2019年4月22日月曜日

4月書評の4






夏の走りと書いた。最近ワンコとリビングで寝ているのだが、これが寒い。まだ上下ダウンで登山の睡眠みたい。こんな年もあっていいかも。阪急岡本、ハイソなエリアのおしゃれな野菜カフェであったミニ古本市にでかけた。


◼️河野裕「つれづれ、北野坂探偵舎 

                           心理描写が足りてない」


ご当地ラノベ。舞台は神戸。ストーリー作家探偵と熱い元編集者。


神戸・三ノ宮から山手へ向かう北野坂にある喫茶店「徒然珈琲」。高校3年生の小暮井ユキは、オーナーで元編集者で探偵舎も営む佐々波蓮司と、若い小説家の雨坂続(つづく)に出逢う。ユキは探偵舎のチラシを見て、佐々波に、友人が幽霊となって現れたと言い、彼女が見たがっている夕暮れ空の表紙の本を探して欲しいと依頼する。佐々波は霊感が強く、その友人、星川奈々子の霊が見えていた。


ここまで奈良や京都のご当地ものを読んできたが、私のメインの街は神戸。見かけて興味が湧き購入。北野坂は三宮からまっすぐ山へ向かう坂。山手はおしゃれなエリアとされていて、上っていくと異人館街がある。


雨坂は爆発的には売れないが固定ファンを持つ堅調な小説家。身体つきの細い青年で鮮やかなグリーンジャケットを着こなす、端正な王子的探偵。一方佐々波は背が高くてストライプのスーツ。ワトスンというよりは、コナンで言えば毛利小五郎、ホームズで言えばレストレード警部のタイプか。出版社をやめても編集者として雨坂に接している。


物語は連作短編で幽霊を軸に展開され、最後に全てがつながるようになっている。ちょっとしたホラー風味もある。


謎の解き方とコンビの形に特徴がある。探偵役の雨坂には小説家としてのこだわりを強く打ち出していて、基本はストーリーとして成り立つように推理する。なので汗をかくタイプではない。佐々波は雨坂を「ストーリーテラー」と呼び、雨坂はときおりそれに応えて「編集者」と返す。ちょっと気取りぎみの設定。


女子高生、幽霊、ミステリー、天才的で特徴のある推理者と、分かりやすいコンビ。道具立ては揃っている。おまけに「パスティーシュ」と呼ばれるカフェの女性店員もいい感じにチャーミング。メイド姿の森泉なぞ想像してしまった。ラノベだなぁという感じ。


謎はまずまず面白かった。が、理屈が多すぎる感があった。またもう少し神戸の街を描写して欲しかった気もする。まあ続巻も出ているようなので、そこでちょっとずつ出てくるのかな。次に巡り会えればまた買うことにしよう。


◼️稲垣栄洋「世界史を大きく動かした植物」


最初はいわゆるプラントハンターの話かと思ったが、もっと大くくりの、壮大な話だった。


コムギ、イネ、コショウ、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、綿、サトウキビ、ダイズ、タマネギ、チューリップ、トウモロコシ、サクラが世界史に与えた影響について書いている。


イネについては、田んぼの保水能力のくだりで、1994年のコメパニックを思い出した。スーパーの店頭には外米ばかりが並ぶという、いまだかつて経験しなかった時期。長くかからず落ち着いたが、田んぼをなくしてはいけない、という議論の中に保水能力、という話があった。この章はなぜ日本は人口密度が高いのか、まで言及していて興味深い。


私はジャガイモ好きなので、栄養価が高く、大量生産が可能、保存も効くというジャガについての再評価で、うんうんとうなずいてしまった。ルイ16世はコムギに代わる食糧としてジャガイモを広めようとし、マリー・アントワネットにジャガイモの花の飾りを付けさせてPRした。またアイルランドでジャガイモの飢饉が起きた時、多くの人々が海を渡って新天地アメリカに渡り、工業化、近代化を支えたとか。それほどまでに食糧として大事にされていたのかというエピソード。


綿、タマネギ、ダイズも身近で影響力が大きいのはそうだろうなと思った。チューリップの価格が信じられないほど高騰しバブルがはじけたのにはふむふむとなった。


最後の方のトウモロコシはなかなか面白かった。明確な祖先種である野生植物がなく、宇宙から来たのではという都市伝説さえあるんだとか。世界一の生産量を誇り、コーン油、コーンスターチはもちろんトウモロコシから作られる甘味料、資材やダンボールに至るまで、我々人間はどこかで必ずトウモロコシと関わっているというのは新鮮だった。さらには人の口に入る量は少なく、世界のトウモロコシの多くは家畜の飼料になるんだとか。


我々が食べているあの黄色のつぶつぶは種だそうだ。植物だったらふつう果実を鳥や動物に食べさせて種子を運搬してもらう。糞の中に混ざって排出された種子が各地で発芽するといったように、種子は何らかの手段によって運搬、散布されるもの。しかしトウモロコシの形状はそうではなく、人間の助けなしには育つことが出来ないといったミステリアスな一面も持っている。なかなか興味深かった。

 

書き方は、こうだ、と言い切っているところも多く、学者さんが書いたにしてはおおざっぱかなと思った。たしかに植物の覇権を目指して相争うということはあったと思えるが、植物に手のひらの上で踊らされているのかもしれない、というのには違和感があったかな。


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