2016年3月3日木曜日

2月書評






沖縄に行く前は、数も読めるさ、と思っていたが、終わってみたら3冊。たぶん持っていく本のチョイスを間違えたと思う。来年あるとすれば糧としよう。

しかしこんなに読まなかったのは何年ぶりかな。


村上春樹「風の歌を聴け」

村上春樹のデビュー作。1979年の作品だが、ハルキ色の片鱗が見えて面白い。周りに好きな人が多かったので読んでみた。

1970年、夏休みで故郷に戻ってきている、生物学科の学生「僕」はなじみのバーで、金持ちの息子「鼠」と飲むことが多い。バーで鼠と出会えなかったある夜、僕は洗面所に倒れている女の子を部屋まで送って行き、そのまま夜を共にする。

なんというか、哲学的な会話があって、主人公はドライで、音楽と酒の趣味がよく、ノスタルジーに浸り、人生とは、孤独とは、と考えさせる。やはりハルキは肌合いが違うな、と思わせる作品だ。

文芸の友人にはハルキにハマっている人がけっこういて(特に男子)、私も読み始めてだいぶ経つが、読むジャンルの一つとして面白いと思っている。最近進めた友人はあっという間に読むのやめた、とか。(笑)まあそんなもんだが。

読むのに慣れると、ふふふ、またハルキらしい、と微笑んでさえしまうし、読んでる最中には、ノスタルジックに同化したりしてしまうのだが、まあ今回も同じ感じだった。

増山実「勇者たちへの伝言 いつの日か来た道」

阪急ブレーブス、西宮球場をめぐるドラマ。

五十路を迎えた放送作家の正秋は、かつて父親に連れて行ってもらった西宮球場に近い西宮北口の駅で「いつのひかきたみち」というささやき声を聞く。そして今はない西宮球場のジオラマを見た帰り道、あの日の西宮球場へとタイムスリップする。

出て来た人が過去と現在とで絡み合い、周到に用意されたストーリーを展開する。何よりも当時のブレーブス、西宮球場に対する愛情、そして時代への愛着に溢れている。

私もお客さんの入らない平和台球場で、弱いライオンズを応援していたが、関西の野球少年には、昔のブレーブスを好きだった者も意外と多い。強くても客が入らんと言われた割には、昔の阪急にはすごい選手が多かった。私の時代だと山田久志、足立光宏の両アンダースロー、福本、大熊、高井、ウィリアムス、マルカーノ、ショート大橋。

この本の時代はもう少し前だが、哀愁はどこか共感できる。

テーマは興味があるが、仕掛けはとても凝られていて、きれいすぎるような気がする物語だった、でも嫌いではない。ストーリーや登場人物が持つ力は弱くなかった。

姫野カオルコ「昭和の犬」

ふうむ。不思議なテイストを持つ、直木賞受賞作。戦後と呼ばれる時代から現代までの実感。世代的に共感。

シベリア抑留帰りで、動物好きだが感情の起伏が激しい父と、意味のわからない笑い方をする変わり者の母と、イクは5才の時、事務所のような家で一緒に暮らすことになる。家には、よく吠える犬、トンと、イクと仲良しの猫、シャアがいた。

イクが幼児から49歳までの物語、連作短編である。すべての話に犬が出てくる。また、昔はよくやっていた、洋物テレビドラマのタイトルが各章に冠してある。

なんというか、少々変わり者に育ったイクの成長と平凡な生活を通して時代を描き、犬はスパイスとして表現されている。たんたんとしたストーリーなので、刺さるようなものは無いが、寸分も漏らしてない、計算されたものを感じる。この回の直木賞は、私の2014年の年間ナンバーワン、朝井まかて「恋歌」と同時受賞である。

しみじみと、そうだったよなあ、と思いつつ、どこかに爽やかさをも醸し出す。小説を読んだ、という気になるから不思議でもあった。ダイナミックさはないが、秀作であるのは間違いないだろう。

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