2017年9月2日土曜日

8月書評の3

さて、8月は3年連続のミステリー月間だった。今年は江戸川乱歩のベストテンにこだわり、1位の「赤毛のレドメイン家」、3位の「僧正殺人事件」、5位の「トレント最後の事件」を読み、これで1〜5位は全部読んだことになった。まあかなり昔に読んだ、4位の「Yの悲劇」なんか忘れちゃったけどね。(笑)

一方で興味のあるシリーズなんかが日本の本格推理小説については、今年は敬遠状態だった。海外ものもまだ読みたい古典があるし、来年はそれなりに取り混ぜてやりたいと思う。

とはいえ本格推理小説ばかり読むのは、絶対進まない。辛気臭くなってくるから。まただいたいのものは長く暗いから。今年みたいにラノベを挟みながら、が理想の状態だな。

今月は14作品14冊。ではどうぞ。。

多宇部貞人

「魔探偵(ウォーロック)×ホームズ」


チョーラノベ。魔法の世界。キャラの再造形はなかなか楽しいが、スーパーファンタジーでついていけない(笑)。


10年前に魔法が失われたロンドン。「魔探偵」シャーロック・ホームズは様々な武器にその身を変えることができるワトスンとともに、ベイカー街にある、大魔法使いハドスンさんの管理する部屋に住んでいた。切り裂きジャックを倒しその魔石を入手したホームズは、マイクロフトからグルーナー男爵が「十二星石(トゥエルブ)」を収集、隠蔽していることを聞き、ワトスンとコルチェスターへと向かう。


「高名な依頼人」に出てくる悪漢、グルーナー男爵はもちろん犯罪界のナポレオンである教授につながっていて、アイリーン・アドラーは魔石を持っているセクシーな怪盗、後にワトスンの妻となるメアリ・モースタンも大事な役どころで出演する。


何と言ったらいいのか、いきなり、活劇が展開され、SF的な展開となる。グルーナー男爵との対決もずっとそんな感じで、嵐のようなファンタジーだ。


ホームズ物語のオールスターキャストを、魔法的少女漫画的なキャラに、上手に落とし込んでいる。人物紹介は実際にマンガとなっている。


聖典はよく読み込まれてあって、マイクロフトとシャーロックの関係などに工夫が見られ、シャーロッキアンもの、という感じにもなっている。ちとホームズ感情的すぎだけど。


これもバリエーションかと思うし、あっというまに読めたから、悪くはないと思うし、マンガを使うとキャラが想像しやすいという良い点もある。それなりに楽しいけど、さすがにもひとつシンクロできず、に終わった。


浜口倫太郎

「22年目の告白ー私が殺人犯ですー」


映画のノベライズ本。いかにも突飛な発想で、小説的ではない、なんて上から考えるけど、めっちゃ夢中になって読んじゃうんだなこれが。


主にタレントの暴露本などを出版している小さな出版社、帝談社の編集者である川北未南子は、ある晩、バーで曾根崎雅人と名乗る超イケメンから、読んでみてほしい、と原稿を渡される。その原稿は、5人を絞殺した「東京連続殺人事件」の犯人でしか書けないような内容だったー。


ショッキングな内容、クライマックスまでの華美な演出、驚くようなネタばらし、そして意外な犯人と、息の抜けないエンタテインメントだ。


ベースは、殺人犯の告白本など出していいのかと悩む編集者に絡む文芸への情熱があり、かつ放送作家という視点から見た著者のこだわりが少し見えるような気がする。


上に書いたように、都合がいいとか、ありえないとか、社会的な掘り下げ方が足りないとかそりゃ感じるけれど、エンタメとしてはなかなかワクワクして、一気に読み終えた。


充分にノセられた感覚を味わった作品だったかな。


望月麻衣「京都寺町三条のホームズ3」


暮れの京都、クリスマス、大晦日と風情満載。


京都寺町三条の骨董品店「蔵」でアルバイトしている女子高校生、真城葵は、京大院生で店のオーナーの孫、ホームズこと家頭清貴に、歌舞伎の顔見世興行に誘われる。そんな折、知り合いの俳優、梶原秋人が「蔵」に共演中の歌舞伎役者、市片喜助と女優浅宮麗を連れて来る。奥の方を見に行った喜助と麗の様子を伺った葵は2人がキスしているのを見てしまう。


季節の京都、その豆知識、観光案内上手くを織り交ぜつつ、小事件を解決していくいつもの流れ。今回はちょっとだけ大人っぽいかな。また宿命のライバルも出て来るし、飽きさせない展開である。


京都シロートの私は、いつか・・とか思ってしまうのでした。


ピエール・ルメートル「悲しみのイレーヌ」


残酷で、興味深い。


「その女アレックス」シリーズの第1作であり、ピエール・ルメートルのデビュー作。


パリ警視庁のカミーユ・ヴェルーヴェン警部は、身重の妻イレーヌと暮らしている。ある日、パリ北西部郊外のクルブヴォアにあるロフトで、娼婦2人が惨たらしく殺されているのが見つかった。カミーユは部下の、金持ちの貴公子ルイ、しみったれのアルマンらと捜査に当たる。


「その女アレックス」は、後から新事実が分かり、状況がどんどん変わって見えて来るという佳作だった。ただ、残酷、グロなところは好みに合わなかった。


今回は、アレックスに比べると読みにくい、と友人が評していた通り、最初の方は正直混乱した。なにがいまの事実で、どれが過去の件なのか見失った。


しかし落ち着いて来ると、中盤以降は見通しもすっきりとして集中して読み進んだ。いわゆる見立て殺人ものである。クライマックス近くでは、創作と現実のあわいがよく分からないように描かれており、テクニカルだ。


ラストもやはりむごい。ピエール・ルメートルは創作の際何らかの工夫を入れるということが理解できたが、それに合わせるように、残虐さが際立っている。あまり読んでいる訳ではないが、欧米ものにはとかく異常犯罪が多いという印象で、そのトップランナーとして走るように、ルメートルは容赦がない。


この作品で、作者は数々の賞を得た。シリーズはさらに第4作の「傷だらけのカミーユ」が邦訳されている。シリーズ第2作であるアレックス、には、当然のようにチーム・ヴェルーヴェンとカミーユの境遇が出て来るが、そのルーツを読むことができた。


1年に1度くらいは、むごいながらも、構成に眼を見張る工夫が盛り込まれているルメートルの作品を読むのもいいかもしれない。






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