2026年3月1日日曜日

ブーニン

ドキュメンタリー映画「ブーニン」を鑑賞。

1985年のショパン国際ピアノコンクールで優勝、日本でも大ブームを巻き起こしたブーニン。しかし当時のソ連国内でKGBの監視、学院のコンサート禁止令など困難が襲い当時の西ドイツに亡命した。

日本人の妻を得て、活動拠点の1つは日本。しかし病魔と怪我による深刻な事態に直面し、9年間もコンサートから遠ざかっていたー。

クラシック界ではソ連からの亡命はよくある話ではある。芸術をもイデオロギーや政治の力でで抑えこもうとするのは健全とは言えない。ブーニンもまた体制末期のソ連で苦しんだ1人だろう。

訥々と過去のことを話すブーニン。少しずつ、謎の過去が明らかになる。そして完全復活を目指す途上、思うようにいかないと、イライラした姿も見せる。日本への愛、夫婦の愛もこぼれる。

ショパンコンクールは2回続けて集中して聴き、その前の会は過去映像をさらった。しかし実はブーニンの映像はほとんど観たことがなかった。単純に画が古いのと、だいぶ叩く人、という妙なイメージがあった。

今作でかなり研究できた気がする。確実で、テクニカルで、自然に打鍵が強い。自然で確固とした音、テクニックと余裕、流れるような麗しくフレーズ、全体の美しさ。ちょっとイメージと違い、研鑽のあとがにじむ。

演奏が長く、インタビューもちょっと考えるところがあったりした。ブーニンが控えめで穏やかな性格で、冷静であまり大げさにならないしゃべりにかえって困難の大きさが見える気もする。

ショパンだけでなくシューマンやプーランクも作中で披露している。若手奏者にレッスン・助言もしていて、桑原志織、反田恭平、亀井聖矢なども登場する。

また公演あるだろうし、考えてみようかな。成熟のショパンが聴きたい気もする。

コルンゴルト&中野りな最高!

仙台国際コンクール史上最年少優勝、中野りなソリスト、コルンゴルトのヴァイオリン🎻協奏曲。コルンゴルトは、軸足はクラシック音楽で、アメリカで1930年代〜50年代に多くの映画音楽を作曲した。

中野りなは写真では幼さも残るけども、演奏中はオーラ、貫禄が漂うくらい颯爽としている。次代の天才としてテレビで取り上げられていて、覚えていたら仙台優勝。まだ学生であまりコンサートの数が多いわけではなく、2年ぶりくらい、2回目の生演奏。

今回はアメリカのジュリアード音楽院で学ぶソリストが、コンルンゴルトがアメリカ映画の自作からも引用して作った曲、というラインでの選曲らしい。

「トムとジェリー」またいくつかの古き良きアメリカ映画で独特の抒情ある楽曲はどう演奏してるんだろう?というところにも大いに興味があった。最近身体の不調からステージ復帰したヒラリー・ハーンでめっちゃ予習した。

いやー中野りなはやはりがっちりとした技術、態度、オーラ、音も大きくすばらしかった。コルンゴルトは映画「E.T」のようなイメージの曲で、ヴァイオリンの聴かせどころも多く、オケとソリストの掛け合いもあり、ラストの決めも鮮やかで大いに盛り上がった。後味が良くて、聴いてる身が幸せな気持ちになる演奏。ブラヴォー👏👏

シューベルトの交響曲5番、コルンゴルトと弦の並びはスタンダード。ところが続くベートーヴェンの8番は下手の第1ヴァイオリンの奥、第2ヴァイオリンの位置にチェロが来て、第2ヴァイオリンは上手のチェロの場所にスイッチ。あれ?と思ったら曲の構成上それがいいんだなと。第1ヴァイオリンとチェロ、第2ヴァイオリンとヴィオラのピチカートのタイミングが同じ、など確かにその方がいいかもと。これはベートーヴェンの仕掛け?やっぱりベートーヴェンはおもしろい。

ソリストの音が天に響く、オケを見ながら曲を愉しむ。やっぱり、クラシックもLIVEに勝るものはない。

ヒラリー・ハーンでコルンゴルト復習しよう!

2月書評の12

◼️ 川内有緒「空をゆく巨人」

いや・・圧倒された。現代美術の雄・蔡國強とチームいわき、ことに主人公の志賀忠重。すごくて楽しいことがこれだけできるんだと。

なじみの古書店さんに薦められて購入した。新しい何かに会える期待感があったところ、想像以上。苦しくとも、なんとかしてきた者たち。

現代美術はアート好きなら何度も見る。わけ分かんないけど楽しい、という感触。ある美術展では会場外のトイレにまで一面にテープで文字が貼り付けてあった。複雑なレールを広い場所に敷いたうねうねと敷いた作品もあった。しかし蔡さんの作品は、独自性豊かで、スケールが大きく、視覚的。まとまっていて、強いメッセージ性がある。

福島県出身の志賀忠重は1980年代、地元で、ソーラーパネルによりお湯が出るシステムの訪問販売で大成功を収めるなど商才を発揮していた。1986年、キャンバスの上で火薬を爆発される火薬画を志向していた美術家・蔡國強は妻を連れて中国から来日、銀座の画廊で作品を売り込むものの相手にされなかった。やがて人を介して蔡はいわき市にある志賀の友人・藤田のギャラリーで作品展をすることに。そこで蔡は志賀と出会った。

志賀という人物は、福島の地元とのつながりを大事にしながら、これという人には成り行きで入れ込んでしまう。蔡さんが展示を手伝ってくれといえばアメリカでもヨーロッパへでも飛んで行く。北極徒歩横断に挑む者のサポートのため現地のベースへ入り、補給の飛行機で最前線へ行く。現実的な目線では資金はどうしてるの?と単純に思う。

時代というか、なんとなく分かるが、事を成す人はおおらかだ。発想は豊かでなんとかなると突っ走る。蔡さんも、大場さんという冒険家も計画的とは言えないし、費用や人員のことは顧みない。ただ成し遂げる結果は本当に目を瞠る。全般に、なんとかなるさ、という通念のようなものがあって、現実的な心配を感じさせない。そういった時代人の心意気も分かるような気がするから不思議。

蔡國強というアーティスト、実は初めて知った。しかし、すごい。文字と写真で芸術ゴコロが惹かれ、見てみたいと思わせる作品が多い。

アメリカ・ネバダの核実験場などで筒に詰めた火薬をに点火、きのこ雲のような煙を出す写真のシリーズでセンセーションを巻き起こし、有名になった。それにしても、福島の海で火薬を何百mも引いて火をつけ、地球の輪郭を表したり、長い縄梯子を飛ばして空中で火をつけたり、果ては空港から17時間バスに乗っていくゴビ砂漠で、万里の長城の端を延長させる形で1万メートル火薬を敷く。もちろん火をつける。火は蛇がうねるように15分かけて進み、雪山の向こうに消える。視覚的にもチャレンジとしても壮大で突飛で、しかも成果を感じさせる。火薬ばかりでなく、福島の海で掘り出した木造の廃船を使った展示をしたり、大きな塔を造ったり、いわきの新しい美術館に龍のような回廊を構想したり、とにかくスケールが大きくて、身体の芯に来るような作品が多い。

志賀氏を中心としたいわきチームは世界各地に行って蔡さんの廃船を使ったアートのため、船を組み立てる。現代美術のスーパースターを支えているのは東北弁をしゃべる逞しいおっちゃんたちだ。写真の表情は本当にみないい顔をしている。

カナダ国立美術館分館での記念写真、いわきのメンバーたちが現地に来て作業をした廃船と、白磁の磁器を粉々に割ったものを取り合わせた作品の前で蔡さんと妻子が微笑む写真には、なぜか涙が出た。

そして東日本大震災、志賀はある決意をする。

絵を描ける人、楽器奏者、スポーツ選手には畏敬の念を抱いてしまう。蔡さんには圧倒された。そして志賀氏を見ていると、人間ここまでできるんだ、というでっかさを感じる。いやもう単純にすごい。故郷と暮らす人々への強い想いにも感銘を受ける。

ぐわんとくる、読み応えあり過ぎる本でした。
蔡さんの展覧会、なんなら火薬を使った大規模な作品でも、ぜひ観たい。どこかでやんないかな。福島の美術館にも行ってみたいね。

2月書評の11

◼️ 柳広司「シートン探偵記」

野生動物などにかかわる殺人事件。探偵役シートンのキャラが、ハマっている。続編熱望。

シートン動物記は実はたぶん断片的にしか読んでいない。この本と図書館で目が合ったとき、著者が夏目漱石のパロディ推理小説や「ジョーカー・ゲーム」シリーズを書いた柳広司氏と見て、これはきっと面白いに違いない。かつ、シートン動物記の話を再学習できるかも、と瞬時に期待が膨らみ即借りてきた。

「狼王ロボ」、カラスの王様「銀の星(シルバー・スポット)」、ハイイロリスの「旗尾(バナー・テイル)」ハイイログマの「熊王ジャック」の話などが収められている。なにか懐かしく思い出すものはある。

ニューメキシコ州サンタ・フェにある広大な"シートン王国"有名な「シートン動物記」の著者アーネスト・トンプソン・シートン氏のもとをロサンゼルス・タイムズの記者が訪れる。シートン氏の自叙伝の書評を書くにあたり、エピソードを拾おうという取材。そこで記者は、過去にシートン氏が解決した、オオカミにまつわる殺人事件の話を聞くことになるー(カランポーの悪魔)

ワトスンはこの記者で、ホームズがシートン。80歳にしてかくしゃく、溌剌としているシートンは落ち着いた、知的な口調で語る。野生動物への豊かで深い知識と観察力、経験に基づいた推理力が発揮される。

殺人や暴行、陰謀が絡むので、背景はやはり生臭い。しかし動物の習性をベースに置きながらユーモアを交え物語らしく仕上げている。ま、ちょっときれいにまとめているのでトリックは凝っていたり、特に動機があっさりしてたりという気もしたが、興味深く読めた。

シートンはホームズよろしく、観察の結果から記者が訪ねてくる前どこに立ち寄って何をしていたか、など当ててみせる。これはいいアクセントであり、洞察の深さを示す材料となっている。また密室牛小屋の暴行事件はホームズの「名馬シルヴァー・ブレイズ」を思い起こさせたりする。

実際のシートンと親交の深かったセオドア・ルーズベルト大統領も登場する。この関係性に関しては巻末の解説、補足で腹落ちする。

思った通り、なかなか楽しかった。偉人が遺したものから上手に拾い上げ、うまく展開させている。もう少し読みたいぞ。続編望みます。

◼️ 柳広司「シートン探偵記」

野生動物などにかかわる殺人事件。探偵役シートンのキャラが、ハマっている。続編熱望。

シートン動物記は実はたぶん断片的にしか読んでいない。この本と図書館で目が合ったとき、著者が夏目漱石のパロディ推理小説や「ジョーカー・ゲーム」シリーズを書いた柳広司氏と見て、これはきっと面白いに違いない。かつ、シートン動物記の話を再学習できるかも、と瞬時に期待が膨らみ即借りてきた。

「狼王ロボ」、カラスの王様「銀の星(シルバー・スポット)」、ハイイロリスの「旗尾(バナー・テイル)」ハイイログマの「熊王ジャック」の話などが収められている。なにか懐かしく思い出すものはある。

ニューメキシコ州サンタ・フェにある広大な"シートン王国"有名な「シートン動物記」の著者アーネスト・トンプソン・シートン氏のもとをロサンゼルス・タイムズの記者が訪れる。シートン氏の自叙伝の書評を書くにあたり、エピソードを拾おうという取材。そこで記者は、過去にシートン氏が解決した、オオカミにまつわる殺人事件の話を聞くことになるー(カランポーの悪魔)

ワトスンはこの記者で、ホームズがシートン。80歳にしてかくしゃく、溌剌としているシートンは落ち着いた、知的な口調で語る。野生動物への豊かで深い知識と観察力、経験に基づいた推理力が発揮される。

殺人や暴行、陰謀が絡むので、背景はやはり生臭い。しかし動物の習性をベースに置きながらユーモアを交え物語らしく仕上げている。ま、ちょっときれいにまとめているのでトリックは凝っていたり、特に動機があっさりしてたりという気もしたが、興味深く読めた。

シートンはホームズよろしく、観察の結果から記者が訪ねてくる前どこに立ち寄って何をしていたか、など当ててみせる。これはいいアクセントであり、洞察の深さを示す材料となっている。また密室牛小屋の暴行事件はホームズの「名馬シルヴァー・ブレイズ」を思い起こさせたりする。

実際のシートンと親交の深かったセオドア・ルーズベルト大統領も登場する。この関係性に関しては巻末の解説、補足で腹落ちする。

思った通り、なかなか楽しかった。偉人が遺したものから上手に拾い上げ、うまく展開させている。もう少し読みたいぞ。続編望みます。