7月は、とても忙しい月で、あっという間に過ぎてしまった。
もう8月、というのが信じられない。では、10冊、2回に分けて行ってみましょう。やっぱ夏は宇宙だな。
湊かなえ「少女」
それぞれに屈折した想いを抱える女子高生の友人同士、敦子と由紀。「人の死を見たい」という願望のもと、それぞれに行動を起こすが・・
登場人物が絡まり合う、毒のある小説、である。未熟な考えと危険な行動、刹那的な感情、冷めた目線、など割り切った部分も多い。
うーむ、あまりきれいすぎるのも何だが、これについては、心情的に動かされるものはなかった。むしろこちらも冷めてしまう。
梨木香歩「家守綺譚」
時はおよそ100年前の京都の山すそ。売れない作家綿貫征四郎は、亡くなった友人の実家に住みながら文筆活動に励むのだが、奇怪なことがまるで日常のように相次ぐ。
河童、仲裁犬ゴロー、恋するサルスベリ、桜鬼、化かす狸にキツネ、人魚、亡友の霊、長虫屋など、奇怪な中にも憎めない面々が入れ替わり立ち代わり登場する。またそれを当然のことと受け止める、アクセントのある周囲の人たち、隣のおばさん、近くの和尚、編集人山内、そしてダァリヤの君。
季節感、山すそ、湖、疎水と周り変化と植物の情報を豊富に取り入れながら、一編の興味深い物語が出来ている。これで完結するなら、どこかで種明かしなり、例えば都会へ出て来た後年の征四郎の話など入ってたらいいかも、などと思ってしまった。
続きが読みたくなった。これはこれでひとつの形であろう。
福井康雄「大宇宙の誕生」
名古屋大学大学院教授の、研究成果をまとめた本である。1998年、すばる望遠鏡が稼働する前の発行で、古いので、第3部のみ大幅に改訂してある。
星の一生からひもとき、星のたまご、星の誕生のプロセスまでの研究の結果を詳しく書いてある。なかなか興味深かった。
が、やたら自分のところが偉業を打ち立てた、というようなフレーズが出て来るのはやはり気持ちのいいものではないし、最初の方こそ繰り返し優しく解説してくれているが、中盤以降は、それを放棄してしまったように、説明のない言葉も出て来るので、理解の助けが無い状態である。
あとがきも、自分の中だけで言葉を消化している感じだ。全体的に、書いた人というよりは、編集の問題であろう。ただ、宇宙研究には、世界最高の設備を、国は準備すべきだ。世界に先駆けて、国策として、どんどんやるべし!
江戸川乱歩「孤島の鬼」
若く美しい青年、蓑浦の婚約者初代が密室状況で殺された。さらには、探偵と依頼した男も、人の多い海水浴場で、犯人不明の状況で殺された。 2つの不可能殺人の裏には、確かな目的と、途方もない犯罪があった。
江戸川乱歩傑作選で出ているものを借りて読んだ。いや、本当に面白かった。出だしと終わりの暗明は矛盾を感じるものの、読後感は非常に良い。
いわゆる障害者、文中では不具者、片輪、などと呼ばれる、が多く登場する。現代ならとても出版できない代物だろう。しかし、そこがこの物語を面白くしていることは否めない。
小学生の頃、学校の図書館にある限りの「怪人二十面相シリーズ」を読んだ。その筆の具合、というのも垣間見えてナイスだった。シャーロッキアンとしては、「六つのナポレオン」のネタが出て来たのは嬉しいし、まさに乱歩が西欧の推理小説に通暁していたのが如実に表されていると感じた。乱歩は、今後趣味のひとつに入ってくるだろう。
太田治子「明るい方へ
父・太宰治と母・太田静子」
太宰治の愛人の子である作者が、母と太宰の関係を綴った作品。ベストセラーとなった「斜陽」は太田静子の日記が下敷きになった。
母と過ごす日々から、母の日記から、娘の目線から母の所作、言葉を元に書き上げていくものは他には真似のし得ない説得力を持つ。母の行動に不満もあっただろうし父からの仕打ちに恨みもあっただろうなと思わせる。
感想としては、研究本としては興味深い。しかしこう、生身の人間についてこれほどまで細かい行動を推測するのは、少なくとも私的には魅力が少々薄いといものだった。毎度この手のものは、当時の文壇を知る材料としてそそられはするのだが、まあ太宰作品をあまり知らないから、というのもあるだろう。
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