2013年9月1日日曜日

8月書評の2

とにかく暑く雨の予感も無かった盛夏。比較的忙しくしていた割には読めたな、という感じだ。では、ヒアウイゴーナウ、お待たっせしました♪2番。

高橋克彦「鬼」

時は平安時代、菅原道真公の怨霊が都に変事をもたらしているとされた頃、陰陽師たちは、鬼の仕業とされた事件の解決に挑む。

年代順に、賀茂家から安倍晴明まで幅広く陰陽師たちの活躍を描く創作ものである。蝦夷の乱や平将門の乱まで取り扱っていて興味深い。

私の好きな、渡辺綱や坂田金時、酒呑童子などに連なる話でもある。ただもちろん、角をはやした巨漢の鬼が金棒持って暴れ回る、という類のものでは無い。

とっつきにくいかな、と思ったがすらすら読んだ。同じパターンが多いが、好きな方ではある。鬼の本は、また探して読もうっと。

桜庭一樹「伏 贋作・里見八犬伝」

山から出て来た女子猟師の浜路は、兄の道節とともに、人と犬との間に生まれたという怪物、伏の退治に乗り出す。

「鬼」に続き、夏の怪奇ものシリーズ(笑)。里見八犬伝は、子供のころ、NHKの人形劇でやっていた。薬師丸ひろ子主演で映画にもなった。

これはまた、まったく違う物語である。伏は生臭く、ひどく人間臭い面もある。また、桜庭一樹独特の、各作品に共通したクセにより、悠久の物語となっている。

密度は濃いが、相変わらず名前が変わっているのを始め、ではどう思いを馳せればいいか、方向性がもひとつ見えない。それなりにワクワクしたが、どうももう一つ消化不良、かな、という感じだった。

薬丸岳「天使のナイフ」

記念すべき今年100冊目。数冊前から計画して、この、2005年江戸川乱歩賞受賞作を持ってきた。

主人公桧山は、妻を3人の中学生に殺された。事件から4年が経ったある日、桧山の勤め先近くで、加害者の少年が殺される。警察が桧山を疑い、4年前の事件も一気に動き出したー。

まったく予備知識は無く、これまで乱歩賞には楽しませてもらったので、という理由だけだったが、少年法と犯罪被害者というものに正面から取り組んでいる作品だ。

解決部分も、何やら暗示的なものがある。すべてを善悪に振り分けないのは好みで、それなりに濃厚な作品だと思う。ミステリとしても最後にちょっとした痛快さを味わう。よく練られていると思う。

が、ボトムに本当の重さが感じられないような気もしている。不思議なもので、作品一冊まるまる読んで、テクニック先行、という気がしたし、解決のきっかけもあいまいだし、文章を超えるパワーも伝わってこない。「13階段」や「テロリストのパラソル」や「放課後」のような。もちろんいわば新人賞の乱歩賞に多くを求めるのも酷かもしれないが、力作だけど、なんか足りない、という感じだった。

恩田陸「黄昏の百合の骨」

「三月は深き紅の淵を」の第四章と、それを拡大して物語にした「麦の海に沈む果実」の主人公、水野理瀬。学園から出て、イギリス留学の後、長崎の高校に帰って来た理瀬は、亡くなった祖母の、「魔女の館」と地元で噂されている洋館に住み、「ジュピター」を探す。しかし、次々と事件が起こって・・

久々に読んだ、恩田陸。不思議な謎があって、「こちら側の世界」なんぞがあって、青春があって、特別な館がある。相変わらずお姉ちゃん小説を地で行っているのが微笑ましい。この調子だとまた理瀬が活躍する長編が出る様子なので、楽しみに待とう。

藤原伊織「ダックスフントのワープ」

久しぶりに、藤原伊織が読みたくなって、借りた。これは純文学の中編集。ちなみにダックスフントは、原産のドイツ語ではダックスフント、英語読みではダックスフンド、とのことである。

表題作は1985年の発表なので、もう30年も昔、私が高校の頃というと何だが信じられない。さて、中身はと言うと、解説の藤沢周も書いているが、村上春樹である。哲学的で知性を感じさせる会話、孤独感の表し方、文中の喪失感、とそっくりだ。

「ダックスフントのワープ」は作品中で少女に語られるいわば童話で、この話を軸に、物語が展開する。この表題作はなかなか秀逸、後の藤原伊織イズムにつながる気楽さも伺える。他も、突飛な設定で、まあ面白い。

「ダックスフントのワープ」はすぐに、デフォルメして、息子の寝かしつけに使った。

0 件のコメント:

コメントを投稿