1月は13作品13冊。文豪を一冊、古典を一冊、ホームズ関連を一冊、時代ものを一冊、海外SFを一冊なんて予定を立てても、やってるとすぐに計算は崩れる。今回も時間がかかった。
◼️カレル・チャペック「山椒魚戦争」
コメディ風社会派SFの金字塔か。ヒトラーをディスったチャペック。
ちょっと理屈も多いが、山椒魚を題材に大仰な社会現象をおもしろおかしく展開している。後半はついに・・という感じで盛り上がる。人類の大きな敵は人が育てた、という視点。
エッセイ集で手塚治虫氏が海外SFの第1位として挙げていて興味を持った一冊。マンガ的でもあり、確かに面白い。友人のリケジョがまたチャペック好きで、かねがね噂は聞いていた。
ヴァントフ船長は、山椒魚が真珠貝を取ってくるのを目の当たりにして、山椒魚の集団を定期的に見に行き、真珠を集めるようになる。やがて小学校の同窓で実業家のボンディ氏に出資を持ちかける。
ボンディ氏は、山椒魚に知性があるのを見抜き、また海底の浚渫工事、海岸の埋め立て、人工島建設が出来るという特性を生かして、各国へ大量に売買するようになる。
個体にもよるが、山椒魚は人語を解し、また喋り、人間にはできない作業を無償で手早く片付ける。犬やサメなど外敵から守るために、人は山椒魚に自衛のための武器を渡すのだった。
山椒魚は保護されたこともあり爆発的に増え、世の中は大騒ぎ。生体の研究が進み、人間と同等の知性を持つ山椒魚を認め、服を着せようとしたり、学校教育を受けさせる運動が起きたり、愛護協会が出来たりする。はては領土拡張欲や民族間の争いのない山椒魚を理想の姿のように捉える論調も出てきて山椒魚派の詩人や海洋派の画家まで現れる。
やがて軍事目的、国家目的の工事が増え、各国は山椒魚と工事に関する国際協定を結ぶ。世界の海岸線はその形を変えてしまったー。
しかし、すでに人類の何倍もの数となりプレゼンスの増しすぎた山椒魚に警戒の声が出てくると、世論は一転、山椒魚反対派の団体が次々にできてくる。すると山椒魚は大地震を起こしたり船を沈めたりと人間に警告し、交渉の席へ人間の代理人を送り込むー。
この物語が発表されたのは1935年。ヒトラー率いるナチスが政権を握ったのが1933年。ドイツと国境を接し、やがてナチスドイツに支配されるチェコのチャペック。この小説はヒトラーとナチスを大いにディスったものとされている。
地位が上がってくるにつれ、山椒魚へ向けた、激励的なスローガンが叫ばれるがその中に
「山椒魚よ!ユダヤ人を追放せよ!」
というものがあったり、また人類との交渉を求め放送で話すチーフ・サラマンダーは実は人間で、明らかにヒトラーを模しているとされる。世界は山椒魚の台頭の前に、自国の利益ばかり考えて一致しようとしない、というのも当時の国際情勢を皮肉っているのだろう。
実際ヒトラーはチャペックを敵とみなし、チェコ侵攻の際すぐに自宅を襲った。しかしチャペックは前年に死去していた、とか。
もしも人類に匹敵する生物が現れたら、という仮定のもと、騒然となる世の中を大げさに演出してコメディチックなつくりともなっている。もととなる思想と戦術は明確で遠大だなあと感じた。
最後は人類と山椒魚との軍事衝突になる。面白いのは人類が山椒魚を称賛したりして大騒ぎしていた時に、山椒魚のほうのリアクションがあんまり伝わってこないように思える。それが、騒ぎの中当事者の山椒魚は大勢でヌボーっしてて勝手に社会が盛り上がってる、という感をよく表している。
チーフ・サラマンダーが実は人間?というのもそれを助長してるかな。
マンガ的社会的な展開、ベースが当時の国際情勢で痛烈な皮肉を含んでいる。この作品はSFのひとつの金字塔なんだろうなあ、と思った。
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