だいたい、月に1冊は洋書を読んでいる。同じようなテイストの作品は続けて読まないことにしている。たまに時代ものを読むように心掛けている。日本の名作や、世界の名作もたくさん読めれば。洋書は、どうしても感性が違うからすらすらと読めないし、外れると、ひどく時間がかかってしまうリスクがあるのだが。充実したブックライフを目指して。
上橋菜穂子「精霊の守り人」
「鹿の王」で本屋大賞を獲った上橋菜穂子。文化人類学者が描く異世界ファンタジーヒットシリーズ。面白かった。
短槍使いの女用心棒・バルサは、偶然川に落ちた新ヨゴ皇国の第二皇子・チャグムを救うが、母親であるニノ妃に、この子を連れて逃げてほしい、と頼まれる。第二皇子の身体には何か別の生き物が宿っており、父である帝に命を狙われている、という。
上橋菜穂子は、本屋大賞の前に、児童文学のノーベル賞と言われる国際アンデルセン賞を受賞していて、興味を持った。ちなみに、日本人では、「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「一ねんせいになったら」の作詞者、まどみちお氏が受賞している。
中央アジアの民族に影響を受けているというこの物語は、非常に手際よくストーリーが展開されていく。この世界のシンプルな説明、皇子の身体には宿っているもの、伝承、怪物、戦い、人間関係・・概ねがアジア的、日本的というイメージで新鮮だ。
ミステリー界も、男性の好感度が高いヒロインの「ビブリア古書堂」がヒットしてから亜流が沢山出たが、異世界ファンタジーもハリー・ボッター以降世界にあふれたという。確かに、様々な本の情報に触れていると、昨今SFやヒロイン・ファンタジーの多さにちょっとびっくりする。日本の場合はまた得意技というか、ドラクエなんかも関係あるのかとも思うが・・。その多くは欧米的な、印象である。
児童文学でもあるので、複雑すぎることはなく、エグさや冷たさも無いが、私は楽しく面白く読んだ。この作品は人気を呼び、野間児童文学新人賞他を受賞、注目された。10作あるというシリーズ作にもちょっと興味あるし、日本古代をテーマとした氏の他の作品にも惹かれている。
解説で恩田陸が異世界ファンタジーの御三家として、「指輪物語」「ゲド戦記」「ナルニア国ものがたり」を挙げているが、いっこも読んでない。今後の楽しみだな。
米澤穂信「氷菓」
ミステリー界では今をときめく米澤穂信を初読み。謎でなく作風にほお、だった。
省エネをモットーにしている折木奉太郎は、海外に居る姉からの指示により、入学した高校で「古典部」に入る。部員はいないと聞いていたが、部室には同じ1年の千反田えるが居た。千反田は33年前古典部にいた伯父との謎を解いて欲しいと折木に頼む。
「折れた竜骨」で日本推理作家協会賞、「満願」で山本周五郎賞、2015年このミス!第1位。今注目のミステリー作家、米澤穂信のデビュー作。「古典部」シリーズの第一作である。
さてどんなもんだろうな、と読んでみたが、なかなか面白かった。よくあるようなライトノベルの体でありながら、会話、文章の流れともに少しひねり、一歩奥へ踏み込んでいる感じだ。主人公が省エネ主義、というのも、魔法のように謎を解き明かす探偵小説本道の隠れ蓑になっていて、なおかつ共感を得やすいのではと思わせる。取り巻く人々のキャラも面白い。
私的には、北村薫に影響を受けただけあって、日常の謎を解き明かすところがそっくりだな、と思った。北村薫のさらにライトノベル版といったところか。だから、ほお、だった。
予備知識なく読み出したので、ごっついむごい小説だったりホラーだったらどうしよう、と思ったが、このテイストなら次にも興味が湧く。それにしても、北村薫も、15年、20年前はこのように、若年層、女性層にウケるミステリー作家として登場したんだろうか、とちょっと思ってしまった。
アーネスト・トンプソン・シートン
「シートン動物記 ぎざ耳ウサギの冒険」
ほやっとしたものが読みたくなって購入。面白く、もの悲しさもある動物物語。
生まれて間もない頃、蛇に噛み裂かれ耳がぎざぎざになった、綿尾ウサギの通称「ぎざ坊」は、モリー母さんに危険の避け方を教え込まれ、一人前になっていく。
シートンもファーブルも読んだことが無く、興味だけ持っていた。今回たまたま読んだが、こんなに面白いとは思わなかった。「オオカミ王ロボ」も買ってしまいそうである。
イギリスに生まれたシートンは、幼い時、カナダの森林地帯へ移住する。そこで動物たちと触れ合いながら絵を描き、その才能が認められてロンドン・パリへ留学。1898年、30代後半に発表した野生動物についての著書が大ベストセラーとなり、その後ボーイスカウト創生にも力を尽くした。
「ぎざ耳ウサギの冒険」は最初の著作にも入っていた物語である。ウサギ親子にはどれほど外敵が多く、いかに危険と対峙し避け続けているかが丁寧に、生き生きと描いてある。こんなに観察できるもんなのかと、舌を巻いてしまうし、ところどころ出てくる自然についての断定的な表現がこちらの意表を突く。
65ページほどの表題作のほか、馬を描いた「黒いくり毛」、130ページ以上のイノシシもの「あぶく坊や」、飼い犬の話、「ビリー」が収録されている。
作中にもあるが、野生動物は老衰で死ぬのではなく、遅かれ早かれ、悲劇的な最期を迎えて終わるものだ。物語として読むと物悲しいが、だから作品が説得力を持つのだろう。
東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇蹟」
物語・ファンタジーだね。比較対象が頭に浮かぶ設定。
敦也・翔太・幸平は、盗みをやった後逃亡用の車が動かなくなったため、廃屋に潜むことにした。しかし忍び込んだ「ナミヤ雑貨店」には、おかしな相談の手紙が届いた。3人は、返事を出すことにする。
私は韓国映画の「イル・マーレ」を思い出した。夢のあるファンタジーで、同じ仕掛けがあり、出逢えない男女が手紙によるやり取りをし、ついに会う約束をする。
悩み相談に答える店主をはじめ、ナミヤ雑貨店に関わった者たちの様々な人生を描く一連の話は確かに読み応えを感じる。薄く交差させるのもセオリーである。
時間は確かに魅力的なファンタジーの仕掛けだが、ある程度以上のものを感じるようにするのは難しい。まあまず、だったかな。
皆川博子「開かせていただき光栄ですーDILATED TO MEET YOUー」
評判のいいミステリー。解剖教室というので暗いハードボイルドかと思いきや、ドタバタコメディーの要素も併せ持つ。皆川博子さんはなんとOVER 80tyの作家さん!
時代は18世紀末のロンドン。シャーロック・ホームズ活躍の約100年前。ダニエル・バートン主催の解剖学教室は、公に実験用の遺体を入手出来ないため、墓暴きから買っていた。官憲に踏み込まれた時は慌てて遺体を隠すが、治安判事の女性助手らが来た際、隠し場所から、新たに2つの異常な死体が発見される。
本格ミステリ大賞を受賞した、2011年の作品。最初は、解剖、というのと、知らない時代のロンドン、とさわりを読んで、イメージ的に暗い難しい小説かなと敬遠していたが、評判が良いので興味は持って持っていた。たまたまブックオフに出ていたので入手、読むこととなった。
先に書いたように、理想に燃えるダニエル先生と、気が良く楽しい5人の助手たちが絡むコメディーの面を持つ。最初が上手いと思ったのだが、隠し場所を示しておいて、そこからいきなり謎が謎を呼ぶ2つの死体が転がり出る。
物語は時代の酷さや政治、妖しさ、不完全な社会など様々な要素を含み、なおかつ謎の方は二転三転の展開である。そして、さらに最後に「へっ?」という鮮やかな謎解きの仕掛けが用意されている。
直木賞作家でもある皆川博子は今回初めて読んだが、感じるのはエネルギー。小説を面白くしようという気概が感じられる。とても80歳を越えているとは思えない。ややこしい部分もあるし、ラストはなにか消化不良ではあるが、なかなか夢中にさせる作品だった。
氏はクリスチアナ・ブランドのファンだという。私もかねがね聞いていた「招かれざる客たちのビュッフェ」でも読んでみようかな。