北村薫「六の宮の姫君」
円紫さんシリーズ第4弾。主人公の「私」が大学4年になり、将来への漠然とした不安と期待を感じるベースの作品である。
今回は、芥川龍之介が「六の宮の姫君」を書いた時に洩らした言葉の謎を解き明かす、文学的、人間的探究だ。ここまで来ると、難解である。正直。
相変わらず、文学的知識は半端ではなく、色彩的、文章も綺麗で品の良い北村ワールド。今回あまり俗っぽくない。大正昭和の文壇は興味深かったが、正直ここまでいったか、という感じで笑えてしまった。
船戸与一「砂のクロニクル」(2)
平成6年、19年前の作品で山本周五郎賞受賞。興味はあったが、手を出していなかった船戸与一。好きな人から借りた。
文体はハードボイルドそのもの。芯はホメイニのイスラム革命後のイラン。クルド人問題を取り扱っている。武器商人、グルジア・マフィア、反革命勢力、革命防衛隊、アゼルバイジャン独立を夢見るアザリ人、クルド人の大規模な蜂起と、スケールが大きな大河ハードボイルドだ。著者は現地取材を敢行していて、細かい描写に、それが生きていると思う。
男っぽく無駄のない台詞回しや組織の腐敗、金による価値観、殺人、そこかしこに出てくるセックス描写など、おそらくは発行当時にも世界的問題となっていた中東の民族紛争を題材に、見事に描き切っている。
ラストに向かって、強引なところもあり、引っかかりも出て来るし、最後に何もなくなってしまうところに、救いを求めたくもなるが、なかなか楽しませてもらった。MVPは、並外れた女好きのマフィア、ゴラカシビリに決定(笑)。
浅田次郎「珍妃の井戸」
ベストセラーとなった「蒼穹の昴」の続編だそうだ。清朝末期が舞台である。最初に妖しい令夫人が出て来て、その独り語りから始まり、複数人の独白形式で、物語は進んで行く。どこかファンタジーチックだ。
その時代、その国の雰囲気とか、知識などは面白かったが、ちょっと芝居がかりが過ぎたかな、という感じだった。
藤原伊織「テロリストのパラソル」
1995年下半期、第114回直木賞受賞作。小池真理子「恋」と同時受賞で、候補には北村薫「スキップ」も入っている。前年には江戸川乱歩賞も受賞している。乱歩賞、直木賞のダブル受賞は史上初だそうだ。
ひとことで言えば、大変面白かった。昨年なぞはなかなかヒット作が無かったものだが、久々にスコーンと来た!という感じだ。序盤から無駄無くテンポ良く、次々と物事が起こるために飽きさせず、ぐいぐい引き込まれる。中盤ややだれる感じもするが、間断なく真実が明らかになって行くのも心地良い。
全共闘時代からの話である。よく考えると、不自然なところも、ご都合主義に見えるところもあり、また最終的な犯罪動機は、やや弱いな、とも思うが、しかし人間関係や会話も心地良く、行間に漂うのん気さやシニカルな雰囲気が物語のテンポとマッチし、最後まで読み切らせてしまう。
いや拍手ものの出来だと思います。はい。
川村元気
「世界から猫が消えたなら」
「モテキ」ほかの映画を手がけた映画プロデューサーの処女作。脳腫瘍を患った男が、延命と引き換えに悪魔と取り引きをする。
死を目前にした若者の姿を家族や友人の愛情とともに、ときにコミカルに描く。母の手紙には、ウルウルと来てしまった。ライトノベルで、貸してくれた人の「1日で読めますよ〜」という言葉に反せず数時間で200ページあまり読み切った。
しみじみと来る物語は、短いほうがいい。手法等々問わずふうむ、たまにはいいな、と思わせる作品だった。
横山秀夫「第三の時効」
F県警捜査一課強行班をめぐる連作短編集。環境は同じだが、主人公はその都度変わる。ちなみにFは実際にある県のイニシャルではなく、記号の様である。隣がG県、V県というのも出てくる。逆にバラバラだと気になるものだが。
法的な穴や、犯人の小さなミスから真実をあぶり出す、というテイストである。
強行3班のそれぞれの班長は只者では無く、超人的。面白く読ませる。しかし、「ルパンの消息」でも同じ感想を抱いたが、きれい過ぎて、肌が合わない感じがする。
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