2024年7月14日日曜日

7月書評の7

◼️ 泉鏡花「海神別荘」

戯曲であり、劇として読む。絢爛として緊迫感も怪しさもあり、なるほど、と。

魔の天才、泉鏡花。たまに読みたくなると青空文庫を探す。今回はシネマ歌舞伎版で映画化、
また舞台化もされているとのことでチョイス。物語の魔に比べ、見せ物である戯曲の魔は?

海の国の公士は膨大な量の魚類と引き換えに漁村の美女を人柱として迎える。船が沈み美女は黒潮騎士らの護衛で連れてこられるが、途中美しさに惹かれる鮫に襲われる。公士が撃退し、ようやく御殿に着いた美女はひとめ元気なところを家族や浜の者たちに見せたいと強弁する、しかしー。

ふむふむ、と。美しく飾り立てた多くの侍女、海中の光景、豪華な宮殿。煌びやかさが想像できる。加えてスケールの大きさとユーモア。鮫に襲われるなんてなんかSFものみたい。

大正2年、1913年の作品。

海中はもちろん浦島太郎や山佐知毘古の話が原形で最後のネタも古事記に沿っている。最後の静かな豹変は、谷崎潤一郎「刺青」を思い出した。ちなみにこの作品よりも2年前に発表されている。変転は鏡花の物語にもなくはなかったかな。

対立のやりとりを作り出すこと、謎を引っ張ること。そしてそこかしこに見える、人間社会へのアイロニー。いや、思い上がっているようにも見える海神の世界、その冷たい異質さが、公子の言う楽しさとの違和感あふれる対比を生み出している。この世界に、浦島太郎やヤマサチは絡め取られたのだな、なんて考えた。

ラスト、鮮烈な赤の描写がまた色彩感をタイミングよく混ぜる鏡花っぽいなと。

泉鏡花の異空間。なるほど、と。次に読むのも楽しみだ。

7月書評の6

◼️ 松岡圭祐
「続シャーロック・ホームズ対伊藤博文」

奇想天外、血湧き肉躍る展開。ホームズとワトスン、日本での冒険活劇。

リアルの書店で続編が出ているのを知った。数年前にエピソード1を読んで、ふうん、まあ面白かったな・・と思った覚えがある。クーポンが当たったのとポイントが貯まってるとのことで人生初めてPayPayを使って久々の電子書籍。

明治42年、1909年。伊藤博文がハルビンで殺されたー。探偵を隠退しサセックスで養蜂をしながら生活していたホームズは、ロンドンのディオゲネス・クラブでマイクロフトから伊藤の惜別の会への招待状を渡される。その帰途、謎の女がホームズに小さな仏像を押し付ける。仏像には

It was not Ahn Jung-geun who murdered
Hirobumi Ito.
(伊藤博文を殺したのは安重根ではない)
と彫りこまれていたー。

ホームズ自らが記した1903年の「白面の兵士」ではワトスンが結婚して別に暮らしていることが恨みがましく記してある。独居も契機となったのか、ホームズもやがてベイカー街221Bをひきはらい田舎での暮らしに入る。この物語ではワトスンは家庭を得て、幼い兄妹のパパとなり、ホームズ宅を訪ねて来る。

3人称の文体で、ホームズの内面の葛藤と寂しさを描写している。それも試みではあるが、序盤はスーパーな描写が多いホームズの哀しい人間味に気持ちが乗り切れなかった。

やがてワトスンとともに日本へ渡ったホームズは、陰謀の気配を感じ、捜査を進めていく。中盤からはまあ、暴力的な敵が眼前に突撃してきたりドンパチがあったり大きな国際的陰謀があったりとまさに息つく間もない大活劇の様相を呈する。現実の国際情勢、国際的事件と絡ませた進行。は、ハデだなあと唖然、まあこんなテイストならスケール大きくないとね、とニヤニヤ。

まあ迫力です。ダイナマイト!

こういったパロディでは、シャーロッキアン的要素がどれくらい、どのように反映されているか、大きな興味の部分。笑、お腹いっぱいになるまで入っている。

私的には、特に3つ、それでも多いよねと我ながら思う。最初に「ホームズ先生?」と声をかける。たぶんMr.Homes?なのかな。顔を隠した黒髪の貴婦人。遠い喩えかもだが、やはり「ボヘミアの醜聞」で男装のアイリーン・アドラーが

"Good-night, Mister Sherlock Holmes."

と声をかけたのを思い出してしまう。

それから、キメどころのコイン。5枚をwatchpocketに、残りはleft trouserpocketに、というくだりは後で「瀕死の探偵」を読み直し「くひひ」とシャーロッキアン的自己満足に浸った。

冒頭、「這う男」の解決に対する冷静な反論でホームズは自分も老いた、と深く傷付く。実はこの話、私も56の短編の中では頭をひねる作品だ。メインとなるオチが荒唐無稽の気味が強いし他の部分も良かった記憶があまりない。反論は納得できるものでもあるし。そうきたか、と。

ライヘンバッハの滝の場面で使用されたバリツ、も披露されるし、火といえば「ノーウッドの建築業者」ホント盛りだくさん。

偉人とホームズと、歴史と、エンタテインメント。いろんな人のパステーイシュ、パロディを読んでいるけども、日本人が書くと、両立が得意なところがあって、かゆいところに手が届くような精密な組み上げは称讃に値する。ただ、テクニックは時として意外性につながらない。それはホントで、一種独特な、ややネガティブに受け止めてしまうような雰囲気も漂う。

でもやはりおもしろい。伊藤博文とホームズだけではなく、まさに幕末、明治の名士が動き回るのは痛快でもある。イギリスサイドもチャーチル、ロイド・ジョージなど豪華だ。国際的な歴史的な事実に精密に絡めて大きな物語に持っていくのは、パロディとしての特徴を充分に備えている。

最後の挨拶にも結びつけてしまったから、続編はもうないかな。でももう少し読みたい。強力なタッグではある。

7月書評の5

◼️ 絲山秋子「袋小路の男」

妙に、読ませる作品。ドラスティックさのない、男と女の微妙な関係。川端康成文学賞。

このなんとなく日常な風味、過激さが全くないわけではないが、緩く日常が展開していくドラマ気質とでもいうもの。絲山秋子は「イッツ・オンリー・トーク」「逃亡くそたわけ」そして芥川賞の「沖で待つ」を読んできた。今回久しぶりに触れて、また絲山色というのを感じた。

高校の先輩、小田切孝に恋した大谷日向子。手も握らないまま12年間もズルズルと恋し続ける。小田切は2浪して大学に入り、作家を目指して執筆活動に入るが売れない。日向子は現役で大学に進み企業の法務部に勤める。2人は毎夜のようにバーで会ったりたまに食事したりするものの進展せず、日向子は浮気と称して彼氏を作ったり、上司と一夜の関係を持ったりする。でも、やはり好きなのは小田切なのだったー。

ノーベル賞を受賞したアニー・エルノーの「シンプルな情熱」という作品を思い出す。本当に恋した相手に、女はどういう行動をするか。ひたすら我慢して尽くすその果てとストレス。

今作では、まあだらだらと、煮え切らない、プライドの高い男と、他の男にも走るものの純粋に恋する女の姿を描く。大人の日常プラスα、という感じだ。どちらもあまりまじめな高校生ではなかった先で道が分かれ、その設定の中の人間的な感情もまた歪みを含んだものになっていく。そしてある意味純粋でまっすぐな恋心は、どうなるのか、小説はどう終わるのか。

ヨーロッパあたりの単館系の映画みたいだ。素っ気なさもある。冗長。でも読ませる。そこにたゆたう間、やもどかしいを通り越す微妙さ、が現実の生活に妙にマッチするから、かも知れない。日常の積み重ねと違和感と人間的なヘンな部分。小説的だ、と思わせる。

トルコのノーベル賞作家オルハン・パムクは自著の中で「これが人生だ、と感じさせる」ことが純文学の要諦、というようなことを書いていた。そこまで大きな仕掛けではないものの、人生振り返ってみれば色々起きたことが微妙に重なる気がする。

私的な絲山秋子の色は、そんな感じだ。また読むだろう。

7月書評の4

◼️ ブレイディみかこ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2」

やっぱりおもしろい。イギリスの教育と社会の現実。親近感を感じさせる語り口に才が光る。

けっこうな評判となった第1作からしばらく、文庫になった2を見つけて即入手。サラサラと読める。中2になった息子の、なんというか愛らしさあふれる成長過程を、社会的に、かつ母親としての目線で見つめる著者の筆致には鋭さを感じる。

鉄屑を拾って生活の糧にする近所のルーマニア移民、アフリカ移民の同級生のスカッとする歌姫ぶり、著者の住むブライトンの、いわゆる元底辺中学校のノンバイナリーやLGBTQの教育、福祉政策から福祉切り捨ての現実、ブレグジットの影響など様々なイギリスの生活光景が切り取られる。

息子は中2、いわゆる思春期を迎え、バンドのリードギターをやっているようだ。

やはり当地の学校に用意されている教育の幅の広さには驚く。シティズンシップ、経済、芸術&デザイン、ダンス、映像、エンジニアリング、宗教、ビジネスなどなど。社会的なテーマで5分間スピーチするなど課題も、まるで日本の大学みたいだ。

当然ながら、人間の社会には微妙な歪みがある、病気もある、想いの強さもある。そこはイギリスも同じ。貧富の差が激しかったり、福祉の削減にすさむ当地で、地域社会でも学校にも不条理と人間の感情がにじむ。

ユーモラスに、敏感に、息子の言動に愛を寄せ、様々な悲哀と希望を描く著者の筆は微妙で、知的で、程よく思い切りもいい。今回も言葉は通じないのに妙にウマの合う著者の父親と孫の触れ合いも微笑ましく織り込まれている。遠いヨーロッパのことなのに、絶妙に親近感を抱かせるエッセイ。才が光る。

著者は福岡の人なのでまた違う親近感も持ってたりする。

続き・・はもうないのかな。高校生編、読みたいな。

7月書評の3

◼️ 津村記久子「サキの忘れ物」

出逢い、目覚めに、非日常。短編集は小説の楽しみを考えさせる。

津村記久子はよく目にする名前。芥川賞はじめ、賞を多く取っているイメージ。読んだことはない。今回手に取る気になったのはサキが、たぶん「サキ短編集」だろうと思ったから。

好きでない友人と離れるため高校を辞めた千春は病院の喫茶店でアルバイトをしている。何事にもやる気が湧かず、両親は自分に関心がない。ある日、常連の初老の婦人が置き忘れた本、「サキ短編集」を家に持ち帰り、読んでみるー。(表題作)

あまり括ってしまえるものでもないけれど、"成長"は小説の1つのテーマだと思う。読み手は主人公に思い入れを持ち、その成長、現状からの脱出、に心を動かされる。よくあります。だからつまり小説の醍醐味は成長というゴールに向かい、HOW、いかに、どんなふうに感じさせるか、かな〜などと考えた。

直接的におもしろいのも、意外性を出すのも、すべてに理屈がつくわけではなくて、なにかほんのりと漂うものがあるのも全部正解だろうと思う。

で、今回重要なアイテムが「サキ短編集」。取り上げられている「肥った牝牛」「開いた窓」「ビザンチン風オムレツ」を読み返した。ヘンな設定で、でもそれぞれ狙ったクスリという面白さがあり変幻自在。やっぱり好ましい。

表題作の短編は現状と出逢いに重きを置き、結果で大きくジャンプしている。うん、もひとつ欲しかったかも、とも思うしスッキリしてる、とも考えた。短編はホンマ色々思いを巡らすのが良さのひとつかな。

ほかは、それこそ微笑を誘うような、短編らしい作品が並ぶ。
「王国」
「ペチュニアフォールを知る二十の名所」
「喫茶店の周波数」
「Sさんの再訪」

そして星新一のような「行列」、どこかで読んだような清々しさを覚える「河川敷のガゼル」、なかなか遊べる「真夜中のゲームブック」とバリエーションもある。

最後の「隣のビル」は日常が非日常に変わる瞬間が明瞭だ。これでこの人異常さ確定、になってしまう場面。小説らしいな、と思う。そして深刻にならないおおらかさが心地よい感じがして、大ごとにならず気持ちよく終わる。

全体としてあまり心を動かされるわけではなかったかも、と読了直後には思ったけれど、こうして反芻してみると結構工夫が目について好感を残す。他の作品も読んでみようかな。

7月書評の2

◼️ 遠野遥「破局」

最初から漂う違和感。現実から浮遊したものを感じながら、破局が訪れるのを待つ。芥川賞。

芥川賞はいわゆる純文学。少し奥深いものを感じさせて、迂回、遠回りしているような、それでいて剥き出しのものを生で突きつけられているような感覚を、時折持つ。そういうテイストは嫌いではないし、総じて短いのでたまに読むぶんには嫌いではない。

主人公の男は高校の時県の準々決勝まで行ったラガーマンで熱心に母校の後輩を指導している。著者出身校であろう大学の4年生、公務員試験を目指して勉強に励んでいる。政治家を目指す彼女もいて、常識、気遣いの基準も自分の中に持っている。

一方、うまく行き過ぎている現実から来る自信、頑健な肉体へのナルシズム、後輩への過剰ぎみな指導、ちょっとした生活描写の生の部分からは、違和感や不穏な空気が立ち昇る。誰も指摘しない、厳しく突かれることのないプライベートや内なる考え方。会社に入る直前の期間特有の状態、周囲の見方も含めた、子どもと大人の中間、そんな雰囲気もする。

新しい彼女に乗り換え、日々セックスに耽る。違和感を持ちつつ、読みながら破局を待つ、いつどれくらいの大きさを持って、どんな意外性を携えて、それは訪れるのかー。

敷かれたレール、ふむふむ、だった。哀しい滑稽さが際立つ。

主人公に対して、マイナスの感情を持って眺めていく印象だけどもまた、若者ならありがちな、いやいい大人にもたぶんにカン違いなところはやはりある。自分では常識人、と思っても他者から冷静に見た時、本人には認識しえないところで、クセがあるのも人間。

そういった人間味っぽいところを多少考えさせる、そういう仕込みまでしてる?などとアンビバレントな感慨を抱いてしまうのも純文学ならではなのかな。

主人公とは対照的に、お笑い芸人を目指し、皆に敬遠されているような友人の存在も面白い。も少し入って来たらいいのにな、と思わないこともない。

この作品と同時に芥川賞を受賞した高山羽根子「首里の馬」も読んだ。何を出そうとしているのか、考えさせるという点では知的遊びにも似ている。たまに芥川賞を読むのもなかなか楽しい。

7月書評の1

7/5 梅雨の合間、きぼうがきれいに明るく見えました。さそり座とのランデヴー。夏やねもう。

◼️阿部智里「烏は主を選ばない」

鬼滅のあのキャラを思い出す。意表を衝く設定が本流に。なるほど、ふむふむ。

今作はシリーズ第2作で松本清張賞の初回作はだいぶ前に読んだ。たしかおきさき候補の女性が四方向から集まってたのでは、色彩感もあったような、というおぼろげなイメージ。

今回はいきなり「鬼滅の刃」の我妻善逸を思わせるヘタレな少年キャラ・雪哉が出て来てどうやら主軸で展開していくようだ。この造形と前作との落差にふうむと軽く唸った。工夫していて発想がおもしろい。

地方の名家の、ぼんくらと呼ばれる次男坊・雪哉はひょんなことから、この世界を統べる日嗣の御子・若宮のお付きとなる。若宮もまた、東西南北四家の后候補が集まる松花宮に行かず、花街の娼家に通い、うつけ、と呼ばれていた。
そして、雪哉は否応なく陰謀の渦に巻き込まれていく。

前作と並行の物語、ということが分かったとき、なるほど、確か若宮は姿を現さない話だったっけと仕掛けを理解した。

八咫烏。日本書紀で神武天皇東征の道案内をしたと言われる。全身真っ黒の烏は何かしら神性を帯びたものとして扱われることが多い。通常は人の姿で暮らす八咫烏たちの世界が日本の平安時代のような風俗のもと展開される。

もちろんヘタレもうつけも文字通りではない。でも特に雪哉のキャラや若宮のSっ気ぶりは物語の進行に面白みを加えててふむふむなるほど、となった。いいですねー小説版ぜんいつ。

世界観はよく作ったなとは思うけれど・・私的にはややありふれてるかな、マンガ的かなというのが正直でもある。

序章は終わり、ここからシリーズ展開部ですな。次は早めに読もうかな。アニメ化に合わせて再度売り出したようだ。Xに上がる読書垢の書評も多い。調べてみると今週末にアニメ総集編。録画して観ようっと。

2024年7月8日月曜日

気温めっちゃ上がって天災的

先週は史上最濃の霧で始まり前半は雨また雨☔後半はカンカン照り。スタミナ消費を防ぐため😎外出は最小限。少しでも涼をと、お茶スイーツに心掛ける。夜は夏の大三角形がキレイです。七夕ですね🎋。しかし夜の空気もぬるいこと。

今週はバスケット🏀日本代表ウィーク。木曜日から男子女子と交互に2試合。女子は実績ありで目線が高い。男子は自力でオリンピックに出たの自体が1976年以来48年ぶりで、順調にステップアップしているとはいえ今回はチャレンジとなる。折しも3ポイントシューター富永啓生、ポイントガード河村勇輝がNBAチームとエグジビット10契約とのことで、着実に前進していることを感じる。夜は韓国とのGAME2。GAME1は負けた以上に内容も良くなかったのできょう修正できるかというところ。

ちなみに毎年楽しみにしているABCお笑いグランプリなのでこの日曜も午後からテレビっ子。今週以降イベントがいくつかあるしゆっくり休むことを心がけます。エラいですわ。

とか言いつつ・・夕方自宅筋トレ滝汗ですぐシャワー夕風ぬるく扇風機独占で涼む。バスケ見て、寝ました😎

2024年7月7日日曜日

上半期読書ランキング2024

2024もあっ・・という間に半年経っちゃいましたね。

この6か月間で70作品を読みました。まあだいたいこんなペースだよね、と。最近どうもペースが落ちてる気はすれど、でもおおむね目標どおりかなと。

まあともかくいってみましょう。上半期1位は?

伊勢英子「カザルスへの旅」

でした。伊勢さんの絵本、著作を読んできて好きなのもあります。ただこのヨーロッパや宮沢賢治の故郷花巻を巡る紀行エッセイはなにせ表現力が際立っていて、感性の力、それをアウトプットするときの、迸る言葉の波、というものが迫ってきました。

以下ランキングです。

1位 伊勢英子「カザルスの旅」
2位 ポール・オースター「幻影の書」
3位 千早茜「赤い月の香り」
4位 小野雅裕「宇宙に命はあるのか」
5位 門井慶喜「東京、はじまる」

6位 誉田哲也「武士道ジェネレーション」
7位 梶よう子「広重ぶるう」
8位 中井由梨子「20歳のソウル」
9位 朝倉かすみ「平場の月」
10位 カレル・チャペック「白い病」

いつも言いますがあくまで個人的な順位です。というか、1位2位はいつも考えるけれど、順位もそこまで意味はないですね。良かったなあと思う本を並べた感じ。

2位はやはり、奥行き、暗さ、フィクション感を含むスケールの大きさ、3位はシリーズ2作めで、よりブラッシュアップされたキレがあったかなと。4位、NASA惑星探査最前線の人の、夢ある現実性を楽しんだ。5位は建築ドラマですね。東京駅をゆっくり歩いてみたい気がする。

上半期に読みきれなかった積読もあり、文庫化を待っている本もけっこうあり、下半期も楽しみに読もうと思います。

上半期ランキング 各賞

最近のランキングでは各賞選定発表をサボってました😎久しぶりの各賞です。

◎うますぎるでしょ感慨賞

髙田郁
「契り橋 あきない世傳 金と銀 特別編 上」
「幾世の鈴 あきない世傳 金と銀 特別編 下」

「みをつくし料理帖」で一世を風靡した髙田郁さんが今度は呉服商をベースに商いの才ある幸(さち)を描く、少し前作よりアダルトな作品「あきない世傳 金と銀」シリーズ。終了後の番外編、筆がノリノリでほんとうに上手いと思う。老い、枯れ、誰にも知られぬ情。また時の経過が早いのも良い仕掛け。エクセレント。

◎絵本賞

junaida「Michi」

最初誰もが外国の方と思うjunaidaさんは京都の男性作家。その絵はスタンダードにも見えつつ、広げる想像の翼と、描き込みがハンパでない。展覧会もとても楽しかった。タイトル以外に文字のないこの絵本にはなかなか面白い仕掛けがあって、ついめくりかえしてしまう。今後も注目していきたい。「の」という作品もユーモアがあってとても良い。さらに斉藤倫の物語に表紙と挿絵を描いた「せなか町から、ずっと」も良かった。

◎こういうの好きです賞

吉田真紀「日本全国タイル遊覧」

モダン建築にはタイルが欠かせない。明治から昭和にかけて、手焼きのタイルは多くの工夫がなされ、味のある壁面を創り出してきた。もうホント目にあや。今では新しいものはなかなか見られないのでは?以下、書評本文。

「釉薬だけで味が出る。焼成時の窯変の妙も楽しい。無釉のもの、釘で引っ掻いたようなデザインのスクラッチタイルもあり、模様も花模様から鳥、蝙蝠を組み合わせている渋いのもあり、動植物人間の絵を描いたり、色目だけでも濃い色に赤やオレンジを配したり」形も四角、レンガの横長だけでなく、丸や楕円や大小の四角と様々。階段や柱の曲面に対応したタイルも美しい」

読み直して1つずつ行きたくなりますね😆

◎3つで完結賞

知念実希人「死神と天使の円舞曲」

いわゆる「死神」がゴールデンレトリバーとなり、黒猫となり、可愛らしく愛想を振り撒きながら、ドタバタの中けっこうエグい事件を解決し霊魂を導く。犬編と猫編の後同時出演の完結編。決して本格推理ものではありません。楽しませてもらったお礼に賞し、ここに称えます😎

7月書評の3

◼️ 津村記久子「サキの忘れ物」

出逢い、目覚めに、非日常。短編集は小説の楽しみを考えさせる。

津村記久子はよく目にする名前。芥川賞はじめ、賞を多く取っているイメージ。読んだことはない。今回手に取る気になったのはサキが、たぶん「サキ短編集」だろうと思ったから。

好きでない友人と離れるため高校を辞めた千春は病院の喫茶店でアルバイトをしている。何事にもやる気が湧かず、両親は自分に関心がない。ある日、常連の初老の婦人が置き忘れた本、「サキ短編集」を家に持ち帰り、読んでみるー。(表題作)

あまり括ってしまえるものでもないけれど、"成長"は小説の1つのテーマだと思う。読み手は主人公に思い入れを持ち、その成長、現状からの脱出、に心を動かされる。よくあります。だからつまり小説の醍醐味は成長というゴールに向かい、HOW、いかに、どんなふうに感じさせるか、かな〜などと考えた。

直接的におもしろいのも、意外性を出すのも、すべてに理屈がつくわけではなくて、なにかほんのりと漂うものがあるのも全部正解だろうと思う。

で、今回重要なアイテムが「サキ短編集」。取り上げられている「肥った牝牛」「開いた窓」「ビザンチン風オムレツ」を読み返した。ヘンな設定で、でもそれぞれ狙ったクスリという面白さがあり変幻自在。やっぱり好ましい。

表題作の短編は現状と出逢いに重きを置き、結果で大きくジャンプしている。うん、もひとつ欲しかったかも、とも思うしスッキリしてる、とも考えた。短編はホンマ色々思いを巡らすのが良さのひとつかな。

ほかは、それこそ微笑を誘うような、短編らしい作品が並ぶ。
「王国」
「ペチュニアフォールを知る二十の名所」
「喫茶店の周波数」
「Sさんの再訪」

そして星新一のような「行列」、どこかで読んだような清々しさを覚える「河川敷のガゼル」、なかなか遊べる「真夜中のゲームブック」とバリエーションもある。

最後の「隣のビル」は日常が非日常に変わる瞬間が明瞭だ。これでこの人異常さ確定、になってしまう場面。小説らしいな、と思う。そして深刻にならないおおらかさが心地よい感じがして、大ごとにならず気持ちよく終わる。

全体としてあまり心を動かされるわけではなかったかも、と読了直後には思ったけれど、こうして反芻してみると結構工夫が目について好感を残す。他の作品も読んでみようかな。

7月書評の2

◼️ 遠野遥「破局」

最初から漂う違和感。現実から浮遊したものを感じながら、破局が訪れるのを待つ。芥川賞。

芥川賞はいわゆる純文学。少し奥深いものを感じさせて、迂回、遠回りしているような、それでいて剥き出しのものを生で突きつけられているような感覚を、時折持つ。そういうテイストは嫌いではないし、総じて短いのでたまに読むぶんには嫌いではない。

主人公の男は高校の時県の準々決勝まで行ったラガーマンで熱心に母校の後輩を指導している。著者出身校であろう大学の4年生、公務員試験を目指して勉強に励んでいる。政治家を目指す彼女もいて、常識、気遣いの基準も自分の中に持っている。

一方、うまく行き過ぎている現実から来る自信、頑健な肉体へのナルシズム、後輩への過剰ぎみな指導、ちょっとした生活描写の生の部分からは、違和感や不穏な空気が立ち昇る。誰も指摘しない、厳しく突かれることのないプライベートや内なる考え方。会社に入る直前の期間特有の状態、周囲の見方も含めた、子どもと大人の中間、そんな雰囲気もする。

新しい彼女に乗り換え、日々セックスに耽る。違和感を持ちつつ、読みながら破局を待つ、いつどれくらいの大きさを持って、どんな意外性を携えて、それは訪れるのかー。

敷かれたレール、ふむふむ、だった。哀しい滑稽さが際立つ。

主人公に対して、マイナスの感情を持って眺めていく印象だけどもまた、若者ならありがちな、いやいい大人にもたぶんにカン違いなところはやはりある。自分では常識人、と思っても他者から冷静に見た時、本人には認識しえないところで、クセがあるのも人間。

そういった人間味っぽいところを多少考えさせる、そういう仕込みまでしてる?などとアンビバレントな感慨を抱いてしまうのも純文学ならではなのかな。

主人公とは対照的に、お笑い芸人を目指し、皆に敬遠されているような友人の存在も面白い。も少し入って来たらいいのにな、と思わないこともない。

この作品と同時に芥川賞を受賞した高山羽根子「首里の馬」も読んだ。何を出そうとしているのか、考えさせるという点では知的遊びにも似ている。たまに芥川賞を読むのもなかなか楽しい。

7月書評の1

先週前半は雨、また雨。史上最濃クラスの霧に閉ざされた山。天界みたいということにしておこう。

◼️阿部智里「烏は主を選ばない」

鬼滅のあのキャラを思い出す。意表を衝く設定が本流に。なるほど、ふむふむ。

今作はシリーズ第2作で松本清張賞の初回作はだいぶ前に読んだ。たしかおきさき候補の女性が四方向から集まってたのでは、色彩感もあったような、というおぼろげなイメージ。

今回はいきなり「鬼滅の刃」の我妻善逸を思わせるヘタレな少年キャラ・雪哉が出て来てどうやら主軸で展開していくようだ。この造形と前作との落差にふうむと軽く唸った。工夫していて発想がおもしろい。

地方の名家の、ぼんくらと呼ばれる次男坊・雪哉はひょんなことから、この世界を統べる日嗣の御子・若宮のお付きとなる。若宮もまた、東西南北四家の后候補が集まる松花宮に行かず、花街の娼家に通い、うつけ、と呼ばれていた。
そして、雪哉は否応なく陰謀の渦に巻き込まれていく。

前作と並行の物語、ということが分かったとき、なるほど、確か若宮は姿を現さない話だったっけと仕掛けを理解した。

八咫烏。日本書紀で神武天皇東征の道案内をしたと言われる。全身真っ黒の烏は何かしら神性を帯びたものとして扱われることが多い。通常は人の姿で暮らす八咫烏たちの世界が日本の平安時代のような風俗のもと展開される。

もちろんヘタレもうつけも文字通りではない。でも特に雪哉のキャラや若宮のSっ気ぶりは物語の進行に面白みを加えててふむふむなるほど、となった。いいですねー小説版ぜんいつ。

世界観はよく作ったなとは思うけれど・・私的にはややありふれてるかな、マンガ的かなというのが正直でもある。

序章は終わり、ここからシリーズ展開部ですな。次は早めに読もうかな。アニメ化に合わせて再度売り出したようだ。Xに上がる読書垢の書評も多い。調べてみると今週末にアニメ総集編。録画して観ようっと。

2024年7月1日月曜日

【神戸海岸通りモダン建築巡り②】

次は海岸通り沿いを東へ行き、1938年竣工のチャータード・ビル。ここにはデザインスタジオ、ギャラリー、ショールーム、飲食スペースを内包する実験的スペース「VAGUE」さんが最近オープンしました。

広いワンフロアにいくつもの区画の部屋がありさまざまな展示がされています。フランスの若い芸術家さんの展示会(撮影NG)、アクセサリー、陶磁器、食器、またベッドやバスを置いた、生活空間ぽいオブジェもありました。カフェの一角でガトーナンテというフランスのスイーツをアイスブラックティーで。

屋上フロアにも展示があり、廃墟だなあと思ったらカラーガラスのオブジェが置いてあったりとなかなか会場中アートでおもしろかった😎

週末、金曜は大雨、日曜は雨で風が強い。ここ最近行けたら行きたいな〜とメモしていた企画をなんか体調悪いとか雨やしとかでやめていた。

海岸通りぞいビルを巡り、行く前はどんなもんなだろう?だったのが、帰る頃には大満足。動いてこそリフレッシュすることがある。やや内向きで乾いていた気分が潤った感じですね。

ガトーナンテ、ボリュームもあって美味かった。満足。

さて、この週末は書き物が多くて、🏐男子バレーネーションズリーグ、次は優勝を懸けた決勝戦。スペシャルドラマ「ブラック・ジャック」もあるし、相変わらずスポーツ観戦などテレビで忙しいのでした😆

来週は🏀八村塁が合流した日本代表の国際試合。楽しみすぎる。

【神戸海岸通りモダン建築巡り①】

神戸の三宮・元町駅の方から南にずっと下った海岸通りはモダン建築がズラリと並んでいます。港のすぐそばで、商社や銀行のビルが多かったようです。

少し駅からは歩きますが、街中を通るのでルートによっては旧居留地のビル街、また中華街の南京町なんかを楽しみながら歩けます。

さて、1911年、明治44年竣工の海岸ビルヂング、玄関からまっすぐに延びている階段を3階まで上がると、天井の青いステンドグラスが迎えてくれます。アート系のテナントがいくつも入っていて、再利用が進んでいる方かなと。

今回のお目当ては最近オープンした『THE BOOK END』さん。広くすっきりした店内には国内外の写真集、グラフィックデザインなどの本が豊富に置かれています。触っていいのか迷うようなきれいなアートブックをめくっているとさまざまな土地、テーマの作品に込められたものが漂ってくる気がします。

窓の外には新装なったミナト神戸のシンボル・ポートタワーが見えます。

やっぱ神戸にはお洒落がないと。がんばってほしいもの。若者ファイトd(^_^o)

6月書評の11

◼️Authur Conan Doyle
"The Adventure of the Veiled Lodger"
「覆面の下宿人」

書評、一瞬眠りに落ちてた時にスマホに指がかかってたらしくて、まるまる消えてしまいました。1日かけたのに・・盛り上がるよう書いたのに・・

読んだのは確かなのでスンマセン今回は紹介なしです。

サーカスにいて、ライオンに餌をやろうとして夫は殺され、自分は顔を食いちぎられた夫人の話です。当時は事故で終わっていました。しかしホームズに告白したところでは夫がひどい人だったから、愛人と共謀し、ライオンが一撃を喰らわせたように見せかけて夫を殴って殺した、檻から出したライオンは人間の血と死の臭いに猛り、夫人に向かってきた、ということだったと。

すべてを話し終えて帰る時にホームズは声をかけます。

"Your life is not your own,"
"Keep your hands off it."

「あなたの命はあなた1人のものではありません。めったなことを考えてはいけませんよ」

Keep your hands offは調べたところ

触れない、干渉しない、手を出さない、ちょっかいを出さない、勝手にいじらない、と言った意味らしく、私が見た訳は「早まらないように」となっていました。

もう1つの訳には「人生を押さえつけている手を離してみてはいかがですか」とありました。こちらも哲学的で、逐語訳で好きなのですが、やはり前後を考えると早まらないで系が好きかなと。

この後ホームズのところには青酸の小瓶が送られてきてメッセージには

"I send you my temptation. I will follow your advice."

「私が誘惑にかられていたものはあなたに送ってしまうことにします。おっしゃる通りに生きてみます」

とあるんですね。はい、今回これで終わりです😁

6月書評の10

◼️ポール・オースター「偶然の音楽」

日本人に受けているタイトルだという。ふむ。やはりアメリカンなオースター・スタイル。

追悼ポール・オースター。いくつも読んだけれど、殊に日本人に愛されている、と聞いたこの作品は未読。おいおい、という物語が転がっていく、ちょっと壊れたような構造。例に漏れず、である。さて今回のドラマはー。

30代前半の消防士のジム・ナッシュは妻に出ていかれ、可愛い盛りの娘を姉夫婦に預けている。離れて暮らしていた父の遺産が突然入り、仕事をやめて旅に出る。そして小柄なトランプ勝負師、ジャック・ポッツィと偶然出逢い、彼の大勝負に持ち金を賭けてみる気になるー。

ポッツィとの出会いから、ポーカーで勝負する相手、2人の大金持ちの男たちのどうもうさんくさい言動や、囚われの身となりひたすらおかしな造形をする日々などは偶然性の非常に高い、ちょっと、いや、かなり突飛なエピソード。先の見えない不可解な状況を現出させ、ころころ転がしていくのがオースター流ではないかと思っている。そしてその、突飛で謎めいたシチュエーションは読み手に対し実に蠱惑的で吸引力が強い。

主人公は家族や生活に関するありふれた悩み、問題を抱えている。行きずりの人間関係と場面場面で、どうでもよさそうなことまで悩みながら判断を下す。特殊な状況、限られた条件の中で、人間性、プライドというものがあぶり出されている感覚。

釉薬を塗られた陶磁器が窯変するように、形を整えられた物語が特殊な状況を与えられ、変わっていってどのような姿を見せるか。ストーリー構成というのは一般的にも料理のようなものかと思うが、勝負する味なり陶磁器の焼成の結果はそれぞれで、物語の醍醐味とも言える。

オースターの小説を読んでいると、そんなことを考える。それにしてもホント突飛でヘンだよな、こういうのがアメリカン?とおかしみがこみあげたりする。壁、石・・と意味ありげ、象徴的な素材をまた効果的に持ってきている。

結末がはっきりせずにクローズとなった部分もあり、答えへの渇望を抱かせるのも小説かな、でも知りたかったなと、なんか術中にハマった気分で読了した。