2019年4月22日月曜日

4月書評の3







名古屋でひつまぶし。もう20度を余裕で越して暑い。陽が落ちても寒かったり暑かったり。ぼちぼち夏の走りかな。

◼️森下典子

「日日是好日ー『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」


ああそうか、と自分が変わっていく、変わる瞬間を実感する。そんな作品。


樹木希林さんの最後の出演作ということで、映画見に行こうかな、と思っているうちに機会を逃してしまった。するといつもの本読みの後輩がいかがですか、と貸してくれた。その偶然の機会が、気づくきっかけに通じているような気までした。


筆者は女子大生時代に近所の「武田のおばさん」にお茶を習い始める。こういう風にするものよ、と理由を言わず型をひたすら教えられることに不満を抱きつつ、その後20数年も続ける。その間に、長い時間をかけて、実感を持って悟る瞬間を何度も迎える。


お茶、茶道に関しては私も全く素人だが、興味を持ってはいた。山本兼一「利休にたずねよ」、川端康成「千羽鶴」と小説を読むたびに作法や茶道具にさわり程度に関心を持って読んでいた。つくばい、棗、蒔絵、有名な茶碗など、形や色、デザインも美しいものが多いし、また日本語としても面白いと思う。


この作品でも、掛け軸、多くの茶花、写真のページがあり見目麗しく美味しそうな和菓子には心惹かれる。これらの紹介も作品の主要な一部ではあるが、主題ではない。


武田のおばさんは、いつになっても理由、理屈を教えてくれない。筆者はお点前の順序や決まりごとを覚え、人に教えることをも勧められるレベルに達するのだが、それでもまだ、茶道そのものをつかみきれないような状態が続く。


でもその間に、掛け軸や額に書いてある文字の意味や流れをつかみ、「音」の違い、匂い、色の感覚の目覚めを実感し、異空間に漂うような感覚まで覚える。それらは季節にもつながっている。教えない、というのは大した方針だと思うが、だから到達したときの感慨は際立つ。


自分を振り返ると、学生時代スポーツをしていてまったく興味のなかったことが年を経るにつれ気になってくる、友人の内面も変化してゆく、ということは常に感じてきた。休みに山にドライブに行く、の次に新緑がきれいだろうな、と話したり、秋はススキの群生を見たいと思ったり、何気ない花や鳥の声まで気になってくる。よく見る、よく聴く、という感覚も育ったような気がしている。


長い時間を過ごす間には多くの経験をし、毎日様々なことを思う。どんなに身近な人にも伝えきれない多くの孤独な時間と言葉を心に持っている。筆者が人生、生活を過ごす中でお茶によって豊かになっていく感覚を得て表現してすることが、この本に込められたものの一つかも知れない。


ではお茶やってみようか、とは思わないが、興味をかきたてられる作品でした。


お湯が沸く、くつくつ、ともジュルジュル、とも聞こえる音が聴きたくなる。お茶菓子にも興味が出た。銘菓を買ってみようかな。結局食い気か。^_^


◼️恒川光太郎「夜市」


著者の文章はしっとりした色気を伺わせ読者を異界へと引き込む。日本ホラー小説大賞。


先日「金色の獣、彼方に向かう」を読んで、興味を持ち読んでみた。デビュー作であり直木賞候補ともなった本。


私は小説の魅力を色気、と表すことがあるが、これは直截な妖艶さを言っているのではなく、作品が醸し出す面白み、とか文章や物語が漂わせる雰囲気を指し示している。


正直言うと、ストーリーの成り行きや結末といったものにはやや物足りなさも感じる。しかしこの人が持つ、抑えた筆致で、闇に安心して浸りつつ、どこか光って見える、品を感じさせる文章や、物語の上手な不整合さ加減に才能の閃きのようなものを感じる。


異世界の暗さ、黒さ、微妙な不思議さに、読んでいるうちに取り込まれ、短い時間で読み切った。


表題作「夜市」と書き下ろしの「風の古道」、100ページほどの中編が2本、という作品。


女子大生のいずみは、高校の元同級生でバイト先が同じの裕司に、夜市に行かないかと誘われる。岬の方にある人気のない公園の奥の森に分け入った2人は一つ目ゴリラが刀を売ってたり、のっぺらぼうが老化の進む薬をうっていたりする市を発見する。いずみは、裕司の口から、かつて夜市で才能を買うために人さらいとした取引のことを聞くー。(夜市)


 「夜市」「古道」ともに子供が絡み、異世界から出られない、といった共通点がある。どちらもオチのある話が魅力的に織り成される。


ストーリーに魅力があるからだろう、次は次はとページをめくる。いつもながら早く読み終わった。落ち着いた平易な文章がまた闇の深さと、煌めきをも感じさせる。ひとつの形だろうと思う。


ただ・・異世界では、妖怪が普通に出てくるし、派手な殺しシーンもあるし、お金の意識付けもされてて、イヤミスのようなセリフもある。それでも、


どこかストーリーに爆発力がないといった点で物足りなさを感じる。そんな作風と言ってしまえば、だが、ひとつの形ではあれど何か足りない、と思えてしまう。


もう少し読んでみようかな。


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