2018年3月12日月曜日

2月書評の1






 椹野道流「最後の晩ごはん 

                  刑事さんとハンバーグ」


上下巻もの、上中下巻ものと読んだんで、身体がラノベを求めた(笑)。


もと俳優でスキャンダルから芸能界を追放された五十嵐海里が故郷に近い兵庫・芦屋市の「ばんめし屋」店長夏神に救われ、住込みで働き出してしばらくー。兄・一憲と和解した海里の店に芦屋署の刑事にして一憲の高校時代の親友、仁木が訪れるが、海里は仁木の身体に霊的なマフラーが巻きついているのを見る。仁木はストーカー事件の担当らしいのだが・・。


地元もの。料理もの。店に訪れる人に関係する霊からその人の事情を理解し、最もふさわしい料理をこしらえる、ほっこりラノベ。シリーズ第1弾を読んで、芦屋在住の持ってる人に借りた第4弾。まあこの手のは間を読まなくてもだいたい分かるようになっているから支障はなかった。


夏神、や一憲、元は眼鏡の精?で英国紳士の姿でも活動できるロイド、一憲の新妻・奈津らがほんのりといい味を出している。ベースの事件はちょっと許せない系だが、だから、感情移入のトリガーとなる。料理も凝ったものでなく、美味そうだ。


私は結婚前8年間芦屋に住んでいたから、物語に出てくる場所もどこなのかはっきりと掴めて余計楽しい。それなりに人気らしいし、また2、3も読もう。昨年読んだ太宰府ものとか福岡の中州ものとか、最近は奈良ものもあるらしい。ご当地ラノベはなかなか面白いな。


ウィリアム・シェイクスピア

「ジュリアス・シーザー」


ブルータス、お前もか。悲劇時代の幕開けとされる、比較的まっすぐな芝居。アントニーずる賢くて上手い。


ローマのシーザーを暴君として、ブルータスほかの武人たちが暗殺を企て、殺してしまう。シーザーの側近だったアントニーは殺されず許され、民衆の前でシーザー追悼の演説をするが、うまく民衆を扇動し、ブルータスらを追放する。


比較的ブレのない劇である。一旦は壊滅的劣勢となったアントニーが舌先三寸で有利不利を逆転させる。暗殺はしたものの、ブルータスのまっすぐさが目立つ話である。


アントニーは非常時というのに上手い。その台詞回しがなかなかテクニカルだ。


この物語には、天変地異はあり、またシーザーの亡霊も出てくる。が、魔女のささやきや亡霊の導きはない。またシェイクスピア特有の言葉遊びもない。まっすぐなストーリーで、高潔なローマ人の男が数多く出てくるのに対し女性は2人。「色気のない」率直な政治劇と捉えられ、だからイギリス人に好まれ、学生演劇に多く取り挙げられているそうである。


確かにこれまで読んで来たシェイクスピアとはちょっと趣を異にはするものの、攻守ところを変えるのが鮮やかで、逆転した敵役の人情を描いてみせるところも懐が深いと思う。


人気があるのはそれに加えて、大帝国ローマの版図を広げた英雄シーザーのネームバリューと、なにかと名セリフが多いところも大いにあると思う。


ブルータス、お前もか。参考にWikipediaで調べてみたが、劇的な人生と名セリフに、「ローマ人の物語」が売れたのも分かる気がした。


ラフカディオ・ハーン「怪談・奇談」


昔話怪談は好きなタチ。「耳なし芳一」は久し振りに読んだな。福岡に近い山口の話。


赤間ガ関の阿弥陀寺に、源平の合戦物語を得意とする、芳一という盲目の少年琵琶法師が住んでいた。法事で和尚と小僧が外出したある夏の夜、芳一のもとに侍が迎えに来て、芳一は貴人たちの前で弾き語りをした。翌晩も出かけた芳一の行動を和尚は不審に思い、下男に尾行を命じる。雨の降る夜、下男が見た光景はー。(耳なし芳一のはなし)


小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの遺した著作の中から、主だった怪談・奇談を42編収録したもの。昭和31年初版発行の本である。


「むじな(のっぺらぼうの話)」、「ろくろ首」「雪おんな」などおなじみのタイトルもあるが、大半は名のない話。解説によれば、日本の伝説や民話を元にして書いたものではあるが、何度も添削し修正が重ねられ、日本のもとの話とはまるで違った創作物だそうだ。ハーンの創作物から広まった話もあるのかな、と思う。


心に残ったのは、織田信長をも翻弄してしまう「果心居士」の物語、涙が宝石になる怪人の「鮫人の感謝」かな。多くは女性がらみのストーリーだ。悲惨、またグロな話もあるが、だから民話らしいともいえる。著者のハーン自身が、もとの話について説明、批評している文章を物語中に入れていて興味深い。なかなか楽しめた。


「耳なし芳一」の舞台となった山口県下関市の阿弥陀寺は実在し、壇ノ浦の合戦で入水した幼い安徳天皇を御影堂に祀っていた。維新後の廃仏毀釈によりいまは赤間神宮となっている。なんか行ってみたくなる。


今昔物語や宇治拾遺物語も読んでみたくなる。ビギナーズシリーズに手を伸ばしてみようかな。


萩原朔太郎「猫町」


ビジュアルでも大いに楽しめる、幻想の芸術。面白いな。ネタは単純かもだが分かる気がする。萩原朔太郎唯一の小説みたい。


療養のため北陸の温泉地に逗留していた「私」は、町へ向かう軽便鉄道を途中下車し、山道を通って徒歩で目的地まで行こうとするが、山で迷ってしまう。何時間か歩いた後ようやく麓にたどり着いた「私」は思いがけず繁華な町を発見するー。


書評サイトで見かけ、正月に図書館で検索したら書庫にあり貸出中、間に図書館の長期休館もあり、やっと借りてきた本。


文芸的な表現で織り成した幻想物語。でも話自体は単純で、だからこそ面白さを感じる。大人の絵本、という感じで、金井田英津子氏が描くシュールな絵からは、街の違和感、異世界感が抑え気味に、でも強く漂ってくる。


同僚の女子も大好きと言ってたが、確かにこの時代の雰囲気を含め興味深かった。文芸的に、いい出逢いだった。


三浦しをん「月魚」


まさかBLっぽいもんだとは。てな感じかな。

でも三浦しをんが、この2人のキャラと関係性を好きなんだなあ、というのはよく分かった。


24歳の本田真志喜と25歳の瀬名垣太一。古書堂「無窮堂」の店主として名を成していた真志喜の祖父が「せどり屋」をしていた瀬名垣の父に目をかけていたため、幼なじみとして育ち、それぞれ古書業を営んでいた。2人の間には消さない傷があったー。ある日瀬名垣は、山奥の本の買い入れに真志喜を誘い出す。


山奥の蔵での査定、そこで起きる出来事を通じて傷を癒していく話。多少色っぽい関係性が寸止め的に物語の雰囲気を作っている。横たわるのはもどかしい感。ずーっとどこか陰湿な感覚が横たわっていた。中性的な風貌の真志喜や、その他の登場人物が印象的にボトムの感覚に突き立っている。


本編の後のスピンオフ短編「水に沈んだ私の村」が好ましい。三浦しをんはこの2人ほかのキャラや関係性、細々とした設定が気に入っているんだろうなあ、と思わせる。


まあしかしながら、湿気を帯びたまだるっこしい感が長かったのと、もうひとつ入り込めなかったことで、総合的イマイチだった。マンガ的に描いていく人かと思っていたが、この作品ではそうでもなかったな。

0 件のコメント:

コメントを投稿