2016年9月26日月曜日

嵐の後





台風16号は、3連休後の20日に鹿児島宮崎を突っ切って北東に斜めに進み、大阪兵庫がギリギリ暴風圏に入るという、よくあるコースを取って来襲した。

朝から大雨暴風警報。少しおさまった時間帯もあり、息子は学校が休校かどうか気にしてたが、まあこれから悪くなるしかないから警報は出たままだよ、と、こちらは家を出た。

バス1本早めに出社、ちょっとだけ雨に降られたものの、風もあまりない中で到着。そこから高層階でずっと仕事してたから、午後に暗くなり、雨がひどい時間帯もほおーと見てただけだった。あまり風はないようにも見えたが、帰って息子に訊くと、家が揺れるくらい吹いたという。やっぱ台風だ。

いつものことだが、台風はどんどん勢力を落としていった。近畿を通り過ぎてからが顕著だったが、でもやっぱ台風、その先でも被害をもたらした。

会社から帰る頃には雨風も収まり、びっくりするくらいJRも時間通り。デスクワークの会社員には、いい時間帯の嵐だった。

台風を境に涼しくなり、長袖の人も増えた。このまま秋かと思えたが・・。

土曜日は家にいて、日曜日は朝から昼まで外出した。靴を修理に出したり、本を補充したりという感じだったが、これが外が本当にムシ暑く、完全にバテてしまった。朝からなんか身体が重かったのだが、本などで重量のあるバッグを持って山道を登って帰ると、あーダメージ深いなー、という感じで、昼下がりはソファにずっとダウンしていた。いやー危うく熱中症。

まだまだ暑いようだ。半袖はもうしばらく生きだな。あと1週間、下期入りの際には考えようっと。

さて上の本の補充だが、私は月末が近づくと、次月に読む本を揃える、という行動をする。

本読み、読む本が無くなるのを怖れる(笑)し、なにせぶっちゃけ月10冊読むから数が必要なのだ。ぼちぼち年末年始に読む本も入手したいし。

で、きょうは、まずブックオフに行き、探しているメグレ警部ものがないかと児童書コーナーを探してから、通常の価格コーナーを探している本中心に見て、100円コーナーをじっくり見て、買ったのは3冊。

島本理生「シルエット」
車谷長吉「赤目四十八滝心中未遂」
森見登美彦「太陽の塔」

「赤目」は突然現れて直木賞をさらい、映画化もされた作品、というイメージ。島本理生は、18歳の頃にこの作品で群像文学新人賞の優秀作に入り注目を集めた。森見登美彦も、日本ファンタジーノベル大賞受賞の、デビュー作。

やはり、作家さんが、初めて注目された作品には興味がある。

向かいのビルにあるジュンク堂に行って、新聞で読んでほう、と思った1冊と、流行モノをひとつ。

瀬川深「チューバはうたう」
村田沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」

音楽ものはけっこう好きである。そして、村田沙耶香。絶好調、に、見える。楽しみだ。

で、これまでの積ん読と合わせて、次にどれを読もうかと決めていくのがちょっとした楽しみだ。私の好みは、ジャンルが同じようなものは続けて読まない、女子系は、ほどよく挟みたい、などなど。買ってくるのは、好みでけっこう推理小説系が多くなってしまうから、バラして読んでいく、とか、重くて長いものの次には、若めで短いものを、とかだ。

もちろん、来月の終わりまで本屋に行かないなんてことは空が落ちてこない限り有り得ないから、そこにポンポンと予想外のものが挟まるのも楽しみである。何を先に読みたいか、で読んだり、上のように考えて計画通り消化したり、誰にも分からない自分だけの楽しみだ。

はっいかん、語り出したら止まらない。ぼちぼちここまでで。次は年末年始特集の話でも書きましょう。

ついに40代最後の年に突入。トシは取りたくないねえ。

2016年9月19日月曜日

嵐の前





チョー強力な台風14号は台湾から中国大陸に入って熱帯低気圧に変わった後、日本付近に湿った空気を供給したとかで、3連休は雨だ。

そして、3連休明けのあす未明から20日火曜日は、台風16号が九州を抜け一気に四国の南から紀伊半島を通り、関東へと行くようだ。いま、非常に強い、だが陸地に入ると急激に衰えるから、近畿に届く頃には少しは弱まるだろう。

四国の南からまっすぐよりはちょっと北寄りに上がるようなので、兵庫県南東部、近畿中部のこの辺りは、昼から夕方最接近。暴風圏内のギリ外くらいかと思われる。もういま、外では風が荒れている。明日会社から帰る事が出来るか、行く時バス止まってないよなー。

さて雨の3連休。もともと出不精、本以外の買い物無精で、最近は土日は本を読むかケイタイゲームやってるから、息子から「パパって最近ニートだよねー」と評される始末。

最初の2日間はまともに同じパターンで、違いといえば録画しておいた「もののけ姫」を見たくらい。ちなみにジブリはあまりにも見てなくて、最近「ラピュタ」とか「魔女」「ポニョ」「コクリコ坂」を見て、残る大物は「千と千尋」くらいとなった。興行収入ジブリナンバーワン作品。

でも、一覧表で見たら、まだまだ見てないの結構あったけど。とりあえず「風立ちぬ」も見よかなと。

最終日息子をバッティングセンターへ連れてったが、まあ雨の日結構な混みようで、2階の卓球については2時間待ち。2回打たせて、ストラックアウトさせて、オート卓球して、カード屋に寄って帰る。

駅の近くで本屋。探してるのが見つけられず。帰りの道は風強く、雨それなりに降ってたが、私は折り畳み傘たたんで歩いた。あすは嵐か。

も少し本読んで、「千と千尋」の録画DVD探して寝よう。

2016年9月12日月曜日

食べたい





水曜日は休みを取って、免許の更新に行った。兵庫県はこの近くでは、伊丹か、兵庫県警のある、県庁前だ。県庁前には、三宮まで行って、さらに地下鉄。伊丹は、いつものJRで、尼崎乗り換え。うーむ、ここはやはり伊丹だなと、朝早く家を出た。

5年も経つと、何がどうか忘れてしまう。顔写真は、流れで撮影するから、持っていく必要も、近くで撮影する必要もなし。もう住民票も要らない。持参は、お知らせハガキ、印鑑、黒ボールペンくらい。印鑑は免許証の受領書に押すもので、なくてもサインでOK、ボールペンも必要なかった。

しかしボーッとしてたので、いつのまにか交通安全協会にお金を払ってしまっていた。ちっ、ついつい・・。

9時に行って、人が多くてけっこう並んで手続きして、ゴールド免許は10時5分から30分の講習、10時40分には終了。予定は一応立ててあったのでそれに従って行動。

大阪に行って、アニメショップでバボカ!のカードを買う。6枚セット×3で648円。安いもんだ。遊ぶにしても、もう少し枚数ないとやっぱり面白くない。喜ぶかな。

先日、紳士靴のブランド10選、というHPを見て、2番目に紹介されていたHARUTAというメーカーが、大阪駅隣接のルクアに入っているというので偵察。品数は少ないが、なかなか仕立ていい。でも、ゴム底か否か、悩みは相変わらずだ。

新快速に乗って三ノ宮へ。食べたいものがあったから。

先日友人がシンガポールに行ってきたのに触発されて、海南チキンライスが、ものすごく食べたくなった。東京では、六本木と中目黒にアジア料理の店があって、よく食べに行っていた。確かこないだ、旧居留地あたりで看板を見た、はずだ。

しかし暑い中歩き回ったが、なかなか発見に至らず。スマホで位置を確認し、やっと発見!してみたら、看板と張り紙はあるものの、ビルに入っている店は別の店名、しかもクローズド。おいおい・・。調べてる途中に、兵庫県庁の近くにも他店で海南チキンライスを食べさせるところがあることを発見。くそ、免許の更新、兵庫県警にしておけば目と鼻の先だったのに、でも後の祭り。

2つほど、ランチに行く店は思い浮かぶのだが、どちらも最近行ったしなあ〜ととぼとぼ歩いていると、目の前に小ぢんまりした可愛らしいお店が。ハンガリーのお菓子の店で、ランチもどうやらあるらしい。速攻で入ろうと決めた。

パプリカーシュ・チルケというチキンのパプリカソース煮込みに、タルホニャというクスクス風の大粒パスタがひと皿に盛り付けられている。正直、ちょっと辛くて、量も少なく、あまり美味しくなかった。まあ高くもないし、気分は変わったしでよしとしよう。

近くのブックオフに入って涼む。この日は100円コーナーをゆっくり見ようと思った。あまり気概は無かったが、なんと見つけたかった作品が3つもあってホクホクになったから分からないもんだ。

ピーター・ラヴゼイ「苦い林檎酒」
真瀬もと「ベイカー街少年探偵団ジャーナルI
                   キューピッドの涙盗難事件」
森絵都「アーモンド入りチョコレートのワルツ」

ピーター・ラヴゼイについては長くなる。私が会社に入った頃、ハヤカワ海外ミステリベスト100という企画があった。ミステリ好きの指標とも言えるもので、私は1位の「幻の女」2位の「深夜プラス1」など読み漁ったが、6位に入っていたのが、ラヴゼイの「偽のデュー警部」で、57位に、この「苦い林檎酒」があった。

しばらく忘れていたが、本をまた読むようになって、この辺りが懐かしく、5位「あなたに似た人」19位「女には向かない職業」40位「興奮」49位「わらの女」50位「黄色い部屋の謎」などなど読んだりしている。その中で、この「苦い林檎酒」が気になってきた。しかし絶版、探してたが、ここまで見つからなかった。

少々古く、黄ばんでいたものの、充分な状態。

楽しみが増えて嬉しかった。

一応観たい映画も調べていたが、観るスタミナがなく帰宅。その日の夜、どうも眠れず、不思議なことに「海南チキンライス食べたい、食べたい」となんか爆発しそうになってしまった。変なもんだ。

大阪にあるから、取り急ぎ行ってみようかな。ダッシュで昼休みに行って帰ってこれるかな。さてさて。

2016年9月4日日曜日

8月書評の3




今週は土曜朝から、息子と梅田のアニメショップに出掛けた。バレーボール漫画「ハイキュー!」と「ダイヤのA」そして「MAJOR」が目的だが、メジャーはなし。ダイヤもだいぶコーナーが狭くなっていた。やっぱ新シリーズか映画やってないとね〜。

一番スペースの広かったのは、10月から3rdシーズン放送開始の「ハイキュー!」。ついに春高バレー出場権を懸けて、「ウシワカ」こと牛島若利率いる白鳥沢学園との、県大会決勝戦。ウシワカの人形キーホルダーが飾ってあったが、これはまだディスプレイ用だけとのこと。親子揃ってこれかっこいい、と思った。

息子が見つけたのが、漫画単行本でも触れられていた「バボカ!」というハイキュー!のカードゲーム。喜んで買って、近くのモスバーガーでじっくり見て、帰ってきてパパと対戦ざんまいで、やっぱ少ないから新しいカード欲しいね、と午後西宮のデカいエディオンに行ってみたが無い。隣のブックオフの古カードコーナーにも無い。こりゃ、とんだマイナー商品なんだ〜!と認識してしまった。

岡崎慎司「未到」

なんかサパッとしたものが読みたくなって、目に付いたのを購入。鬱屈した思いがストレートに書いてあっていいと思う。

2015−16シーズン、日本代表の岡崎慎司が所属する、イングランド・プレミアリーグのレスターは奇跡のプレミア初優勝を成し遂げる。その確率たるや、「ネス湖にネッシーがいる」可能性より低かった。岡崎は、ドイツから、1部に上がったばかりのレスターに移籍。念願のプレミア移籍を果たしたが、予想外の快進撃が続く中、自分の立ち位置、役割、やりたいプレーなどに悩み、考える。

岡崎が、リーグ戦大半の試合で先発したのはすごい事だと素直に思う。しかしそれは、ストライカーとして評価されたからではない。現実は厳しく、かつ見ている人の大半が納得できるものだ。岡崎はリーグ・カップ合わせて6得点だった。

この本は、プレミアリーグ開幕前から、リーグ戦の1節ごとに、時系列で岡崎が考えていた事を並べたもの。だから分かりやすいし、先発するものの点が奪えず途中交代が多かった岡崎の、ぐつぐつした胸の内が感じられる。

プロ選手の本といえば、最初に成し遂げた事の描写があって、選手のプレー人生を振り返り、テーマを分けて色々書いて、さらには「これはサラリーマン社会でも通じるはずだ」などとぶつのが一時の流行のようなものだった。

それはそれで、なのだが、今回は生い立ちも、家族も、ましてや他の日本代表選手のことや監督のこと、ワールドカップのことなども必要最小限。だから、プレミアの、最後までうまくいかなかった(と本人は強く思っている)岡崎の気持ちがストレートに伝わる。

最近は野球への指向性が強くて、サッカーはスルーしてがちだったが、プレミアも見てみようかな、という気になった。

冲方丁「はなとゆめ」

才気煥発なヒロイン、清少納言の物語。女子的な面が強くもあり、切なくもあり。ラストは定型的だったが、ちょっと感動した。

歌人清原元輔の娘、清少納言は、持ち前の機知により、一条帝の后である藤原定子の女房に召し出される。宮中で中宮(定子)や同僚の女房、殿上人の男たちとの毎日の暮らしは楽しいものだったが、やがて起きた権力争いにより、陰が忍び寄る。

伸び伸びと、その時代の慣習にも気をつけながら、清少納言を有能かつ、現実に翻弄される1人の女として描いていて好感が持てる。高名な歌やエピソードも引いてあり、興味深い。

女房たちの話とあって、かなり女子色が強い。また、中宮に忠誠を誓う気持ちと、のちに考察されたような考え方や現代的な思考がないまぜになっている感がある。

でも、総体として醸し出されるものは、後の悲劇にある程度しっくりとなじむし、まずまずか、と思う。勉強になった。

清少納言が仕えていた中宮に対し、新たな后を立てようとしたのが、この時期宮中の権力独占を目論んでいた藤原道長で、新たな后が娘の彰子。その彰子に仕えていたのが紫式部。いわば陣営的には正反対なわけで、「紫式部日記」には清少納言のことが悪し様に書いてあるとか。

随筆、という新しい形が、ある程度爽快に描かれている。反発もあっただろうな、と少々サラリーマン的な目線からも見てしまったりして。

村上春樹「螢・納屋を焼く・その他短編」

たまたま見かけて手に取った。ハルキは、たまに読みたくなる。

東京の大学に進学し寮に入った18歳の僕は、高校時代に自殺した友人の恋人だった彼女とデートを重ねる。最初はぎこちなかった2人の関係も、少しずつほぐれていっていたー。

タイトルの通り短編集だ。「螢」は、「ノルウェイの森」と、はっきり言って同じ設定。「納屋を焼く」はまあハルキらしい。あと2つはちっとグロい。さらにはドイツが舞台の超短編が入っている。

昭和59年の短編集で、「羊」と「ハードボイルド・ワンダーランド」の間の作品。後に続く発想が多少は見えるが、なんか、初期の作品だからか、短編だからか、グロさとか、民話風なとこだとか、残るものが少ない気もして、ハルキらしくないな、という感じもあった。

次のハルキは何を読もうかな。

上橋菜穂子「月の森に、カミよ眠れ」

児童文学コーナーでたまたま発見。でもちょっと深く難しい。日本の伝説に根ざした、カミのおはなしー。

都では隼人と呼ばれる人々のムラに、ナガタチという若者が招かれていた。ナガタチは、カミと人間の母の間に生まれた子で、尋常ではない力を持っている。人々は、稲というものを、神聖な「かなめの沼」付近に植えるため、この地のカミを封じてほしいと、ナガタチに依頼していた。ムラ長である巫女、キシメは、ナガタチに長い説明を始める。

この作品は、読みたくて探していたが、「狐笛のかなた」と同じように一般用の文庫で、たまたま見つからないだけ、と思っていた。別の著書を探して、児童書コーナーをウロウロしていて、顔を上げた瞬間に目の前にあった。

中学生にも理解できる内容、らしいが、ベースとなる構図は単純なものの、表現やその意味するところはけっこう難しいと思う。漢字へのルビがけっこう新鮮だった。

さて、九州の祖母山に伝わるという、大蛇、おろち伝説をもとに、縄文的な時代の巫女、カミとカミの言葉を伝えるもの、畏れと、その変化を極めて人間的時代的に描いている。

物語中、ムラは重大で歴史的な転換点を迎えている。その中で古い信仰を廃しようとしている。隼人の山深いムラにもついに律令が強制される。悩み深い巫女と、当のカミ、出生にコンプレックスを持つナガタチがぶつかり合うところがクライマックスだ。

手塚治虫の漫画「火の鳥」に上中下巻の乱世編、という作品があり、そこでは、日本古来の神々の地に、外国の宗教である仏教が入ってきて争いが起きる、という設定があった。時の権力者も仏教を広めようとするのだが、そこはかとなく似た雰囲気を感じる。こういうの、好きである。

上橋菜穂子初期の作品。どこか整理されてなくてスマートでない印象を受けたが、学者としての視点をふんだんに取り入れた、珍しい、和ものの古代ファンタジーとして、楽しめた。

8月書評の2




写真は最近ちょっとお気に入りの「大人のお子様ランチ」。

暑かった夏も、終盤と言っていいだろう。何がかなわんと言って、朝着替える時にめっちゃ汗かくほど早くから日差しが厳しいこと。今年は外に出ないで良かった分は楽だった。

坂東眞砂子「鬼に喰われた女」

8月はミステリー&夏らしくちょいホラー月間。今昔物語からヒントを得たという短編集。坂東眞砂子らしく、怪しく、妖しい。

東国から京へ上った裕福な長者が、荒れ果てた邸宅に宿を取った。数日後、男が妻の叫ぶ声に部屋へ飛び込むと、暗闇から伸びた2本の腕が、妻を掴んで奥の間に引きずり込もうとしていた。(「鬼に喰われた女」)

短くて10ページちょっと、長くとも30Pくらいの話が詰まった一冊。坂東眞砂子らしくエロが入っている。話の多い短編集だからか、ちょっと繰り返しが多いなとも思うが。

古典に着想を得てるというが、この話は恐ろしすぎて伝わっていない(から書いてない)とか、あれ?という部分もあり、また前後が現代小説のように完全に繋がってないのは、原典を生かしたからだろうなあ、などと思ってしまう。その分、古典風味がして嫌いではない。

以前、千早茜という作家の「あやかし草子」という、鬼や天狗などの話をシリアスにした傑作があったが、私はこの類が好きである。古典をベースとし、日本的な怪しいものをアレンジして、しかも妖しく描こうとは、趣が好みだと思う。

次は誰か、鬼や天狗や山姥のアイデンティティにでも、古典的に迫ってくんないかな。

なかなか興味深かった。夏らしい作品だった。

アガサ・クリスティー「メソポタミヤの殺人」

アガサを読むのは、20年ぶりくらいだろうか。改めて、読みやすさと、面白さに感服。

イラクのバグダッドに来ていた看護婦のエイミー・レザランは、遺跡発掘隊の考古学者、ライドナー博士の妻、ルイーズの看護を依頼される。魅力的なルイーズは前夫からの脅迫状に怯えており、発掘隊にも微妙な緊張感が漂う中、最初の殺人が起こる。

なんといってもミステリーの女王である。エルキュール・ポアロである。中盤からストーリーは一気に進み、最後にポアロの長い独白で、意外な犯人と、ミステリーものらしいトリックが明かされる。前回「毒入りチョコレート事件」でスカされただけに、これだよ、これこれ、的な感慨を覚えてしまった。 

アガサ・クリスティーは、若い頃、「アクロイド殺人事件」「スタイルズ荘の怪事件」「ABC殺人事件」「三幕の殺人」「そして誰もいなくなった」「オリエント急行殺人事件」と有名どころを読んだ。

白眉は、やはり「ABC」と、これ1回しか使えないネタ「オリエント急行」だろう。「そして誰も」は雰囲気はいいが、最後があまり好きになれない。

ポアロは、この事件の帰路に乗ったオリエント急行で事件を解決することになっている。再読してみようかと、ワクワクする。解説によれば、最初の結婚に失敗したアガサは、イラクへオリエント急行を使って旅行に行き、そこで考古学者の、2度目のご主人に出逢ったとか。

もひとつ。アガサは保守的だとしばしば揶揄される。感情はドロドロしているが、グロテスクな現場などには無縁で、イラクをめぐる当時の国際情勢はおろか、オリエントの情緒あふれる情景や歴史もほとんど描かず、探偵がスマートに解決する、というパターンが多い。またその文章の分かりやすさは、万人が認めるところだ。

でも、何というか、ミステリー本道を行くような展開は、スカッとする。また近々読もう。

東野圭吾「白夜行」

2010年の「ナツイチ」のミニ冊子が挟んであって、表紙が多部未華子だったんで、ヒロイン・唐沢雪穂の顔はずっと多部ちゃんで想像していた。

映画化ドラマ化舞台化されたのはひと昔、ということもあって、ある女子に「なんで今ごろ読むんですか?」と言われてしまった。

だって読んでなかったんだもの。

ちなみに、映画は堀北真希、ドラマは綾瀬はるかだったとか。綾瀬はるかならなんとなくわかるかな、うーんどうだろう。

大阪・生野区の廃墟のビルで、質屋の店主、桐原の死体が見つかった。捜査を進めるうち、桐原が殺害される前に会った女性、西本文代が浮かぶ。文代は、小学生の娘・雪穂と、粗末なアパートで二人暮らしをしていた。

ストーリーは長大で、雪穂と桐原の息子・亮司が小学生の時代から、30歳くらいまでのおよそ20年が描かれる。それぞれの時代を象徴するエピソードもふんだんに盛り込まれてある。

なんというか、スキがなく、大阪らしくベタッとしたものも感じさせる、ブラックな小説だ。850ページあまりの大作。しかしさすがの東野圭吾、面白い伏線とエピソードが多くあり、スラスラと、休みの3日間で完読した。

最後の最後に、最初の殺人の内幕が明かされる。長い話が最後で繋がったか、とそれなりに感慨もあったりするが、いくつもの謎がけっこうそのままで終わっているから、消化不良感が残るのも正直なところだ。全体に、女の悲哀も敷かれてあるようだ。

サスペンス・ミステリー、しかも謎の美しい女と、影のように動く、男。よく考えるとちょっと腑に落ちないところもあるのだが、読むこと自体の面白度はかなり高いと言えるだろう。

ガストン・ルルー「黄色い部屋の謎」

密室ミステリーの金字塔と呼ばれる古典。ふむふむ、と感心すると同時に、やっぱりおフランスものだなあ、という気もした。

原子物理学の権威、スタンガースン博士の娘で助手のマチルドが、「黄色い部屋」と呼ばれる自室で暴漢に襲われ、瀕死の重傷を負った。部屋は完全な密室状態で、また家屋の外に出るには博士たちのいた実験室を通らなければならない。「エポック」紙の若き記者、ルールタビーユと弁護士のサンクレールは、謎を解き明かすべく、地方の城に住まう博士の元へと向かう。

フランスものは、特有の浮かれた感じがあって、また理屈っぽくもあり、特に出だしはなかなかなじまない事がある。確かにミステリーとして面白い作品だが、やはり最初は進まなかった。

さすが、密室トリック、というか謎解きは、見事である。意外な犯人も、予想外。また、物語途中の、派手なエピソードもベリーグッド。ただ動機も犯人の立ち回りも、もう少し洗練できたかな、という感じではあるし、中盤もったりしてる感もある。まあ名作とはこういうものだ。

ルルーといえば、「オペラ座の怪人」が有名だけれど、私は、ミステリーをたくさん読んでいた若い頃、このフランス風すぎる文章についていけず、珍しく途中で読むのを止めてしまった。未だ未読である。ミステリ好きの先輩とその話をした時に「そうか、でもルルーの名作といえば『黄色い部屋』だからな」と言われた覚えがある。

「黄色い部屋」は、次作の「黒衣婦人の香り」という続編が存在するとか。ぜひ読んでみよう。

今夏のミステリー特集は、これで終わり。本格ミステリばかり読んでるとなんか気分が詰まる。折に触れ読んで、また、来年、だ。

8月書評の1





写真は、スコットランド人のちょっとかわいいウェイトレスさんがいる店のハンバーグ・五穀米ランチ。

さて、8月は11作品11冊。夏は例年数が多い。ミステリー&ホラー特集で7冊、それ以外4冊。過去を調べてみたら、ミステリーはけっこう7〜8冊で挫折、というかやめていて、毎年意識せずにこうなってるんだな、と思った。


乙一「銃とチョコレート」

8月は例年、個人的ミステリー・ホラー月間。7月新刊文庫でたまたま見かけて、乙一だったしミステリーらしいし、と買っちゃった1冊。読んでみたら、児童小説みたいでちょっとびっくりした。

さる国の地方の町に住むリンツは11才の、移民の少年。世間では怪盗ゴディバが華麗にお宝を盗み出し、名探偵ロイズが逮捕すべく捜査に乗り出している。リンツは父が生きていた頃、一緒に市場へ買い物に出て、古い聖書を手に入れるが、やがて聖書に挟まっている地図を見つける。

上を読んだだけで、ちょっと楽しい言葉遊びをしてあることがわかるだろう。ちなみにリンツの隣人はモロゾフさんである(笑)。

いくつかの漢字をわざとひらがなにしてあって、なんかそのやり方が、読む大人に味付けとしてアピールしているような気がしてくる。

内容は、貧困、移民差別、親の死など、乙一らしく灰色のベースがあった上で、冒険活劇が繰り広げられている。ちょっと性格破綻的な部分があって、腑に落ちなかったりもするのだが、まあ最後はやはり乙一らしく、それなりに微笑ましく、ちょい毒いりで、解決しておしまい、だ。

この本は、少し前の作品らしいが、これからのシリーズ化の臭いがしてこないでもない。

ちなみに乙一はあまり数読んでいないが、「暗いところで待ち合わせ」は名作だと思う。

島田荘司「暗闇坂の人喰いの木」

本格猟奇もの。怖いと聞いていたが、うーん、どちらかというと面白く読んだ。探偵御手洗潔(みたらいきよし)ものは玉木宏で、「占星術師殺人事件」が映画化されるんだね。

御手洗の手掛けた事件を小説化している石岡は、作品のファンだという女性森真利子と会った際、森が付き合っているという、妻持ちの藤並卓という男の話を聞かされる。やがて藤並が、暗闇坂にある、自宅の洋館の屋根に座った姿で変死しているのが発見される。

とっかかりはコミカルで、やがて魔性の木の怖さを感じさせ、さらにガーンと謎を突きつけ、猟奇的な事象を見せる。さらに絶世の美女も登場させ、物語はスコットランドに飛び、島田荘司の特徴というか、巨人幻想をも見せた上で一気に解決、となる。

上にも書いたが、確かに悲惨で猟奇的な事件を含むが、どれかというと本格ものとして、劇画を見るような気分で読んだ。

推理小説は、小出しにされる情報を楽しむのも趣きだが、今回はラストに至るまで、あれこれがかなり分からない。一部の犯人は分かるのだが、二段構えになっている。

うーん、正直を言うと、この動機は、難しい。これ以降の物語かどうかは忘れたが、どこかで読んだ気もするし、釈然としない感じもする。期待し過ぎた感もあるかな。

まあ、おどろおどろしい雰囲気も、突飛さも、島田荘司らしさも味わえたかな。

アントニイ・バークリー
「毒入りチョコレート事件」

1929年作の、名作と言われるもの、なんだが、こりゃなしだぜベイビー、てな作品だ。

ユーステス卿からもらったチョコレートを持って帰って妻と食べたベンディックスは昏倒し、妻は死に至る。ロジャー・シェリンガム主催の「犯罪研究会」の面々はこの謎を解き犯人を割り出すべく、それぞれ独自に調査し、見解をまとめて、皆の前で発表することにする。

まず、こうした欧米ものによくある、直喩、暗喩をふんだんに含んだユーモラスな?文章が前半大変まだるっこしい。一つ提案だが、訳も古そうなので、新訳版を出した方がと思う。さてともかく、2人目の発表から熱が入ってきて、読むのが進むようになる。

なかなか巧妙なのが、最初の方は、「この推理には、これが足りないな」と見ていられるのが、どんどん精度が上がって行くように見える後半の部分だ。

で、最後は密かに予想通りの展開になった、と思ったのだが・・読み終わった瞬間は・・当然計算されているのだろう。

解説によれば、この小説が書かれた1920〜30年代は、推理作家たちの黄金期で、様々な新趣向の作品が発表された時代だとのこと。そのジャンルの一環なのかな、と捉えるべき、なのだろう。1人の名探偵が断定的独善的に事件を斬るのではなく、別のスタイルを投げかけた、ということか。

日本人作家の作品にもたまに登場する「毒入りチョコレート事件」。私が知ったのは、米澤穂信の小説だっただろうか?「多重推理」というものの、ひとつの代名詞にはなっているようだ。

ふうむ、ミステリファンを気取って、解説に書いてある言葉で終わりにするなら、

「なるほど、これが毒入りチョコレート事件なのか。」

でもなあー。