2016年4月1日金曜日

3月書評の3




野球本もあったが、宗教ものあり、流行作家あり、好きな作家の、好きな自然ものあり、ちょっと屈折率の高い紀行文ありと、なかなかバラエティに富んだ月。やっぱ、読書って、いいな。

朝井リョウ「武道館」

得意とする少女ものだが、うーん、響きが薄めかな。

愛子は、駆け出しのアイドルグループNEXT YOUのメンバー。武道館ライブを目標に活動している。ある日事務所に行ってみると、ダブルセンターの1人、杏佳が「卒業」を口にする。

朝井リョウは緻密である。当たり前だが虚偽の設定を慎重に作り、物語の流れも、計算の上にある。またちょっと粋な表現、視点の変化もデビュー以来の特徴だ。

今回はアイドルにまつわる様々の事を、やはり計算の上に、ストーリーとして形作っている。

が、そもそもアイドルというのが虚像であり、業界用語も含めて、演出意図が、透けている気がするし、事件は起きるものの冗長だなとも思う。

読ませるのは相変わらずで、言いたいことはよく分かるような気もする。うーん、これまでの中では、いまいちかな。

坂東眞砂子「聖アントニオの舌」

予想に反し、なかなか興味深かった。

イタリアの紀行ものではあるが、神秘や魔女、異端、不思議な記録や現象を追い求め、小さな都市、山あいの町を巡ったりする一種変わった旅である。

筆者は現代においても、死んでなお奇跡を起こしたという12世紀の聖人、聖アントニオの遺体が安置されている教会で、真摯な祈りを捧げる大勢の人々を見たり、腐敗した教会を改革しようという運動の走りで、鞭打ちが祭りの一部の出し物となっている地域、魔女狩りが行われた町などを訪ねて行く。なかなかそのミニマムさが楽しい。取り挙げている題材も大きな意味では有名な歴史の一部に結びついている。

夢の中で戦うというベナンダンティ伝説などはなかなか楽しく、また最後に、いわゆるゲルマン人の大移動を掘り下げているのも面白い。

坂東眞砂子は「山(やまはは)」で直木賞を取っている。昨年は飛鳥・奈良時代の作品「朱鳥の陵(あけみどりのみささぎ)」を読んで、その筆致に惹かれた。難しかったけど。

なんか最近紀行ものを読んでないな、と思いブックオフで手に取り、パラパラとめくって、挟まっていた栞にも惹かれたりした。買った後、15年も前に書かれた紀行と知ってちょっと落胆したが、読んでみるとどうしてどうして、私の嗜好にも合って楽しめた。

ちなみに坂東眞砂子は一昨年病気で亡くなっている。生前は若い頃留学したイタリアの地方都市やタヒチに住んだりしていた人である。ちょっと思考の方向にあれ、と思うところもあるが、イタリアに強いのは、読んでいてよく分かった。

黒川博行「煙霞」

誘拐サスペンスエンタテインメント。何やら土ワイみたい。大阪を舞台に、次々と場面が展開していくボニー&クライド調のお話。

私立晴峰女子高美術教師の熊谷と、音楽教師の菜穂子は、体育教官の小山田に、高校の学校法人の理事長を監禁して、不正の証拠を突き付け自分たちを転任させない約束を取り付ける計画への協力を求められる。やむなく計画に乗るが、小山田の様子がおかしいのに気付く。

黒川博行はまったく知らず、職場の上司に、面白い、と教えてもらったらすぐ直木賞を受賞した。

今回は、最初の「なんか物騒な計画」が、次々とその様相を変えていく。途中からは熊谷と菜穂子が探偵役だ。まさにエンタメドラマ調。大阪弁と、どこかおマヌケで楽天的な雰囲気も漂う軽快なストーリー展開。ラストは、昔のアメリカ映画みたいな、コメディ調の終わりでチョン、だった。

他の話を読んでないから分からないが、このような展開の元ネタに社会的なものがあるらしい。うーん、スラスラ読んだが、その魅力を確認するのはもう数冊が必要なようだ。

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