神戸・六甲アイランドのミュシャ展へ。ミュシャは数年前大阪・堺市のミュシャ館で堪能したし、今回入場料1000円の、コープの会員証見せたら800円。点数少ないんかな、見たのばかりだったりして、なんて考えてたらどうしてどうして。
ミュシャは芸術のためというよりは庶民のために描きたい、という人で、ポスターはもちろん、お菓子やお酒の商品につけるデザイン、小説本の挿絵、レストランのメニューの挿絵、果てはお札も切手も描きまくっていて、作品がズラリ。大満足の鑑賞だったのでした。エコール・ド・パリを代表するアール・ヌーヴォーの創造者、ミュシャ。植物などの装飾、なによりヌードも含め女性が美しい!さぞかしポートレートの注文など多かったのかな、なんて思っちゃったのでした。
◼️ 柳美里「JR上野駅公園口」
ホームレスと天皇。取材と技巧。引き込まれるものはある。全米図書賞。
著者の本は確か初読。去年、「コンビニ人間」の商業的成功により日本の女性作家の小説が注目されている、という内容を「文芸ピープル」という本で読み、タイトル名が挙がっていた作品を散発的に読んでいる。そのひとつ。
上野公園にいるホームレスの生活と、その辿ってきた人生、天皇との関わり、「山狩り」と言われる強制一時立ち退きと行き着く先、といった小説である。
ホームレスには東北方面から出稼ぎに来ていた人が多い。主人公はまさに建設ラッシュの時代、肉体労働で稼いだお金を長い間福島の実家に仕送りしていた。息子、そして歳をとりやっと一緒に暮らせるようになった妻の喪失。東京へ戻る道行き、そして東日本大震災。
綿密な取材によるホームレスの実態、またキャラクター付け、エピソードと心根があり、昭和・平成を生きた男の天皇との関わりと浸透している態度、地方の社会の慣習や考え方などが読みこんでいく中で迫ってくる感覚がある。
薔薇の美術展と組み合わせた幻想的な回想を織り混ぜる技巧は物語の彩りをなしている。
確かに引き込まれるものはあり、著者の筆力を感じる。私の場合はそこで止まってしまい感銘までは行かなかった。
姿、心象は浮かび上がる。しかし客観性が先に立ちすぎるという部分はあったかな。さらに上積みで表したいことには少し違和感もあった。
大阪でAPECがあった時だったか、山狩りのようなものはあったやに聞く。また昔長距離タクシーの運転手さんから、自分は大型トラック、トレーラーを運転して、新幹線の車両、高速の橋脚や大阪万博の資材も運んだんだよ、という話を聞いた時、この人は日本を創ってきたんだなあとえも言われぬ想いが湧いたことを思い出した。
さらさら読めるし、引き込まれる。まずまずおもしろかった。
◼️ 宇治市源氏物語ミュージアム
「光源氏に迫る」
宇治川に感ずるものがあった源氏物語めぐり。常にタッチしていたい源氏物語。
京都府宇治市といえば言わずと知れた源氏物語最後の十帖、美しさが際立つとされる宇治十帖の舞台ですね。京都からJRで30分足らず。浮舟が身を投げた宇治川があり、西側に平等院鳳凰堂、朝霧橋で東側へ渡って歩くと源氏物語ミュージアムがあります。途中はさわらびの道。
平等院の池の周囲ぐるり、宝物館で国宝を見て、参道には宇治茶のスイーツ屋さんがたくさんあるので橋を渡る前に堪能し、鵜飼の舟と鵜舎を横目に渡って世界遺産、宇治上神社、そしてミュージアム。そんなに大規模ではありませんが、それなりに楽しめる源氏物語巡りかと思います。私的には宇治十帖を読んでから、宇治川の重い流れのイメージが心に残っていて、思ったより水量が多く山あいに流れていく宇治川を見たときにはちょっと感動しました。
そのミュージアムが催している講演をもとにした源氏物語本。図書館の新刊で目が行き、即借りて来ました。
さて、この本ではなかなか面白いポインツオブビューからの研究成果が盛り込まれてます。
「光源氏の<光>」
「光源氏と紫の上、そして明石の君」
「国母としての弘徽殿女御」
「頭中将の実像」
「源氏物語が書かれた時代」
ほか、摂関家と院政、源氏物語に出てくる細工、庭園研究、源氏絵についてなど。学者さんの専門的研究ゆえやや論文的でパッと頭に入ってこないな、という部分もあったものの、おおむね楽しんで読めました。改めて舞台が洛中のどのへんか、という地理的なイメージが分かったし、頭中将の仕事は興味深かった。
光源氏の敵役、弘徽殿の女御の分析では藤原氏の栄華について語られる「大鏡」で出てきた天皇の母たちの話が出てきて、はからずも繋がった感を覚えた。
ひとつ面白いミステリ仕立てのネタがあったので。平安遷都以来170年間無かった内裏の火事・焼亡が960年から1082年までの122年間では14回も起きている。平城京では火事がなかったとのことでつまり250年くらい内裏は焼亡がなかった事になる。なのに平安時代も後半に入ったある時期から頻発とこれは、なぜか。
なるほど、といった推論、見方で、その論は時代の変化、源氏物語の土壌に結びついている。
さて、シェイクスピアと源氏物語は、折に触れ関連本を読んだりゆかりの地を訪ねるなど、あまり疎遠にならない、なりたくないジャンル。今回は源氏物語巡りで行ってきた宇治のミュージアム刊とのことで懐かしく思い出しながら読めました。
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