2012年11月1日木曜日

10月書評

山の方に移り住んだからか、特に夜中、よく雨が降るな、という印象だ。寒いし。今も降っている。稲垣潤一の、「雨は壊れたピアノさ〜♪」という歌詞を思い出したりする。確か「バチェラー・ガール」というタイトルだ。「雨のリグレット」も良かったなあ。青春時代は稲垣潤一と渡辺美里と久保田利伸、佐野元春、プリプリ、サザンほかもろもろ。

やっと段ボールが出て来て、本とCDの整理をしたが、棚が多くて広いのと、意外に家持ちの本は少ないからか、まだスカスカである。

さて、10月は8冊だ。

伊坂幸太郎「ラッシュライフ」

これは、先に書評を長く書いたので、最後の方だけの繰り返しにする。

大きなだまし絵的なオムニバス、だが、それぞれの話が結論まで行ってない。さらに作品を超えた、登場人物のクロスもあるそうである。そういった作家さんなのだろう。ひとつのジャンルなのかな、という気がする。

窪美澄「晴天の迷いクジラ」

「ふがいない僕は空をみた」で本屋大賞2位ほか各賞を獲った窪美澄の作品。「ふがいない」は、エロとアニメおたくから入って、序盤は最悪、と思った。しかし最後で泣かされた。

「迷いクジラ」もよくもまあこう貧乏や田舎のことや人の死やら極端な不幸を精巧ぽく創りたがるんだろう、タッチ変わってないし、と思ったが、途中で泣かされた。

何かと、なぜか憎たらしいし、前作に比して、クライマックスは偶然性が強くハデ過ぎるし人が相変わらずすぐ壊れるし、話が重いからなかなか読むのが進まないし、と思うが、もう認めねばなるまい。窪美澄には、人を感動させる物語を描くことが出来る、ということを。出来れば次回作は違うタッチのものが読みたいぞ。

村上春樹「国境の南、太陽の西」

これまで、なぜハルキが社会現象になるほど人気があるのか、なぜ周囲の読書家たちにハルキストが多いのか、不思議に思っていたが、この作品を読んで、また少し理解が進んだ気がする。

人生の「欠落」これはハルキ全般に言われるキーワードであるが、この作品では、分かりやすい形でストレートに詰めている、と思う。幸せは、充分にあるが、しかしそれは自分の全てを満たしているわけではない。その希求はこの書を読む多くの青少年に、 家族を持ち通常の幸福を享受している中高年層に、響くだろう。ただ、女性にはもうひとつ響かないような気がしている。

そして、欠落を埋める手段を持っていた主人公に羨望を覚えるか、我が身の経験を顧みるのではないだろうか。少なくとも、人生の岐路には想いを馳せるだろう。

文体、主役とその考え方は、「スプートニクの恋人」や「ノルウェイの森」に通ずるものがあり、考え方と物の言い方が、独特で哲学的。物語のキーワードも、非常に趣味のいいところから取っている。世界的に受けがいいのも、分かる気がする。真っ向から、普遍のテーマに取り組んでいるからだと思う。よく物事を調べて、読み手を楽しませるように、軽妙洒脱に書いているわけではない。

自分の感想としては、今回、村上春樹は他にはいない作家だ、という手応えを得た、というのが一番大きい。だからと言ってハルキストになって、貪り読んだりするわけではないが、これは確かに、芸術の一分野、少なくとも本格派、と言われるものなのだろう。

有川浩「クジラの彼」

本格派というか、重い作品が続いたので、軽めの恋愛小説。自衛隊ネタだが、やはり恋愛もの。意外に時間がかかってしまった。特にはコメントなし。環境的に心地よかった。以上。

宮本輝「葡萄と郷愁」

日本とハンガリー、人生の決断を前に揺れる2人の若い女性。葡萄とワイン、仕込まれた暗合が微妙に効いている。宮本輝は久しぶりに読んだが、ひと昔前の芸術映画を地で行っている感じだ。

ベースからしてちょっと突飛だな、という気はするが、熟練の手管で練り上げられていると言えるだろう。1985年界隈、という空気もよく出ていると思う。

中山七里「おやすみラフマニノフ」

このミス大賞「さよならドビュッシー」の続編である。ドビュッシーは、推理小説というよりは、音楽ものとして楽しめた。「ラフマニノフ」は、大学生もの、というのもあるのか、もっと雰囲気も軽めで、しかしテレビドラマのように大仰だった。

中身はというと、やはりクラシックものとして楽しめる。中盤のヤマ、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の部分は、私自身にとっても思い入れのある曲、ということもあってハマってしまった。

正直前作と同じように、推理小説としてうーん、という部分は有るのだが、でもこれだけ楽しめたからオッケーだ。

佐々木譲「廃墟に乞う」

舞台は北海道。休職中の道警刑事が、個人的な依頼をされて、様々な事件の捜査に当たる。

直木賞受賞作品である。ふうむ。北海道の各地が描かれていて、元北海道好きとしては興味深い。冷静で理性的な主人公、内容には、色気も無い。

本来ならば、正規の仕事では無いところに、このような冷徹な刑事が、のこのこと現れる事は無いのだろう。だから余計、現場復帰の激しい願望がある、と取れなくもないのだが。

抑えた筆致が特徴か。オチはやはり休職のきっかけの事件かな、と期待して読んでいたが、ちょっとすかされた気分になった。

北村薫「紙魚家崩壊」

短編集、アンソロジーである。遊び心に溢れている。3連作があるかと思えば、2連作もあり、単独のもの、短いのと、長いのがあったり、書く方も楽しんで書いたな、と思う。まあすらすら読んだ。私はまだ、北村薫の作品を10も読んでいない。しかし、次は、最新の長編で、北村薫一世一代の大作を読みたいな、と思ってしまった。

11月の初頭は、スポーツエッセイ集を読んでいる。引き続き誉田哲也「武士道セブンティーン」に辻村深月「鍵のない夢を見る」である。あまりテイスト変わらないなあ。でも楽しみだ。

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