広い新美術館お披露目のコレクション展、展示の数はもんのすごい多くて、歩く距離も長かった。
ところどころに撮影可の作品があり、さすが現代の新設施設、なんて思ったりして。
ルネ・マグリット「レディメイド」と日本の画家さんの「白孔雀」。
むくむくに着込んで行ったので屋内は暑く「暑い、喉渇いた、早く外出たい!」とようやくエントランスホールに行ったら、外はビュービュー風が吹いてて大雪だった。吹雪の中を帰った笑。
◼️ ジョルジュ・シムノン「メグレの幼な友達」
謎の女、複数の愛人、多くの疑問、同級生。
メグレ読みたいな〜と思い、hackerさんのランキングと図書館の蔵書を見比べて借りてきました。書庫に入っていて、出てきた本を見て思わず
「うわー年季入ってるなー」
受付のお姉さんも苦笑してはりました。
やはりメグレは古いものが多い。入手しにくいのです。
さて、メグレ警視を高等中学校の同級生・フロランタンが訪ねて来ます。愛人の女・ジョゼが殺されたとのこと。メグレはすぐに現場へと向かいます。
女はフロランタン以外にも4人の男がいたとのこと。上級役人、同族会社の裕福な男、ボルドーのワイン業者で名士、そして赤毛の若い男。赤毛の男を除いた3人は妻子がいて地位もお金もありました。
フロランタンはジョゼと一緒にいて、男たちのうち誰かが訪ねて来たので慌てて衣裳部屋に隠れ、銃声を聞いた、1時間くらい外へ出てから警察に来た、と。フロランタンはいちおう古物商でしたが、落ちぶれていて、あちこちに借金をしてその日を凌いでいました。さらにジョゼが死んでから、ジョゼの部屋にあった現金を自宅に持って帰っていました。
容疑は濃厚、ひょうきんでウケを取るためにはでたらめも言っていたかつての同級生。しかしメグレはフロランタンを逮捕せず、多くの疑問に立ち向かいます。フロランタンの不自然な行動、何かを隠しているアパート管理人の巨大な女、指紋が拭き取られていたこと、そして4人プラスフロランタンのうち犯人は誰か?
容疑者=愛人同士を一堂に介しての対決、管理人、謎をわざと見せているかのようなフロランタン、いいキャラクターの予審判事やメグレ夫人との場面などを絡ませ、かなり最後の方まで謎を引っ張ります。いくつかの疑問は残る気がするものの、解決は腑に落ちるものがありました。
今回は設定や流れがガッチリしたミステリーのようにも思えます。しかしフロランタンの身の上やジョゼの愛人としての姿、女管理人との対決など、人生の悲哀と心理を浮かび上がらせ、独特の妙味を醸し出しているのは変わらずシムノン一流で、今回も楽しめました。
メグレは、やっぱりおもしろい!
◼️ 坂口安吾「青鬼の褌を洗う女」
「私」サチ子の生き方。どこか太宰に似てるなとも。
以前いくつか坂口安吾の読みたい小説をピックアップしていて、未読だった作品。たまたま外で読む本を持ってなかったから、スマホで読んでみた。
サチ子が空襲で亡くした母はオメカケで、男出入りも激しかった。母はサチ子を金持ちのオメカケにしようと大事に育てたがサチ子自身はその束縛が嫌だった。戦時出征を前にした数人の男に身体を許したサチ子は空襲を生き延び、避難所から妻子ある会社専務の中年男・久須美に引き取られ、オメカケさんとなる。
力士と一泊旅行をしたりと浮気するサチ子を束縛しない久須美。会社務めなどにはまったく向いておらず、金持ちの久須美のもと不自由ない暮らしをしているサチ子は自分に入れ込む久須美に愛情を感じる。
1947年の作品。同世代でともに無頼派と呼ばれた太宰治にどこか似ている気もする。しかし女性のモノローグが得意な太宰はどれかというと可愛い、ちょっとお嬢さまっぽい心持ちや言動が多かったかな。坂口安吾の描くサチ子は、およそ力みかえったところがなく常識にとらわれない。男の間も感性のままスイスイ泳ぐ。サチ子の目から見れば、常識や思い込みにより人が守っているものは滑稽にさえ見える。読んでるこちらもそれもそうだと思うから不思議である。
すべてに冷めているかといえばそうではなく、礼などは言わないが笑顔は多く、勝てない力士には稽古を見に行ったり、いくたの叱咤激励をする。
フワフワして思うままに生きている。太宰に似ている気がしたのもこのへんで、旧来の常識、世間体を離れた近現代の人が、時代の空気の中で、心が向く方に動くという描写が多いなと思うのだ。
10歳くらい年上の先輩が、我々をマニュアル世代だと見て、自分達の頃にはマニュアルなんてなかったから、デートも行き当たりばったりな感じだったと言っていたのを思い出す。泊まりの外仕事が終わり、夜皆でボウリングに行った帰り、かき氷を食べながらの楽しい時間だった。
現代は常識が圧倒的に機能しているように見える。戦時戦後もそうだったのかも知れない。しかし文豪と言われる人は時にこのような、解き放たれたような人々の行動をとりとめなく描くことがあるように思える。それは、毒があることも多いけれども、間違いなく魅力的だったりする。
サチ子は母を意識する。世帯じみてきて、気がつけば母と同じような道を歩んでいる自分を嫌な目で見つめる。一方で久須美の前で自然に可愛い女になっている自分を気に入っている。衝撃的だった空襲の避難を思い出し、先々への不安を感じるー。
タイトルから、著者によくある古典に材料をとったものかと思ったがまるで違った。なかなか興味深い作品だった。
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