2016年8月29日月曜日

秋?





写真は、すごく美味かった、シラスとズッキーニのパスタ。ある日のランチ。

さて、ほんの少し、というのは、夏の最盛期は朝8時にはすごく暑かったのに、今週は暑く感じなかったとかささいなことなのだが、土曜日に、一気に涼しくなった。日中のひなたは30度を超えてるかもだが、影はかなり涼しい。この時期としては強い寒気が入り込んでるんだそうで、台風が運んでくる暖かい湿った空気とぶつかるため、日曜日は雨が降るとのこと。

そう、日本の南には、史上稀に見る、南大東島付近からの「Uターン台風」がいて、これが強力になって日本付近に来るから恐れていたが、東日本の方へ行きそうだ。

まあ、というわけで、涼しい土曜日はまた本屋に行った。息子は夏休みの宿題で今回単独行。

ここのところの状況は、ブックオフで買った数冊の積み残しに、最近文庫新刊で欲しいものが多く、積ん読が2冊あり、1つはかなり分厚い。こりゃ来週までは楽に在庫は足りるだろう、しかも8/31にはまた読みたい本が発売される。当面いいか、とブックオフに行くのはやめる。

きょうは買っても1冊だよね、と思い、最初は「黄色い部屋の謎」の続編「黒衣婦人の香り」を探したが無し。しょうがないからかつて江戸川乱歩が決めたという海外ミステリーベストテンの「赤毛のレドメイン家」とか「赤い館の秘密」とかを見つけてはワクワクしていた。これら古典ミステリーは正月にトライで残りは来年の8月ミステリー特集かな。

また、岩波文庫でハッブル「銀河の世界」を探したが無かった。いずれ読みたいな、と思っている「タタール人の砂漠」はあったが、きょう買う気にはならず。

友人にSFものと、児童文学ものを薦められたので、SFを眺めてから児童書コーナーへ。翻訳ものが多くて、「レオポルド・ショヴォー」という作家の本を目を皿のようにして探したが、無かった。なんだきょうは買うのやめか、と思い、ふと目を上げると、そこに、上橋菜穂子「月の森に、カミよ眠れ」を発見した。

私は上橋菜穂子の「守り人」シリーズは全部読んで、「獣の奏者」は敬遠、「鹿の王」は文庫待ち。シリーズではない「狐笛のかなた」を昨年読んで、「月の森」は「狐笛」と同じように大人の文庫に入っていると思いこんでいたので、いつか見つけられるさ、と軽く探し続けていた。児童書コーナーにあったとは盲点だった。さっそく購入。ちょっと難しい漢字にはルビ入っている。なんか不思議な気分だ。

帰りのバスまで時間があったので、いくつか先のバス停まで歩く。途中後輩夫妻と会う。コンビニの近くにある目的のバス停に着いてもまだ20分くらい時間がある。他社のバスは無かろうなと時刻表を見た瞬間、目の前にバスが滑り込んで来た。前に出たバスが、渋滞にはまり遅れたらしい。ラッキーと乗っかって帰った。息子は無事水溶液の実験キットで夏休みの自由研究を済ませたらしい。

涼しいからワンコを散歩に連れ出す。ダックスは足が短いから、路面の温度が上がる夏は陽のあるうちはとても散歩させられない。久々の夕方散歩。早々に帰って、村上春樹の本を読み終えて、ご飯風呂寝かしつけ完了させて、上橋菜穂子のさわりを読んだ。これ、ちょっと児童書としては難しいかもな・・。で、就寝。前々日までは、寝ている間の熱中症を警戒していたのがウソみたい。

翌日曜は、予定通り、日がな1日、きのう買った本を読んでいた。もう、それだけ。土曜よりは暑く、寝るときにちょっとだけエアコンをつけた。父から巨峰送ってくる。次週台風が行ってからは暑くなるそうだ。残暑も含めて秋かな。

2016年8月22日月曜日

読書を語り合う





オリンピック、女子バスケットの快挙を語ろうと思っていたが、なんか旬が過ぎたので、また別項に譲ろう。一段落だけ。

これまで男女とも、世界を相手にすると、ナイーブな戦いを続けていた日本のバスケ。それが世界に通用するようになり、世界ランク2位に勝っちゃったりした。以前の薄い関係者として心から誇りに思うし、ついにこんな日が来たか、という思いである。世間はもっと騒いで欲しい。

さて、高校野球も、伝統校同士の決勝戦となり、作新学院の優勝で幕を閉じた。ここ数年充実しているバッティングに加え、今年はエースの今井が素晴らしかった。おめでとう。

暑いので、お休みでも、なかなか出掛けない。そもそも、出不精である。ブックオフも行きたいけど暑いしなあ、で終了。よくないな。

そんな中、高校のミニ同窓会があった。帰省途中に大阪に立ち寄る者が居るから集まろう、との事で土曜の夕方から呑んだ。そのゲストくんは、私は2年の時の同級生で、読書好きという噂は聞いていたが、今回ヒットだった。

どんなん読んでいるかリストを見せたら、坂東眞砂子に反応した。ほとんど読んでるという。私は、これまで私以外に坂東眞砂子を読んでる人を知らなかったので大いに意気投合。互いにオススメを教えあった。彼はSFが好きみたいである。帰り道が同じ女子から垣谷美雨も勧められ、調べもので忙しくなり、嬉しい。わしゃやっぱり本好きなんだな、と思う。

8月ミステリー特集してるけど、7冊で終了。分厚い本格ものをずっと読んでると、そもそも女子系には気が詰まる。

来月の本も調達しなきゃで、出不精もいいかげんにしなきゃあねー。

2016年8月17日水曜日

猛暑・山上・567





盆休みは、高野山で過ごした。妻の実家である。家族3人と犬2頭で大移動。標高900メートルの、弘法大師さまの山へ。

着いた当日はお盆恒例のろうそく祭りがあって、息子は3回目くらい、私は初めて行ってきた。墓が並ぶ有名な参詣道の両側にろうそくが並ぶ夜のお祭り。ろうそくは地元で用意してあってたくさんくれる。最初5本くらい、参詣道の途中でもくれる。今年はギネス記録に挑戦してるんだとか。

ろうそくを棒に刺したもの、に点火し、道の両側に並べられた、発泡スチロールにアルミホイルを巻いた平らな板のようなものに差していく。外国人を含め人が多く、狭い参詣道は行列、火に取り囲まれているから暑い。

絵になるからか、本格的なカメラを持ってる人も目立つ。けっこう長々と歩いて、途中で折れて、臨時の屋台村へ抜け出す。とにかくのど乾いたからポカリ系を買い、飲む。くじをしておもちゃをもらい、ベビーカステラ買って帰った。

私が夏にじっくり泊まったのはもう15年くらい前に遡る。高校野球が終わった後で、すごく涼しく、昼寝しやすい環境だった憶えがある。今回も高をくくって、長袖まで持ってったのに、とても暑かった。朝は涼しかったし、下界とまったく同じとは言わないが、なにせ実家は冷房いらずの土地柄、エアコンというものが無い。扇風機も無い。いやホンマ。

寝つくときに汗ダラダラかいたなんて最近ほとんどない私や息子は、なかなか苦戦した。日中も家の中にいる時間が多いがやはりとても暑いのだ。夜のある時間を過ぎると寝やすいくらいになり、朝はさすがの高地、下界よりはちょっと寒い。

義母によると、こんな夏は初めてだ、ということだが、義弟は去年やおととしの方が暑かったと言っていた。うーむ、地球温暖化がついに山深い密教の地まで?

オリンピックは別項で書くとして、高校野球も注目して見ていた。東邦の大逆転、横浜対決履正社のビッグゲーム、接戦に強い、広島新庄の活躍などなど。義母と息子と3人、暑い部屋であれこれ言いながら観戦していた。

私は3日めの最終日単独で、霊宝館。国宝、重文がたくさんあって、いつもながら、楽しい。快慶の木造彫刻は動きがあって圧倒される。平安時代の筆の文字も、めっちゃ上手。漢文で、我々と1000年前の人と、書く字が同じ、というのは何かしら感慨も覚える。

兜率天にいるという弥勒菩薩は、釈迦入滅から56億7000万年後に現世に下り、説教をするという。そこに弘法大師さまも同行するとか。夏の木々に囲まれた霊宝館も癒されたが、このスケールの大きい話に触れたことが私には刺激だった。

夜帰って寝るときに冷房を使う。やっぱりこうでなくっちゃ〜。ホッとする都会人なのでした。

2016年8月8日月曜日

祭り





オリンピックの男子サッカー、テレビを横目で観ていた。

なので詳しい戦況は分からないし、初戦黒星は痛いのは確か。しかし、個人的には悪くないと思う。

ひとつは、こういった大会は、「入り」が大事だと思うから。敗戦という結果と相反して読めるかもしれないが、まあ、こう思っている。

日本は、ナイジェリアの個人の身体能力を生かした攻守に、序盤からだいぶ慌てさせられたと思う。否応なくオリンピックに出場している強豪のレベルに合わせさせられたという訳だ。その状況の中、失点の数は多いが、最後まで諦めず、4得点という結果を出したことが大きい。

最初から否応なく、自分たちの全力を(ひょっとして全力以上を?)出すことになり、期せずして結果もそれなりについて来たことは、「入り」としては悪くなかったと思う。

もひとつは、重なる部分もあるが、「得点」が出来たこと。これまで何度大会で得点力不足と言われたことか。点が入らないと、やはり空気が重くなる。ケチャップのフタを、ナイジェリアの助けがあって、自ら開けることが出来た。いいイメージがついた。

結果を改めて捉えてみると、得失点差は−1。総得点は多い方がいい。グループリーグ突破のレギュレーションは調べてないが、今後有利に働くと思う。コロンビアとスウェーデンが引き分けたのも好材料だ。

次には勝利が必須となるが、希望は感じさせる。ここが勝負どころだ。楽しみである。

その翌日は、恒例の、ふもとの小学校の夏祭り。息子が独りで行動したがるので、充分な注意をして、待ち合わせ場所を決めて、パパは暗くなるまでは、ステージ前の椅子で読書タイム。暗くなってからはケイタイ。暑いが、もうしばらくしたら朝晩涼しくなるし、まあ、風情だね。最後余ったチケットでパパも久々にラムネを飲んで帰った。

家でオリンピックの女子バレーを観る。最後まで応援したが、韓国に1-3の負け。出だしは良かったが・・。

韓国のサーブが良かったこと、こちらの攻撃がパターン化したこと、などが敗因か。どうもメンタルが弱そうに見える。キャプテン、ベテランが勝負どころでミスるのも気に入らない。世界のスパイカー、キム・ヨンギョンはやはり凄かった。ほんとうに悔しい。

次戦はスカッと勝ちたいものだ。それにしても、「ハイキュー!」読んでると見るところが変わるな。リベロのサーブカットやトスの難度とか、サーブの打ち方とか見てしまう。息子は「めっちゃ面白い〜!」とアニメ観るのをやめた。

日曜日は高校野球。熱戦続きで、やっぱりいいなあーと思った。出雲も九国大付もよくやった。

オリンピックはスポーツの祭典、夏の甲子園は学生野球の祭典、地域のお祭りともども地元民の楽しみ。一気に花開いているこの数日だ。

2016年8月1日月曜日

7月書評の3




今月は張り切って?12作品13冊。久しぶりに多かった。

webで文庫新刊を探すのは愉しみのひとつ。6月は多い方、7月は無くて、8月は3つかな。ミステリー特集ということで9月へ先送りだが、めっちゃ愉しみである。

一穂ミチ「きょうの日はさようなら」

ふむふむ。新聞で三浦しをんが薦めていたのを読んで買ってみたラノベ。それなりに面白かった。

2025年夏、東京。双子の高校生、明日子と日々人は、父から、1995年に17才で重体となり冷凍睡眠で生き延びた、いとこの今日子が一緒に暮らすことになったと告げられる。

SFチックな設定で、未来の高校生とその30年前の女子高生を対比させる内容でもある。今日子は95年から来たというよりは、昭和代表という感じを前面に出している。ゲームのマリオや北斗の拳であろうマンガが出て来たりして、未来というよりは現代の文化を皮肉っているようなくだりもある。95年なら、ディスコはもうクラブと呼ばれていただろ、などと突っ込んでしまった。

かつて宮下奈都にも同じように感じたことがあったが、さりげない直喩の表現がなかなか変わっていて面白く、感覚的にくすぐられた。

三浦しをん氏は、直接的に感情的な部分はないけれど、優しさがにじみ出ている、というような事を書いていたが、けっこう感情出てる、と思った。一穂ミチは、ふだんはBL(ボーイズラブ)ものを書いていて、しをん氏はずっとファンらしい。

学生は、やっぱ夏かな。興味深い刺激ではあった。

坂東眞砂子「山妣(やまはは)」

重厚で、怪しく、妖しい。迫力に押される直木賞受賞作。

明治初期、村芝居の指導のため、師匠とともに新潟の山村を訪れた浅草の役者、涼之助。地主の世話になっている涼之助の若く色気を漂わせるその容貌は、地主の若旦那鍵蔵の妻、てるの気を惹きつける。

山妣とはやまんばのことである。文明開化の流れから遠い山村で起きる騒動と悲劇は、人のなりわいというものを浮き彫りにする。暗く閉じ込められたような雰囲気の出だしだが、張り詰める緊張感と次々に起きる事件で、グイグイと読み進むことが出来る。

上巻に悲哀があり、下巻は解決編、といった感じでドドーッと進む。息次ぐ暇も無い迫力と山の描写に圧倒される。

1996年の直木賞、ということでかねがね興味を持っていた。坂東眞砂子らしく、エロと怪奇、妖しい人間描写が詰め込まれているかと思って読んだら、予想通り、それ以上の大河ドラマだった。

当時の直木賞選考委員の評にある通り、下巻は物語を納めるために、ピースをはめていくような、ちょっと都合のいい感触を持たないでも無いが、それでも随所にある、力と美と虚しさのある文章には惹きつけられた。

好みかと言われると少し外れそうな気はするが、久々の大作に溺れることが出来た。

恩田陸「木漏れ日に泳ぐ魚」

うーん、恩田陸らしいけど、まあスルーな一冊だった。

あるアパートの部屋に、明日はお互い別のところに引っ越す、若い男女、千浩と千明がいた。家具が無い部屋で、2人は酒肴を買って来て飲み始める。2人は互いに、相手が、ある男を殺したのではないかと疑っていた。

芝居が映画のひと企画のような話である。部屋の中では、最後の晩に、ふんだんな回想があり、推理があり、そして愛憎劇が繰り広げられる。

ネタもあるようなないような、そんなにインパクトの強いものではない。ひたすら、果てなく表現が続き、男女の関係をとりとめもなく修辞的に考えている感じだ。

恩田陸の作品を、第1作「六番目の小夜子」からしばらく読んだ身としては、思いつくいろんなシチュエーションや仕掛けを、全部やってみてる人、という感じだが、これもそのひとつだろう。

まあそんなに、だったな。

島本理生「生まれる森」

天才少女だった島本理生、21歳の刊行第3作。若い恋愛小説だけど、このタッチと、表現は好ましいものがある。My  Favorite.

前の恋が原因で心も身体も傷付いた女子大生の「わたし」は、夏休みの間帰省する友人の部屋で一人暮らしを始める。高校の同級生、キクちゃんに誘われて、「わたし」はキクちゃんの父や、兄の雪生、弟の夏生とともに山へキャンプに出掛ける。

恋に破れ、壊れてしまった、若い女子が主人公。誰しも経験があるか、近しい人にありそうな話。回想や、傷ついた心が生み出す行動や、主人公が見る風景の描写が痛々しい。恋愛ものは苦手というか、趣味じゃないんだけど、たんたんとした語り口にちょっとじくじくした痛みを感じた。

島本理生は、15歳で注目され、20歳の時「リトル・バイ・リトル」で野間文芸新人賞を最年少で受賞、さらに芥川賞候補作となった。以後に書いた「ナラタージュ」が恋愛小説の白眉としてベストセラーに入った。「生まれる森」は「リトル」と「ナラタージュ」の間に書かれた作品。

私自身は、「リトル」を読んで、そのみずみずしさに感心し、「ナラタージュ」を読んだが、長編ではかなり感情的なものがたるむことを発見し、今回「リトル」と同じくらいの長さのこの作品を再び気に入った、という感じだ。やはり島本理生は200ページ足らずの、このくらいの方がいんじゃない?

先にも書いたが、恋愛ものは苦手だし、ストーリーが好きだとは言わない。でもこの表現方法、タッチ、ちょっと北村薫が入ったような、淡々とした、さらに冷静で計算されたエピソードと描写は、ストン、と落ちるものがある。幼少の頃からガチガチの読書家だという彼女の、所々に出てくる本のセンスも目を引く。また折にふれ読もうと思う。

7月書評の2




8月がミステリー・ホラー特集で、日本ものはほぼ予定の本は購入ずみ。外国ものを2、3買い足したい。東京にいた頃は、ミステリーといえば、みたいな扱いをされた事もあるが、有名どころも読んでなかったりする。今回はまあ、興味のある作品を少し、てな感じかな。洋ものは。

関口尚「空をつかむまで」

やば、久々に泣いてしまった。中学生たち、ひと夏の物語。

中学3年生の優太は、小学生の頃は県選抜に入るほどのサッカー選手だったが、中学では伸びず、膝に怪我もしてサッカーをやめていた。無理やり入部させられた水泳部には、ちょっと鈍くてカナヅチのモー次郎と、「姫」と呼ばれる天才スイマーがいたが、ある日「姫」が顧問ともめ、部が解散になってしまう。

物語には、姫とつきあっている優太の幼なじみの美月も登場するが、この4人のそれぞれの環境や過去の経験に歪みがある。また市町村合併により、優太たちの中学校は廃校となる、などの事情、クライマックスがトライアスロン、というのも現代的な背景設定で、うまく舞台の雰囲気を出している。

その舞台設定の中を、中学生によくある、成長過程でうまくいかないこと、その中の友情、家族の情景を織り込みながらストーリーが流れていく。やはり、夏、というのは学生ものの定番か。ノスタルジーをも感じさせる。

泣かせどころが設定されていて、予定調和でなんか映画のような感じもするが、やっぱり泣いてしまう。ラストは劇場的なシーンを、淡々と綴る感じがまた涙腺をくすぐる。

関口尚は、この作品がいい、とどこかで読みかじり、先に読んだデビュー作「プリズムの夏」がそれなりに面白かったこともあり、どこかで今作を読もうとは思っていた。

少しくストレートで、材料も揃いすぎていてるから、途中でちょっと飽きてしまった感があったり、文中の会話などちょっと拙いな、そうか?と思える部分もあった。でも満足感が残った。

塩野七生「ロードス島攻防記」

トルコvs西欧世界もの第2弾。今回は登場人物も少なく、分かりやすかった。

小アジアに近接している東地中海の島、ロードス島は、各国の騎士で構成され、キリスト教徒を異教徒から守る目的を持った聖ヨハネ騎士団が本拠地を置いていた。騎士団は、近海のトルコ船を襲う海賊としても名を馳せていたが、トルコのスルタン、スレイマーンは、この「イスラムの喉にひっかかった骨」を排除すべく、大軍を送る。

物語の時代は1522年。およそ80年前にコンスタンティノープルを落とし、東ローマ帝国を滅亡させたトルコは、さらなる領土拡張の野心を持っていた。西欧キリスト教の世界は危機感を覚えてはいたものの、内輪の揉め事にかまけ、大きな援軍は来ない状況。そんな孤立状態の中での、城塞攻防戦が展開される。

一部、若い騎士アントニオと、名門出身の騎士オルシーニの目線からのストーリーになってはいるが、やはり歴史的背景と、攻防戦の詳細が面白い。

計算されて構築された城塞を物量で攻めるトルコ。前回のコンスタンティノープルの攻防からは80年経っていて、その間の進歩も語られる。その点、築城技術者のマルティネンゴを出しているのはヒットだった。

前回の「コンスタンティノープルの陥落」では、かなりの数の登場人物がけっこうバラバラに出てくるから、最初の把握がしにくかったが、今回はそんなことはなかったし、前作よりは地図も参照できた。
 
しかしこれ、昭和60年の作品なんだけど、本当に面白い。

さて、中世のトルコvs西欧世界の三部作、次は最終作の「レパントの海戦」だ。

伊藤たかみ「八月の路上に捨てる」

芥川賞受賞作。なかなかやるな、と思う。たまに純文学も悪くない。

結婚4年目で、妻の智恵子との離婚手続きをしているアルバイトの敦と、バツイチのシングルマザーで正社員、明日から総務部に移る水城さんは、2人で自動販売機の飲料補充に回っている最中だった。忙しく仕事をしながら、2人は離婚について、男女についての会話を交わしていく。

短編集で、2006年の芥川賞作品である表題作は80ページくらいの長さ。あと小作2つが収録されている。

一言で言うと、芝居ものか、短編の単館系映画か、というような作りだった。

妙齢の男女が、外回りの作業を忙しくしながら、少しずつ話をしながら、敦は智恵子と、ここまでなってしまった成り行きを思い出していく。最初は、しょーもない浮気話か、と思わせつつ、だんだんと深くなっていく仕掛けだ。水城さんの描き方も、逞しくかつ少し色気を漂わせて、ラストに繋げている。

また大都会東京に膨大にある自動販売機の管理、誰もが見たことがあるだろうカン、ビンの飲料の仕事、暑い夏の終わり、トラック、セクハラと、雰囲気作りもうまくされていると思う。これはこれで、一つの形だろう。

私は大衆小説の賞である直木賞ものはよく読むのだが、純文学の芥川賞はあんまり読まない。うーん、わからん、となりがちだからだが、去年上位に入った楊逸の作品は芥川賞だった。これは短編だが、分かりやすく感じやすい作品だと思う。

ちなみに、伊藤たかみは、直木賞作家角田光代の元夫で、離婚して、すでに互いに別の相手と再婚している。へ〜〜、てな感じだ。

志川節子「春はそこまで  風待ち小路の人々」

うん、気持ちいい、オトナの、江戸人情ものだった。これも探して、見つけた1冊。

関東のお伊勢様とも呼ばれる芝神明社に近い「風待ち小路」。絵草紙屋の主人、粂屋笠部兵衛は、奉公から戻ってきた息子・瞬次郎がまだ一人前になったようには見えず、心配していた。笠兵衛はすでに妻を亡くし、妾のお孝をかこっていたが、ある日、子供が出来たようだと告げられる。(冬の芍薬)

風待ち小路の商売人たち、親の代、子の代、そして女たちの話を綴った連作短編集である。第3話までは、主人公がそれぞれ変わる。そしてその後は、物語は大きな流れを持って動く。

出演するキャラたちを上手く活かして組み合わせているし、アダルトな事もさらりと混ぜて、また商売の工夫や彩りも好ましい。そうした仕掛けが、最後の大団円を良いものにしている。

一時期直木賞にこだわって読んだ私は、「直木賞のすべて」というHPをいまも愛読している。この作品は、2012年下半期の直木賞候補作で、読みたいな、と思って探していた。ちなみにこの回に取ったのは、朝井リョウ「何者」、安部龍太郎「等伯」である。

菊池寛が「商売のために」と作った直木賞。その候補作には、地力のある作家の作品もあれば、前作で評判の良かった作家の次作、売り出したいな、という意図が見えるような作品もあるが、私は直木賞のクオリティはそれなりに信用している。候補作は、少なくとも何かの特徴のある力作が多い。ハズレと感じるものも確かにあったが(笑)。

この作品も、期待を裏切らなかった。



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7月書評の1





土日の1日は外に出て、主に書籍をあさる、のが週の恒例だが、この殺人的な暑さに辟易して家に籠る。2日で2冊。読書は進むが何もしない。なぜ夏はこんなに暑いのだろう。薬師寺とか行きたいところいっぱいあるのに足が向かない。学生時代、秋休みにヒマを持て余していたのがもったいなく思える。まあ、金も無かったし、九州は行くとこ限られてたんだけど、当時は。

朝井リョウ「世界地図の下書き」

うーん、子供の悲しい話は、胸に来てしまうな。

小学3年生の太輔は、児童養護施設「青葉おひさまの家」に来たばかり。同じ班には、同級生で関西弁の淳也、1つ下の美保子、淳也の妹で2つ下の麻利と、中学3年の佐緒里がいた。施設ではバザーで皆が作ったキルトを売ることになっていたが、当日誰かがキルトをめちゃくちゃにしてしまう。

それぞれが、親や親代りの親族に問題があって施設に入っている。親年代からしたらやはり痛々しくて、考えてしまう。

これは児童文学のジャンルに入るんだそうだ。最近多い。状況説明から入り、それぞれの事情が動いた後、それらが続き、絡みながら、クライマックスへ向かって突き進む。

仕掛けは面白いし、映像的で、パワフルだ。朝井リョウ独特の表現の妙もあり、時折クスッとなったりする。バックボーンが辛いだけに、逞しさと、必死さが目立つ。いやーなかなか。

組み立てはテクニカルで、読み込んでしまうし、ひとつに向かって分かりやすい。ただ、朝井リョウらしさが、今回は、おとなしい、かな。

ともあれ、また次作が楽しみだ。

川上哲治「遺言」

巨人最強時代の監督。厳しい。でも、それが心地よかったりする。

2001年の発行、川上氏81歳の時の書である。日々技術が進歩しているスポーツのとしては古いものだが、興味を覚えて読んでみた。

もちろん、その時代のプロ野球のことも書いておられるが、論の中心は、自分がジャイアンツV9の監督時代のことだ。選手に厳しい、コーチに厳しい。移動日でも練習をする、球団を家族だと考えることなどがつらつらと書き連ねてある。

古い野球観、と言うのは簡単だが、昨今のプロ野球の、伸びきれない選手、勝ちきれないチーム、プロ野球ブーム、などを見ていると、こんな厳しさとか哲学はむしろしっくり来るように思える。巨人を中心にした1リーグがいいのではないか、という主張も、この本を書いた頃と氏の活躍した時代を考えれば、今は許す気にもなって来る。

長嶋茂雄氏が現役を引退した時、時のオーナーは川上氏に、長嶋の好きにやらせたいから君は少年野球教室をしていろ、と命じたらしいが、私はその恩恵に預かり、福岡で野球教室に参加した。そこで教えてもらった、投げる時は、投げる手の甲が正面を向くように、というのはその後ずっと覚えていてその通りにやっていた。

東京に暮らしていた際、犬の散歩をしていて、たまたま氏の自宅を見つけたこともあった。熊本工出身だけに愛着もある。

残念ながら鬼籍に入られたが、このようにまっすぐな、思わず畏怖してしまうような野球人がまだまだいて欲しいと思う。

舞城王太郎「阿修羅ガール」

マシンガン文章と発想飛び飛びはまあ持ち味か。相変わらずそれなりに面白い。

アイコは合コンの帰りに佐野とラブホに立ち寄ったが、コトの後猛烈にムカつき、佐野の顔面にキックをかまして帰宅する。翌日、女子トイレに呼び出されたアイコは、佐野が行方不明で、切断された足の指と脅迫状が佐野の両親に届いた、と知る。

人は物事を考える時、かなり短い時間のうちに、ものすごく沢山のことを心に浮かべているものだ、と私は思っている。舞城王太郎を読んでいつも思うのは、それを全部言葉にしようとトライしているのでは?という事だ。

モノローグ形式で、マシンガンのような独白があり、バイオレンスもありで、今回は物語の真ん中に、心象風景や、不思議な現象のつなぎ編とでもいうべき章が入っていて、かなりテクニカルだ。発想があちこちに飛んで、また映画をインスパイアした設定の章もあり、ちょっとだけ洒落てもいる。 

舞城王太郎は覆面作家で、この作品で三島由紀夫賞を獲った時、授賞式を欠席した。また、たびたび芥川賞の候補に挙がっているが、審査員の作家さんにも推す人がいる一方で、石原慎太郎には「タイトルを見ただけでうんざりした」宮本輝には「面白くもなんともないただのこけおどし」などと言われた。周囲でも好きな人は好き、という感じである。

私はデビュー作「煙か土か食い物」、「世界は密室で出来ている」、「ビッチ・マグネット」と読んだが、たま〜になら読むから、そのハチャメチャさを続けてて欲しいな、てな感じだ。まあ、確かに純文学の香りもしないでもないのだが。

長野まゆみ「天然理科少年」

長らく探していた本。見つけた時はなかなか感動した。中身は、うーむ、軽いミステリーホラー?  

父と共に居所を転々とする生活を送っている男子中学生、岬は、新たな引越しの際、とある山間の中学校に転入する。駅で出会っていた白水(しろうず)と再会した岬は、学校を休んだ彼の見舞いに行こうとするが、クラスの中心的存在、西浦から、関わらない方がいい、と止められる。

いつも通り、もう少し少年同士の機微を丹念に描くかと思いきや、話は意外な方へ進んだ、という感じだな、今回は。まあでも好きな方向ではあるんだけど。

こちらの方は相変わらず、小難しい当て漢字を使ったり、自然の動植物を詳しく取り入れたり、中にはたぶんこれ実在しないよね、というテイストのものを混ぜたりするレトロな感じは独特で楽しく、くすぐるところはあった。

どこかで感動できる本、と読みかじり、ずっと一般書店でも探していたが、なかなか無かっただけに、ブックオフでいい状態で見つかった時はちょっと震えた。

感動したか、はともかくとして、長野まゆみはやはり読ませる。フツーじゃない感じがいい。また、次を目指そう。