2020年2月23日日曜日

2月書評の3






昼の気温は4月並みに上がったが朝晩は風が冷たい。バレンタインと子どもの誕生日。もう高校生、早いなあー。

◼️あさのあつこ

「スポットライトをぼくらに」


スノーフレーク、言葉がいい。また雑多卑俗なエネルギーは確かに少年期の心に共鳴するかも、と感じた。


軽い児童小説っぽいもの読みたいな、と思ってチョイス。あさのあつこ氏は、アダルトな時代もの「弥勒シリーズ」は読んでるが、児童ものは読んだことがない。「バッテリー」もノータッチ。


樹(いつき)は父が高利貸しや大人の歓楽店なども含む事業を広く手がけているこわもての成り上がり社長で、周囲から敬遠されることもある中学生男子。秀才でなんでもできる達彦、母が病弱で「いい子」で通っている美鈴とは幼稚園からの幼なじみだ。それぞれが進路に対して鬱屈した思いを抱く中、樹は父の店の1つ、トップレスバー「フラワーヘブン」のダンサーでフィリピン人のハル・ナンシーと仲良くなるー。


ハルがつぶやく言葉、スノーフレークの中で踊ってみたい、が効いたストーリー。


恋心というわけではないがハルに拘り、商品としてしか見ない父や常連客に反感を抱く樹、荒れ気味で先輩に体育館裏へ連れて行かれる達彦、いい子だが葛藤をかかえる美鈴、それなりに波のある進行で、優しく、苦くて甘く終わる。


田舎町が舞台で、昔を思い出させる。自転車でどこへでも行っていた中学時代。一駅離れたゲームセンターのあるスーパーを囲む街は風俗店もあるオトナの歓楽街だった。家の周囲にはヤンキー上がりの若夫婦が住むアパートがたくさんあった。


そういった雑多な環境を、尻込みすることなく、心のどこかに熱源のようなものを感じて、けっこう大らかに受け止めていたような気がする。やっぱ大人のお姉さん的な人には口に出せない憧れもあったかな。


私が読んだ文庫は発表されてから20年近く後に出たもの。樹、達彦、美鈴の後日談を収録してある。スイートな味わいの物語だったが、まあ感性のいいところを刺激されたかな。


◼️ジョルジュ・シムノン

「世界の名探偵コレクション メグレ警視」 


探偵小説かもしれないがミステリではない。メグレが不機嫌になると「キター」となる。不思議に好きだなあ、メグレもの。


コナン・ドイルの後、アガサ・クリスティーらミステリ黄金期から現代まで連綿と続く、いや、さらに現代的なフィルターがかけられた推理小説はその形が既にして出来上がっている感もある。メグレ作品はその形に決してはまっていない。謎があって、冴えた斬新なトリックがあって、証拠と動機に基づいたフェアで合理的な謎解きがある、というミステリ仕立てとはかけ離れている気もする。


メグレは材料を集めたり、しつこい捜査を重ねたりするが、多くは犯罪が発生した環境や関係する人物の描写に独特の味があり、どこかぼんやりした印象をも与える。メグレの捜査なり考察は表面的なものを捉えていて、真相はメグレの頭の中にしかない。全てが判明したとき、確かにハッとさせられることはあるが、全体の心理的雰囲気を巧く作っていて、謎解きよりもそちらの方が効いている感じで、より小説的だ。あるいは双方が折り合う瞬間が良かったりもする。


メグレといえば、名探偵コナンに出てくる目暮警部は知ってる、という方も多いかと思う。メグレが今ひとつマイナーなのはやっぱり、いわゆるフェアなゲーム的ミステリではないからだろうと思う。


今作はタイトルの通り「世界の名探偵コレクション」というシリーズの一つ。20ページ足らずのものから60ページ超の普通の短編まで、7つの作品が収録されている。いずれ劣らぬ名作ばかりで、メグレの魅力を余すところなく伝えている。


いちばん短い「蠟のしずく」、少しく複雑に見える「メグレと溺死人の宿」、引退後の「メグレとグラン・カフェの常連」が良かったかな。


シムノンに興味を持ったのは、パトリス・ルコント監督の映画「仕立て屋の恋」の原作と知った時から。ふつうのキレ良いミステリも好きだが、心理描写に重きを置いたメグレものが、大好きだ。


メグレが不機嫌になると、これは解決へ向け順調なんだな、と「キター(≧≦)Oー♪」感を持ってしまう。


次が楽しみだなあー。「仕立て屋の恋」のパンフも見直そう。

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