2015年9月2日水曜日

8月書評の2




ミステリーの名作を読破、再読していくのも楽しいが、若い頃読んだ古典や有名作品を、ほとんど憶えてないのも困ったもんだ。

アガサの一連の作品でなんとなく筋の記憶があるのは「そして誰もいなくなった」「オリエント急行殺人事件」「ABC殺人事件」。エラリー・クイーンはたくさん読んだのにまったく憶えてない。カーの「火刑法廷」もさっぱり。ヴァン・ダインは「カナリヤ殺人事件」にハッとしたくらいでやはりうーむ。

来年はこのへんかな。では後半どうぞ。


カトリーヌ・アルレー「わらの女」

悪女サスペンスの古典。しかし結末よりは中身に惹かれる?

ハンブルクで翻訳の仕事をしている天涯孤独の34才の女・ヒルデガルデ。彼女は新聞広告で、大富豪が妻に迎える女性を募っていることを知り、応募する。ヒルデガルデは見事その権利を手中にするが、大きな陰謀が隠されていた。

先に書いたように、ミステリーというよりはサスペンス。陰謀の中を泳ぐ普通の女、ヒルデガルデに焦点が当たっている。結末はちょっと考えさせられるが、内容、成り行きから発せられる面白みを楽しむ本だ。

1958年に日本で翻訳され、古典として、映画や、日本版のドラマの原作に採用されている作品。なるほどいかにも古典で、映像化される理由も分かる。

悪女書きのアルレー、結末が余計に虚しさを掻き立てる一作だ。

横山秀夫「臨場」

うーん、大人の読み物って感じだな。まさに。

倉石義男はL県警の捜査一課調査官。鑑識畑一筋の52才。「終身検死官」という異名を持ち、ヤクザのような風貌に歯に衣着せぬ物言いから上には受けが悪いが、その鋭さにシンパは数多い。変死事案では真っ先に声がかかる倉石は、きょうも死体と現場を見聞する。

2004年の発行のいわゆる連作短編集である。テレビドラマ化もされた。

横山秀夫といえば、現代を代表する売れっ子作家の1人と言っていいだろう。でも私はあまり読んでない。ここまで、「ルパンの消息」「第三の時効」だけかな。

「ルパンの消息」は長編で、主人公も不良上がりの一般人でかなり面白かった。「第三の時効」は警察もの短編集で評価は高いものの、どうもその切れすぎなところ、短編のうまく収まりすぎなところが肌に合わなかった。

今作も、「第三」によくテイストが似ている。必ず色気があって、いい大人同士の角突き合いがあって、切れが良すぎる感じ。倉石の人物設定等も、まあハードボイルドで痛快といえば痛快なのだろう。

切れがいい短編は、夢中になってあっという間に読めるのは確か。そういう意味で興味深かった。

柄刀一
「御手洗潔対シャーロック・ホームズ」

再読。日本人が書くホームズものは、日本人読者向けとして気が利いている。これはパロディでもあり、本格推理小説でもある。結構好きな一冊。

御手洗潔と言えば島田荘司作品の探偵。今回は別の作者が書き、御手洗潔のパスティーシュありながら、シャーロック・ホームズのパロディという策を弄した作品になっている。2004年刊行、2008年文庫化。東京時代に、文庫が出てすぐ買った。

最初に御手洗潔のパスティーシュ2本。「シリウスの雫」は幻想的で、いかにも本格推理小説で、御手洗もの特有のエキセントリックさも効いている。その後はホームズものパロディが2本。そして「巨人幻想」でホームズ&ワトスン、御手洗&石岡という両探偵と両伝記作家が邂逅を果たす。最後にワトスンと石岡のお笑い書簡交換が島田荘司の手により挿入されている。

んなバカな、というのを上手く創っていくのが本格ミステリだが、今回は痛快なくらい徹してして、楽しめる。一部どうも納得できかねるところもあったが、まあスルーで。巨人伝説、というものに対する島田荘司の思い入れも活かしているようだ。次は「暗闇坂の人喰いの木」を読んでみよう。

それにしても、島田荘司はホームズものに対してあれこれ言うものの、だから余計愛情が際立つというのは、変わらない。

瀬戸内寂聴「夏の終わり」

売れない作家と8年愛人を続けた女の物語。深いような、奇矯なような・・。

売れない作家、慎吾とちょうど週の半分を暮らす染色家の知子。知子はかつて離婚する原因になった昔の愛人・涼太と再会し、付き合っていた。やがて涼太と別れた知子は、慎吾との関係も清算しようとする。

1963年の作品である。登場人物が同じ短編を並べ直し、別の短編も所収したもの。女流文学賞を受賞している作品。

何かやはりつかみにくい部分がある。純文学の香りもするが、これが書かれた時代に、放蕩で経済力のある女性というのは社会的にも少なかっただろう。昭和30年代には、違和感と驚きを持って迎えられたかも知れない。

作者自身が北京で暮らし、幼い子供を残して出奔という経験があり、それをなぞったような物語。

んー、難しいかな、と思ったが、積み重ねられた習慣が、そこから抜け出すことを難しくする、というのには頷けた。

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