2011年10月9日日曜日

9月の書評

先週帰りの新幹線で「黒と茶の幻想」上下巻を読み終わり、9月はしめて8作品9冊となった。

小池真理子「午後の音楽」、井上荒野「切羽へ」、真保裕一「最愛」、恩田陸「中庭の出来事」、辻仁成「海峡の光」、重松清「季節風 夏」、中山七里「さよならドビュッシー」、そして恩田陸「黒と茶の幻想」だ。月間賞は、と問われると、「黒と茶の幻想」と答える。

「午後の音楽」は、メロメロのメロドラマで、悪いが批評対象外だ。「切羽へ」は、本当に昔の日本映画のよう。誰かこれで作ってベネチアに応募して欲しいくらい。これが芸術性文学性とするのも何か抵抗を感じる直木賞。確かに、全体に、何もない岩の荒野を激しい風が吹きすさんでいるような感覚ではあった。

「最愛」は、うーむ、過去が明らかになっていく部分は「火車」にも似ているが、キャラクター設定など消化不良。

「中庭の出来事」・・「なんだわ」言葉に代表される、恩田特有の女性の世界に不思議を混ぜて、3層構造にした山本周五郎賞。読んでると、たぶん分からない部分がそのまま終わるんだろうな、と思う。得意のトライアル作品である。もうひとつ。

「海峡の光」これもひと昔前の小説のよう。主役は小林薫が似合いそう。芥川賞だが、こぢんまりしていすぎるのと、どうも感覚というよりは計算が見えて底が深くはない感じ。「季節風 夏」は出来がいいと思う。相変わらず、そ〜んな都合のいい話あるかいなと思いつつ、浸ってしまう。

「さよならドビュッシー」は、前も書いたが、ミステリーの鉄則その1。ある意味究極的だが、腑に落ちない部分も多い。このミス大賞。ラストはサガンと同じだな。嫌いではないが。ただドビュッシーの月の光やアラベスクは聴きたくなった。

「黒と茶の幻想」屋久島を旅する話である。「三月は深き紅の淵を」「麦の海に沈む果実」と連関がある。でも、ある意味恩田陸らしくなく、普通の現実。最初はきっと異空間に迷い込んだり、大自然の中で深夜に独りになったりするのかなと思うが全く違う。ドラマが無い訳ではないが、事件は何もない。学生時代の仲間、男女4人組が家族を置いて屋久島を旅し、過去や現在、謎と向き合う。4章は、4人それぞれの1人称で語られる。トライアル作品と言えなくもないが、シンプルだ。年代的にも自分にマッチして、何もなさが却って心地良く、屋久島の旅に憧れ、いい仲間の、美男美女の関係性にも単純に憧れる、美しい世界、でもある。女性はやはり、なんだわ言葉。この筆致に、結局のところ私は帰る場所に戻ってきたような感慨を抱く。「ドミノ」あたりからなにか恩田の作品が変わってきたような印象を受けていたが、こういう形で、学園もの以外でひとつ結実したのかも、と思った。

そんな感じの9月だった。はい。

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