2017年9月25日月曜日

その後

休暇中残りの日。ご神体三輪山登山のダメージは深く、ふくらはぎカチンカチン、すごく痛い。ちょっと用が立て込み水曜日走り一日家、木曜日は午前中本屋で、誕生日当日なので自分へのささやかなご褒美にやっぱり本を買った。


山根一眞

「スーパー望遠鏡アルマの創造者たち」


いやー興味あるテーマで新しい本だから。どうも日本の技術力っぽい感じだな〜。


で、家。天気良く気持ち良く、ふくらはぎの治癒期間。思い立って、家にある映画のパンフレットのリストを作っていた。


118冊だった。観たはずのものがだいぶないのは、確か東京から戻る時に整理したような覚えが。1991年近辺、2000年近辺の作品が多い。


前の方は会社に入った頃で、修行のために年間100本映画を観ていた。単館系、アメリカ以外の映画ばかり観ていた時代。ほとんどが一人で観たもんだ。「グランブルー」「ベティブルー」、パトリス・ルコントの一連の作品群などのフランスもの、まだ中国に居た時代のチャン・イーモウ初期の作品たち。


次は、仕事が事務系になり、時間の余裕が出来たこと、また結婚して妻とよく一緒に観に行った時期である。それぞれに思い出深い。アニメ映画の「美女と野獣」のパンフレットがなぜか2つある。この時期はイギリス映画をよく観たな、という感じ。「リトル・ダンサー」「シーズンチケット」などなど。天六にチャン・イーモウの「あの子を探して」「はつ恋のきた道」の2本立て観に行って、帰りに美味い小籠包食べたなあ。


思い出深いパンフたちである。


金曜日はその余勢をかって?三宮に映画を観に行った。ジム・ジャームッシュ4年ぶりの新作「パターソン」である。


ジャームッシュといえば、アメリカにありつつインディーズ系の秀作をいくつも発表している。


「ストレンジャー・ザン・パラダイス」

「ダウン・バイ・ロー」

「ナイト・オン・ザ・プラネット」


などなど。私は、むかし大毎地下で「ナイト・オン・ザ・プラネット」を観た。あまり覚えてないが、ロードムービーのような話で、フレームアウトが好きな監督さんだな、と思ったことを覚えている。それから「ゴースト・ドッグ」という、葉隠を愛読する都会の黒人を描いた作品を観たが、こちらは駄作だった。欧米人的には意味があるのかもだが。


さて「パターソン」。


パターソンはパターソン市に住んでいる、背が高くてハンサムなバスの運転手。美人で家具や服まで自分でペインティングしちゃうアーティスティックな奥さん、ローラと、飼い犬とともにつましい家に暮らしている。毎朝早くに起きて、シリアルの朝食を食べ、歩いて出勤、バスを運行し、帰る。夜は犬と散歩。その途中にあるなじみのバーで一杯だけビールを飲み、ローラとともに眠る。飼い犬はローラが好きで、ちょっとパターソンにはヤキモチを焼いているようだ。


パターソンが没頭しているのは詩作だ。身の回りのこと、毎日の風景や乗客の会話にもインスピレーションを受ける。親を待っていた詩が好きな少女が作った詩を聴かせてもらったり、バーで恋愛がらみの揉め事が起きたりしながら、毎日は過ぎていく。


ローラはパターソンにとって詩作がとても大事なことを理解しており、彼のノートを読みたがるが、パターソンは見せない。ローラの頼みでノートのコピーを取ることを了承した週末、臨時収入があり、仲の良い夫婦は映画を観て食事をして帰宅するがー。


という物語。


求めているものを観た感じで、期待以上に良かった。淡々とした毎日を違う角度から追っていて、平面的なカットやフレームアウトが好き、かと思うと大胆に視点を変えたカットも繰り出す。単調なだけに、観ている人もみな、何か起きるだろな、と思いつつ観る。おおむね当たり、少し外れる、観客側のこの感じも計算されているんだろか。


パターソンはローラの無理も聞くし、あまり表現もしないから、いつかストレス爆発するんじゃないかと思ったが、それほど底は浅くなかった。ローラ可愛くてちょいセクシーで良かった。


起きた「事件」に観客は集中する。1人になったパターソンのもとに、永瀬正敏が現れてー。


妖精みたいだな、永瀬正敏。こんなに細かく平凡を積み上げて、最後に都合の良い妖精、でいいんだろか、と思うが、なぜかハマっているから良し、だ。全体として、カンヌで好評価だったのも分かる気がする、GOODな映画だった。良かったー。


土曜日、日曜日は同じパターンで午前外出し午後家に居た。これで9連休が終了。もう少し出ても良かったけどまあしゃあないやね。


でも、インスピレーションのあった休みだった。秋中にまた奈良に行くぞっと。もう山には登らないけどっ。^_^








2017年9月21日木曜日

初桜井

日本最古の神社とされる大神(おおみわ)神社へお出かけ。

阪神から近鉄奈良線で鶴橋、そこから近鉄大阪線で桜井まで行きJRに乗り換えて1駅。JR三輪駅は無人駅だ。ローカル〜。

巨大な鳥居は高さ32.2mで車道をまたぐ鳥居としては日本一の大きさだそうだが、大神神社とは逆方向で意外に遠そうなのでまず神社に行くことに。駅降りて、商店街に入ってすぐ右折。道は分かりやすい。参道が見えてくる。

大神神社のご神体は、なんと神社後方の三輪山で、本殿はないそうだ。まずは拝殿にお詣り。大物主大神が祭神であり、神社のことは古事記や日本書記に出てくるとか。

さて、あらかじめ調べてあったのだが、やっぱり来たからにはご神体に登らなければ、と登山口の方に行く。住所名前ケイタイ番号を記入して紙で申し込み、4〜5人の人数になると説明が。登山もあくまで参拝。写真撮影禁止、水分補給以外の飲食禁止。トイレもなく、往復2〜3時間という。

標高467m。鈴のついたたすきのような参拝証を掛け、竹の杖をお借りしていざ。

最初の方はなだらかなところもあるものの、けっこう急な山道。手がかりも少ない。渡された地図には山頂までの地図があり、目印が9カ所打ってあるのだが、一つ一つの間が長い。中盤まで来たところで、間違えたか、と思う。しんどい、暑い。ここから帰っても誰にも分からない。でもここまで来て帰れるかー。

最後の方は脚が棒の状態。3分の1くらいのところに滝行に使う小さな小屋があるほかは開けたところはなく、木漏れ日の中をひたすら登る。登り45分でなんとか山頂の小さな社に到着。山頂の平らなとこはあまり広くないし、長居は無用。しかし脚がかなりしんどい。水分を取って、屈伸などほぐす運動をして、下る。

下りはじめてすぐ、ふくらはぎが痙攣。ヤバい。しっかり足場を取らないと危険だ。転げ落ちたら下手すると重傷。会社で物笑いの種だ。めっちゃ集中する。ちと時間がかかった。でも、下りは精神的に気が楽なもので、登っている方とすれ違う際にも上から目線になる(笑)。きれいな陽光と木の影の織りなす模様を見ながら、ご神体のオーラを浴びる。登りは必死のパッチだったからな。1時間40分でフィニッシュ。きつかった!でもやりきって良かった。

登る格好はさまざま。ジーンズにTシャツ、運動靴がまあふつうで、中にはこりゃやってるな、という登山靴の人もいれば、デートの延長でミニスカの女子もいた。ヒールがあったり街歩き用の靴だったのか、脱いでしまって、裸足の女性がけっこういたのが印象的だった。社務所の方が、杖は持って行かれたほうがいいと思いますよ〜と言ってた通り、手すりどころか手掛かりになるものがない道で、大いに助かった。

神社参道沿いの店で三輪そうめんを頼み、作ってる間に外でタバコ吸うから灰皿貸して、と言おうとしたが、疲れのあまり言葉を出す機能が停滞ぎみで、最小限の言葉で意図を伝える。店の人もよく心得てるのか、たたみの部屋で、扇風機好きに使ってくださいね〜。良ければ昼寝してってもかまいませんよ〜と優しい。三輪そうめんにいなりの定食もちょうどいい量で癒された。ホントに横になったりしたらたぶん目覚められないのでさっさと帰途へ。

鳥居を撮りに行く。駅へ曲がらずまっすぐ、思ったほどは遠くない。巨大だ。三輪山をバックに写真撮って駅へ向かう。三輪駅から神社へのアクセスはいい。いつもの感じ。でも電車の本数が少なかった。30分ほど読書しながら待った。村上春樹「レキシントンの幽霊」をこの奈良行で読了。

せっかく桜井まで来たから箸墓古墳とか、帰りに時間があれば大阪の美術館とかと考えていたけれどスタミナ切れ。まっすぐ帰りました。しっかりお詣りした日ということで。

2017年9月10日日曜日

ポルディ

写真は先週に行った、香櫨園浜。夏の終わりを探しに、なぁんてね。

バタバタしてたけど、いま、日曜の夜になると、平日は何があったっけ?とお忘れ。通常の週に比べたら動いたかな。

息子がちょっと体調悪く、しばらく保健室通いだったが、まずはよく寝かせて、軽く話をすると、快復したようだ。

家族は特別ではあるが、体調を崩す人がなぜか周りに多い。気をつけなね。

グラチャンバレーは、中田久美監督の新生女子代表にはいいチャレンジだったろうと思う。世界の強豪相手にメンバーを入れ替えたチームを試すことが出来た。ホームとはいえ接戦も展開した。

バレーはサーブレシーブとセッターだよな、とか最近は分かった気にもなっていたが、世界の強豪を見ると、アタッカーも大いに重要だよなと思う(笑)。

日本で好きなのは、セッターの佐藤の強気と、内瀬戸のオールラウンダーさ。これからメンバーも変わっていくだろう。次に見るのが楽しみだ。

土曜日は久々にJリーグ生観戦。吹田スタジアムにガンバ大阪vsヴィッセル神戸を観に行った。長谷川監督が今季限りで解任、というニュースが出たばかりのガンバは元気がない。後ろでボールを回すばかり。ネルシーニョを解任し球団社長も交代したヴィッセルは、日本代表がやったような前からのプレスを仕掛け、試合の主導権を握る。

何がすごかったって、ポドルスキが巧かった!確かしばらく勝ってないチームとは思えないほどのサッカー。神戸がボールを奪うと、みなポドルスキを探して、できるだけ預ける。ポドルスキは2トップの一角だが、かなり下がってボールを受け、展開する。

これがホントに巧い。ゴール前のいわゆるアタッキングサードでボールが来ると、サイドや前のいいところに出す。先制点はポドルスキが振った右のセンタリングから生まれた。ダイジェストを見ると、シュートは入んないし、いいクロスにヘディングミスってるしとなってるが、これが生観戦のいいところで、観ていた人みな同じことを思ったはずだ。

ポルディめっちゃうまいやん!

後半30分にはさっさと出てきてモノレール、阪急で帰る。あの大観衆が一気にモノレール駅に来るからモタモタしていられない。22時発のバスに間に合う。やっぱ万博は遠い。

でも、吹田スタジアムはやはり素晴らしい。歓声が反響するから何言ってるのか前より分かんなくなったけどね。あと神戸も、白黒のユベントスからーのユニで、山の中にあるユニバー競技場で、多いとは言えないサポーターで応援してた頃に比べると、熱さが違う気がする。それでも私はあのころが好きで懐かしいんだけどね。

金曜に、読みづらかった稲垣足穂「一千一秒物語」をやっと読了。土曜は中野京子「印象派で近代を読む」読了。リハビリには印象派。ここまで9日で6冊。いま太宰治である。

日曜はいつも通りというか、朝からブックオフ。まだまだ日中は暑い。東山なにがしの直木賞作品が出てないかなと思ったけどなかった。ブラブラと物色。

ウィリアム・シェイクスピア「オセロー」
太宰治「津軽」
森絵都「つきのふね」
ジュンパ・ラヒリ「停電の夜に」
村上春樹「レキシントンの幽霊」

シェイクスピアと太宰は最近の定番だな。「つきのふね」は森絵都が野間児童文芸賞を取った作品。ジュンパ・ラヒリはインド系の女性作家で、ピューリッツァー賞を受賞している。掲載の写真めっちゃ美人である。

村上春樹と伊坂幸太郎はたまに読みたくなるんだよねえ。

午後は昼寝する。2時間くらいがーがーと。夜眠れるかな。まだ屋内は暑い。

次週はラノベ系を貸してもらう予定、金曜日にはもひとつのラノベが来る予定。いっぱいだな。借りたのは早く読もうっと。

夜なんとツクツクホーシが我が家の中に。とんだ珍客だが捕まえられずほっとくことに。これまた夏の終わりっぽいな。

ポルディ

2017年9月2日土曜日

8月書評の3

さて、8月は3年連続のミステリー月間だった。今年は江戸川乱歩のベストテンにこだわり、1位の「赤毛のレドメイン家」、3位の「僧正殺人事件」、5位の「トレント最後の事件」を読み、これで1〜5位は全部読んだことになった。まあかなり昔に読んだ、4位の「Yの悲劇」なんか忘れちゃったけどね。(笑)

一方で興味のあるシリーズなんかが日本の本格推理小説については、今年は敬遠状態だった。海外ものもまだ読みたい古典があるし、来年はそれなりに取り混ぜてやりたいと思う。

とはいえ本格推理小説ばかり読むのは、絶対進まない。辛気臭くなってくるから。まただいたいのものは長く暗いから。今年みたいにラノベを挟みながら、が理想の状態だな。

今月は14作品14冊。ではどうぞ。。

多宇部貞人

「魔探偵(ウォーロック)×ホームズ」


チョーラノベ。魔法の世界。キャラの再造形はなかなか楽しいが、スーパーファンタジーでついていけない(笑)。


10年前に魔法が失われたロンドン。「魔探偵」シャーロック・ホームズは様々な武器にその身を変えることができるワトスンとともに、ベイカー街にある、大魔法使いハドスンさんの管理する部屋に住んでいた。切り裂きジャックを倒しその魔石を入手したホームズは、マイクロフトからグルーナー男爵が「十二星石(トゥエルブ)」を収集、隠蔽していることを聞き、ワトスンとコルチェスターへと向かう。


「高名な依頼人」に出てくる悪漢、グルーナー男爵はもちろん犯罪界のナポレオンである教授につながっていて、アイリーン・アドラーは魔石を持っているセクシーな怪盗、後にワトスンの妻となるメアリ・モースタンも大事な役どころで出演する。


何と言ったらいいのか、いきなり、活劇が展開され、SF的な展開となる。グルーナー男爵との対決もずっとそんな感じで、嵐のようなファンタジーだ。


ホームズ物語のオールスターキャストを、魔法的少女漫画的なキャラに、上手に落とし込んでいる。人物紹介は実際にマンガとなっている。


聖典はよく読み込まれてあって、マイクロフトとシャーロックの関係などに工夫が見られ、シャーロッキアンもの、という感じにもなっている。ちとホームズ感情的すぎだけど。


これもバリエーションかと思うし、あっというまに読めたから、悪くはないと思うし、マンガを使うとキャラが想像しやすいという良い点もある。それなりに楽しいけど、さすがにもひとつシンクロできず、に終わった。


浜口倫太郎

「22年目の告白ー私が殺人犯ですー」


映画のノベライズ本。いかにも突飛な発想で、小説的ではない、なんて上から考えるけど、めっちゃ夢中になって読んじゃうんだなこれが。


主にタレントの暴露本などを出版している小さな出版社、帝談社の編集者である川北未南子は、ある晩、バーで曾根崎雅人と名乗る超イケメンから、読んでみてほしい、と原稿を渡される。その原稿は、5人を絞殺した「東京連続殺人事件」の犯人でしか書けないような内容だったー。


ショッキングな内容、クライマックスまでの華美な演出、驚くようなネタばらし、そして意外な犯人と、息の抜けないエンタテインメントだ。


ベースは、殺人犯の告白本など出していいのかと悩む編集者に絡む文芸への情熱があり、かつ放送作家という視点から見た著者のこだわりが少し見えるような気がする。


上に書いたように、都合がいいとか、ありえないとか、社会的な掘り下げ方が足りないとかそりゃ感じるけれど、エンタメとしてはなかなかワクワクして、一気に読み終えた。


充分にノセられた感覚を味わった作品だったかな。


望月麻衣「京都寺町三条のホームズ3」


暮れの京都、クリスマス、大晦日と風情満載。


京都寺町三条の骨董品店「蔵」でアルバイトしている女子高校生、真城葵は、京大院生で店のオーナーの孫、ホームズこと家頭清貴に、歌舞伎の顔見世興行に誘われる。そんな折、知り合いの俳優、梶原秋人が「蔵」に共演中の歌舞伎役者、市片喜助と女優浅宮麗を連れて来る。奥の方を見に行った喜助と麗の様子を伺った葵は2人がキスしているのを見てしまう。


季節の京都、その豆知識、観光案内上手くを織り交ぜつつ、小事件を解決していくいつもの流れ。今回はちょっとだけ大人っぽいかな。また宿命のライバルも出て来るし、飽きさせない展開である。


京都シロートの私は、いつか・・とか思ってしまうのでした。


ピエール・ルメートル「悲しみのイレーヌ」


残酷で、興味深い。


「その女アレックス」シリーズの第1作であり、ピエール・ルメートルのデビュー作。


パリ警視庁のカミーユ・ヴェルーヴェン警部は、身重の妻イレーヌと暮らしている。ある日、パリ北西部郊外のクルブヴォアにあるロフトで、娼婦2人が惨たらしく殺されているのが見つかった。カミーユは部下の、金持ちの貴公子ルイ、しみったれのアルマンらと捜査に当たる。


「その女アレックス」は、後から新事実が分かり、状況がどんどん変わって見えて来るという佳作だった。ただ、残酷、グロなところは好みに合わなかった。


今回は、アレックスに比べると読みにくい、と友人が評していた通り、最初の方は正直混乱した。なにがいまの事実で、どれが過去の件なのか見失った。


しかし落ち着いて来ると、中盤以降は見通しもすっきりとして集中して読み進んだ。いわゆる見立て殺人ものである。クライマックス近くでは、創作と現実のあわいがよく分からないように描かれており、テクニカルだ。


ラストもやはりむごい。ピエール・ルメートルは創作の際何らかの工夫を入れるということが理解できたが、それに合わせるように、残虐さが際立っている。あまり読んでいる訳ではないが、欧米ものにはとかく異常犯罪が多いという印象で、そのトップランナーとして走るように、ルメートルは容赦がない。


この作品で、作者は数々の賞を得た。シリーズはさらに第4作の「傷だらけのカミーユ」が邦訳されている。シリーズ第2作であるアレックス、には、当然のようにチーム・ヴェルーヴェンとカミーユの境遇が出て来るが、そのルーツを読むことができた。


1年に1度くらいは、むごいながらも、構成に眼を見張る工夫が盛り込まれているルメートルの作品を読むのもいいかもしれない。






8月書評の2

写真間違えた。こちらが混ぜそばです(笑)。

先週は月曜日に北朝鮮のミサイルが飛び、火曜日は読書の友と電車が一緒になり楽しく話をして、水曜の晩から涼しくなった。日本の東海上にある台風15号が北風を吹かせ、北側の乾燥した空気を呼び込むからだという。しかしまだ暑さのぶり返しはあるそうだ。

広陵の中村奨成が準決勝の天理戦で2ホームラン、大会本塁打6本の新記録を打ち立て、その広陵を破った花咲徳栄が埼玉代表として初優勝した高校野球。盛り上がった大会は終わり、ちょっと寂しくなったけど、サッカー日本代表が熱くさせてくれました、というわけで、長い前振りだったが第2弾レッツゴー!


望月麻衣「京都寺町三条のホームズ」

古典ミステリに大河ドラマ。ガッツリものの合間にライトミステリー。ちょっと興味あったし。ラノベは文化ですね。

埼玉から京都に来て半年の真城葵は、かつての彼と親友が付き合うことになったと聞き、埼玉への旅費を出すために家の品を持ち出して、骨董品店「蔵」を訪れる。そこで出会ったイケメン京大生の店員、ホームズこと家頭清貴に真意を見抜かれ、勧められるまま、京都寺町三条の蔵でアルバイトすることになる。

京都に足場を置いた連作短編ミステリー。アルバイトの葵に骨董品についてやさしく説明することで知的で雅やかな雰囲気をうまく作っている。葵祭の華、斎王代への脅迫状、鞍馬山での遺品にまつわる推理など、京都ならではのものを絡ませ、若い恋を味付けにしている、読みやすい作品だ。

若いホームズの推理については、だいぶ思い切ってるな、というのが正直。人が死んで、捜査で証拠を見つけて、真相に迫る、という手法でないだけに、意外にいつも読んでるものとかけ離れてるな、という印象だ。ただ、扱う素材はよくあると思える人間的な感情で、小説的な、妙な高尚さと一線を画していてむしろ好ましいと思った。

清貴の家族とその歴史も理解し、周囲の仲間感も出来て、さらに葵も清貴も過去の想いを振り切って、とシリーズの準備は整った巻。次が楽しみだ。

M・J・トロー「霧の殺人鬼」

我ながらマニアックなジャンルである。シャーロック・ホームズに出てくるレストレイド警部が主役の、ハードボイルド・パロディ。やっと見つけた一冊。切り裂きジャックが去り3年後のロンドン。童謡をモデルにした「見立て殺人」が連続して起きる!

スコットランド・ヤードのレストレイド警部は、捜査部長マクノートン卿に、ロンドンに近い観光地ワイト島の横穴の壁に塗り込められていた死体の捜査を命じられる。数日後、レストレイドの元に、「もじゃもじゃ頭のピーター」という童謡集の一節が書かれた死亡通知書が届くー。

ホームズシリーズでは、いつもホームズの助言が必要な役を演じるーその癖、ホームズに対して憎々しげな言葉も投げたりするー、愛すべきキャラ、レストレイド警部。

この作品では、ホームズは麻薬に溺れた探偵として描かれ、レストレイドは有能な刑事として立ち回る。切り裂きジャックの事件の余波が残る世相をベースにしており、当時のスコットランドヤード幹部は実在の人物である。またそこここに同時代の芸術家、作家などを登場させている。

見立て殺人の犠牲者はふたケタを数え、残酷な手口が明らかにされ、レストレイドは犯人と目される怪人物とすれ違うが、最後まで真相は掴めない。見立て殺人の動機としては、それなりに納得できたし、ラストもまあこんなもんか、という感じである。

ストーリーの起伏と彩りのため、レストレイドはハードボイルドではありながら、様々な、ちょっと間抜けで悲惨な?場面を演じることもある。そういうエンタテインメントだ。

このシリーズに出会ったのは社会人になったばかりの頃でもう30年近く前の話だ、第3作「レストレード警部と三人のホームズ」を読んだ際、前にシリーズ作が2作あるのを知り追いかけて来たが、見つけられなかった。第2作「クリミアの亡霊」をおととし神田神保町のミステリ専門古書店で見つけ、最近この第1作「霧の殺人鬼」を図書館の検索で発見した。考えてみれば図書館の検索、もう少し早くしてみれば良かったな。でもようやく完結した。

「三人のホームズ」はほどよく重くなく、第1、2作に比べこなれた感じのナイスなエンタメとなっている。また、第1作で活躍する、愛嬌ある若手の部下、バンデイクートがすべての作品に登場するが、そのルーツをやっと理解した。

私が読まなければおそらくこの自治体に二度と読む人はいないんじゃないか。返却するときに買取りを打診してみようかな。(笑)

米澤穂信「さよなら妖精」

米澤穂信チックな話、というべきものだろうか。ミステリーと思って読んでみたが、推理小説っぽい、青春の蹉跌。

1991年の4月、高校3年の守屋路行は、同級生の太刀洗万智と大雨の中帰る途中にユーゴスラヴィアから来たという17才の少女マーヤと出会う。守屋らが旅館の娘、白河いずるに頼んで、マーヤは住み込みで働くようになり、3人と親しくなる。

私は米澤穂信の高校古典部シリーズを読みかじり、ラノベ風味に日常にひそむ謎を解決していく、という特徴は知っていた。しかしその後「折れた竜骨」とか「満願」が大きく評価されるに及び、別の作風に転換したかと思っていた。

で、またどこかでこの小説が「米澤穂信の転換点的作品」という書評を読みかじったので興味を持ち、いつものクセであまり情報を仕入れることなく読み始めたので、ガッツリとした本格ミステリみたいな思い込みがあった。

前置きが長くなったが、この作品も高校生が主役の物語である。古典部シリーズで見たようなキャラ作り、また、異邦人であるマーヤが、日常の謎に取り組む誘導役となっている。そして当時の国際情勢をにらみ、思わぬ方向へ流れる。

全体の感想としては正直、ぼやっとしたところがあるな、と思う。行間的なものは多いが、それが有機的な効果を伴わない感じである。題材は興味深く、どこか、らしくない激しく焦る、子供っぽい思い込みが、逆に新鮮に感じた。

望月麻衣「京都寺町三条のホームズ2」

ホンモノと、贋作ー。ついにライバル登場。こうこなくっちゃ、ホームズなら。

京都寺町三条の骨董品店「蔵」のホームズこと家頭清貴と、アルバイトの女子高生真城葵、そしてイケメンでチャラい新進俳優、梶原秋人。3人は「蔵」のオーナーで国選鑑定人、清貴の祖父である誠治の喜寿を祝うパーティーに出掛けるが、誰もいない部屋で高価な壺が割れるという事件が起きる。

緊張感がみなぎり、また紅葉の季節の京都を魅力的に描写している、そして両者の折り合いも良い、大変面白い巻だと思う。

まず一つは、ホームズが感情的になる、手強くて悪いキャラが登場する。主役に宿敵、ホームズにはモリアーティ。丁々発止の場面にはドイルの原作「最後の事件」を思い出す。

モリアーティ「あくまでやるのか」
ホームズ「あたりまえだ」

新潮文庫の旧訳が懐かしい。

もう一つは、京都の紹介の巧みさというか、私がシロートすぎるのかも知れないが、かなり行きたくなる。

南禅寺の三門、東福寺の通天橋、鈴虫寺の幸福御守、法輪寺の十三詣り、天龍寺の庭園、源光庵の2つの窓。南禅寺には行ったことがあるが、うんちくを知らなかった。

最初の謎はラノベチックだな〜と思うし、宿敵の現れ方も、成り行きも、少しく不自然でマンガ的だなと思う。まあまあ、てなとこだが。

まるで「パタリロ!」に出てくるMI6のバンコラン少佐が麻薬に対してはピリピリしすぎるように、なぜか異様に感情的になってしまう清貴にはそれだけの理由があるのだろうか、若気の至りか?その先行きも楽しみだ。

もちろん、骨董品ばかりでなく西洋絵画も織り交ぜた芸術の世界が知的な好奇心も充分に呼び覚ます。なかなかいいラノベだな、こりゃ。

エドマンド・クレリヒュー・ベントリー
「トレント最後の事件」

うーん、確かに特徴はあるが、なんだかしっくり来ないなあ。

アメリカ財界の大立者、マンダースンが撃たれて死亡しているのが自宅の敷地内で見つかった。画家であり探偵のフィリップ・トレントは事件の解決に乗り出し、独自に美貌の未亡人セレスティーヌや若き秘書のマーローに事情を聞き、有力な仮説を立てるがー。

1913年、イギリスの作品であり、文中で「先の大戦」と出てくるのはなんだろうと思ったりした。いわゆるミステリ黄金時代前夜の作品であり、江戸川乱歩ベストテン5位である。これで1〜5位はすべて読んだことになる。

この時代らしい、やや大げさな表現が特徴の文体である。捜査および仮説の立て方は不可解な点を整理して解き明かしていて、論理的であり、先に活躍していたコナン・ドイルの影響も見られるようだ。

ちょっとグリーンボーイ的恋愛譚の感じもあり、中盤は少し退屈だったが、ラストで、なるほど、独自の特徴を明瞭に持っている、と思った。そういった意味で古典か。あたかもアガサ・クリスティーの「オリエント急行の殺人」のごとく、もう使っちゃったから他の人はやめといてね、みたいな感じもする。

こんなんもありか、ある意味挑発的な作品である。めっちゃ面白かったとは言いがたいかな。

探偵役のトレントは、どこかルルー「黄色い部屋の謎」のルールタビーユに似てるかな。

8月書評の1

写真は会社の近くの店、「豚骨混ぜそば」である。混んでる店にたまたま入れてラッキーだったが、スープが異様に甘く、博多出身としては考えるところありだった。

では今月もレッツゴー!

イーデン・フィルポッツ
「赤毛のレドメイン家」

毎年8月は、ミステリ・サスペンスを多少読むことにしている。江戸川乱歩が選んだベストテン第1位。タイトルがいかにもおどろおどろしいですねー。

ロンドン警視庁の刑事マーク・ブレンドンは、休暇に釣りを楽しむため訪れたダートムアで、赤毛の絶世の美女ジェニーとすれ違う。やがて、殺人事件が起き、ジェニーから手紙を貰ったブレンドンは調査に赴く。事件は、ジェニーの夫が、ブレンドンが釣り場で言葉を交わした赤毛の大男、ジェニーの叔父ロバート・レドメインに殺されたものだとのことだったー。

1922年発表の物語で、いわゆる黄金時代に属する作品だ。江戸川乱歩が1947年に発表した推理小説ベストテンの1位となっている。フィルポッツの作品は他にも翻訳されていて「だれがコマドリを殺したか?」は最近新版が出ていた気がする。

重々しいタイトル。もう少し犬神家の一族っぽい感じかと思ったら違った。館ものでもない。ストーリーは硬質さとメロドラマっぽさが交錯して進行するのだが、途中なかなか刺激もあり、読み手の塾考を妨げ、トリックを押し隠している。ブレンドンは優秀な刑事であるが、第2の殺人が起こっても靄がかかったように事の真相に迫れない。読み手もそんな気分を味わい続ける。

配役も、硬い刑事、絶世の美女、色男、個性的なレドメイン家の3人の男たち、そして名探偵とそれぞれキャラが立ち、イギリスの地方とイタリア山間部の舞台設定と噛み合っている気がする。赤毛も印象的だ。

そしてクライマックス。ここは読者も分かっていて、ハラハラし、幕切れは唐突に劇的に訪れる。

トリックそのものは、ネタが明かされてみればやや、なんだ、的な味わいがしないでもない。ただこの場合のなんだ、は優秀なストーリーの証みたいなものだと個人的には思う。この物語は、ドラマとしてバランスに優れている。見えそうで見えない演出も小説的だ。ちょっとカトリーヌ・アルレー風味かな。興味深かった。

解説によれば、欧米ではフィルポッツは著名ではあるものの、「レドメイン家」は古典名作的な扱いではないとのこと。日本での推理小説とは確かに一線を画しているかも。

ちなみに乱歩のベストテン2位以下は

2位 「黄色い部屋の謎」ガストン・ルルー
3位「僧正殺人事件」ヴァン・ダイン
4位「Yの悲劇」エラリー・クイーン
5位「トレント最後の事件」E・C・ベントリー
6位「アクロイド殺人事件」アガサ・クリスティー」
7位「帽子収集狂事件」ディクスン・カー」
8位「赤い館の秘密」A・A・ミルン
9位「樽」F・W・クロフツ
10位「ナイン・テーラーズ」
ドロシー・L・セイヤーズ

だそうだ。2は去年の8月に読んだ。4、6、9は若い頃読んだが、忘れているな(笑)。残りの半分も読んでしまいたいな。

余談。創元社のHPでは各作家のベスト5を掲載しているが、北村薫も宮部みゆきも有栖川有栖もチェスタトンの「ブラウン神父の童心」を挙げている。かつてその幻想的さ?に敬遠してしまったのを思い出す。も1回読んでみようかな。

ボアロー&ナルスジャック
「悪魔のような女」

フランスの古典サスペンス。最後の1行、なかなかシブく怖い。

フェルナンは愛人で医師のリュシエーヌとともに、妻のミレイユを薬で眠らせて溺死させ、家の近くの流れがゆるやかな川に死体を流す。フェルナンがミレイユの死体を発見したふりをして騒ぐはずが、翌朝、妻の死体は、無くなっていたー。

ボアロー&ナルスジャックを知ったのは、確か、桜庭一樹の「少女には向かない職業」の解説だったと思う。桜庭一樹がかつて面白く読んだといういくつかの著作に惹かれ、カトリーヌ・アルレー「わらの女」も読んだ。

で、探していたが、なかなか出会えず。そこまで執着してたわけでもないが、ようやく見つけることができた。

さて、フランスのノワールである。主な舞台パリ近くのアンギアン。ストーリーは、フェルナンの乱れる心のうちをひたすら描いてゆく。ミレイユに対する想い、リュシエーヌに捨てられるのではという疑い、発覚するのではないかという怖れ、死んだはずの妻の影を感じ、どんどんと追い詰められていく。フェルナンの行動と心象の描き方は小説的、幻想的である。

1955年に日本で出版された本作は、舞台の心理劇を見ているような感覚だ。オチは予想出来なくもないが、なかなか綺麗に、残酷に作られている。全て見せるわけではなく、人間臭くて、不思議で、怖くて、ワルい。解説の皆川博子氏も、ボアロー、ナルスジャックは巧い!と強調しているが、ふむふむなるほど、という感じだ。

ボアローとナルスジャックは2人とも小説家で、単独でそれぞれ賞も取っている。合作でミステリ、サスペンスを書くという、エラリー・クイーンのような方々。なお、表記は、桜庭氏の表記がボアロー&ナルスジャックで、気に入っているのでそのまま使った。

ちなみにきっかけとなった解説が載っていた桜庭作品のタイトルは、P・Dジェイムズの「女には向かない職業」をもじったとおもわれるもので、いやーこの人も好きだなぁと思う。別の作家にも最近は「私に似た人」とか、「検察側の罪人」とか過去の名作のオマージュ的なタイトルも目立つ。こういう風潮、けっこう好きだったりして。だから読むかどうかは別の話だが。

桜庭氏が挙げていたもう1作、ピーター・ラヴセイの「つなわたり」も読みたいな。

上橋菜穂子「鹿の王3」

ちょっと入り組んで来て、関係性を追うのに苦労したかな。

幼子ユナをさらわれたヴァンは、アカファの跡追い狩人・サエの助けもあり、火馬の民の集落に行き着く。そこで精神をシンクロ出来る「犬の王」ケノイに出会う。ケノイたちと共に隣国ムコニアの侵攻を防ぐ攻防戦で、ケノイに率いられたヴァンは自らもまた獣の化身となり、兵士の喉笛に噛みつくのだった。しかし犬たちを東乎瑠(ツオル)の兵に向けたその時、理性を取り戻したヴァンは、捕虜となっていたサエとともに逃亡する。

犬を操る氏族が登場し、これまでの色々な場面で犬を放った犯人が見えてくる、と思いきやホッサルたちは囚われの身となり、ヴァンとの距離がぐっと詰まる。

正直、ヴァンがあちこちに行っているため、よく話が見えない印象だ。このモヤモヤは、最終4巻で解決するものだろうか。楽しみにしてみよう。

上橋菜穂子「鹿の王4」

完結編。全ての仕掛けがそれなりに見えて来てちょっと感動した。続編あるのかな?

火馬の民の族長オーファンが爆弾を持って人垣に乗り込んだ。止めようとしたヴァンもまた重傷を負う。やがてヴァンはキンマの犬たちによる襲撃が行われると読み、傷が癒えない身体のまま出発するー。

いよいよ陰謀もその黒幕も明らかとなる。ヴァンは「鹿の王」の意味合いに迷いながらも、安住の地を振り切って立ち向かう。

ヴァンの意図の底にあるものー、は読者の受け止め方に任せてあるようだ。きれいに終わっているわけではないし、なんか小競り合いっぽい色は見え隠れする。

国と民族、人の暮らし、そこに医学の知識と底流の考え方を組み合わせ、壮大なファンタジードラマに仕立てたことは素晴らしい。十分に浸ることが出来た。守り人シリーズとどうしても比較してしまうが、ちと権謀術数が行きすぎたかな、という感はある。

ヴァンの後を追って行く人々の割り切った温かさが後味の良さを残している。続きを読みたいな。

ヴァン・ダイン「僧正殺人事件」

コック・ロビンを殺したのはたあれ
「わたし」って雀がいった。
「わたしが弓と矢でもって
コック・ロビンを殺したの」

マザー・グースの童謡、その歌詞の通りに行われた「見立て殺人」の古典的作品。それなりに面白かった。

ニューヨーク75番街に面した、ディラード教授宅の弓術場で、胸に矢が刺さった、ジョジフ・コックレーン・ロビンの死体が見つかった。素人探偵ファイロ・ヴァンスと友人の検事マーカムは捜査に乗り出す。教授宅のポストからはマザー・グースの歌と「僧正」の署名が記された怪文書が発見された。ロビンは教授の姪ベルに好意を持っていて、やがて、ロビンの恋仇、レイモンド・スパーリング(ドイツ語読みでシュペルリンク=雀の意)が逮捕される。

極めて狭い範囲で行われた連続殺人、しかもマザー・グースの歌の歌詞通りというおどろおどろしい仕掛け。なかなか容疑者は絞られず、捜査は進展しないのだが、次はどうなる、と少々興奮して(笑)読み進んだ。

ヴァン・ダインは昔興味を持ち「グリーン家殺人事件」「カナリヤ殺人事件」と読んだ。文体と物語の展開が肌に合うような気がしたのを覚えている。「僧正殺人事件」はファイロ・ヴァンスシリーズの第4作だが、第1作「ベンスン殺人事件」が1926年に発表されると大変な人気となりアメリカにも本格派の推理小説作家が生まれた、と評判を呼んだそうだ。

さて、見立て殺人、という仕掛けもゾクゾクするし、実際次々と謎の出来事が起きるのでなかなか楽しめる。一方で犠牲者が出続けても、なかなかファイロ・ヴァンスの捜査は進展せず、でちょっとじりじりする。

期待して読み進んだが、正直、幕切れと動機には、プラスワン欲しいな、というところだった。まあしかし、江戸川乱歩ベストテンの3位に入るのも分かるような、興味深い古典だった。

ファイロ・ヴァンスは確か、南米にいた叔父の遺産で、ゆうゆうと暮らしている設定だ。昔、俺も南米あたりに知らない叔父がいて、莫大な遺産が突然転がり込んで来ないかなあ、と言ったら、後輩に、ありません!と即座に返されたことを思い出した(笑)。