ぶらり京都。金閣寺に近い紫野、大徳寺を散策。川端康成が描写している高桐院へ行きました。まあ小振りですが人も少なく、紅葉を楽しめました。
◼️黒岩重吾「落日の王子 蘇我入鹿」上下
蘇我入鹿と蝦夷の親子。日本史上では井伊直弼と一、二を争う悪役である。いつも思うが、大陸文化の影響がひときわ濃いこの時代、この2人の名前は悪すぎる。いくらなんでもそれはないだろう、というレベル。チョー悪役だけに、書き手が意図的に名前を変えたという説があるらしいが、思わず首肯してしまう。
乙巳の変、いわゆる大化の改新に至る過程をつぶさに描く。ラストはスピード感ある怒濤の展開。
640年から645年の古代の政争。蘇我蝦夷が大臣(おおおみ)で、息子入鹿は大夫(まえつきみ)。舒明天皇が亡くなり、妻の宝皇女が女帝・皇極天皇となる。
偉大な祖父蘇我馬子に続き蝦夷、入鹿の父子は強大な政治権力を手に入れようという思いで策謀を巡らしていた。
また大陸からの帰朝者の講義を熱心に聴き秀才であった入鹿は、神祇を司る大王(天皇)の下に政治を担当する大臣がいる自国に比べ、唐では全てを統べる皇帝のもとで律令制が敷かれていることを学ぶ。
朝鮮半島では唐と高句麗、新羅、百済の間に緊張感が高まり、危機感を感じた将軍泉蓋蘇文はクーデターで王と豪族を殺し権力を手に入れた。
泉蓋蘇文に刺激を受けた入鹿は、大王よりも強い独裁者になる野望を抱き、実力行使をも視野に入れるが、専横的に振る舞い、皇極天皇と情を通じ子まで設けた入鹿に対し、皇族や豪族の不満は高まっていった。
やはり蝦夷、入鹿は傍若無人なキャラとして描かれている。蝦夷は入鹿の若さを抑える老獪さがあるが、目まぐるしく動く時の流れに老いを見せるようになる。入鹿は秀才でかつ豪胆、強引、無礼、短気。しかし策謀家としての知恵も目立つ。
蘇我本宗家に動きを悟らせずに暗殺の陰謀を構築した中臣鎌足が対抗軸としてある。
5年にも満たない期間ではあるが、入鹿を取り巻く人々、女や警護隊長の人間性もつぶさに追われ、海外情勢や皇極天皇の生々しい人となり、皇族、豪族の思惑なども散りばめられて、壮大な大河ドラマになっている。
キャラがやや単純化され、手の読み合いも多く、芝居掛かったところもありクライマックスまで長いが、これも大河風叙事物語ならではだろう。額田王も少しだけ登場する。
暗殺の場面も、まだか、まだかとちょっと思わせて一気にラストまで動く。
そし乙巳の変を成功させた天智天皇・藤原鎌足サイドは後に壬申の乱で大海人皇子サイドに敗れる。一旦苦渋を舐めた藤原氏は鎌足の子・傑物不比等の台頭により後の栄華に続く権力を得る、と歴史は続く。
かつて飛鳥に行って、蘇我氏の城塞のような屋形があった甘樫丘に登り、乙巳の変の際中大兄皇子の軍が集まった飛鳥寺を訪ねた時、悠久の歴史、時の流れに感じる雰囲気に浸った。
自然と歴史ある奈良。そのままでいて欲しい気がする。
人の名前なんかが難しかったりちょっと時間もかかったが、楽しめた。また奈良・飛鳥に行きたいし、聖徳太子の物語にもトライしたい。
◼️蒲池明弘
「邪馬台国は『朱の王国』だった」
「動かしたもの」は何か。邪馬台国とヤマト王権から伊勢神宮まで。なぜか読んでて不思議に興奮してしまった。
「朱」、朱色のもととなる硫化水銀により、古代史を考察する作品。日向から神武天皇東征まで古事記には記されているが、どうして土地の移動はあったのか、という理由を考える。
鉱山で算出される硫化水銀は重要な輸出品もしくは財産のもとであり、大きく言えば権力を成す基盤だったのではないか、というもの。水銀換算の産出量は昭和以降に開発された北海道65%に次ぎ、奈良県24%、三重県11%。かつては九州にも多くの産出地があり、伊都(福岡の糸島市あたり)から輸出されていた。
神話にある天皇ほかの遠征や権力地の移動について、争いの主軸に朱を置いて解説されている。
邪馬台国説等はまったく専門的な知識があるわけではない。でも確かに神々や古代の天皇の移動に関して明確な根拠の元になるものは欠落していた。経済的な理由は現実的で面白い解釈。魏志倭人伝、邪馬台国九州説、畿内説、記紀をつないだこの論はリアルでなおかつロマンがあり、読んでて妙に興奮した。
朱塗りに関して「丹生(にゅう)」という全国に数多ある地名がキーポイントにあるが文中糸島市の大入(だいにゅう)駅が出て来て、おお、いつも海水浴に行ってたとこだ、とちょっと響いた。金印の志賀島といい、福岡の沿岸は古代ロマンに満ちているんだな。
糸島は万葉集にも歌われており、今夏その風景を見ながら浸ってきた。糸島というのは夏が似合う、荒々しい地形も見える土地柄なのだが、大陸へ向けた朱の集積地として考えると古代の活気を彷彿とさせまた違う風景が見えてくる。
古代史の常で、言葉の解釈とか意味合いには確かにこじつけっぽいところも感じるけれども、興味深く読み進められる良書だったと思う。
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