2015年9月2日水曜日

8月書評の1




8月は、ミステリー特集を7冊+もう1冊で、8作品8冊だった。忙しかったわりにはまあまあかな。。

ではスタート!

東野圭吾「禁断の魔術」 

8月はミステリー特集。ガリレオシリーズ最新文庫。嫌いじゃないんだけど、どこかなんか不足感。サクサクっと読み終わった。

都内一流ホテルスイートに独りで泊まる、若い女。翌朝女は多量の出血とともに見つかる。一方ガリレオ先生こと湯川は、高校の、物理研究会で指導をした後輩が帝都大学に受かったと聞き、喜んでいた。

ガリレオシリーズは最初の短編集がなかなか斬新かつ衝撃的で、あっという間にドラマになった。「容疑者Xの献身」は直木賞を獲得した。「真夏の方程式」も映画化、人気を呼んだ。

で、ほぼ全部読んでいるのだが、最初が科学現象で斬新、容疑者Xや真夏の方程式は、ミステリー度が濃く、推理に重きを置いて実験が犯罪に関係ないタイプ。今回は、科学が中心だが、正直あまり新しい展開はなく、容疑者Xと同じように、湯川が心を苛まれるストーリーである。

上手なエンタテインメントを読んだかな、という、東野圭吾にはお決まりの手応えはあれど、なんかスッと入ってスッと抜けていった一冊だった。

ジョン・ディクスン・カー
「皇帝のかぎ煙草入れ」

8月はミステリー特集。第2弾はカー!どこへ行き着くかと思ったら、お見事的解決でした。

おそらくは1930年代、フランスの避暑地。若い婦人イブ・ニールは隣に一家で住むローズ家のトビイと婚約した。しかしある日深夜に合鍵で押し入った前夫のネッド・アドウッドと押し問答をしていた際、トビイの父サー・モーリスが殺された事が発覚し、やがてイブは容疑者にされてしまう。

私はかつて推理小説が好きになった時期があったのだが、最初に読んだカーがおどろおどろしい、幽霊が出て来るようなテイストのもので、それからちょっと敬遠してしまった。なので今回のカーは新たな一面を発見したような思いである。

1942年の作品。トリック、というものに特化して描いた、どこか映画的な、カーの代表作である。アガサ・クリスティーが絶賛した、というキャッチコピーにつられて買ったが、いやお見事、でしょう。非常に人間的な、陥りやすい理由が組み込まれてあり、納得出来る。途中探偵役がその後の暗合ともいえる整理をしているが、うまく引き締めの要素となっている。

物語の要素も仕掛けも申し分がなく、クライマックスの仕掛けも好きな感じだ。真犯人の末路、その気持ちがもうひとつ不明と言えば不明だし、メロドラマや人物設定がどこか空振っているような気もするが、まあそこは良しとしよう。

名作。カーはも少し読んでみようかな。

小峰元「アルキメデスは手を汚さない」

8月ミステリー特集第3弾。ふた昔前の江戸川乱歩賞ベストセラー。青春推理もので、当時の社会が見える。

亡くなった女子高校生、柴本美雪は病死とされていたが、実際は子宮外妊娠が元でのものだった。柴本の父親は相手を知ろうと独自に調べ始めるが、美雪が通っていた高校で弁当に毒が混入される事件が起きる。

昭和48年、西暦で1973年の小説である。復刊され、東野圭吾がこの本を読んで小説家を志した、というキャッチコピーに惹かれて購入。

舞台は大阪府豊中市。主役はニヒリズム漂う男女高校生。学生運動の余韻があり、社会問題も重要な要素となっている。豊中だが、関西弁はほとんど出て来ない。私はいつも思うのだが、この時期の小説にしろ映画にしろ、本当にこんな事を話してるのだろうか、と考えてしまう。科白が演出になりきってないか、口調も内容もどうも実際とかけ離れているように思える。

ただ、それは、この時代特有の青春劇には不思議と似つかわしい。この作品はそういった色を楽しむもので、あまり本格派の推理ものではない、というあとがきには賛成だ。

ピカレスク小説、と言われる、日本推理小説界の古典「アルキメデス」。確かに独特の良いクセを持ったものではあった。

泡坂妻夫「11枚のとらんぷ」

8月ミステリー特集4作め。こちらも日本推理小説のもはや古典。ただちょっと趣きが違う。

地方の奇術クラブによるショーのフィナーレ。仕掛けの中から飛び出すはずの志摩子が行方不明となり、やがて会場近くにある自宅マンションで死体となって見つかった。

「アルキメデス」が退廃的な匂いが特徴のピカレスク推理小説だったのに比べ、こちらは奇異な感じはありながら、「この犯罪は、なぜ、この時、この形で起きなければならなかったか」をある程度すっきりと示したミステリーだろう。

解説には、松本清張らの社会派ミステリーが溢れていた頃、虚構でも推理小説的な設定、ネタに焦点を当てたもの、という評価がしてある。奇術ショーを舞台裏も含めて丹念に描き、謎多き殺人、作中作品の登場、世界国際奇術家会議、殺人の謎解き、と彩りも豊富。泡坂氏独特の柔らかさも見える。

泡坂妻夫は「しあわせの書」に続き2作め。乾くるみ「イニシエーション・ラブ」で、推理小説好きの彼氏が彼女に薦める場面を読んで以来覚えていた。

泡坂氏は小説より先に奇術の方に興味を持ち、「蔭桔梗」で獲得した直木賞の授賞式でも手品を披露した作家さん。本作は昭和51年の長編第一作めで、名作とされ、復刻版も出ている。

彩りは豊富ではあれどサスペンスみたいにドキドキワクワクの場面が続くわけではなく、奇術に興味の無い人はちょっと退屈かもな、とは思った。

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