写真は最近ちょっとお気に入りの「大人のお子様ランチ」。
暑かった夏も、終盤と言っていいだろう。何がかなわんと言って、朝着替える時にめっちゃ汗かくほど早くから日差しが厳しいこと。今年は外に出ないで良かった分は楽だった。
坂東眞砂子「鬼に喰われた女」
8月はミステリー&夏らしくちょいホラー月間。今昔物語からヒントを得たという短編集。坂東眞砂子らしく、怪しく、妖しい。
東国から京へ上った裕福な長者が、荒れ果てた邸宅に宿を取った。数日後、男が妻の叫ぶ声に部屋へ飛び込むと、暗闇から伸びた2本の腕が、妻を掴んで奥の間に引きずり込もうとしていた。(「鬼に喰われた女」)
短くて10ページちょっと、長くとも30Pくらいの話が詰まった一冊。坂東眞砂子らしくエロが入っている。話の多い短編集だからか、ちょっと繰り返しが多いなとも思うが。
古典に着想を得てるというが、この話は恐ろしすぎて伝わっていない(から書いてない)とか、あれ?という部分もあり、また前後が現代小説のように完全に繋がってないのは、原典を生かしたからだろうなあ、などと思ってしまう。その分、古典風味がして嫌いではない。
以前、千早茜という作家の「あやかし草子」という、鬼や天狗などの話をシリアスにした傑作があったが、私はこの類が好きである。古典をベースとし、日本的な怪しいものをアレンジして、しかも妖しく描こうとは、趣が好みだと思う。
次は誰か、鬼や天狗や山姥のアイデンティティにでも、古典的に迫ってくんないかな。
なかなか興味深かった。夏らしい作品だった。
アガサ・クリスティー「メソポタミヤの殺人」
アガサを読むのは、20年ぶりくらいだろうか。改めて、読みやすさと、面白さに感服。
イラクのバグダッドに来ていた看護婦のエイミー・レザランは、遺跡発掘隊の考古学者、ライドナー博士の妻、ルイーズの看護を依頼される。魅力的なルイーズは前夫からの脅迫状に怯えており、発掘隊にも微妙な緊張感が漂う中、最初の殺人が起こる。
なんといってもミステリーの女王である。エルキュール・ポアロである。中盤からストーリーは一気に進み、最後にポアロの長い独白で、意外な犯人と、ミステリーものらしいトリックが明かされる。前回「毒入りチョコレート事件」でスカされただけに、これだよ、これこれ、的な感慨を覚えてしまった。
アガサ・クリスティーは、若い頃、「アクロイド殺人事件」「スタイルズ荘の怪事件」「ABC殺人事件」「三幕の殺人」「そして誰もいなくなった」「オリエント急行殺人事件」と有名どころを読んだ。
白眉は、やはり「ABC」と、これ1回しか使えないネタ「オリエント急行」だろう。「そして誰も」は雰囲気はいいが、最後があまり好きになれない。
ポアロは、この事件の帰路に乗ったオリエント急行で事件を解決することになっている。再読してみようかと、ワクワクする。解説によれば、最初の結婚に失敗したアガサは、イラクへオリエント急行を使って旅行に行き、そこで考古学者の、2度目のご主人に出逢ったとか。
もひとつ。アガサは保守的だとしばしば揶揄される。感情はドロドロしているが、グロテスクな現場などには無縁で、イラクをめぐる当時の国際情勢はおろか、オリエントの情緒あふれる情景や歴史もほとんど描かず、探偵がスマートに解決する、というパターンが多い。またその文章の分かりやすさは、万人が認めるところだ。
でも、何というか、ミステリー本道を行くような展開は、スカッとする。また近々読もう。
東野圭吾「白夜行」
2010年の「ナツイチ」のミニ冊子が挟んであって、表紙が多部未華子だったんで、ヒロイン・唐沢雪穂の顔はずっと多部ちゃんで想像していた。
映画化ドラマ化舞台化されたのはひと昔、ということもあって、ある女子に「なんで今ごろ読むんですか?」と言われてしまった。
だって読んでなかったんだもの。
ちなみに、映画は堀北真希、ドラマは綾瀬はるかだったとか。綾瀬はるかならなんとなくわかるかな、うーんどうだろう。
大阪・生野区の廃墟のビルで、質屋の店主、桐原の死体が見つかった。捜査を進めるうち、桐原が殺害される前に会った女性、西本文代が浮かぶ。文代は、小学生の娘・雪穂と、粗末なアパートで二人暮らしをしていた。
ストーリーは長大で、雪穂と桐原の息子・亮司が小学生の時代から、30歳くらいまでのおよそ20年が描かれる。それぞれの時代を象徴するエピソードもふんだんに盛り込まれてある。
なんというか、スキがなく、大阪らしくベタッとしたものも感じさせる、ブラックな小説だ。850ページあまりの大作。しかしさすがの東野圭吾、面白い伏線とエピソードが多くあり、スラスラと、休みの3日間で完読した。
最後の最後に、最初の殺人の内幕が明かされる。長い話が最後で繋がったか、とそれなりに感慨もあったりするが、いくつもの謎がけっこうそのままで終わっているから、消化不良感が残るのも正直なところだ。全体に、女の悲哀も敷かれてあるようだ。
サスペンス・ミステリー、しかも謎の美しい女と、影のように動く、男。よく考えるとちょっと腑に落ちないところもあるのだが、読むこと自体の面白度はかなり高いと言えるだろう。
ガストン・ルルー「黄色い部屋の謎」
密室ミステリーの金字塔と呼ばれる古典。ふむふむ、と感心すると同時に、やっぱりおフランスものだなあ、という気もした。
原子物理学の権威、スタンガースン博士の娘で助手のマチルドが、「黄色い部屋」と呼ばれる自室で暴漢に襲われ、瀕死の重傷を負った。部屋は完全な密室状態で、また家屋の外に出るには博士たちのいた実験室を通らなければならない。「エポック」紙の若き記者、ルールタビーユと弁護士のサンクレールは、謎を解き明かすべく、地方の城に住まう博士の元へと向かう。
フランスものは、特有の浮かれた感じがあって、また理屈っぽくもあり、特に出だしはなかなかなじまない事がある。確かにミステリーとして面白い作品だが、やはり最初は進まなかった。
さすが、密室トリック、というか謎解きは、見事である。意外な犯人も、予想外。また、物語途中の、派手なエピソードもベリーグッド。ただ動機も犯人の立ち回りも、もう少し洗練できたかな、という感じではあるし、中盤もったりしてる感もある。まあ名作とはこういうものだ。
ルルーといえば、「オペラ座の怪人」が有名だけれど、私は、ミステリーをたくさん読んでいた若い頃、このフランス風すぎる文章についていけず、珍しく途中で読むのを止めてしまった。未だ未読である。ミステリ好きの先輩とその話をした時に「そうか、でもルルーの名作といえば『黄色い部屋』だからな」と言われた覚えがある。
「黄色い部屋」は、次作の「黒衣婦人の香り」という続編が存在するとか。ぜひ読んでみよう。
今夏のミステリー特集は、これで終わり。本格ミステリばかり読んでるとなんか気分が詰まる。折に触れ読んで、また、来年、だ。
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