カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」
これはネタばらしできない。それにしても、恋愛小説かと思ったら・・。
1990年代末、イギリス。提供者の世話をしている、優秀な介護人のキャシーは31歳でヘールシャムの出身。キャシーは、寄宿舎生活のあの頃を思い出すー。
物語はキャシーのモノローグである。いかにもイギリス風の、なんでもない寄宿舎生活のあれこれが描かれ、そのうちにさらりと、特殊な状況が語られる。抑制のきいた、丁寧な文章だからよけいにびっくりしてしまう。
カズオ・イシグロはイギリス伝統の執事の姿と恋心を描いた「日の名残り」でイギリス文学最高峰のブッカー賞を受賞、国際的にも有名になった。長崎県生まれ、5歳の時にイギリスへ渡り育った。
「日の名残り」はジェイムズ・アイヴォリー監督で映画になり、当時文学のことなんか何もしらない、ヨーロッパ・アジア映画好きの私は「眺めのいい部屋」「モーリス」「ハワーズ・エンド」のアイヴォリー作品と知って観に行った。そのことを話したら文学好きの女性が原作を貸してくれた。
この作品はたぶん世界的に名のある著作で、だからたぶん日本のテレビドラマにもなっているのだろう。
ポイントのシーンの表現のさりげない、しかし印象的な上手さ、後で明かされる謎の意味など、特殊状況ならではの仕掛けはあるし、この抑制された文体はもはや特徴で、くすぐられる部分は大いにある。
が、やはり咀嚼した味は難しく、読むのに時間がかかったし、私的にはもうひとつだったかな。
阿刀田高「コーランを知っていますか」
内容はすごく難しいわけではないのだが、さすがに簡単ではなく、読むのに時間がかかった。
タイトルが示すように、コーランの内容とイスラム教の概要をまとめた本。ストレートに知識を得ようとするのは実は初めてで、なかなか興味深かった。
コーランと旧約聖書、新約聖書の関係にもちろんその内容、マホメットの生涯とその後、コーランの傾向などなどを紹介し、阿刀田流に柔らかい味も充分に付け加えてある。
このシリーズは、「ギリシャ神話を知っていますか」が面白かったので、他も読もうと買ったのだが、今回はちょっと勝手が違う。やはり題材が大きく、説明が多くなって、なじみのないものでもあり、サラサラとは読めなかった。何回か読んでようやく多少分かってくるのだろう。
平成15年というから、アメリカらによるイラク侵攻の年の発売、世には9.11テロの衝撃もまだあった。今読んで、あの時代を反映していることに感慨を覚えたりした。
西加奈子「ふる」
思うまま描いた作品。いつものような仕掛けもあるが、エンタメではない、と思う。
大阪出身、28歳の池井戸花しすは、東京でアダルトビデオにモザイクを入れる仕事をしている。家は不動産関係に勤めるさなえとルームシェアをしていて、猫2匹と暮らす花しす。日常を気に入っている花しすには、ある変わった習慣、クセがあった。
いつものように西加奈子好きの後輩から借りた本。読む本がなくなると、その後輩の机に積んである本を漁る。お返しにこちらが読んだ本を貸してあげる。なかなか趣味は合う。私も花しすのように、そんな日常を多少気に入っている。
さて、今回、西加奈子本人はあとがきで、「『ふる』という作品は、わたしが「いのち」の方へ手を伸ばしている、その格闘の軌跡だ。」
なるほど確かに読了後俯瞰してみると、いのちに関する大事なエピソードが所々に効いている。そこに女性、というものを結びつけたかったのだろうか。
この前に読んだ「ふくわらい」も、理屈をパワーと感性で凌駕したようなところがあった。西加奈子は、確信的にしみじみといいものを浮かび上がらせたり、笑わせたり、という狙いを持った作品と、どんどん感性で書き進めていく作品と、二面性があると思う。
今回は、主人公を薄めて、なにかしらの細かいディテールに意味を与えようとしているところはあまり好きではないのだが、全体として描きたいものに沿っている部分はさすがだと思う。なぜかこないだ読んだ姫野カオルコ「昭和の犬」を思い出した。
小関順二
「2016年版 プロ野球 問題だらけの12球団」
あっという間に読んだ。阪神タイガースの章は、2回読んだ。今年はちょっと、手加減されている?
毎年恒例、各球団の、今シーズンの戦力分析である。昨年、高校卒と、大学・社会人卒というカテゴリ分けが注目されたが、今回は各球団の過去に遡って適用してみているところが面白い。
もはや、球界のパ・リーグ優位は常態化した。育成型の球団作り、交流戦、日本シリーズでの圧勝など、強さが際立ち、野球界を賑わせている。このような状況から、どんな新しいパラダイム変換が生まれるか、また楽しみだ。
にしても、福原がタイトル獲ったから気がつかなかったけれど、ホールドポイント、タイガースはリーグ最下位だったんだな。うーむ。
ぜひ超変革が、球界に新たな活性を生むものになりますように。
カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」
これはネタばらしできない。それにしても、恋愛小説かと思ったら・・。
1990年代末、イギリス。提供者の世話をしている、優秀な介護人のキャシーは31歳でヘールシャムの出身。キャシーは、寄宿舎生活のあの頃を思い出すー。
物語はキャシーのモノローグである。いかにもイギリス風の、なんでもない寄宿舎生活のあれこれが描かれ、そのうちにさらりと、特殊な状況が語られる。抑制のきいた、丁寧な文章だからよけいにびっくりしてしまう。
カズオ・イシグロはイギリス伝統の執事の姿と恋心を描いた「日の名残り」でイギリス文学最高峰のブッカー賞を受賞、国際的にも有名になった。長崎県生まれ、5歳の時にイギリスへ渡り育った。
「日の名残り」はジェイムズ・アイヴォリー監督で映画になり、当時文学のことなんか何もしらない、ヨーロッパ・アジア映画好きの私は「眺めのいい部屋」「モーリス」「ハワーズ・エンド」のアイヴォリー作品と知って観に行った。そのことを話したら文学好きの女性が原作を貸してくれた。
この作品はたぶん世界的に名のある著作で、だからたぶん日本のテレビドラマにもなっているのだろう。
ポイントのシーンの表現のさりげない、しかし印象的な上手さ、後で明かされる謎の意味など、特殊状況ならではの仕掛けはあるし、この抑制された文体はもはや特徴で、くすぐられる部分は大いにある。
が、やはり咀嚼した味は難しく、読むのに時間がかかったし、私的にはもうひとつだったかな。
阿刀田高「コーランを知っていますか」
内容はすごく難しいわけではないのだが、さすがに簡単ではなく、読むのに時間がかかった。
タイトルが示すように、コーランの内容とイスラム教の概要をまとめた本。ストレートに知識を得ようとするのは実は初めてで、なかなか興味深かった。
コーランと旧約聖書、新約聖書の関係にもちろんその内容、マホメットの生涯とその後、コーランの傾向などなどを紹介し、阿刀田流に柔らかい味も充分に付け加えてある。
このシリーズは、「ギリシャ神話を知っていますか」が面白かったので、他も読もうと買ったのだが、今回はちょっと勝手が違う。やはり題材が大きく、説明が多くなって、なじみのないものでもあり、サラサラとは読めなかった。何回か読んでようやく多少分かってくるのだろう。
平成15年というから、アメリカらによるイラク侵攻の年の発売、世には9.11テロの衝撃もまだあった。今読んで、あの時代を反映していることに感慨を覚えたりした。
西加奈子「ふる」
思うまま描いた作品。いつものような仕掛けもあるが、エンタメではない、と思う。
大阪出身、28歳の池井戸花しすは、東京でアダルトビデオにモザイクを入れる仕事をしている。家は不動産関係に勤めるさなえとルームシェアをしていて、猫2匹と暮らす花しす。日常を気に入っている花しすには、ある変わった習慣、クセがあった。
いつものように西加奈子好きの後輩から借りた本。読む本がなくなると、その後輩の机に積んである本を漁る。お返しにこちらが読んだ本を貸してあげる。なかなか趣味は合う。私も花しすのように、そんな日常を多少気に入っている。
さて、今回、西加奈子本人はあとがきで、「『ふる』という作品は、わたしが「いのち」の方へ手を伸ばしている、その格闘の軌跡だ。」
なるほど確かに読了後俯瞰してみると、いのちに関する大事なエピソードが所々に効いている。そこに女性、というものを結びつけたかったのだろうか。
この前に読んだ「ふくわらい」も、理屈をパワーと感性で凌駕したようなところがあった。西加奈子は、確信的にしみじみといいものを浮かび上がらせたり、笑わせたり、という狙いを持った作品と、どんどん感性で書き進めていく作品と、二面性があると思う。
今回は、主人公を薄めて、なにかしらの細かいディテールに意味を与えようとしているところはあまり好きではないのだが、全体として描きたいものに沿っている部分はさすがだと思う。なぜかこないだ読んだ姫野カオルコ「昭和の犬」を思い出した。
小関順二
「2016年版 プロ野球 問題だらけの12球団」
あっという間に読んだ。阪神タイガースの章は、2回読んだ。今年はちょっと、手加減されている?
毎年恒例、各球団の、今シーズンの戦力分析である。昨年、高校卒と、大学・社会人卒というカテゴリ分けが注目されたが、今回は各球団の過去に遡って適用してみているところが面白い。
もはや、球界のパ・リーグ優位は常態化した。育成型の球団作り、交流戦、日本シリーズでの圧勝など、強さが際立ち、野球界を賑わせている。このような状況から、どんな新しいパラダイム変換が生まれるか、また楽しみだ。
にしても、福原がタイトル獲ったから気がつかなかったけれど、ホールドポイント、タイガースはリーグ最下位だったんだな。うーむ。
ぜひ超変革が、球界に新たな活性を生むものになりますように。