2013年6月1日土曜日

5月書評の1

いま仙台である。仙台は涼しい、明日は寒いですよ、とタクシーの若い運転手さんに脅された。だいじょぶ。コートまで持って来たおかげで荷物が重くなったんだから。夕方フリーだったのでブックオフでまた本買ってしまった。また重くなる(笑)。

紀行はまたにして、今回書評。5月は、短いようで長かった。10作品10冊。今回も2回に分けて。ではSTART!

金城一紀「GO」

2000年上半期の直木賞受賞作。船戸与一「虹の谷の五月」と同時受賞である。窪塚洋介、柴咲コウ出演で映画化された。在日朝鮮・韓国人の主人公が辿る、ハチャメチャで険しい、社会的な日常の物語。

感想は、面白かった。村上春樹ぽいところや、石田衣良的な色も見える。知的な趣味、社会問題、バイオレンス、純愛、親子というものが、バランス良く、気持ち良く織り込んである。映画的物語。

作者自身が在日朝鮮・韓国人で、主人公と同じ道程を辿った半自伝小説だそうだ。体験談だけに、思考も含め、エピソードがリアルであり、題材を超えて、全体的なパワーを感じさせる筆致だ。

しかし、というところがあるとすれば、主人公にはもちろん陰があるが、抜群の才能もあり、最近そういう小説を読むことが多いせいか、どうも煮え切れない部分も感じてしまう。しかし、充分に面白い作品だった。

江國香織「号泣する準備はできていた」

2003年下半期直木賞受賞作。江國香織お得意の短編集である。女性のまとまらない恋愛心理の本、と見受けた。レズも離婚も不倫も裏切りも、何でもあり。短いながらも極めて現代的な内容で、女性受けするだろうな、と思う。

2003年は、本格的にデジタルな仕事を始めた頃だった。妻と結婚して5年、妻が前年仕事をやめてから買い始めたミニチュアダックスフントのレオンを猫可愛がりしていた頃だったと思う。

その頃の恋愛観などまったく分からないが、それ以前から男女のことは盛んで生々しく、当然の様に感情もまとまりがつかないものだったのであり、最近の女性作家に多く見られる様に、その生々しさを表現を尽くして炙り出す一翼を担う1人が江國香織なのではなかろうか。現代的で活動的、恋愛にも解放的な女性の、感情に依って立つ心理をさりげなさ過ぎない程度に描いているように見える。

ただ、これだけさらりと、思い切った手法もなく表現を絞って書ける作家も珍しい。面白いことに、学生時代江國香織に影響された人はずっと好きみたいだ。分かるか、と問われると、心情として理解は出来ないのだがそれでも、作品そのものから、一種の力強さを確かに感じる一冊だった。

辻村深月「凍りのくじら」

藤子・F・不二雄が好きだったカメラマンの父は失踪、母は入院中。進学校に通いつつ夜遊びや恋愛も楽しむ女子高生・理帆子の前に、写真のモデルになって欲しい、という少年が現れてー

うーん、今回は内容を上手く書けてない紹介文だ(笑)。通常と逆に、この作品の難点を先に書くと、作品の中の要素がひとつの目的に向かっていないので、全体の構成がやや薄く思えるのと、肝心のネタを解決する鍵が見えること。事件にしてもオチにしても、ああ、やっぱりか、という感じがするから損をしていると思う。

しかしながら、この作品は傑作だ。多くを占めるだめんずとの恋愛に関しては、最後のほうは突飛だが、背伸びしてなくて共感が持てる。若い、恋愛現役世代が描いてるな、という確かな感触がある。

また、ドラえもんの道具になぞらえた章立ても見事。その道具についての薀蓄の部分も、読んでいて楽しかった。忙しいこともあり、読むのに1週間近くかかってしまったが、1回に読む量が少ない分集中して読めたように思う。面白い作品だった。

藤原伊織「名残火 てのひらの闇 �」

藤原伊織絶筆の作品。前作「てのひらの闇」のキャラクターが活躍する。企業社会の暗部を描く。

中身はもんのすごくビジネス的。サラリーマンには言葉の使い方等がある程度しっくりくるが、おそらく意識してのものだろう。だからか、いつもの気楽さは影を潜めている。

多くの感想を思いつかないが、ハードボイルド、アクション、バイオレンスにプラスして、今回は謎の一部を行間のものとしている部分があり、ちょっと気に入った。痛快な部分もたくさん盛り込んだ、藤原伊織らしい作品だった。

高田郁「夏天の虹 みをつくし料理帖」

シリーズ第7弾。想い人より、料理の道を選んだ澪。心は激しく動揺し、ついには身体に、料理人として深刻な変調を来す。その中、大事件が勃発する!

長くここまでしか刊行されていないようなので、勝手に完結編かと思っていたが、まだまだ続くと知り、喜んでいる。苦難の巻である。今回は「牡蠣の宝船」がうまそうだが、そこかしこに出てくる料理はみな食欲をそそる。

俵おにぎりや蕗ご飯が食べたい。

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