2015年7月27日月曜日

真夏




梅雨明け、ごっつ暑い。台風12号は近畿から逸れたが、太平洋高気圧の傘に入り、これが真夏の陽射しだあぁっ!という感じである。夜もホントに蒸し暑い。

お仕事も忙しく、夜遅く帰ってダッシュで風呂に入って、「甲子園への道」を見て、寝る、という毎日。

読書もさすがにペースが落ちた。いつもだいたい月10冊くらいだが、今月は7冊読んでしまえるかどうか、というところ。8月は例年の名作ミステリーシリーズで、そこだけ準備は万端だが、果たして読み切れるかな〜?きょうも東野圭吾「禁断の魔術」ディクスン・カー「皇帝のかぎ煙草入れ」を買ってきた。

まあその、だいたい月8くらいで年間100作品くらいが望ましいな、とはよく思っているが。

休日出勤もして、息子の塾用の弁当のついでに作ってくれたパパ弁当も久々に持っていく。いくつになっても手作り弁当は美味い。

ところで、夏場忙しくなると、いつも身体には気を配る。熱中症にならないように、きょうみたいな休日でもスタミナをロスしないように、必ずどこかじくじくと痛み出すので養生するようにしている。今は、ここ最近来ている肩凝り、そして右足のくるぶしあたりが急に軽く痺れたり、膝に痛みが走ったりする。なんか盲腸付近もじくっと来てやな感じ。

まあ、例え休日が週一でも、気分転換のため必ずどこかには出るようにしているし、暴れたい盛りの息子の相手をしてるとつい無理もしてしまうのだが。

阪神vs横浜DeNAを見て、眠気がしたのでねてしまう。寝ても寝ても眠い。まあ休養休養っと。

2015年7月21日火曜日

台風振り回され大会







台風11号接近の中、木金と大きめのイベントで岡山は倉敷だった。木曜夜のイベントが、午前に向かっている新幹線の中で翌日に順延。わーっと10ヶ所くらいに電話する。翌日直撃の予報もある中、まだ可能性もあったのでそのまま宿泊。
夕方ご飯の行き帰りは、多少風があったもののさほどでもなかった。寝ている間に岡山市内では32.9メートルの瞬間最大風速を記録したそうだ。まったく気付かずぐーぐー寝た。夜食のあんドーナツがうまかった。関東や徳島は雨でけっこうなことになっているが、こちらは大雨は今のところ無い。

翌金曜日朝0530に起きる。朝風呂入って朝食はドンと山盛り2杯食べて出発。中止の報はど早朝に出てもおかしくないし、天気が悪い中の仕事は体力を消耗するし、いつ食べられるか分からない。それにしても6時の台風情報で

「台風は岡山県倉敷市付近に上陸しました。」

やれるわけないよな、新幹線以外JR全ストップだし。行きの車中、雨はあまり降ってなく、時折突風が吹くものの、台風のど真ん中より周辺の方がひどいのか?今回、と思ってしまうほど。到着前に開催中止が出た。

後片付けをして帰る。倉敷から岡山市内へ向かう車は、通勤時間帯だからか渋滞。雨が強くなってきた。台風の中心が通り過ぎてから降り出した。

午前中の新幹線で帰る。混むことなくスムーズ。みずほは全席2列で座席が広く素晴らしい。1席のところもあるので憶えておこう。関西はいまだ避難勧告が出ているところもあり、危惧はしていた。

帰って残務をして、夜は神戸でサッカー会場というハードスケジュール。会社の前の駅から乗れば楽勝、と思っていた。駅ごとに5〜10分くらいの時間調整。尼崎手前で動かなくなり30分停車する。早めに出たし、とやり過ごしていると、ついに甲子園口でいつ動くか不明、といったアナウンスが。あわてて降りてタクシーで西宮北口へ。まだタクシー乗るのが早かったから良かったが、決断の遅さを悔やむ。この時点でギリギリ。どこかで列車の乱れがあればアウト。それにしても、尼崎駅でアナウンスを聴けば・・。運も悪かったか。

外は大雨が弱まることなくずーっと降り続いている。阪急は何の支障もなく、地下鉄も当然支障なく、最寄駅に到着。出口横のミニコープで弁当買おうと思ったら全くなし。遠回りのセブンイレブンに行く時間なし。幸いランチパックがあったので急いで買ってチョー早足で歩いてホントにギリッギリ間に合う。神様ありがとう。

中に入ってしまえば、屋根付きスタジアムなので何の影響もなし。終わるのが長引き帰りはまた大雨・・。風もある。台風まだ行っちゃってないの?

三宮で阪急かJRか迷ったが、駅からのタクシーが豊富で濡れずに待てるJRを選択。幸いさほど待つことなく、座って帰れた。タクシーもすぐOK。それにしてもずーっと同じような天気だ。

翌日は午前出発の仕事。早めに家を出る。雨は時折の小雨ていど。なんと一晩経ってもJRは大阪環状線も神戸線も東西線も全面ストップ。仕事先には東西線1本、と思っていたから、ルートを考え直す。幸い近鉄の駅も近い。

バスも、3社が乗り入れているが、うち有馬まで繋がっている路線は全面運休。阪急で大阪へ。阪急に最寄駅は無くちょっと時間かかる。雨はやんで曇り。

遅滞なく仕事終了。新田辺駅前のイタリアンで「やみつきカルボナーラ」食べて帰る。会社にて残業。JR動き出したとwebで見て駅へ行ってみたが、「西方面は止まって動いて、だから1時間はかかりますよ。」とのこと。まだかーい、と心で突っ込みつつ阪神電車、阪神バスで帰る。ヘロヘロのヘロだけど、息子は勘弁してくれない。じゃれじゃれ。なんとか寝かし付け、こちらも爆睡。日曜午前爆睡、午後は床屋で爆睡。困ったことに夜眠れず。

月祝海の日は名古屋へ。晴れ渡ってくそ暑い。梅雨明け。これであとひと月亜熱帯。夕方からの仕事を終えて、名古屋港祭りの花火を見て帰る。サービスエリアで豚みそ焼き定食。その後車の中で爆睡。ようやっと12時に帰ったら息子が起きてきた。エアコンかけて、爆睡。睡眠時間短かったが、車の中の眠りが役に立つ。

翌朝起きてみたらまあだ台風の影響で特急が運休になっている。あちこちに長引く傷跡を残した台風11号。もう来るなよー。

2015年7月11日土曜日

6月書評の2




この半期は、外書の古典を多くしたり、日本の名作を入れたりと、ちょっと工夫した。その一方、借りる本がけっこう溢れてきた。社内文芸ネットワークが機能してきた成果だが、本というものは、少なくても、多くても困るもの。ふふふ。(謎)


サラ・グラン「探偵は壊れた街で」

新しめのアメリカン・ミステリー。クールな女探偵が複雑な謎に挑む。けっこうハチャメチャな方。

ハリケーンによる洪水で、大きな被害を受けたニューオリンズ。自称世界一優秀な探偵、クレア・デウィットは、行方不明になった当地の地方検事補の捜索を依頼される。洪水で亡くなった見方も出来る一方、嵐の後の目撃証言もあり、捜査は困難を極める。

「ちょっと変わったアプローチのもの」貸してくれた方はこんな表現をした。確かに、女探偵ものは数あれど、幾つかの特徴は認められる。

一つは活動的でありながら、非常にクールなタイプの中年の女探偵であること。また、ニューオリンズという土地に、密着度の高い話の展開であること。また、上にも書いたが、探偵自身が、クールでありながらけっこう退廃的でハチャメチャで、そして母性溢れるストーリーになっているという事だ。

クレアの過去のことなどで、かなり幻想的な部分もある。クレアが孫弟子に当たる師の探偵の著書にある言葉も、哲学的かつ現実的で、いい味を添えている。事件の流れもまあすっきりしているか。謎もまずまず明瞭に解き明かされる。

この作品で幾つかの賞を獲り、クレア・デウィットはシリーズ化され第2作ももうすぐ出るとか。なんか、今の時代でありつつも、アメリカの古典的な風味もプラスした、どこかいいなと思ってしまう小説である。

米原万里「オリガ・モリソヴナの反語法」

最後ホロリとしてしまったな・・。戦中戦後、スターリン、フルシチョフ、プラハの春、そしてゴルバチョフにまでかかる歴史もの。

弘世志摩は子持ちバツイチ、40代のロシア語翻訳者。父親の仕事の関係で、フルシチョフ時代、チェコ・プラハにあるソビエト学校に通っていた。そこで出会ったダンスの個性的な老女教師、オリガ・モリソヴナと自らが出会った人々の謎について、1990年代の今、モスクワで調査を始める。

作者自身も共産党員の父の赴任について、プラハのソビエト学校で学び、帰国後当時の友人を探し歩いたりしている。報道方面の同時通訳やコメンテーター、エリツィン来日時の随行などを経験し、ロシア語とロシアに対しての豊富な知識と持ち実践を積んでいたようだ。

ストーリーは志摩が調査を進めるうち、スターリン政権での粛清の嵐、女囚強制収容所の過酷な実態、運命に翻弄された人々の運命といったものが明らかになる。

夫や父親が逮捕・処刑された女性や子供たちの姿は、幕末の水戸藩にも通じるが、バレエ、踊りを一つの柱に、エキセントリックなオリガ・モリソヴナのはっちゃけた言動振る舞い、またソビエト学校の奔放で活発な少女たちの様子が、暗くなりがちな物語にユーモアと明るさ、そして光を与えている。

かなり前に読んだ「プラハの春」を思い出した。戦後の世界的な国家的混乱、壮大な人工的実験とも言える思想的な国家の成り行きが産み出した凄惨な実態と喪失感までもが漂っている。

ところどころ一時期よく出たような日本批判も見受けられるし、巻末に収録されている対談に、共感とともに違和感を覚えないでもない。

しかし、この小説のラストは何とも言えない、一筋の感動を醸し出す。長い作品だったけど、読んでよかった、と思った。

米澤穂信「愚者のエンドロール」

んー、話の最後の方は上手く作り込んであると思ったけれど、ちょっとパワーダウンかな。「氷菓」に続く古典部シリーズ第2作。

「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。」がモットーの省エネ主義者、折木奉太郎は高校1年生の古典部員。文化祭を前にして、2年のクラスが作りかけの映画の試写会に他の部員とともに招かれるが、脚本担当の女子が倒れたからと、映画の成り行きの謎解きを頼まれる。

本格推理ではなく、ライトノベル過ぎるものでもない。会話とキャラクター付けはちょっと奥深めに、というテイスト。うーん、謎のネタが、何というか、破天荒過ぎて、いつものミステリ感覚にも入って行けなかった。入って行かないようにしてるのかも知れないが。

最後は、まあ、こうでなくちゃね、という展開にはしてあるが、もうひとつである。前作は初登場のキャラの説明や謎が面白く新鮮だった反動かな。

シャーロック・ホームズの話も出てくるのだが、推理ものとしてホームズは・・というくだりは、誰もが思っていることだろう。私もそう思う。ただちょっと考えてしまう思考方向だ。

指摘をひとつ。ホームズ物語の舞台が19世紀半ば、という文があるが、ホームズが活躍したのは、どう考えても1880年代から1900年代初頭であり、半ばは当たらない。

そういう心の狭い心象もまた、あまり評価しない原因かも。いやー。ごめんねっ。

コナン・ドイル「四つの署名」

よく息子の寝かしつけの時にホームズ物語をアレンジして聞かせる。先日までは「バスカヴィル家の犬」だった。
「実はホームズさん、足跡はあったんですよ」
「ほう、男のですか?女のですか?」
「それが、大きな犬の足跡だったんです!」

などと効果満点に魔犬の話を盛り上げた。(笑)。で、次はこの作品がいいんじゃないかと思って何度目かの再読をした次第。やたらホームズづいた6月。

事件が無くて退屈しているホームズと、同居のワトスンの部屋へ、メアリ・モースタンという娘が相談に訪れる。ここ数年、差出人不明で、大きな真珠が贈られて来ていたが、贈り主と思われる者から、お会いしたいという手紙が届いたという。

話の成り行きは、いかにもワクワクしそうな、たぶん当時の読者が喜んだであろう要素がたっぷりだ。謎の財宝、怪人、追跡劇・・そしてラブストーリーでもある。

ドイルは、シャーロック・ホームズに関して、最初は「緋色の研究」とこの「四つの署名」を書いた。評判としてはそこそこだったという。次に書いた短編「ボヘミアの醜聞」が大変な評判となり、ホームズは世界的な名声を博すようになった。「ボヘミアの醜聞」は話し終わった時に息子も「面白かった!」と言ってたっけ。「まだらの紐」は怖かったらしい。

さて「四つの署名」。いかにも派手めな冒険譚ではある。アジア方面への、欧米人の都合の良い見方も垣間見える。推理が入り込む余地はちょっと少なめだ。しかし最初の2つの長編は、シャーロッキアン的に大きな要素を含んでいる。

ホームズの麻薬癖(ちなみにこの時代は禁止されていなかった)、ホームズの名言、現代の警察犬のようなトビーの活躍、ベイカー・ストリート・イレギュラーズの再出演、ワトスンの結婚、女性というものに対しての、ホームズのスタンス。

それに、うがってみれば効果を狙っているように見えるが、全体の雰囲気や流れは、うまく噛み合っていい効果を出している。見逃せないのが、様々な立場の人の生活感までもを出していること。ホームズが物語として多くの人の心を掴んでいる所以でもある。

これで200ページちょっと。映画は2時間以内、小説は250ページがちょうどいい。もちろん粗さもあるが、今回も、割り切ってスッキリ読めた。

上橋菜穂子「狐笛のかなた」

いやー引き込まれてしまったな。満足。読みたかった一冊。「鹿の王」で本屋大賞の上橋菜穂子、2003年の作品で野間児童文芸賞受賞作。

春名ノ国の夜名ノ森の端に住む少女・小夜は人の心の声を聴くことができる能力があった。ある日、小夜は犬たちに追われた子狐を懐に隠して逃げることになる。駆け出した方向には里人の出入りが禁じられている森蔭屋敷があり、小春丸という屋敷の男の子に、危地を救ってもらう。

基本は児童文学なのだが、これは間違いなく大人向けの話でもあると思う。文化人類学者でもある上橋菜穂子の世界の作り方は奥深さを感じさせる。

上橋菜穂子は「精霊の守り人」他の守り人シリーズが大ヒットした。アジアを基本に置いた、しっかりしたファンタジー、というのが近年評価されたポイントのひとつだという。

守り人シリーズが、中央アジアの民族を念頭に置いていたのに比べ、こちらは明らかに古代の日本が舞台である。霊力を得ると言われる恐ろしい霊狐、呪術師や結界、カミの世界との間にある「あわい」となかなかワクワクするフィールド設定だ。また、日本が持つ美しさ、幽玄さ、そして怪しさまで、表現する手法は幅広い。

隣国との勢力争い、跡目騒動があったりして、時代劇のような様相も帯びるが、最後にはある意味児童文学らしい結末へと進む。一歩引いてみると。謎が謎のまま残されたり、小夜の能力が全面開花という訳ではなかったり、まとまっていない部分も正直あったりする。

しかしドキドキしながら、終わらないよう念じながらページをめくる感触は楽しかった。
宮部みゆきの解説にあるように、上橋菜穂子のこの世界に旅に出て、読後ようやく帰還した感じだった。

6月書評の1





写真はミナミのシュラスコの店の野菜。肉を食べる時には野菜が必要なのだ。

ランキング作りに没頭して、すっかり上げるのを忘れていた。(笑)

6月は10作品10冊。無意識にそういうふうにチョイスしているのか、半期末、つまり6月と12月は心に残る作品が多い。今月もまずまず。ではスタートぉ!

ガイ・アダムズ
「シャーロック・ホームズ 恐怖!獣人モロー軍団」
タイトルで全てが分かってしまい、ちょっと苦笑する。こういうエンタメ・パロディは昔からあるから、それなりにたのしんで読んだ。

政府の要人、マイクロフト・ホームズがベイカー街に弟シャーロックを訪ねてきた。テムズ川から、動物に食いちぎられたような跡のある死体が上がり、危険な科学者が関係していそうな状況から、ホームズへの調査の依頼だった。

年末年始に読んだ「神の息吹殺人事件」の作者のパロディ第2弾。モロー博士とは、H・G・ウェルズの「モロー博士の島」に出てくるマッド・サイエンティストである。

シャーロック・ホームズものは、原作(シャーロッキアン=ホームズ大好きな人々)の間では「聖典」と呼ばれる)の雰囲気そのままに書かれたいわゆるパスティーシュもあるが、多くはパロディだ。同時代人、例えば心理学者フロイトや奇術師フーディー二他諸々の人物を登場させる、ネッシーの謎に挑ませる、切り裂きジャックと対決させる、現代に登場させる、などなど数え上げればキリがない。

総じてパロディは軽かったり論理的手法が無視されたりしてるので、好きでない人も多いようだ。私はそこまで嫌いではなくて、「シャーロック・ホームズ対ドラキュラ」、「シャーロッ・ホームズの宇宙戦争」もけっこう面白く読んだ。

感想は、もっとバンバン獣人たちを暴れさせれば良かったのに、という、ある意味シャーロッキアンにあるまじき(笑)ものだった。「神の息吹」もそうだったが、もうひとつ。あまりユーモアばかり先行させない方がいいと思うけどなあ。

七月隆文
「ぼくは明日昨日のきみとデートする」

読むのがほんのちよっと恥ずかしい恋愛譚。京都の学生同士の恋物語。

京阪電車から叡山電鉄ー。電車で見かけた愛美に一目惚れした高寿は、改札を出たところで声を掛け、やがて初デートから付き合いが始まる。しかし時々、不自然な言葉を口にする愛美には、秘密があった。

ネタばらししちゃいけないが、タイトルがこんなである。京都の学生生活と、よくあるちょっとした変化球の設定。その結果どうなるかを読者に考えさせ、切なさを盛り上げる感じ、かな。書店に平積みされてたりする本である。

付き合い始めた恋人同士のかわいらしいディテールはまずまずキュンとさせるのだが、なぜか愛美の外見的な特徴、可愛さが伝わって来ない。完璧、と言われても、という感じだ。話のこの持って行き方には大事なとこじゃないかと思うのだが。

んで、今回は残念ながら、設定にのめり込めなくて、感情移入出来なかった、というのが本音である。軽いものとして読んだな。

ちょっと恥ずかしいけど、わりと良いですよ、と京都で学生やってた女子が貸してくれたのだが、んー、てなもんだった。

楊逸(ヤン・イー)「時が滲む朝」

天安門事件とその後の物語。後で書くが、私のノスタルジーの、いいところを衝いて、ベリーグッドな作品でした。

中国西北部の片田舎に暮らす高校生、梁浩遠と謝志強は、共に秦都の秦漢大学に合格し、寮生活を始める。勉学に励んでいた2人だったが、大学の人気教授である甘凌洲が、北京での動きに同調し秦都で民主化運動に身を投じていたことから、仲間と共に運動に没頭する。

この作品は2008年に発表され、外国人が書いたものとしては初めて芥川賞を受賞した。通常の同賞の特徴とちょっと違って純文学色は無いものの、なにかこう、心を動かすものが、いい形で内包されていると思う。

私が学生で国際政治を専攻していた時に、天安門事件と、それに続く東欧の民主化が起きて、題材としても取り挙げたので、懐かしく感慨深い。また、映画監督チャン・イーモウが大陸にいた時、国共内戦や文化大革命が庶民にどのような影響を与えたかを描いた「活きる」という映画をも思い出して、なかなか感じ入った。

作者は、メディアに出た運動家ではなく、運動に加わった名もなき人々を描きたかったのだという。作中の感情、あとがきに見る作者の思いを読むと、あの民主化運動はやはり心が燃え立つものがあるようだ。ストーリーは予想出来るような流れでもあるが、それでも、タイトルも含め、いい出来の作品だったと思う。ラストの方は少し救われる感じもする。

阿刀田高「ギリシア神話を知っていますか」

出張の移動時間は読書タイム。ギリシア神話も興味深いけど、阿刀田高の書き方も上手くて、面白かった。

昭和56年刊行の作品である。阿刀田高は、旧約聖書、新約聖書、コーランについて、同じタイトルで本を出している。よく書店に行く人は見かけたことがあるやも知れない。

昨年はアーサー王物語ものを読んだが、ギリシア神話を、ちょっと勉強したくなり購入。私は星座も好きだけど、知ってそうできちんと知らない話が多い。

カッサンドラ、アンドロマケ、アルクメネ、オイディプス、エウリデュケ、アリアドネ、パンドラ、などなどの話が載っている。もちろん、大神ゼウスや美と愛の女神アフロディテ(=ヴィーナス)その下にいるエロス(=キューピッド)、知の神アテネ、海神ポセイドンのほか、アキレス、ヘラクレス、ペルセウス、アンドロメダ、カシオペア、オルフェウスなど全部が主役ではないが、オールスターキャストで出てくる。

そして一章にご自分の体験や、関係する映画、演劇、また別の題材の本などなどの話を絡めて解説し柔らかく書き下す作者の文章、考察が面白い。

さすがに1回通読して話を覚えられるほどもはや柔軟な頭はしていないが、エウリデュケとオルフェウスの話が日本のイザナキ、イザナミの話にそっくりなのも改めて驚くし、ローマ神話がギリシア神話に強く影響を受けていて、渾然一体となっているらしいことなどもへえ、という感じだった。手元に置いていつか読み返そうかという気になっている。
「オデュッセイア」なんかにも興味が出てきた。

次はアレクサンダー大王あたりも読みたいな。阿刀田高の著作にあるようだし。

朝井まかて「すかたん」

やや冗長かな・・と思ったが、締めが気持ちよく、終わり良ければすべて良し、だった?

もとは江戸の饅頭屋の娘、知里は武家の三好数馬に見初められて嫁ぐが、赴任先の大阪で夫が急逝してしまう。困窮した知里はひょんなことから、大阪の大手青物問屋・河内家の若旦那、清太郎と知り合い、その母親である女主人、志乃付きの女中になる。

先月に読んだ「ちゃんちゃら」に次ぐ朝井まかてのデビュー第3作。時代もので、舞台は商人が力を持っていた大阪。「ちゃんちゃら」は江戸ものだったが、今回は、大阪出身の朝井まかてが、物語冒頭「大坂なんて大っ嫌いっ」と叫ぶ江戸っ子の知里を主人公に、関西人の良きも悪しきも自在に描いている。しかも、勤めたのは青物問屋で、今回は得意の植物でも野菜系である。

「ちゃんちゃら」と同じく、清冽さと冗長さと両方を感じるが、今回も商人の世界と野菜を丁寧に描き、テーマへの謙虚で丁寧、また抜け目ない姿勢が伝わる。ストーリーは、気持ち良い若い男女、はっきりとした悪役、途中の苦難、痛快な結末とエンタテインメントの王道を行っていながら新鮮な印象を受けるのはなぜだろう。これは後の直木賞受賞作「恋歌」でも感じたものだ。

「恋歌」はともかく、「ちゃんちゃら」も職人的な事柄と敵役の効率性と強引な戦略を対立させていて、大げさに言えば、現代の効率性と利益のみ重視の世相をうまく皮肉っているからではないかと思えてしまう。ともかく、朝井まかてが、読者の望むものを知っている肌合いが魅力的である。

もう少し冗長でなく・・とも思うのだが、きっと必要なのだろう。

2015年7月7日火曜日

未来のあとひとつ。





準決勝を勝ったとき、宮間は言った。

「ワールドカップは、渡さないつもりで」

なんて格好いいセリフなんだ。およそ世界のサッカー界でこんなに男前(?)な言い方はない。いつか男子も言えるんだろうか。惚れ惚れする。

準決勝はハイボールを多用するイングランドに苦しめられたが、延長突入か、というタイミングでのオウンゴール勝ち。サッカーでは良く見る事故ゴールが、準決勝のアディショナルタイムに起きてしまうドラマ。これがサッカーであり、ワールドカップなのか。

が、冷静に振り返ると、この試合は、レベルの低くない凡戦、という私的な評価だった。

イングランドは日本を研究していて、中盤を省略するか、サイドへ飛ばすか、という手段を取ってきた。技術も高く、日本は危ない場面も迎えた。

しかし日本も、パニックになる事なく良く耐え、1人が抜かれてもカバーが早い、という展開だった。だから、レベルは低くないのだが、特に日本は攻め手が薄く、同じようにトップ大儀見に飛ばす攻めが目立ち、決定的なチャンスはほとんどなかった。また、単純なミスも目立った。イングランドも卓越していたわけではなく、決定的な場面は少なかった。さらに言えば、判定である。

日本がPKを得たプレーは、ペナルティエリアの外でファールを受けている。イングランドがPKを得たプレーもスローで見るとシミュレーションにも見える。まあ1-1だからいいんだけど。

最後のプレーもオウンゴール。日本も岩渕を投入してゴールへの圧力をかけつつあり、そのプレッシャーと無関係とは言わないが、やはり単純で不運な事故かと思える。こういう試合も、ビッグトーナメントでは有り得るということだ。なでしこを応援していたけど、イングランドにはとても残酷だった。勝因は、凡戦とはいえ、なでしこが、切れなかったことだろう。余裕もあった。そもそもトーナメント戦は勝ちこそすべて。勝ったことがなにより大きい。

これで決勝。因縁のアメリカと、2大会。いやロンドン五輪も含め3大会連続での対決。「ワールドカップは渡さない」舞台は整った。すべては、この時のための4年間だった。報道も、毎日期待を煽った。4年前の、あの、火の出るような好勝負を今一度体験できるのだろうか、なんだかんだ言ってやっぱり強かったなでしこジャパンは、歓喜で終われるのだろうか。私の中も、ワクワク感ではち切れそうだった。迎えた決勝。

開始早々、コーナーキックから失点。ロイドの動きには気をつけなきゃいけないはずなのに。アメリカは止まりはしなかった。立て続けになんと4点。日本も1点返す。早い段階でセンターバックの岩清水に代えて澤。ベンチで泣き崩れる岩清水が、あまりにもかわいそう。そして川澄アウト菅澤イン。

1人目の交代には納得が行く。モチベーターの澤を入れ、後ろを交代させるのはアリだと思う。だって、この試合、もう一度大きく仕切り直しをする必要があるわけだから。演劇的でもあるが、それを託せるのは澤しかいない。しかし、2人目の交代には頷けなかった。ちょうど攻守の動きが噛み合って調子よくなってきたところ、機動力を大きく削ってターゲットウーマンをもう1人入れるのは??である。まだ終盤でもないのに。

後半もう1点返した場面で機運が盛り上がりかけたが、すぐにアメリカに追加点を奪われた。最悪の展開。きょうはアメリカの日か。もう時間が無くなっていくのを見送るしかなかった。

アメリカが開始早々ラッシュをかけてくることや、工夫してくることは予想できた事。準備が出来ていなかったと言えばそれまで。また、アメリカはドイツとの激戦を制し、まさに、大会の戦いでしか得られない調子の良さがピークだったように思う。日本のブロックはやはり、少々楽すぎたのかも、という気もした。ただ油断というよりは、大きな波に抗うすべもなく呑まれた感があった。

残酷だ。ケースは違うにしろ、準決勝で相手に残酷な現実を味あわせた日本が、決勝で残酷な結末を味わった。

アメリカの体格は、これまで対戦したチームと変わらない。今回は、序盤にラッシュをかけたアメリカの作戦勝ちだと思う。これまでになく決定力のある相手だった。対戦相手のレベルが急に上がり、夢から醒めたような心地だ。ボレーやロングキックの精度など、多分に運もあったと思う。しかし、これがサッカーで、ワールドカップの決勝で、現実で、打ちのめされた。

1日間、落ち込んだ。でも、良い、と思えるようになった。高揚したり、期待したり、喜んだり、また心配したり、挫折感を味わったり、今回のように残酷な結末に出会ったりするのも、サッカーの魅力である。日本が強くて、決勝まで全勝で行って、2連覇がかかったから、ここまでの心境になれた。

もう一つは、ハードルの高さ。今後も、アメリカやドイツやフランスが、日本の前に立ち塞がるだろう。本当に強いチームを打ち倒すのを目標に持つから良いと思う。ワールドカップを制するのは、ものすごく困難だ。だからいい。

これも一つの、旅の終わり。なでしこジャパン、お疲れさま。ありがとう。

2015年7月1日水曜日

2015上半期ランキング発表!





今年もやって来ました、上半期のランキング発表。各賞とランキング。まあテレビ番組じゃないし、各賞が先というのももったいつけ感が大きくなるので、サクッとランク付け表を。ではでは!

1位 楊逸(ヤン・イー)「時が滲む朝」
2位 上橋菜穂子「狐笛のかなた」
3位 坂東眞砂子「朱鳥の陵」
4位 米原万里
「オリガ・モリソヴナの反語法」
5位ピエール・ルメートル
「その女アレックス」

6位川端康成「雪国」
7位熊谷達也「荒蝦夷」
8位藤沢周「武曲(むこく)」
9位桜庭一樹「少女には向かない職業」
10位上橋菜穂子「精霊の守り人」

11位奥田英朗「ガール」
12位朝井リョウ「少女は卒業しない」
13位雫井脩介「つばさものがたり」
14位湯本香樹実「夏の庭  The Friends」
15位P•D•ジェイムズ「女には向かない職業」

16位ジャック・ロンドン「野性の呼び声」
17位万城目学「鹿男あをによし」
18位阿部和重・伊坂幸太郎
「キャプテンサンダーボルト」
19位乾ルカ「夏光」
20位パウロ・コエーリョ
「アルケミスト  夢を旅した少年」


直近に読んだものほど記憶が鮮明なので、つい上位に入れてしまう、というパターンは仕方がないと思っているが、この上半期は、しっくり来るものはあったにせよ、それほどガツンと来る作品が無かったのも事実。上位につけているものも、私なりの完成度の尺度で言うともうひとつのものが多かった。

1位「時が滲む朝」は、ある意味古典的で、やや強引な感じもしたが、訴えかけるものがあった。この類、天安門事件を経験した学生たちのその後、も観たことがあるけれど、やはり喪失感、という部分が特化されていたと思う。楊逸は留学生として日本にいたものの、居ても立ってもいられず北京に行ったという。この民主化運動は、それ自体は鎮圧されたが、東欧に飛び火し世界に大きな変化を産んだ。成果は手元には残らなかったからの喪失感を表した作品だろう。

2位「狐笛のかなた」

戦国期と予想される日本を舞台にしたファンタジー。物語の世界に入り込んで、読了とともに戻ってくる感覚を初めて味わった。

3位の「朱鳥の陵」は興味あるテーマだった。後の女性天皇と、関東の田舎から出て来た主人公の対比に上手い、と思った。

4位「オリガ・モリソヴナの反語法」
最後の感動の仕掛けは、渾身の快作か。ディテールに特殊な存在感があった。女子ものドラマもいい味を出していた。

5位「その女アレックス」は構成演出が抜群に上手かった。掛け値なしに面白い作品だと思う。技術だけ取れば、1位以上だ。

6位「雪国」には敬意を表します。表現手法が素晴らしい。芯のストーリーはいまいち分かるような分からんような感じではあるが。

もうひとつの押しが無かっただけで、この上半期は愛せる作品もあったと思う。やはり読書は出会い、巡り逢いだ。自分は古代が好きなんだなあ、と思ったし、女子ものを向いているかと思ったら、熊谷達也なんかの荒っぽくて男臭いやつも好きだし、と発見もあった。下半期も、読みたい、興味ある本を探して、読むぞ〜!

では各賞を適当に。

表紙賞

上橋菜穂子「狐笛のかなた」

光る霊狐。なんか、好きである。これに決定!次点は「荒蝦夷」かな。

私には珍しいノンフィクション賞
須田桃子「捏造の科学者 STAP細胞事件」

誰もが興味あるテーマで、実に面白かった。

競馬賞
ディック・フランシス「興奮」

いままで手の付かなかったフランシス。まずまず良かった。

絵画賞
西加奈子「白いしるし」

絵画そのもののネタが、やられたと思った。
想像で、魅力的な世界へ行ってしまえる。

ほか、「野性の呼び声」がインパクトあったかな。こんな感じで!