逅を果たす。

ホームズもの長編第2作の「4つの署名」を彷彿とさせるような、探偵犬トビーの活躍ほかシャーロッキンの頬をゆるめる要素がいくつかある。突飛な発想だが、なかなかいいな、と今回も思ってしまった。

由良弥生
「眠れないほど面白い『古事記』」

数年に一度、神代ものを読んでしまう。私は、子供の頃に親から与えられたマンガの影響もあり、日本神話が好きなのだ。コンビニでよく見かけ、興味を引かれていたのだが、ついに、品川駅で買ってしまった。

中身は意外に淡々としている。「眠れないほど面白い」というから、もっと削って、絞って、誇張してあるのかと思ったら、上中下巻の大筋を現代語にし、より分かりやすくデフォルメしているだけである。

イザナキとイザナミの話、アマテラス、ツクヨミ、スサノオの誕生、スサノオの乱暴狼藉に、天の岩戸の話。また八岐大蛇、苦労したオオクニヌシ、国譲り、タケミカヅチ、天孫降臨、サクヤビメ、海幸彦山幸彦、勇敢で哀しいヤマトタケル・・

倭は国のまほろば
たたなづく青垣
山籠れる倭しうるはし

今も読むとときめくが、相変わらず前後関係とか、神々の名前についてはうろ覚えで、何回読んでも、正確には覚えない。(笑)

ちなみに、本屋さんにしてもらったカバーは、京都・福知山市の観光案内で、大江山の鬼の博物館にめっちゃ行きたくなった。

藤原伊織「シリウスの道」(2)

伊織色満載の作品。大手広告代理店に在職していた筆者が、ホームグラウンドを舞台に、特殊な物語を描いた作品。代表作である「テロリストのパラソル」へのオマージュともなっている。

専門用語も多く、ビジネスでの話が多過ぎる気もするが、おそらく本人は、書き足りないのではないだろうか。(笑)幼なじみの思い出が大きなウエイトを占めるが、大なり小なり、同じことがあるような、サラリーマン社会の縮図も物語の芯だ。また、藤原伊織ものには欠かせない、微妙な恋愛関係や、主人公のハチャメチャさ、そしてお気楽さも入っている。息をつかせぬダイナミックなストーリー展開も相変わらずだ。

こうして全体としてまた伊織ワールドが形成されているが、いままで読んで来た中では、「ダックスフントのワープ」と「テロパラ」だけが異色の作品で、他は同質感がある。この人の手になる作品で、違う展開のものも読んでみたいな、というのが、正直な感想で、また別の本を手に取ってみることになるのだろう。

中村文則「掏摸」

「スリ」と読む。大江健三郎賞受賞、数カ国後に訳されて海外でも出版されているそうだ。日本がこんなにひどい国だと思われたらどうしよう、そんなストーリーでもある(笑)。

人の懐から財布をスリ盗る、天才スリ師の「僕」は、血も涙もない、会いたくなかった相手、木崎と再会し、厄介な命令を受ける。失敗すれば命は無いー。

純文学風な話でもある。心理的に人の快楽、というものの一部を表そうとしていると思うが、正直もうひとつだという感想だ。

マンガでも小説でも最近特によくあると思うのだが、都合のいい、深い訳は話さないでOKの、スーパーパワーキャラクターを登場させると、話が簡単になってしまう。例えばこの界隈を仕切るヤクザのドンで、この人の耳に入らないことはない、とか裏で全て糸を引いている、とか。

扱っているテーマも分かるような、でもやっぱり違和感があるような感じである。物語を超える力を、残念ながら感じ取ることは出来なかった。ただ先も知りたいので、姉妹編だという「王国」も文庫が出たら読んでみよう。

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