もう3月弥生である。三寒四温で、春はこれから。浮き立つ季節でもある。
さて、書評の2。
船戸与一「虹の谷の五月」(2)
直木賞受賞作品。フィリピンの辺境、丸い形の虹が出るという虹の谷には、反体制ゲリラが1人で暮らしていた。麓の村に住む、日比混血の少年、トシオだけがそこへ行く道を知っていた。フィリピンの現状、腐敗、汚職、近親相姦、聖職者の男色、売春、風俗などを織り交ぜ、事件ごとに成長していくトシオの姿を描く。
相変わらず、一部ルポルタージュ風に、国家的社会的問題を物語に織り成す作風である。「砂のクロニクル」は、最後に皆死ぬ話だったが、今回は少年の成長が軸に据えられていて、ハードボイルド大河ドラマとして読みやすい。虹の谷、という場所も象徴的で、山中の川の描写が抜群だ。
作者曰く、「世界の矛盾はなかんずく、辺境に集約される」らしい。辛口を言えば、上に挙げたものをぎゅう詰めに詰めるためにエピソードを作っていることに、過剰感も感じられる。
京極夏彦「姑獲鳥の夏」
620ページの大作。数日で一気に読み切った。京極夏彦のデビュー作。本格派である。
昭和20年代の東京。医院の婿養子が突然失踪し、妻は20ヶ月産まれぬ子を身籠っていた。おどろおどろしいベースに、小難しい理屈。いくつもの不思議があり、しかして理詰めの解決は、見事さを醸し出す一方、論争の種をも撒いた。
ミステリ好きには名作だったと思うが、私には初京極夏彦だ。最初はついていけず眠気まで催したが途中から夢中で読んだ。雰囲気、キャラクターの魅力、劇的な要素、組み立ての理詰めさ、最後にホッとすることといい、やはり名作であろう。この作品が受け入れられた当時の雰囲気も、ミステリ好きの端くれには分かる。が、端々に納得できない部分もあり、ちと難解さも正直あり、肝心の部分の問題性もあり、すっきりとは行かなかった。
正直なんでも分かりすぎる探偵さんは、ミステリ界隈には結構多いな、という感慨を、また持った。
和田竜「のぼうの城」(2)
沖縄滞在中、「姑獲鳥の夏」を読み切れれば・・と思っていたらあっさり読了してしまい、小さな名護の町にある、アダルトな本ばかりの本屋で、わずかにある普通の文庫本の中から買った本。
秀吉の大軍に迫られた北条方の小さな大名成田家が、忍(おし)城に立て籠もり、意地の戦を繰り広げる。でくのぼう、の略でのぼう、である。
物語は、短くして痛快、映画の脚本のようで後味もいい。軽めの時代小説で、まあまずだったかな、という感じだ。
山田悠介「ニホンブンレツ」
中高生が好きな作家ナンバーワンと言われる山田悠介。上の「のぼうの城」をあっという間に読めそうだったので、那覇空港で買った。
作風をこれで理解したわけではないが、うーん、やはり学生向けかな、と・・。設定は面白いが、明確過ぎる敵や悪意を作るし、恋愛に傾倒するし、どうにもキャラクターの消化が悪いし、で肌には合わない。
ナンシー・スプリンガー
「エノーラ・ホームズの事件簿
〜消えた公爵家の子息〜」
東京駒沢大学駅前の書店で買ってから長らく読んでなかったホームズ・パロディ。実はコレクションにはまだ未読のものもある。マイクロフト、シャーロックの年の離れた妹、エノーラの大冒険。
「シャーロック・ホームズの弟子」によく似た、ホームズに挑戦する女性の視点から描いている。プラトンよろしく、ホームズも、女性は信用しない。そこへの反発と、ホームズ物語には女性側からの視点が欠けていることに乗じた話作りで、「弟子」同様あまり面白くないのだが、重い「弟子」に比べ、こちらは軽快だ。ライトノベルで、成人向けでは無いからか、ちょっと冒険に重きを置きすぎているきらいがある。
ま、しかし、この手のパロディ、しかもライトノベルにあれこれ言うのも無粋というものだろう。
三上延「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ
「栞子さんと二つの顔 」
発売されるや大人気となり、すぐに月9でドラマ化されてしまったビブリアシリーズ。その第4巻である。
ついに、失踪中だった、栞子さん姉妹の母、智恵子が出現。江戸川乱歩を題材に古書ミステリーに挑む、といった内容。
謎そのものは今回マニアックだったが、人となりから紐解いていく姿勢には好感が持てるし、無理が無くなる。乱歩だし、好きな内容だった。次作が楽しみだ。
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