2015年8月1日土曜日

7月書評の1




とても忙しい月だった。7作品8冊。少なめだったが、中身は濃かった。ではスタート!

熊谷達也「氷結の森」

大河ドラマ。興味のある時代と地域。堪能できた。

もと秋田のマタギ、柴田矢一郎は、日露戦争従軍後、樺太に渡り鰊漁や山仕事の飯場で働いていた。しかし、矢一郎に深い怨みを抱いた亡き妻の弟が、銃を手に矢一郎を追い続けていた。

「相克の森」、直木賞&山本周五郎賞を受賞した「邂逅の森」に続く「マタギ三部作」完結編らしい。

南樺太が日本の領土だった時代。樺太、間宮海峡、シベリアが舞台であり、第一次世界大戦とロシア革命後のシベリア出兵、尼港事件が題材となっている。ギリヤーク族など北の土着民族も絡み、スケールの大きなストーリーだ。

とても興味のある話で、また熊谷達也独特の「北」の表現力と取材力が活かされていると思う。また今回は抑え気味だが、固有の男臭い感じ。やっぱり好みだ。

かなり楽しめたが、主人公がちょっと今回スーパー過ぎ、都合が良い部分もある気がした。また思考にも、んー、と引っ掛かりを覚えるところはあった。

テレビドラマか映画に・・なんないだろうなこういうの。(笑)

朝井リョウ「何者」

ぐわっとえぐってくる、直木賞受賞作。うーん、やっぱ朝井リョウ、なかなかだわー。

拓人は、バンドヴォーカルの光太郎とルームシェアして暮らしている。光太郎と付き合っていた瑞月が、同じアパートの1階上に住む理香と友人で、4人は就職活動グループとして、時に情報交換しながらそれぞれエントリーシートや面接にアタックし始める。

朝井リョウは、「桐島、部活やめるってよ」「もういちど生まれる」「星やどりの声」「少女は卒業式しない」と短編集ばかり読んでいて、今回が初の長編となった。短編集ではその独特の感性と表現の仕方が好きではあったが、やはり、同パターンが多いのにちょっと食傷気味だったところ、この長編でエグられた。

心理描写と対比させるような、日常の仕草やシーンの面映ゆい、細かい描写といったものもいつもの独自性だが、今回はやはり、どんでん返しとも言うべき仕掛けが最大の特徴だろう。微妙で心理的な突っ張り合いを伏線に、最後は人がほのかに持っている自尊心を打ちのめす。ラストも綺麗すぎない。

ツイッターなどなどSNSが小道具。恋愛感情も味付け。やるな、という感じだった。直木賞選考委員の各氏の評も、これは絶賛と言っていいだろう。

小森陽一「天神」

今日夜はウィンブルドン女子決勝で楽しみ。
巨人ー阪神をテレビで観ながら書いてるが、ボコボコにやられているタイガース。

自衛隊ファイター・パイロットを目指す若者。そこそこ面白かったが、まあそこそこだ。

祖父も父もパイロットの坂上陸は航空学生出身。飛行準備過程チームチャーリーに所蔵している。防衛大学出身者のチームブラボーに所属する高岡速はエリートとして名を馳せている。高岡は、なぜか、学科が出来ず馬鹿にされている陸に興味を持つ。

この2人の立ち位置は物語が進むにつれ変わっていくのだが、その過程も、オチもなんだか不思議でもう一つだ。ひとつ前に

ただ空を飛んでいる時のリアリティ、そしてまた主人公が私と同じ福岡県春日市出身、北九州の芦屋基地が一部主要な舞台となっていることなど、好感を持つ部分もあるが、どうも消化不良の要素が多かった。

恩田陸「ねじの回転」(2)

私が思うに、ある作家の作品を多く読んでいると、面白いものとそうでないものに分かれる。恩田陸は比較的安定している方だが、今回は「そうでない」作品だったな。

近未来、国連はタイムスリップが出来るようになったことで乱れた歴史を修正し始める。そのポイントに選ばれたのが1936年2月26日の2.26事件。国連は若手将校や石原莞爾大佐に理由を話し、通信機を持たせる。

題材が面白そうだな、と思っていたが、よりSF寄り過ぎてもうひとつ。どうも絞り切れない感じだった。恩田陸には全体にバランスを感じるものの、ちと冷静過ぎるかも。

イメージ的な描写で、日本がアメリカの州になっている、というのがある。日本・ドイツが第2次大戦に勝ったという設定で「高い城の男」を書いたフィリップ・K・ディックを、ちょっとだけ思い出した。

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