秋晴れの日に正倉院展に行ってきた。朝行って、10分待ち。やっぱり多かったけど会場の奈良博は大きいので、まあ多い方かなくらいの混み方だった。大仏開眼法要に身につけられた装飾具や蒔絵っぽい装飾の鏡のケース、また木琴など興味深かったが、2フロアで終わりなのでちょっとあっさりだったかな。
◼️「ベーシック 絵本入門」
滋味掬すべし絵本の世界。こんなに活動させてくれる本もない。一種至福でした。。
書評サイトでいただいた本。
活動というのは、取り上げられている絵本を、持っているものを全部読み直し、持ってないものは図書館や本屋で立ち読みすること。短い期間にたくさんの絵本を読んだ。ひとこと、楽しかった。
本書は専門的に絵本論を学ぶ学生のための入門書として作られたものだとのこと。第I部が「絵本とはなにか」で絵本史、文章と絵の技術的分析、対象読者の研究、そして物語絵本の種類、創作、昔話、ファンタジー、文字なし絵本などのジャンル分けと説明が分かりやすく展開されている。
で、説明の中で著名な絵本が出てくるのだが、まずここにハマってしまった。
私は子育て中読み聞かせが大好きで、たくさんの絵本を読んで来た。それらを見直し、別の角度から見る機会の到来だった。
まずは北欧民話「三びきのやぎのがらがらどん」。
小さいやぎ、二ばんめやぎ、大きいやぎ、のがらがらどんが草を食べに山へ向かうが途中橋下に魔物トロルが居る吊り橋を渡らなければならない。読み手としては三びきのやぎとトロルの声調をどう変えるかがポイント。1人4役。まるで落語の世界。本書ではページ配置と事物を描く位置の説明の例として取り上げられている。
絵本は通常左から右に物語が進む。「山への登り」の表現について、二ばんめやぎのがらがらどんのところ、登っている時は左下から右上へ進行方向があり、トロルは右上、やぎは左下に居る。これが、ページをめくると、魔物トロルとやぎの位置が逆転し、左下にいるトロルが右上のやぎを見送っている。二ばんめやぎは軽やかで口がたっしゃで、まんまとトロルをかわして吊り橋を渡って、トロルより高い位置に行ってしまったのである。こんなにテクニカルなことだったのかと原理に感心。
また、この作品、針葉樹は縦横の線を大胆に使って書いてある。語りのテンポも良いとの評価。ふむふむ。絵本は数読むけど、その評価とかどれほど有名か、ましてや技術論なんて知らなかったから新鮮だ。改めて読み直すとへええと思う。
「枠、はみ出し」の項目では
モーリス・センダック「かいじゅうたちのいるところ」
が取り上げられている。最近映画にもなって、有名ですね。
主人公マックスは枠の中でいたずらの限りをつくす。読んでみる。おっ、本当だ。最初の方は右ページにある絵の枠が小さく四方に余白があるのにだんだん大きくなって、舟出のシーンでは左ページの一部にまで広がっている。さらに枠から大木がはみ出ている。枠は左右いっぱい、下に余白という形になりマックスがかいじゅうたちと遊ぶところでは余白がなくなっている。そして家に帰りたくなった時はまた小さくなる。マックスの心の解放度によって枠を操作しているのか。ふむふむ。
凸版画 のところで
レオ・レオニ作・谷川俊太郎訳の名作
「スイミー」
が出てくる。小さい多くの魚たちはゴム印のスタンピング。くらげやいせえび、海藻類やうなぎも実に思い切った感じの手法で、甲殻やわかめの生き物らしい色が表されている。クラゲは明るい多彩な色付けだ。改めて見るとこんなんだったんだなあと再発見。
詩的で巧みな文章も出色。
「あさの つめたい みずの なかを,
ひるの かがやく ひかりの なかを,
みんなは およぎ,
おおきな さかなを おいだした。」
コラージュという絵具以外のものを貼る手法の項では、オリジナルの色紙を作って貼合わせた、これも有名な、
エリック・カール「はらぺこあおむし」。
食べ物に穴が空いている、ページにホントに穴を穿っている作品。カール氏はかなり独創性に富んでいるようだ。気をつけて再読すると、あまりにも鮮やか、また硬い軟らかいでいうと硬質だが、洋梨など微妙でリアルな色合いを出している。深い感じ。これホントに色紙?素人ながら見事さに唸る。
もちろんあくまで入門書なので、一つの項目にもたくさんの当てはまる作品があるのだが、基本的に絵とテキストが例としてあるのが、こんなに面白くて分かりやすいとは思わなかった。
第II部は名作絵本から学ぶコーナー。外国・日本合わせて60作品。1作品1ページ丸々じっくりとした解説が付いている。読んだことのないものも多く、図書館と書店。すでに
「もこもこもこ」「すてきなさんにんぐみ」「100まんびきのねこ」「かようびのよる」「よあけ」「すきですゴリラ」「ちいさいおうち」「おんぶはこりごり」
を読んだ。「100まんびきのねこ」は見開きをページの使い方に感心。同じく構図では「ちいさいおうち」が定点観測のような手法で面白かった。文字が少なく、カエルが大量に葉っぱに乗り飛来する「かようびのよる」はなかなかスカッとして面白かった。印象が強かったのは
ユリー・シュルヴィッツ「よあけ」。
おじいさんと孫が湖で毛布にくるまって寝ている。刻一刻と夜明けに近づく湖の描写と、最後の仕掛けが素晴らしい。エクセレント。余分な説明を排除して感性に訴える、絵が語る絵本の代表的な作品だそうだ。
我が家にあるものでも上で挙げた作品を読んで、絵本から本格的な読み物への橋渡しをしていく過程の本だという
林明子「はじめてのキャンプ」
〜子どもも私も大好きだった、とてもいい作品〜も読んで、まだまだ
「おおかみと七ひきのこやぎ」
「もりのなか」
「どろんこハリー」
「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」
「しずくのぼうけん」
「ちいさなヒッポ」
も読み直さなければだし、本書で紹介されていて、読みたい絵本はまだたくさんある。
こうしてみると、誰もが読んだことのある絵本を技術的な視点で振り返ることができ、紹介されているうち、興味のある本はほとんど図書館にあるから手にできて読む時間もさほどかからない。絵本の賞や作家とその特徴にも詳しくなれる。
これ一冊だけでどんだけ楽しめるんだろう。
きょうはまた図書館で
作・宮沢賢治/絵・伊勢英子「水仙月の四日」は予約した。
様々な手法と訴える手段を考えると、絵本にはすでに数え切れないくらいの個性があり、まだまだ素晴らしい作品が生まれてきそうな素地がある、可能性が広がるジャンルのように思える。
常々、年老いたら読み聞かせの活動をしたいと思っているが、絵本の絵画的な部分、文章技法、伝えたいメッセージの多様さには強く惹かれるものがある。
当面絵本コーナーに行く時間が増えそうだ。とても楽しい。
◼️小松和彦「鬼と日本人」
渡辺綱と茨木童子ってどっちもシブい。
渡辺綱が美女に化けて近寄ってきた茨木童子の腕を髭切の太刀で切り落とす話が子供の頃から好きである。綱は陰陽師が勧めた物忌みの最中、母に化け訪ねてきた茨木童子を禁を破って家に入れさらに腕を見せてしまい、あっさり取り返される。 茨木童子は雲の中に消えていく。子どもの寝かしつけに何度も話した。
片や源頼光四天王のリーダークラス。片や大江山に住む鬼たちの頭領、酒呑童子の右腕。遣い手の参謀同士の闘い、ってイメージだ。シブいものを感じてしまう。
さて、この本では百鬼夜行図や様々な鬼の説話、さらに妖怪、風神雷神、節分、なまはげの事まで鬼に関連する多くの資料をもとに、鬼とは何か、文化人類学的に様々な考察を試みている。
断片的なものを含めてたくさんの鬼の話に触れられて楽しい。鈴鹿山の大嶽丸や玉藻前の話も出てきて好きなジャンル。
クライマックスはやはり酒呑童子との戦いだろう。山伏に化け鬼ヶ島への潜入に成功した一行はたくみに酒呑童子を酔い潰し、首を斬る。しかし首はひょーんと飛んできて三十重ねした兜に食いつく。その真に迫った場面の迫力がいい。
それなりに楽しんだが、文化人類学的な分析、考察は・・少し理屈先行かなと言う気がした。
鬼好き、毎年秋に大江山で行われる鬼の祭りに参加したいなと思いつつ、忙しい季節でもあり過ぎてから気がつく。
そういえば今年も行かなかったと本をめくったところで気づき、ありゃしまった、と思った。
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