2022年1月22日土曜日

1月書評の2

月と木星のランデヴー。しぶんぎ座流星群は粘ったものの撃沈。朝方の短い時間にしか流れないとようやく学習。来年こそは。寒い中息子が付き合ってくれ、ワイヤレスイヤホンの片方を貸してくれて、私のためにYOASOBIを流してくれたのでした。音のない世界で2人で過ごしたこの時間を、私は生涯忘れないだろう。


◼️ ジュール・シュペルヴィエル「ひとさらい」

大佐は子どもたちをさらってきて屋敷に住まわせ、矛盾した感情に苦しむ。

シュペルヴィエルは「海に住む少女」を不思議な短編集として読んだ。「フランスの宮沢賢治」というキャッチコピーが受けたのか、シュペルヴィエルの長編訳出には「海に住む少女」の好評が影響したようだ。

政治的事情により南米の故国を逃れ、パリに住んでいる裕福なピグア大佐。妻デスポソリアとの間に子供はできず、親に見捨てられた子を手続なく引き取ったり、親に優しくされていない境遇にいる子をさらって来たりしていた。それらの子は自分の屋敷で不自由ない暮らしをさせ、学も与える。子どもが帰りたいと言えば家に帰すつもりでもいる。しかしいつどこから告発されるか警戒する日々でもあった。

大佐はまじめで有能、親切だが、どこか外れたところがあり、小心だった。ある日街で父親に頼まれ、娼館の娘で美しい少女マルセルを引き取る成り行きとなった。マルセルが館に来てから、大佐は父親代わりとしてのプライドと、マルセルに惹かれていく男の感情との間で苦しむことになるー。

ひとことで言えば大佐がこっけいだ。古今東西、少女の可愛さには大の男も弱い。感情が揺れるあまり、妻デスポソリアやマルセルとのズレが目立っていき、破滅に至る。しっかりと自分を保とうとしてダメになる。

この作品は、テーマが分かりやすいせいか舞台化されて人気を博し、翻案の映画化もあったようだ。確かに。こうしたすれ違いは、胸襟を開いて、というわけにもいかない話題なのでもどかし系になる。一度は解放しかかるのだが自制する。そのうちにマルセルが変わっていくー。変わっていく過程でもピグア大佐は2つの感情を持て余し、1人停滞する。

舞台にはいいかも。ただ読み手としてはやや冗長で、納得できない部分もあった。主人公が移り変わっていくと物語の軸となる目線が気になるし。

それにしても、山寺で見かけた幼い紫を見染め、前世の因縁だーと誘拐同然に引き取ってしまう光源氏は欲望に正直だと思う。大佐とは正反対だなと笑。

悪党になりきれない紳士のひとさらい。その矛盾を演出している部分はそれなりにおもしろく読めたかな。

ひとつ気に入った表現が。労働者であるマルセルの父にいいレストランで食事をさせた大佐は、マルセルのことで伝えなければならないことを言えない。やがて別れ際、2人は互いの煙草に火をつけようとして顔を寄せ合った拍子に頭をぶつけてしまう。

「大佐は咄嗟に飛びのいた。額が接触しただけで、頭蓋骨の中に隠した秘密が漏れてしまいそうな気がしたのかもしれない」

なかなか良い。物語のまじめなコミカルさにもマッチしているなと。


◼️ レイ・ブラッドベリ「ウは宇宙船のウ」

初ブラッドベリ。想像力を見る懐かしさ。

なんか見出しが俳句みたいになってしまったなと笑。前々から気になっていた本。やっぱりタイトルって大事。「ウは宇宙船のウ」原題は

「R IS FOR ROCKET」

となっている。ちなみにタイトルに何かを感じて気になっている本、「アンドロメダ病原体」もそうだったりする。先々の楽しみだ。

宇宙やロケットほかを題材にした、30ページ以内くらいの短編が15に、1つ100ページくらいの篇が入っている。

題材が豊富で、物語が制約を受けないかのように伸びやかで、小学生のとき図書室で呼んでいたSFものを思い出した。懐かしい。

星好きとしてはやっぱり水星ものの中編「霜と炎」や金星が舞台の「長雨」がプリミティブなワクワクに突き動かされるかな。金星は地球の双子のような星であったため、生物や植物がいるのではと本気で期待された。1960年代以降の探査により過酷すぎる実態が分かってきた。この本の発表は1962年で、時代感もあるのかなと興味深かった。手塚治虫っぽくもあるなと。

また灯台の職員が海の怪物に出逢う「霧笛」、オチがある「竜」、また心が温まる「宇宙船」、ドタバタ喜劇のようで文豪がたくさん登場する「亡命した人々」にもドキドキしたり、あれ?おっ!へぇーなどとなったり。

ブラッドベリならではのひねりもあるようだし、O・ヘンリー賞を受賞していることに納得するような感覚もあった。なにより、よくこんな状況、設定を作り出せるなと、大きな想像力を感じたのでした。

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