2017年9月2日土曜日

8月書評の2

写真間違えた。こちらが混ぜそばです(笑)。

先週は月曜日に北朝鮮のミサイルが飛び、火曜日は読書の友と電車が一緒になり楽しく話をして、水曜の晩から涼しくなった。日本の東海上にある台風15号が北風を吹かせ、北側の乾燥した空気を呼び込むからだという。しかしまだ暑さのぶり返しはあるそうだ。

広陵の中村奨成が準決勝の天理戦で2ホームラン、大会本塁打6本の新記録を打ち立て、その広陵を破った花咲徳栄が埼玉代表として初優勝した高校野球。盛り上がった大会は終わり、ちょっと寂しくなったけど、サッカー日本代表が熱くさせてくれました、というわけで、長い前振りだったが第2弾レッツゴー!


望月麻衣「京都寺町三条のホームズ」

古典ミステリに大河ドラマ。ガッツリものの合間にライトミステリー。ちょっと興味あったし。ラノベは文化ですね。

埼玉から京都に来て半年の真城葵は、かつての彼と親友が付き合うことになったと聞き、埼玉への旅費を出すために家の品を持ち出して、骨董品店「蔵」を訪れる。そこで出会ったイケメン京大生の店員、ホームズこと家頭清貴に真意を見抜かれ、勧められるまま、京都寺町三条の蔵でアルバイトすることになる。

京都に足場を置いた連作短編ミステリー。アルバイトの葵に骨董品についてやさしく説明することで知的で雅やかな雰囲気をうまく作っている。葵祭の華、斎王代への脅迫状、鞍馬山での遺品にまつわる推理など、京都ならではのものを絡ませ、若い恋を味付けにしている、読みやすい作品だ。

若いホームズの推理については、だいぶ思い切ってるな、というのが正直。人が死んで、捜査で証拠を見つけて、真相に迫る、という手法でないだけに、意外にいつも読んでるものとかけ離れてるな、という印象だ。ただ、扱う素材はよくあると思える人間的な感情で、小説的な、妙な高尚さと一線を画していてむしろ好ましいと思った。

清貴の家族とその歴史も理解し、周囲の仲間感も出来て、さらに葵も清貴も過去の想いを振り切って、とシリーズの準備は整った巻。次が楽しみだ。

M・J・トロー「霧の殺人鬼」

我ながらマニアックなジャンルである。シャーロック・ホームズに出てくるレストレイド警部が主役の、ハードボイルド・パロディ。やっと見つけた一冊。切り裂きジャックが去り3年後のロンドン。童謡をモデルにした「見立て殺人」が連続して起きる!

スコットランド・ヤードのレストレイド警部は、捜査部長マクノートン卿に、ロンドンに近い観光地ワイト島の横穴の壁に塗り込められていた死体の捜査を命じられる。数日後、レストレイドの元に、「もじゃもじゃ頭のピーター」という童謡集の一節が書かれた死亡通知書が届くー。

ホームズシリーズでは、いつもホームズの助言が必要な役を演じるーその癖、ホームズに対して憎々しげな言葉も投げたりするー、愛すべきキャラ、レストレイド警部。

この作品では、ホームズは麻薬に溺れた探偵として描かれ、レストレイドは有能な刑事として立ち回る。切り裂きジャックの事件の余波が残る世相をベースにしており、当時のスコットランドヤード幹部は実在の人物である。またそこここに同時代の芸術家、作家などを登場させている。

見立て殺人の犠牲者はふたケタを数え、残酷な手口が明らかにされ、レストレイドは犯人と目される怪人物とすれ違うが、最後まで真相は掴めない。見立て殺人の動機としては、それなりに納得できたし、ラストもまあこんなもんか、という感じである。

ストーリーの起伏と彩りのため、レストレイドはハードボイルドではありながら、様々な、ちょっと間抜けで悲惨な?場面を演じることもある。そういうエンタテインメントだ。

このシリーズに出会ったのは社会人になったばかりの頃でもう30年近く前の話だ、第3作「レストレード警部と三人のホームズ」を読んだ際、前にシリーズ作が2作あるのを知り追いかけて来たが、見つけられなかった。第2作「クリミアの亡霊」をおととし神田神保町のミステリ専門古書店で見つけ、最近この第1作「霧の殺人鬼」を図書館の検索で発見した。考えてみれば図書館の検索、もう少し早くしてみれば良かったな。でもようやく完結した。

「三人のホームズ」はほどよく重くなく、第1、2作に比べこなれた感じのナイスなエンタメとなっている。また、第1作で活躍する、愛嬌ある若手の部下、バンデイクートがすべての作品に登場するが、そのルーツをやっと理解した。

私が読まなければおそらくこの自治体に二度と読む人はいないんじゃないか。返却するときに買取りを打診してみようかな。(笑)

米澤穂信「さよなら妖精」

米澤穂信チックな話、というべきものだろうか。ミステリーと思って読んでみたが、推理小説っぽい、青春の蹉跌。

1991年の4月、高校3年の守屋路行は、同級生の太刀洗万智と大雨の中帰る途中にユーゴスラヴィアから来たという17才の少女マーヤと出会う。守屋らが旅館の娘、白河いずるに頼んで、マーヤは住み込みで働くようになり、3人と親しくなる。

私は米澤穂信の高校古典部シリーズを読みかじり、ラノベ風味に日常にひそむ謎を解決していく、という特徴は知っていた。しかしその後「折れた竜骨」とか「満願」が大きく評価されるに及び、別の作風に転換したかと思っていた。

で、またどこかでこの小説が「米澤穂信の転換点的作品」という書評を読みかじったので興味を持ち、いつものクセであまり情報を仕入れることなく読み始めたので、ガッツリとした本格ミステリみたいな思い込みがあった。

前置きが長くなったが、この作品も高校生が主役の物語である。古典部シリーズで見たようなキャラ作り、また、異邦人であるマーヤが、日常の謎に取り組む誘導役となっている。そして当時の国際情勢をにらみ、思わぬ方向へ流れる。

全体の感想としては正直、ぼやっとしたところがあるな、と思う。行間的なものは多いが、それが有機的な効果を伴わない感じである。題材は興味深く、どこか、らしくない激しく焦る、子供っぽい思い込みが、逆に新鮮に感じた。

望月麻衣「京都寺町三条のホームズ2」

ホンモノと、贋作ー。ついにライバル登場。こうこなくっちゃ、ホームズなら。

京都寺町三条の骨董品店「蔵」のホームズこと家頭清貴と、アルバイトの女子高生真城葵、そしてイケメンでチャラい新進俳優、梶原秋人。3人は「蔵」のオーナーで国選鑑定人、清貴の祖父である誠治の喜寿を祝うパーティーに出掛けるが、誰もいない部屋で高価な壺が割れるという事件が起きる。

緊張感がみなぎり、また紅葉の季節の京都を魅力的に描写している、そして両者の折り合いも良い、大変面白い巻だと思う。

まず一つは、ホームズが感情的になる、手強くて悪いキャラが登場する。主役に宿敵、ホームズにはモリアーティ。丁々発止の場面にはドイルの原作「最後の事件」を思い出す。

モリアーティ「あくまでやるのか」
ホームズ「あたりまえだ」

新潮文庫の旧訳が懐かしい。

もう一つは、京都の紹介の巧みさというか、私がシロートすぎるのかも知れないが、かなり行きたくなる。

南禅寺の三門、東福寺の通天橋、鈴虫寺の幸福御守、法輪寺の十三詣り、天龍寺の庭園、源光庵の2つの窓。南禅寺には行ったことがあるが、うんちくを知らなかった。

最初の謎はラノベチックだな〜と思うし、宿敵の現れ方も、成り行きも、少しく不自然でマンガ的だなと思う。まあまあ、てなとこだが。

まるで「パタリロ!」に出てくるMI6のバンコラン少佐が麻薬に対してはピリピリしすぎるように、なぜか異様に感情的になってしまう清貴にはそれだけの理由があるのだろうか、若気の至りか?その先行きも楽しみだ。

もちろん、骨董品ばかりでなく西洋絵画も織り交ぜた芸術の世界が知的な好奇心も充分に呼び覚ます。なかなかいいラノベだな、こりゃ。

エドマンド・クレリヒュー・ベントリー
「トレント最後の事件」

うーん、確かに特徴はあるが、なんだかしっくり来ないなあ。

アメリカ財界の大立者、マンダースンが撃たれて死亡しているのが自宅の敷地内で見つかった。画家であり探偵のフィリップ・トレントは事件の解決に乗り出し、独自に美貌の未亡人セレスティーヌや若き秘書のマーローに事情を聞き、有力な仮説を立てるがー。

1913年、イギリスの作品であり、文中で「先の大戦」と出てくるのはなんだろうと思ったりした。いわゆるミステリ黄金時代前夜の作品であり、江戸川乱歩ベストテン5位である。これで1〜5位はすべて読んだことになる。

この時代らしい、やや大げさな表現が特徴の文体である。捜査および仮説の立て方は不可解な点を整理して解き明かしていて、論理的であり、先に活躍していたコナン・ドイルの影響も見られるようだ。

ちょっとグリーンボーイ的恋愛譚の感じもあり、中盤は少し退屈だったが、ラストで、なるほど、独自の特徴を明瞭に持っている、と思った。そういった意味で古典か。あたかもアガサ・クリスティーの「オリエント急行の殺人」のごとく、もう使っちゃったから他の人はやめといてね、みたいな感じもする。

こんなんもありか、ある意味挑発的な作品である。めっちゃ面白かったとは言いがたいかな。

探偵役のトレントは、どこかルルー「黄色い部屋の謎」のルールタビーユに似てるかな。

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