2016年5月20日金曜日

頭脳と肉体





サラリーマンにつきものの、異動である。どんな仕事でも愛着はあるもの、とは過去言い切れなかったが、今回は、男は引き際が肝心、という言葉を大切にしようと思う。

休日当たり前に出ていた生活から、東京時代のような土日休みへ。うーん、平日休みの方がやっぱり活動しやすいんだけどな(笑)。

まずは勉強。そしてライフスタイルを確立する。しばらくかかるかな。

机の整理をしてたら、思いがけず1歳の頃、おじいちゃんと写った写真が出てきた。私が4歳の時に60歳で逝ったおじいちゃん。私は起きたら家の中を走っておじいちゃんの膝に座りに行った。

生きてたら103歳。おじいちゃんは電力会社の人員として戦中に北支に渡った。

あの頃から47年経ったよ。おじいちゃんも時代とともに苦労したけれど、孫はあれこれしながらも、社会人も晩年にさしかかってますよ。いま会いたいなー。

2016年5月8日日曜日

GWのお弔い





深夜に妻は出かけて行った。朝、息子を起こして用意をさせているときに電話。亡くなった、とのこと。軽く打ち合わせ、家庭訪問日延べの電話を小学校にして、息子を送り出す。

この日の午前中に喪服の確認や持っていくものの手立てをしていればと後で軽く悔やんだが、深夜に妻が出てしまい、不安そうな2匹の犬を落ち着かせる必要もあって家にいた。息子が帰ってきて、着の身着のままで出た妻もいったん帰宅。皆お風呂に入って、支度をして、夕方出る。

高野山に着いて、荷物を解いて休む。久しぶりに、喪主である妻の弟に会う。私は今回喪主サイドの貴重な男手。妻義弟ともに寝てないので、この日は私が徹夜でお線香の番をする。

翌日は日中はゆっくりして夕方出る。斎場でお通夜。小ぢんまりしたものだった。親戚方と談笑する。斎場に泊まり。和室に布団。息子喜ぶ。

翌日は午前中に告別式。斎場を出て火葬場。父方の祖母が亡くなった時以来で、20数年ぶりだった。午後遅く料亭で食事。お骨を拾って家に納める。息子も拾った。

あれこれは書かない。斎場の隣の竹やぶに、天をまっすぐ目指して伸びた筍が目に付いた。新緑鮮やかな紀州の山。阿蘇を思い出す。火葬場からは、新緑に混じって、まだ散らないヤマザクラだろうか、が見えた。

これが人生だ、と思う。妻と結婚したのはもう18年も昔。元気だった父母の代も年老いた。今はただ安らかに、とだけ祈る。

2016年5月3日火曜日

New Green





なんてこたない、「新緑」というのを英語にしただけだ。毎日山を歩いてバス停までの新緑が眩しい。また駅から我が山のほうを見ると、深緑に新緑の黄緑が混ざって絵画のよう。

こう、緑は眩しい季節だが、まだまだ気温は乱高下して、ウイークデーは暑めだったが、朝晩は冷えるし、金曜土曜は風も吹いて寒かった。

火曜はおなじみ、2ヶ月に1回もやってる割には出席率が馬鹿にいい高校同窓飲み会。ふだん飲み会はあまりないからか、ビール数杯にチューハイ2杯で、早々に解散したものの、寝たら前頭部の激しい痛みで目が覚め、しばらく頭痛で眠れなかった。こんなん初めてだ。明け方はようやく眠れて、なんか、飲み会に出席していた同窓生の女子に、なぜかふとんの上から押さえつけられる夢を見て、息苦しくて目が覚めた。

一応昼からの仕事だったから、朝ご飯食べてまた寝た。もう少し眠りたかったが、ぐっすり睡眠してだいぶ元気になった。酒はトシとって飲めなくなったけど、正直沖縄から帰ってきてからしんどいから、禁酒を考えたほうがいいかもだな。

吹田の新スタジアムに初めて行ってきた。エキスポシティも新設されて、観覧車建設中。賑わいがまた生まれている。新スタジアムは、一言で言えば、ものすごくいい。

四角くて、座席はほぼ屋根に覆われていて3階席まである専用スタジアム。収容観客数もかなり多く、この日は3万3000人が入った。見栄えが良く、応援の声も響く。ヨーロッパの名門スタジアムを小さくしたような、ってかヨーロッパでサッカー見たことないけど、テレビで観るのを参考にすると、そんな感じ。

しかーし、難点もある。駅がモノレールしかないので、帰りは人の波で大渋滞。エキスポシティの客も列に入るから、特に夕方はすごい。しばらく待って思い切って行ってみると、大阪空港方面はぎっしりで、南茨木に向かう門真市方面はそれほどでもなかったんだけど。でもすぐには帰れないし、駅への入場制限がかかることもあるとか。以前はシャトルバスがガンガン出ていたが、今回は見かけなかった。ナイトゲームだけかも知れないが。

もひとつ。喫煙所は少なくともホーム側は1カ所だけ、しかも大きいスタジアムの外。席から遠い距離を移動して、わざわざ長い階段を降りて、人がぎっしりの狭いスペースに入らなければならない。試合終了時は灰皿即撤去。駅へのスムーズな移動にはかなり神経を割いているようだから、人が溜まったり、歩く人への副流煙のことを気にしているのだと思うが、喫煙者にはかなり優しくない。駅前にオープンな喫煙所があるから、そこまではさっさと歩けということか。

私は思うが、喫煙者は少なくないのだ。各施設の喫煙所を見ればよく分かる。アミューズメント施設ならば、野球のスタジアムのように、排煙設備付きの喫煙所は必須。だって何万人も入るんでしょ、と思うが・・。プロ野球のごとく、毎日のように稼働するわけじゃないし、サッカーはタバコを吸うタイミングは確かに限られているのだが。

特に交通は、イベントの数をこなしていくに従って変わって来ると思う。

次の土曜はまた外仕事。帰り道、息子が焼肉食べたいと言ってる、と妻からLINEが。馴染みの焼肉屋で待ち合わせる。息子張り切って食べ始めるが、肉のにおいを嗅いだらどこかスイッチが切れたのか、突然食欲を無くし胃がむかつきだす。パパママ急いで食べて帰った。家ではみたらし団子を美味しそうに食べていたので、ほっとしつつ、あーあ、と思ってたらまたむかつきだして、風呂入ったらすぐ就寝。いつもは遅くまで寝ないのに、この日は8時半に夢の中。熱も無いようだし、まあふだんの寝不足かな。少しは懲りればいいけど。

日曜日は一日家だった。この日からもう5月。よくあることなんだろうが、今年は年明けからドトウの日程だったから、早い、というかやっとGWか、という感じすらする。本読んで、作り置きの昼ごはん食べて、阪神戦を見る。前日は井納を打てず負けだったが、この日は5点差をひっくり返して勝ち。カード勝ち越し。5割スレスレだ。思うに、今年はこの感じが続くかも。

息子と妻の帰りをお迎えして、鉄腕DASH見ながらご飯食べて、ねむねむで息子と就寝。この深夜に起こされる。岳父が危篤との報だったー。

2016年5月1日日曜日

4月書評の3




よく本を借りていた後輩が産休に入ってしまってちょい困った。また開拓せねば。かねてから注目していた宮下奈都が本屋大賞。「羊と鋼の森」私的には「スコーレNo.4」「よろこびの歌」以外みるべき作品はなかったが、今度はどうだろ。ホームズ以外で久々にハードカバー買うかどうか悩み中。

北原尚彦編
「シャーロック・ホームズの栄冠」

ホームズ企画本。趣向を凝らしてあって、なかなか楽しかった。

コナン・ドイルによるシャーロック・ホームズ物語は、56の短編と4つの長編がある。これだけでは足りないと、登場人物や時代設定はそのままに、新たなホームズ・ワトスンの冒険を描くパスティーシュ、ちょっとおふざけを入れたり、有名な同時代人や果ては宇宙人を出したりするパロディものは、現在でも世界中で書き続けられている。

かようにスーパースターであるシャーロック・ホームズ。好きな人をシャーロッキアンというが、この作品はホームズものの著名な訳者の1人である北原氏が、星の数ほどもあるパスティーシュ・パロディの中から単行本に未収録のものばかり厳選して集めた本格的な企画ものである。

「ハーロック・ショームズ」とか、ホームズの名前をちょっとだけ変えた「もどき編」、原作中にさわりだけ書いてある事件に題材を得た「語られざる事件編」、007まで登場する「対決編」(まあすでにドラキュラや火星人などと対決したものも過去あったのだが)などなど、テーマ別に分けてあって面白い。

マニアックかつ、かなりパロディっぽい。まあこの類の本はバラエティを楽しむのが基本。まじめな本格的なものはまた他にもあるし。私もそれなりに読み込んでいる方だが、シャーロッキアン的要素を満足させるお祭り本かと思う。

ホームズものは毎年けっこうなペースで生産されてて、なおかつハードカバーが多いので全ては追いきれない。好評を読みかじったタイミングで、たまたま神保町で安く売っていたから、ほくほくと買った本だった。

長野まゆみ「ぼくはこうして大人になる」

美しさは罪〜♪ 得意の少年もの。今回は、そう来たか、だった。

中学3年生の印貝一(いそがいはじめ)のクラスに、姉の恋人の弟、後藤七月(なつき)が転入してくる。クラスにまったく馴染もうとしない七月は、聡明で世話焼きな一にも冷淡な態度を取る。

「少年アリス」のヒットで固定ファンを獲得したという長野みゆき。私もやられて、読む作家ローテーションに入っている、といってもまだ3冊目だが。

ちょっと古風で、難しい漢字を使って、賢すぎる少年が出て来て、名前が変わってて、やや複雑な人間関係が主な主題で・・などの特徴があると思っているが、今回は、長野みゆきにしては、設定も話の流れもオチも、大衆小説みたいだなあ、と思ってしまった。

修学旅行、進路、家族関係、東京近郊の地方都市・・風景の描写など鮮烈さという意味ではいい刺激だが、ちょっと行動が直接的過ぎて、パタリロの世界だった。

私を〜愛さない〜人は〜いな〜い〜♪

ポール・ギャリコ「猫語の教科書」

猫から見た人間観察、また猫自身の身の処し方。ふふ、と思いながら読んでしまう。

友人の郵便受けの上に不思議な言葉の原稿が置かれていた。筆者はふとした思いつきで解読を始めるが、その原稿には、恐るべきことが書かれていたのだった。

第1章は「人間の家を乗っ取る方法」である。いかにして快適な暮らしを手に入れるか、どうやって猫に対して人間を奉仕させるか、が猫目線で書いてある。おもしろおかしくしてあるのだが、人間、そして猫のことをよく分かっていないと書けない。一歩引いた目線からの表現が面白い。また筆者は子育ても経験した雌の猫で、その語り口調が、いかにもものなれていて、ちょっと色っぽい(笑)。発想&演出勝ちだと思う。
 
第7章「魅惑の表情をつくる」なんて、猫好きにはたまらないのでは?私は犬派だが、あっという間に楽しんで読めた。1995年日本発行の作品で、作者が1976年没となっているから、書かれたのはもっと前である。ふと興味にかられて探した一冊。

解説にはポール・ギャリコは無類の猫好きで、猫を主人公とした「ジェニィ」「タマシーナ」は世界中の猫好きから愛されている、とある。機会があったら読んでみようかな。

4月書評の2




子供の頃読んだ記憶がある本は、「漫画日本神話」、「無人島の三少年」、それに「ベッドタイムストーリーズ」というキリスト教の本だ。当時私は遊び仲間に「本読みきちがい」と、からかわれていた。父にどうしてあんな本を与えたのか聞いてみたいし、いま本が好きなのも生まれつきの資質なのね、とか思う。


原田マハ「ジヴェルニーの食卓」

いやーこれは・・いいねえー。もと美術館員の原田マハ、「楽園のカンヴァス」に続く絵画もの。

マティス、ドガ、セザンヌ、モネといった巨匠の一部の姿を、側に仕えた女性、同僚の女流画家らの目線から捉えた短編集。画家の人生におけるドラマが切り取られていて、いずれ劣らぬ気持ちのいい作品となっている。直木賞候補作である。

マティスとピカソの邂逅、ドガの「闘い」と社会の貧困、セザンヌを崇拝する後の巨匠たちの若者時代、「睡蓮」を軸とした、モネの人生のストーリーなどが描かれていて、とても魅力的だ。

原田マハといえば、ルソーとピカソの話を描いたサスペンス調も含む「楽園のカンヴァス」という作品が山本周五郎賞を取り、直木賞作家候補になった。私もこの作品には感銘を受けた。一方で恋愛もの、ホロリ感動ものも描いているが、個人的には、「もっと美術ものを書いて〜」と思っている(笑)。

これはもう少し取っておこうと思っていたのだが、もうすぐ倉敷に出張があって、大原美術館に寄ろうと思っているのでそれまでに、と早めに読むこととなった。大原美術館には、モネから譲り受けたという「睡蓮」と、ジヴェルニーの屋敷の株分けされた睡蓮があるらしい。

まあ、直木賞を取るには、身に迫る毒もなし、という感じなのでちょっと違うかも知れないが、でも、思った以上に良かった。

佐藤多佳子「サマータイム」

「一瞬の風になれ」等の佐藤多佳子のデビュー作。少年少女もの。

小5の夏、進は、台風接近の日、プールで2つ上で左腕のない広一と出会う。広一が肺炎で入院したと聞いて、進は姉の佳奈とともに見舞いに行き、3人は仲良くなるのだが・・。

最初の表題作「サマータイム」でエピソードの全体像があり、小さい頃の佳奈、成長した広一、そして成長した佳奈のエピソードと続く連作短編集。「サマータイム」単体が賞をもらい、それに視点を変えた姉妹編を書き加えたのだろう。

私も初の佐藤多佳子さんである。さて、少年少女にはやっぱり夏かな、と王道を行っている。舞台設定も、クールさも、単純まっすぐさも、女子特有の機嫌の悪さと女王然とする様子も、仕掛けも「上手い」という感じで際立っている。それぞれ、あまり理屈どおりに行かない幼さもよく出ているかと思う。

ひとつ、よく思うが、少年少女ものがモノローグの場合、年齢に似合わない表現を主人公の口からさせることが多い。たとえば花の名前、植物や鳥の名前、さらに小難しい形容詞とか。ここに違和感を正直感じてしまう。この作品はそれぞれの年齢に合うように、かなり思い切った語りの文体にしてあるようだからよけいそう感じたりする。不粋ってものだろうか。

ともかく直木賞作家で児童文学出身の森絵都絶賛の理由も分かる気がする。上手で、鮮烈な作品だ。

江戸川乱歩「黒蜥蜴」

妖艶で美しく残酷な女賊「黒蜥蜴」と明智小五郎の対決。昭和9年の作品。

黒蜥蜴とその一味は、大阪の宝石商・岩瀬の娘である早苗の誘拐を目論み、犯行警告文を送りつける。岩瀬は、探偵明智小五郎に娘の保護を頼み、大阪のホテルに籠るが、岩瀬の顧客である緑川夫人が明智に近づく。

乱歩は、1年に1冊くらい読んでいる。昨年は、アニメ映画「カリオストロの城」に出てくる塔のモデルになったという「時計塔」を読んだ。大衆サスペンス小説であり、小学生の頃「怪人二十面相」シリーズをむさぼり読んだ身としては、当時図書館には無かった大人風味の乱歩サスペンスはなかなか面白い。

美しい女盗賊と、切れる明智の、有利不利が次々と入れ替わるどんでん返しもの。種があらかじめ明かしてある部分もあり、ミステリーというと完成度の点からも難しい。が、次は次はと読ませる筆力にワクワクし、また乱歩ならではの猟奇的な味もあって興味深い。文体も、講談調の盛り上げも多くあって当時の読者の熱狂がわかるような気もする。

余談だが、東京在住のさい、桜新町に「紅蜥蜴」という名前の中華屋さんがあり、入ることは無かったのだが小説のタイトルから取ったんだろうか、と気になっていた。1回行ってみればよかったかな。

春江一也「カリナン」

戦中戦後のフィリピンと日本。歴史をベースに読ませるドラマ。

元メガバンク常務の柏木雪雄は、バブル崩壊に端を発した背任の罪で服役していた。刑務所の中で、彼は幼い頃を過ごしたフィリピンの記憶と向き合い、出所後、ミンダナオ島のカリナンに渡る決意を固める。

春江一也は、ひと昔前「プラハの春」を興味深く読んだ。彼自身が駐在外交官として、ワルシャワ条約機構軍の侵攻を打電した本人であり、東ドイツ、ベルリンにも赴任した。続編の「ベルリンの秋」まで読んで「ウィーンの冬」は未読である。

そして、今回、といっても2005年の作品なのだが、やはりフィリピン・ダバオの総領事館に駐在した経験を生かした著作を読んだ。前掲のいわゆる「東欧三部作」の主人公、外交官堀江亮介も出てきて、くすぐられるものがある。

中心となるストーリーは相変わらずというか、悲劇性のある、ちょっと強いメロドラマ。しかし、なんといっても経験を生かした当地の歴史、習俗、風景、日本との関係が真に迫っていて力があり、夢中になって読ませる。あまり日本人が顔を向けないことにも正面から切り込んでいる。

著作が少なく、また故人となられたのが残念。「ウィーンの冬」「上海クライシス」も読んでみようかな。

4月書評の1





4月はそれなりに読んだ。興味ある本もだいぶ見つけてきて読めて、なかなか充実していたが、今年ここまでもひとつこれだーっ、は無い。まあそんなもんかな。ではレッツゴー!

柳広司「ラスト・ワルツ」

映画にもなった「ジョーカー・ゲーム」シリーズの第4弾。スパイものベストセラー。

第2次大戦中のドイツ。日独共同制作の映画に主演している逸見五郎は、ベルリンでのパーティーで、日本大使館出入りの映画好きな若い内装屋、雪村幸一にサインをせがまれる。席上、逸見はおとなしくて目立たない雪村を軽い冗談で「本物のスパイかも」と持ち上げる。

日本陸軍に、伝説のスパイ、結城中佐が作り上げた通称「D機関」。軍人以外から集められ、厳しい訓練を受けた、優秀な諜報員たちの活躍を描く作品。

顔が見えない、どんなことも平然とこなして当たり前、自死も殺人も最悪の選択肢、スパイであることがバレたらー。陸軍内での軋轢をも描き、新鮮な部分と、人がスパイに期待する部分を併せ持ち、夢中で読める。ここまで「ジョーカー・ゲーム」「ダブル・ジョーカー」「パラダイス・ロスト」と3作出ている。

今回は、短編が4つ。ちと幻想色が強くちょっと非現実的かな。最後の「アジア・エクスプレス」は面白かった。ラスト・ワルツはあくまで短編名なので、続編はまだ出そうだ。楽しみである。

近藤史恵「キアズマ」

「サクリファイス」に始まる自転車ロードレースのシリーズもの。ああ面白かった。

大学1年生の岸田正樹は通学途中に自転車部員の櫻井に絡まれ、逃げる途中の事故で部長の村上に全治10ヶ月の怪我を負わせてしまう。村上の願いに折れて、1年だけ自転車部に入る約束をした正樹だったが、これまで経験したことのない自転車競技の魅力に惹かれていく。

ストーリーは、大きな構図ではシンプルだ、が、そこに競技用自転車に乗る喜びや、微妙な人間関係、そしてもちろん自分が出場しているかのような感じにさせる、魅力的なレースの情景が描写されている。

近藤史恵はプロのロードレース界を舞台に主人公の白石誓(ちかう)を描いた「サクリファイス」が本屋大賞2位となり、さらにヨーロッパでのチカの奮闘を追った続編「エデン」も話題を呼んだ。「サクリファイス」はちょっと結末が露骨だが大いに楽しめて、「エデン」はこれを読みたかった!と満足させてくれた。

第3作「サヴァイヴ」はサイドストーリーの色合いが強い。そしてこの「キアズマ」はまったく舞台と主人公が変わって、アマチュアの世界、大学生の初心者の世界となっている。

主人公正樹のその後も気になる、そしてチカのその後も気になる。まだまだ続編が書かれているようなので、ホントに楽しみだ。

野崎まど「【映】アムリタ」

どこかで面白い、と読みかじったから買ってみた。ふうむなるほど、確かに、まずまず。

芸大映画学科役者コースの二見遭一は、同じ学科の美人カメラマン、画素(かくす)はこびに誘われて、映画に出ることになった。監督は天才と噂される後輩女子、最原最早(さいはらもはや)。最原が描いたという絵コンテを読みだした途端、二見は意識がトリップしてしまう。

メデイアワークス文庫、といえば栞子さんのお話、「ビブリア古書堂の事件手帖」がつとに有名だが、「【映】アムリタ」は2009年に、電撃小説大賞の一部門として新設された、メデイアワークス文庫賞を取って注目された作品らしい。

軽妙な会話とすっとぼけた展開も持ち味だが、やはり映画の天才、について掘り下げた内容が大きなポイントだろうと思う。天才の作る映画とは。さすがにライトで都合の良さも感じるが、そこはお話。むしろ楽しめる小説だろう。

最初からすっと読ませる、ストーリーに引き込まれる。いい具合に展開が早い。キャラクターと会話が魅力的。サクサク読めるし、確かに面白いかも、と思った。タネと仕掛けは、私にはちょっと分かりにくかったかな。でも後で見返すのも楽しみのひとつ、なんて思ったりした。

作者は、テレビドラマもしくは映画についてある程度経験を積んだ方とお見受けしたが、でなければけっこうな、勉強したことを文章にする才のある作家と感じた。

石田衣良「コンカツ?」

うーむ、オトナの総合的恋愛エンタメという感じ。現代社会の中での結婚とは。熟年離婚も描かれる。

自動車メーカーに勤める29歳のキャリアウーマン、智香と、大学時代の親友で飲料メーカーの彩野、やはり大学の先輩で総合商社の沙都子、グラフィックデザイナーで肉食系ロリータの結有は一軒家でハウスシェアをしている、合コン仲間。ある日智香は、年長の沙都子に、ちゃんと「コンカツ」しないかと誘われる。

社会人になってから年月も経ち、ものなれたオトナ女子たちの恋愛・結婚観が描かれる。彼女たち目線で辛辣なオトコ批評もふんだんに展開されていて、赤裸々だ。困った男たち、また草食系、就職氷河期、さらには熟年者の問題も出てきて、さながら映画化テレビドラマのような感じである。

最近は女流作家さんが、あけっぴろげな日常生活や恋愛を描くことが多いが、同様なものを感じてしまう。そんなんだよね、とうなずく部分もないではないが、恋愛引退の身としてはうーんとなってしまう。

芸能界も絡むし、エンタメは大事な要素、だけどなんか引かれる芯が欲しかったかな。まあこんなものなんでしょう。