2022年1月22日土曜日

1月書評の5

2022年のミニマム・ムーンは叢雲の中。年明けは映画を2本。

「偶然と想像」
「ドライブ・マイ・カー」の監督さん。3話のオムニバス。クセあるなぁ笑。恋バナとちょっと爛れた文学ものと、同窓会女性の友情。3話めは仙台が舞台で、ぐしゅっと泣いてしまった。よかった!

「マクベス」
ジョエル・コーエン監督のアメリカのマクベス。まじっと創ってます。モノクロームで、横が狭い昔のテレビくらいのサイズ。迫力があって楽しかった。バーナムの森、魔女の予言とストーリーの細かい部分を思い出しながら観た。


◼️ 杉本苑子「一夜の客」

杉本苑子さんや永井路子さん、背の平、タイトル文字のベースの紫に心が躍る

平安時代もよく読むけれど、惹かれるのはなぜか大和・飛鳥・奈良時代あたり。杉本苑子さん、永井路子さん、黒岩重吾さんらの著作にはワクワクしてしまう。本の平(ひら)、白抜きタイトルのバックの赤みがかった紫は、伝統色一覧でパッと見比べたところ「京紫」に近いかな。このカバーは永井さんの一連の著作に多かったけども、今回杉本さんも。歴史もの、と静かに主張しているかのような紫にはめっちゃ好感持ってます。

さて杉本苑子さんの短編集。平城京時代の人々を描いたミニドラマ。さすがというか風俗表現に詳しい。喜劇も、ほっとする展開もあるけれど、多くは悲劇で、喪失をもって終わる。

「一夜の客」はまもなく唐に渡り医術を学ぼうと希望に輝く若者と越の国から来た老人の話。
「杖」は長屋王の変、橘奈良麻呂の変に絡む話で光明皇后、孝謙女帝、藤原仲麻呂らも出演。

「帰ってきた一人」では富士山西側の裾野から甲府盆地の国庁に年貢を納めに行った2人の若者の恋の鞘当て。

「笹鳴き」は今にも息絶えそうな老女が人生を思い返して通りかかった旅人に咎を告白する。聴く旅人の軽い態度と少しのどんでん返しが妙にマッチする。

「花児とその兄」美しい花児(はなご)に幼なじみの百瀬。しかし花児を不幸が襲う。主人の国司任官で長く郷里を離れた百瀬は決意をもとに若者となって帰り着くが・・。いまひとつ見えない気もする。でも決断を迫られクラッシュするのも短編悲劇かなと。

「小さな恋の物語」色男の官人に弄ばれ妊娠した小侍従は、ちょっとした復讐を思いつく。喜劇です。

「傷跡」平城京の西の市に住み商いに励む兄弟。弟は兄の妻とねんごろに。仕入れの帰りに兄は崖で足を踏み外す。綱で必死に救おうとした弟だったが・・悲劇の果ての、落ち着いたエンド。回収ができてない気もするけどもまあ。

劇中、史実や当時の風俗のはざまで人間の魔性、計算、裏切り、行きずりの悪事などが描き出される。いずれもミニマムな物語。現代と同じような人間の心の動き方が、奈良時代という雰囲気で味付けされ、いい感じで放り出される。

感動するとか仕掛けに深く感心するとかではないし、時代が派手でもないので他人には薦めませんけれども。。壬申の乱前後の人々を描いた黒岩重吾さんの「剣は湖都に燃ゆ」もこんな感じだったかな、と人知れぬ満足感にほくそ笑んだりするのでした。

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