今月は張り切って?12作品13冊。久しぶりに多かった。
webで文庫新刊を探すのは愉しみのひとつ。6月は多い方、7月は無くて、8月は3つかな。ミステリー特集ということで9月へ先送りだが、めっちゃ愉しみである。
一穂ミチ「きょうの日はさようなら」
ふむふむ。新聞で三浦しをんが薦めていたのを読んで買ってみたラノベ。それなりに面白かった。
2025年夏、東京。双子の高校生、明日子と日々人は、父から、1995年に17才で重体となり冷凍睡眠で生き延びた、いとこの今日子が一緒に暮らすことになったと告げられる。
SFチックな設定で、未来の高校生とその30年前の女子高生を対比させる内容でもある。今日子は95年から来たというよりは、昭和代表という感じを前面に出している。ゲームのマリオや北斗の拳であろうマンガが出て来たりして、未来というよりは現代の文化を皮肉っているようなくだりもある。95年なら、ディスコはもうクラブと呼ばれていただろ、などと突っ込んでしまった。
かつて宮下奈都にも同じように感じたことがあったが、さりげない直喩の表現がなかなか変わっていて面白く、感覚的にくすぐられた。
三浦しをん氏は、直接的に感情的な部分はないけれど、優しさがにじみ出ている、というような事を書いていたが、けっこう感情出てる、と思った。一穂ミチは、ふだんはBL(ボーイズラブ)ものを書いていて、しをん氏はずっとファンらしい。
学生は、やっぱ夏かな。興味深い刺激ではあった。
坂東眞砂子「山妣(やまはは)」
重厚で、怪しく、妖しい。迫力に押される直木賞受賞作。
明治初期、村芝居の指導のため、師匠とともに新潟の山村を訪れた浅草の役者、涼之助。地主の世話になっている涼之助の若く色気を漂わせるその容貌は、地主の若旦那鍵蔵の妻、てるの気を惹きつける。
山妣とはやまんばのことである。文明開化の流れから遠い山村で起きる騒動と悲劇は、人のなりわいというものを浮き彫りにする。暗く閉じ込められたような雰囲気の出だしだが、張り詰める緊張感と次々に起きる事件で、グイグイと読み進むことが出来る。
上巻に悲哀があり、下巻は解決編、といった感じでドドーッと進む。息次ぐ暇も無い迫力と山の描写に圧倒される。
1996年の直木賞、ということでかねがね興味を持っていた。坂東眞砂子らしく、エロと怪奇、妖しい人間描写が詰め込まれているかと思って読んだら、予想通り、それ以上の大河ドラマだった。
当時の直木賞選考委員の評にある通り、下巻は物語を納めるために、ピースをはめていくような、ちょっと都合のいい感触を持たないでも無いが、それでも随所にある、力と美と虚しさのある文章には惹きつけられた。
好みかと言われると少し外れそうな気はするが、久々の大作に溺れることが出来た。
恩田陸「木漏れ日に泳ぐ魚」
うーん、恩田陸らしいけど、まあスルーな一冊だった。
あるアパートの部屋に、明日はお互い別のところに引っ越す、若い男女、千浩と千明がいた。家具が無い部屋で、2人は酒肴を買って来て飲み始める。2人は互いに、相手が、ある男を殺したのではないかと疑っていた。
芝居が映画のひと企画のような話である。部屋の中では、最後の晩に、ふんだんな回想があり、推理があり、そして愛憎劇が繰り広げられる。
ネタもあるようなないような、そんなにインパクトの強いものではない。ひたすら、果てなく表現が続き、男女の関係をとりとめもなく修辞的に考えている感じだ。
恩田陸の作品を、第1作「六番目の小夜子」からしばらく読んだ身としては、思いつくいろんなシチュエーションや仕掛けを、全部やってみてる人、という感じだが、これもそのひとつだろう。
まあそんなに、だったな。
島本理生「生まれる森」
天才少女だった島本理生、21歳の刊行第3作。若い恋愛小説だけど、このタッチと、表現は好ましいものがある。My Favorite.
前の恋が原因で心も身体も傷付いた女子大生の「わたし」は、夏休みの間帰省する友人の部屋で一人暮らしを始める。高校の同級生、キクちゃんに誘われて、「わたし」はキクちゃんの父や、兄の雪生、弟の夏生とともに山へキャンプに出掛ける。
恋に破れ、壊れてしまった、若い女子が主人公。誰しも経験があるか、近しい人にありそうな話。回想や、傷ついた心が生み出す行動や、主人公が見る風景の描写が痛々しい。恋愛ものは苦手というか、趣味じゃないんだけど、たんたんとした語り口にちょっとじくじくした痛みを感じた。
島本理生は、15歳で注目され、20歳の時「リトル・バイ・リトル」で野間文芸新人賞を最年少で受賞、さらに芥川賞候補作となった。以後に書いた「ナラタージュ」が恋愛小説の白眉としてベストセラーに入った。「生まれる森」は「リトル」と「ナラタージュ」の間に書かれた作品。
私自身は、「リトル」を読んで、そのみずみずしさに感心し、「ナラタージュ」を読んだが、長編ではかなり感情的なものがたるむことを発見し、今回「リトル」と同じくらいの長さのこの作品を再び気に入った、という感じだ。やはり島本理生は200ページ足らずの、このくらいの方がいんじゃない?
先にも書いたが、恋愛ものは苦手だし、ストーリーが好きだとは言わない。でもこの表現方法、タッチ、ちょっと北村薫が入ったような、淡々とした、さらに冷静で計算されたエピソードと描写は、ストン、と落ちるものがある。幼少の頃からガチガチの読書家だという彼女の、所々に出てくる本のセンスも目を引く。また折にふれ読もうと思う。
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