写真はミナミのシュラスコの店の野菜。肉を食べる時には野菜が必要なのだ。
ランキング作りに没頭して、すっかり上げるのを忘れていた。(笑)
6月は10作品10冊。無意識にそういうふうにチョイスしているのか、半期末、つまり6月と12月は心に残る作品が多い。今月もまずまず。ではスタートぉ!
ガイ・アダムズ
「シャーロック・ホームズ 恐怖!獣人モロー軍団」
タイトルで全てが分かってしまい、ちょっと苦笑する。こういうエンタメ・パロディは昔からあるから、それなりにたのしんで読んだ。
政府の要人、マイクロフト・ホームズがベイカー街に弟シャーロックを訪ねてきた。テムズ川から、動物に食いちぎられたような跡のある死体が上がり、危険な科学者が関係していそうな状況から、ホームズへの調査の依頼だった。
年末年始に読んだ「神の息吹殺人事件」の作者のパロディ第2弾。モロー博士とは、H・G・ウェルズの「モロー博士の島」に出てくるマッド・サイエンティストである。
シャーロック・ホームズものは、原作(シャーロッキアン=ホームズ大好きな人々)の間では「聖典」と呼ばれる)の雰囲気そのままに書かれたいわゆるパスティーシュもあるが、多くはパロディだ。同時代人、例えば心理学者フロイトや奇術師フーディー二他諸々の人物を登場させる、ネッシーの謎に挑ませる、切り裂きジャックと対決させる、現代に登場させる、などなど数え上げればキリがない。
総じてパロディは軽かったり論理的手法が無視されたりしてるので、好きでない人も多いようだ。私はそこまで嫌いではなくて、「シャーロック・ホームズ対ドラキュラ」、「シャーロッ・ホームズの宇宙戦争」もけっこう面白く読んだ。
感想は、もっとバンバン獣人たちを暴れさせれば良かったのに、という、ある意味シャーロッキアンにあるまじき(笑)ものだった。「神の息吹」もそうだったが、もうひとつ。あまりユーモアばかり先行させない方がいいと思うけどなあ。
七月隆文
「ぼくは明日昨日のきみとデートする」
読むのがほんのちよっと恥ずかしい恋愛譚。京都の学生同士の恋物語。
京阪電車から叡山電鉄ー。電車で見かけた愛美に一目惚れした高寿は、改札を出たところで声を掛け、やがて初デートから付き合いが始まる。しかし時々、不自然な言葉を口にする愛美には、秘密があった。
ネタばらししちゃいけないが、タイトルがこんなである。京都の学生生活と、よくあるちょっとした変化球の設定。その結果どうなるかを読者に考えさせ、切なさを盛り上げる感じ、かな。書店に平積みされてたりする本である。
付き合い始めた恋人同士のかわいらしいディテールはまずまずキュンとさせるのだが、なぜか愛美の外見的な特徴、可愛さが伝わって来ない。完璧、と言われても、という感じだ。話のこの持って行き方には大事なとこじゃないかと思うのだが。
んで、今回は残念ながら、設定にのめり込めなくて、感情移入出来なかった、というのが本音である。軽いものとして読んだな。
ちょっと恥ずかしいけど、わりと良いですよ、と京都で学生やってた女子が貸してくれたのだが、んー、てなもんだった。
楊逸(ヤン・イー)「時が滲む朝」
天安門事件とその後の物語。後で書くが、私のノスタルジーの、いいところを衝いて、ベリーグッドな作品でした。
中国西北部の片田舎に暮らす高校生、梁浩遠と謝志強は、共に秦都の秦漢大学に合格し、寮生活を始める。勉学に励んでいた2人だったが、大学の人気教授である甘凌洲が、北京での動きに同調し秦都で民主化運動に身を投じていたことから、仲間と共に運動に没頭する。
この作品は2008年に発表され、外国人が書いたものとしては初めて芥川賞を受賞した。通常の同賞の特徴とちょっと違って純文学色は無いものの、なにかこう、心を動かすものが、いい形で内包されていると思う。
私が学生で国際政治を専攻していた時に、天安門事件と、それに続く東欧の民主化が起きて、題材としても取り挙げたので、懐かしく感慨深い。また、映画監督チャン・イーモウが大陸にいた時、国共内戦や文化大革命が庶民にどのような影響を与えたかを描いた「活きる」という映画をも思い出して、なかなか感じ入った。
作者は、メディアに出た運動家ではなく、運動に加わった名もなき人々を描きたかったのだという。作中の感情、あとがきに見る作者の思いを読むと、あの民主化運動はやはり心が燃え立つものがあるようだ。ストーリーは予想出来るような流れでもあるが、それでも、タイトルも含め、いい出来の作品だったと思う。ラストの方は少し救われる感じもする。
阿刀田高「ギリシア神話を知っていますか」
出張の移動時間は読書タイム。ギリシア神話も興味深いけど、阿刀田高の書き方も上手くて、面白かった。
昭和56年刊行の作品である。阿刀田高は、旧約聖書、新約聖書、コーランについて、同じタイトルで本を出している。よく書店に行く人は見かけたことがあるやも知れない。
昨年はアーサー王物語ものを読んだが、ギリシア神話を、ちょっと勉強したくなり購入。私は星座も好きだけど、知ってそうできちんと知らない話が多い。
カッサンドラ、アンドロマケ、アルクメネ、オイディプス、エウリデュケ、アリアドネ、パンドラ、などなどの話が載っている。もちろん、大神ゼウスや美と愛の女神アフロディテ(=ヴィーナス)その下にいるエロス(=キューピッド)、知の神アテネ、海神ポセイドンのほか、アキレス、ヘラクレス、ペルセウス、アンドロメダ、カシオペア、オルフェウスなど全部が主役ではないが、オールスターキャストで出てくる。
そして一章にご自分の体験や、関係する映画、演劇、また別の題材の本などなどの話を絡めて解説し柔らかく書き下す作者の文章、考察が面白い。
さすがに1回通読して話を覚えられるほどもはや柔軟な頭はしていないが、エウリデュケとオルフェウスの話が日本のイザナキ、イザナミの話にそっくりなのも改めて驚くし、ローマ神話がギリシア神話に強く影響を受けていて、渾然一体となっているらしいことなどもへえ、という感じだった。手元に置いていつか読み返そうかという気になっている。
「オデュッセイア」なんかにも興味が出てきた。
次はアレクサンダー大王あたりも読みたいな。阿刀田高の著作にあるようだし。
朝井まかて「すかたん」
やや冗長かな・・と思ったが、締めが気持ちよく、終わり良ければすべて良し、だった?
もとは江戸の饅頭屋の娘、知里は武家の三好数馬に見初められて嫁ぐが、赴任先の大阪で夫が急逝してしまう。困窮した知里はひょんなことから、大阪の大手青物問屋・河内家の若旦那、清太郎と知り合い、その母親である女主人、志乃付きの女中になる。
先月に読んだ「ちゃんちゃら」に次ぐ朝井まかてのデビュー第3作。時代もので、舞台は商人が力を持っていた大阪。「ちゃんちゃら」は江戸ものだったが、今回は、大阪出身の朝井まかてが、物語冒頭「大坂なんて大っ嫌いっ」と叫ぶ江戸っ子の知里を主人公に、関西人の良きも悪しきも自在に描いている。しかも、勤めたのは青物問屋で、今回は得意の植物でも野菜系である。
「ちゃんちゃら」と同じく、清冽さと冗長さと両方を感じるが、今回も商人の世界と野菜を丁寧に描き、テーマへの謙虚で丁寧、また抜け目ない姿勢が伝わる。ストーリーは、気持ち良い若い男女、はっきりとした悪役、途中の苦難、痛快な結末とエンタテインメントの王道を行っていながら新鮮な印象を受けるのはなぜだろう。これは後の直木賞受賞作「恋歌」でも感じたものだ。
「恋歌」はともかく、「ちゃんちゃら」も職人的な事柄と敵役の効率性と強引な戦略を対立させていて、大げさに言えば、現代の効率性と利益のみ重視の世相をうまく皮肉っているからではないかと思えてしまう。ともかく、朝井まかてが、読者の望むものを知っている肌合いが魅力的である。
もう少し冗長でなく・・とも思うのだが、きっと必要なのだろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿