夏目漱石「坊ちゃん」
「どんでれがん」がヒットたった。もうどれくらいぶりか分からない。こういう話だったかと。。今の目で読んで満足。清への念が美しい。
主人公の「おれ」は東京に暮らしていたが、父が亡くなったおり、兄と遺産を分割し物理学校を出て松山の中学校へ数学教師として赴任する。新橋の停車場までは子供の頃から可愛がってくれた下女・清が見送りに来てくれた。松山に着いてから、さまざまな騒動が主人公に降りかかる。
過剰にべらんめえ調のまっすぐな人柄を設定し、遠慮なく田舎者をぶった斬っている。だから四面楚歌の状況が際立ち、大人の世界の不条理もエッジが効いている、と思った。
狸、赤シャツ、うらなり、山嵐、野だとあだ名は楽しく引きも切らず。また悪口の言葉がけっこう楽しい。「どんでれがん」はクライマックスの大立ち回りの際に出てくるが、主人公が殴ったり殴られたりしながら騒ぎに揉まれるさまがリアルに人間くさく感じられる。
夏目が1年だけ松山に行ったときはこういう騒動には無縁だったというが、どういうインスピレーションかな。いまなら問題化するかも(笑)。
それにしても、主人公の、清への思慕は美しい。それもまたこの物語の味だろう。
呉座勇一「応仁の乱」
ちょっと前に話題になった本。奈良がこんなに戦乱の中心にあったとは知らなんだ。
応仁の乱は京都で10年以上続いた戦乱として大きく取り上げられているが、経緯がなにやら単純ではないこともあり、どうしてこんなに続いて、どんな戦闘だったのかは小中学校のレベルではハッキリと掴めない感じだった。高校世界史だったし。
で、改めてこの人気の書に目を落としてみると・・、絶大な権力のあった奈良・興福寺が大きく絡んでいること、また大和は群雄割拠の火薬庫状態だったことにちょっとびっくりした。最近マイブームの奈良に当時どのような権力と形式と、各勢力との絡みがあったのかを集中して読んだ。なじみの薄い時代の地域のこととて少し難しく、気を入れなければ読み進められない、というのもあった。
応仁の乱は様々な時代背景はあったものの将軍の跡目争いに絡み、有力守護大名の細川勝元と山名宗全の戦いである。地図も掲載されているが、京都のいまの上京区あたりの狭い地域に敵味方の屋敷と将軍御所があり、いわば京都の真ん中で起き、思ったより戦いが激しかったとか。今なら実感できるが、確かにそれは大変だ。
始まってみると諸勢力の事情でなかなか終わらない戦いになっていった、というのもよく分かった。
室町時代は基本的に守護たちは在京していたが、乱後、自国へ帰るのが主流となり、戦国時代へと繋がった、というのはこの時代の図式がよく分かり、なるほどの結論だった。
それにしても、争いも登場する人の数も多過ぎる。すでに戦国っぽいが、戦国時代と違うのは仮にもなんらかの権威、興福寺とか将軍職とか朝廷とかが絡むところ。いかにも、都っぽい。ふむふむ、だった。
今度改めて興福寺行って、ならまちに寄って美味しいものでも食べようかな。
室生犀星「或る少女の死まで 他2篇」
清冽さを味わう。憧れのあった金沢の詩人、室生犀星の小説初読み。
七つくらいの「私」は時には1日数度も、近所の実父母の家に遊びに行ってお菓子をねだったりしていた。養母には親しみにくさを感じ、養母の娘で出戻りの姉のことは大好きだった。九歳の冬、実父が亡くなると、実母は行方知れずになってしまうー。(幼年時代)
室生犀星は元剣術指南で畑仕事もする、妻亡き60代の父と若い女の間に産まれた子で、雨方院という寺の住職の内縁の妻にもらわれ、さらに住職室生氏の養子となったという複雑な生い立ちだった。
それは読む前に知っていたが、この自伝的な小説で、あっけらかんと実父母のところへ遊びに行き、子供らしく甘えているのにはかなりびっくりした。そして少年には鬱屈も溜まっていくが、その心を慰めるように、成長を促すような温かさもそばにあった。
少年の葛藤と喪失感、拠り所のバランスと、読み手に与える安心感のようなものは清冽で天性かと思える。空気感がまた不思議にしっくりと来る。金沢の庶民の情景も控えめに叙情的だ。なかなかやられてしまった。
次は十七歳の私を描く「性に眼覚める頃」タイトルはストレートだが、内容はさほど生々しくない。そして二十歳過ぎに東京に住んでいる私の交流を綴る「或る少女の死まで」の合計3篇が収録されている。
解説にもあるが、後の方の2つは小説として技巧的な部分が入って来ているかと思える。それぞれ微笑ましさと哀切がないまぜになっていて、素朴でまずまず良き作品だと思える。「善蔵を思う」とか
室生犀星はその名前に惹かれていた。犀星は金沢の、犀川の西に住んでいたことから来ているらしい。かつて冬に金沢を訪れた時のことが蘇る。詩人だからと作品を手に取ることがなかったが、今回小説を読んでみて良い感性に触れた心持ちがしている。
他も読んでみようと思う。
町田祥弘「内部統制の知識」
ちょっとお勉強。
うんちくを述べると、日本で内部統制報告制度、一般に言う「J-SOX」が導入される直前の本である。
もう10年ほど経つけれど、今でも当初の考え方が反映されている部分が大きいのではないかと読んでみた。だいたい予想は当たっていた。まだ始まってないから実務的とは言い難いかもだが。
東芝に史上初めて?内部統制監査で不適正意見が出たり、それなりに騒がしいこの業界、この時代。
まあたまにはスタディですな。スタディ・イン・スカーレットはシャーロック・ホームズ「緋色の研究」。ありがとうございました~。
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