2013年5月1日水曜日

4月書評の2

おととい、息子と野球をずっとしてたら、おしりの筋肉が痛くなった。シートノック、上手く捕れなくても、ボールを追いかけて、走って、投げて、が楽しいようだ。いいことだ。公園で、暗くなるまでやっていた。

高田郁「心星ひとつ みおつくし料理帖」

シリーズ第6弾。いよいよクライマックス!大店を持たないか、という誘いが2つも同時に舞い込む!また、澪の秘かな想いは通じ、物語は怒涛の展開を見せる!

秋から冬に向かうからか、前巻と違い料理が旨そうだった。つみれ汁におだまき、お手軽弁当も食欲をそそる。次はいよいよ最終巻。テレビ朝日が単発でドラマ化したが、どこか連続で、原作に忠実にドラマ化してくれんかな。

村山由佳「星々の舟」

2003年上半期直木賞受賞作品。石田衣良「4TEEN フォーティーン」との同時受賞。ある家族の、連作短編集である。

ここのところ、ハードボイルドや探偵ものを読むことが多いせいか、「よろこびの歌」やこの作品を読むとまた別世界のような境地である。

ゆがんだ、昭和世代家族の物語である。短編とはいえ、連作は読みやすいし、シンパシーも湧きやすい。この作品では、物語それぞれが強烈なエピソードを扱っていて、飽きさせない。光はあるが、ハッピーエンドというわけではない。濃密で、確かに佳作の匂いを持っている。筆力も感じる。

だが、どうも読後感が重いのは気のせいか。どんな小説にもそれはあるものだが、少々計算と頑固さが見え隠れするからか、最終的に、好きにはなれなかった。

藤原伊織「手のひらの闇」

リストラ退職間際の、飲料会社広告宣伝部課長。彼のところに、会長から直々に、CMに関する依頼があった。それを断ると、その夜、会長は自殺遺体で見つかったー。

一般サラリーマン社会を母体とした、ハードボイルド・アクション・サスペンス。作者は作家生活に入ってからも、最大手の広告会社社員であり続けた。作品の設定は、まさに手慣れたフィールドだろう。

展開のテンポが速く、次々と読ませていく筆致は相変わらず面白い。主人公が切れる上にのんびり屋、というのもこれまでと同じ設定だ。正直ちとパターンづいているが、まずまず楽しく読めた。

綾辻行人「Another」(2)

私はアヤツジストである。デビュー作「十角館の殺人」に衝撃を受けて以来、殆どの著作を読んでいる。「館シリーズ」で新本格派に酔い、「殺人鬼」ではそのハチャメチャな残酷ぶりに惹きつけられた。「囁きシリーズ」も「殺人方程式」も楽しく読んだ。

今回は、ある地方都市の中学校を舞台にした、ファンタジックなホラーもの。舞台立ても内容も、恩田陸の学園ものを思い起こさせる。発表してからの反響が大きく、漫画化、アニメ化、実写映画化された。作者本人が「代表作との自負がある」と書いている。

あの、恩田陸「六番目の小夜子」も意識して書いたとの記述があるが、どちらかというと「球形の季節」に近いイメージがある。恩田を綾辻らしく、ホラーっぽく残酷に大きく膨らませた感じである。前にテンポの良い藤原伊織を読んだせいか、序盤の種明かしまでの部分が緩慢に思えたが、それでも本格推理ものっぽい雰囲気と、次は次はと読ませるのはさすが。オチはやや強引か。でも久々の綾辻行人、面白かった。

乙川優三郎「生きる」

2002年上半期の直木賞受賞作。時代劇もの、中編3つを収めた作品である。家老に追い腹を禁じられ、周りの厳しい白眼視に耐えて生きる男、困窮から娘を身売りし、街の無頼漢に金を与えて廓へ様子を見に行かせる元奉行、かつて出世のために身分違いの女を捨てた、隠居武士。

お家騒動、派閥の対立、意見の相違からの辞職、出世競争など、ネタはけっこう時代劇の定番である。ドラマ自体は平凡だ。しかし、主人公が追い詰められ、そこに一条の光が差すまでの過程を丁寧に描いていて、感情移入して読んでしまう。最後に、昔愛し合い別れた女を隠居武士が想う、という物語を持って来ているのは、男心をくすぐって小憎らしい。

時代劇には現代と違い、生活上の様々な制約があり、それがために人間らしいドラマも描ける、とやっと悟ったのは、今回の収穫だ。読後感がよく、また濃密な感じがした。心に来た佳作、だと思う。

三宅博「虎のスコアラーが教える『プロ』の野球観戦術」

普通にサラリーマンをやっていると、今の時代、必ずデータに突き当たる。そういった資料作成の仕事もしてたので、多くのデータを集積すると傾向が見えてくる、というのはよく分かる。データを利用しようとしない人がいるのも分かる。

この本が強いのは、根拠、裏付けがあるから。もちろん著者の野球に対する姿勢も垣間見えるが、なにせ、おそらく世界で最も野球を分析しているリーグの、待った無しの世界。勝負に賭ける気持ちが伝わって来て、面白かった。

小杉健治「父からの手紙」

濃厚な家族の情愛ミステリー、とでもいうものである。同時進行の2つの物語が出会うところには、驚くような真実があった。

ストーリーは短く書けるようなものではないので割愛する。ちょうど今、書店に平積みになっている文庫だ。

まず、半分までは、なかなか進まなかった。あまりにもストーリー展開が遅過ぎるような気がしたからだ。が、後半は転がり出す。オチに正直意表は衝かれた。まあその、アガサのABC殺人事件、のような感があるな。難を言えば、動機にはやはり違和感を覚える。前半と後半の落差も激しい。しかしながら、最後の手紙の情景には、心が動く。いつか、自分も。人生のラストシーンか。

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