10月6日は火星の最接近。準大接近らしい。2年前の大接近時は赤い火星が大阪湾にこぼれ落ちてきそうだったが、今年はそこまでないような。
◼️瀬尾まいこ「天国はまだ遠く」
筆者赴任、実体験の丹後もの。内向?
「卵の緒」「図書館の神様」に続く3作め。当時著者は中学校の教員をしながら作家活動をしていて丹後地方、京都の日本海側、日本三景の一つ天の橋立がある側、へ赴任、その時の体験をもとにした話とのこと。映画化されてたのね、知らんかった。
仕事に疲れ果て、自殺を決意した23歳の「私」は電車で北に向かい、丹後地方の駅からタクシーに乗って山奥にある「民宿 たむら」に辿り着く。貯めこんでいた医師処方の睡眠薬を一気に飲んで寝るが、1日眠っていただけで爽快に起きてしまい、死ぬ気をなくすー。
長逗留することにした主人公は農作物を育て家畜を飼う田村のもと、のんびりと過ごす。そして・・。
瀬尾まいこをセオマイコーと呼ぶと競馬馬みたいで妙に気に入っている。セオマイコーものはいつも何かを思わせる。
おおざっぱに書くと、仕事と環境に疲れた主人公が人けのないところで死のうと田舎に行くが、幼いとも言える認識のためそのまま生きる。自然と人の温もりで癒され、再生していくー。
こんな簡単な図式が描けてしまう。まあ名作ほど筋はシンプルだったりするが、瀬尾まいこの場合は語り口がとても平明なこともあり、より図式っぽく見えないことはない。
正直成り行きとしてはこの図式を出るものではなかったが、ただセオマイコーはそれで終わらず、なにか読み手を吸い寄せるものを持っている。
会社は辞めてしまったから憂いはない。
彼氏にはメールを送ったけど自然消滅状態なので忘れていた。
うーん、ふつうはこのへん絡むんだけど。思い込んでいた恋愛に破れて、とか、あと人間関係の禍根とか、隠された暗い過去とか癖とかないのってくらい穏やかだ。彼氏と自然消滅、というのは逆に新鮮なくらい。
田村とは同じ屋根の下2人暮しだけども・・ふむふむ、なんか感じさせるものはあるが、それ以上なし。
セオマイコーの小説に登場する主人公の女子は、さっぱりしていて、無理がない。色気もないが、不思議といい感じに落ちている。ちょっと今回は幼いかな。あと内向的。でも若いころというのは、今からでは信じられないほど無邪気なもの。そういう思いをくすぐられたりもする。
この話は、微妙なところ、また実体験を散りばめた物語だろう。ダイナミックでは全くなく波がない。しかし体験、取材というタネがあって、細かいクセをつけて小説にしていくところはうまいなあ、と。
まだまだデビュー作も、「幸福な食卓」も「戸村飯店 青春100連発」も、もちろん「そして、バトンは渡された」も読むぞっと。
◼️童門冬二「小説 上杉鷹山」
米沢藩に伝わる「伝国の辞」はケネディに感銘を与えた。目先でない改革、その源の思想は、新しかった。
恥ずかしながら、上杉鷹山(治憲)の名前は知っていたけど、何をした人か、詳しいことは知らなかった。「伝国の辞」は鷹山が代を譲る際、新藩主に心得として示した三条。
一、国家(米沢藩)は、先祖から子孫に伝えられるもので、決して私すべきものではないこと
一、人民は国家に属するもので、決して私してはならないこと
一、国家人民のために立ちたる君(藩主)であって、君のために人民があるのではないこと
内村鑑三の小説の英訳をJ.F.ケネディが読んだらしく、鷹山の名を出して尊敬する日本人と名を挙げた。しかし聞いた日本人記者は誰のことか分からなかったとか。
九州の三万石の小大名だった治憲は、養子縁組で米沢藩の藩主となる。米沢藩は財政破綻の危機に陥っていた。治憲は藩政のために直言しすぎて冷や飯を食わされている者を集め、改革案を作らせるー。
やがて虚礼やしきたり、行事の中止、廃止、倹約などを旨とした改革案が出来上がる。さらに治憲は、鯉を養殖し、紅花、桑などを栽培、また地元ならではの名産物を育てるなど、新たな産業を考え出す。武士やその家族にも働くことを奨励した。
しかし従来の政策、しきたりを重んじる藩の重役たちが反発、米沢を知らない養子藩主ということもあり、改革をあからさまに妨害しようとし、遂には七家騒動と呼ばれる造反劇に発展する。
上記のように、治憲は藩民のためにこそ政治があるとして、武士を戒めた。武士の既得権益が定着している江戸中期、全国でも珍しい方針だったという。また、田沼意次の賄賂政治から松平定信の寛政の改革の時期とかぶるのも面白い。柔軟性と徳があった治憲に比べ、節約倹約だけを旨とした厳しい改革はうまくいかなかった。
途中ジンとさせられた場面もあった。最初はやはり急激すぎてうまくいかないかも、と読んでて思ったが、治憲のガマン、柔らかさ、必要なことを生み出していく強さ、人間力には感嘆した。
童門冬二さんは東京都知事秘書などを歴任した方で、治憲の政策を何度も現代のビジネスになぞらえたまとめをしているので、分かりやすく、活力をもらえるように感じた。
少し冗長で、どこが芯なのかよくわからない部分もいくつかあった。正直。でも、改革とつきあうならとことん。厳しい局面も、うまくいかないことも、危機もあるというのは説得力がある。掛け声だけでは、ということかなと。
示唆に富んでいて楽しく読めました。
0 件のコメント:
コメントを投稿