2024年4月30日火曜日

土佐堀川沿いカフェ2

きょうもお昼は北浜の土佐堀川沿いの、こないだとは別の店。ビーフカレーにアイスコーヒーと米粉マフィンブルーベリージャム😋その後本町方面、名建築ビルに入っている古書店さんにも立ち寄り。大阪市内中之島エリアを友人と楽しく散策した休日でした。

北斎と広重展は人多かった!

京阪に乗って移動、北斎と広重展はまあなんと入るまで30分以上待ち😳さすがの北斎人気。富嶽三十六景の多くの絵は何度見てもいいなあと。三角・丸など図形的な意識の構図。これぞ北斎。広重のベロ藍のぼかし方や、広重に先んじて大変な人気を博していた人物画の歌川豊国との合作もあり楽しめました。先に読んでドラマを観た「広重ぶるう」の中の作品もありました。

印象派展@OBP

朝いちばんに印象派展。これぞルノワール、という少女の絵やヌード、シスレー、ドガ、別のフロアでは上村松園、小林古径らの日本画、また印象派に影響を受けた黒田清輝、小磯良平らの近代画家の作品もありました。名前だけ知ってた堂本印象、が良かったですね。

2024年4月28日日曜日

イスラーム!

GW恒例のイスラーム映画祭in神戸へ突撃😆開場の45分前に行くと30人近く行列が。観た2本とも満席補助席でした。

整理券を貰ってからお昼の上映まで、BOOKOFFに行って、ランチ&デザート。駅前広場ではアクロバットの大道芸も。釣りショップの釣りキチ三平Tシャツちょっと欲しくなったりして。神戸ホームの人はちょっとしたことでも楽しめる。

1本め「私が女になった日」イラン🇮🇷
3話のオムニバス。少女ハッワは9歳の誕生日を迎えたため、髪を隠すこと、男の子と遊んではいけないことを命じられる。産まれたのはお昼だったからと、それまで友達のハッサンと遊ぶことを許される。最後の時を子どもらしく過ごすハッワたちが可愛らしい。

2話めが白眉だった。女子たちがヒジャブをかぶったままの自転車レース。先頭を争うアフーは離婚を望んでいて、馬で夫を含む親族に追いかけられる。家族に恥をかかせる気か、女が自転車に乗るなんぞ、と非難されながら。アフーは最初からずっと自転車に乗りっぱなし。必然的に全編高速で移動しながらの芝居だった。

3話めは独身で生きてきて遺産が入ったため家具、白もの家電など家財一式を買いにきた老婦人の話。舞台キシュ島の、さまざまな人種の子どもたち大勢がポーターを務めるが、婦人が返品交換に行くと、浜辺にズラリと並べた家具家電で遊び始める。

3話めのラストにアフーのことが語られ、またハッワが出演する。全体がユーモアで彩られている3世代の物語。監督は名匠モフセン・マフマルバフの夫人さんだとか。ほー、だった。

2本め「ファルハ」ヨルダン🇯🇴・スウェーデン🇸🇪・サウジアラビア🇸🇦

1948年、イスラエル国家が電撃的にパレスチナの地に樹立され、ナクバ(民族浄化)、つまりもともと住んでいたパレスチナの民衆を暴力的に追い出すこと、が行われる。地方の村の少女ファルハは村長の父に街の学校に進学することを認められるが、すぐにイスラエル軍が侵攻してくる。ファルハは身の安全を心配した父に、食糧庫に閉じ込められるー。

作りも内容も重い作品だった。上映後の専門家の解説では、ドキュメンタリーではなく劇映画としてナクバを取り上げたものは希少だとのこと。映画的な工夫が随所にあった。監督はパレスチナ系ヨルダン人の女性。映画館に、事前の問い合わせが多かったとか。

さて、雨がちだった天気もとりあえずひと段落、晴れた空は春独特の暗めな雰囲気。南天には東からアークツルス、スピカ、レグルスといった1等星が見える。北天は冬の大三角。オリオンが沈みつつある。ということは同空しないさそりが出てくるということ。北斗七星もポラリスの近くで輝く。寒くもなく、いい夜だなと。

4月書評の10

おうちスイーツ。やめらんないね〜。

◼️ 梨木香歩
 「僕は、そして僕たちはどう生きるか」

読み物として読む。演出はさすが。全体主義の実感。気づかない、という畏れ。

自分を照らす、作品だった。そもそも小説は読み物としておもしろいのか、知的好奇心を満たすか、その構成や表現で唸らせるのか、理屈で表しにくいけどもえもいわれぬ感動を与えるのか、が基準かなと考える。私の場合は。

昆虫に興味のある中学生男子、周囲からの呼び名はコペル。染色家の叔父ノボちゃんが清浄なヨモギを必要としたため、かつて仲の良かったユージンの家を訪ねる。敷地の広い家に独りで暮らす彼は、小学生の時から3年以上、学校へ来ていなかった。ユージンは快く迎え入れてくれ、彼の従姉のショウコも加わり、昔一緒に食べた「葉っぱごはん」を作ろう、ということになるー。

植物、動物への炯眼と物語に活かす力、不思議な雰囲気の作り方、そして芯となる、胸が痛むようなエピソードとその敷衍のさせかた、なじませる流れ、なんとなく柔らかい結論めいたものを感じさせる筆、というのはさすがだと思う。

全体の雰囲気が出来上がってしまうと、それに流される自分がいる、傷つけることに気づかないことがある。確かに、まさに「どう生きるか」、悪意に満ち溢れ、悪意でなくとも誰かの大切なことを蔑ろにする出来事に事欠ないこともそちこちにある、この油断のならない世界を少年少女がわたっていくには、というテーマに沿っていると言える。

ボヤキのようになるけれど、最近作りもの、映画にしても小説にしても効果を出すための作り込みに対して醒めてしまっている自分がいる。まあそれでもいざ観たり読んだりすると物語世界に没入してしまったりするんだけども笑

今回は、どうもその作り込みの世界に乗り切れなかった。もちろん物語中の悲劇はあってはならない卑劣さを持っている。しかし絶対悪を定めると物語が展開しやすいのも確かかな、などと思ったりして。そういう気分だったからかなと。うーむ。もちろんまたフェイバリットの梨木香歩は読むだろう。とりあえず、次行こう。

4月書評の10

寝坊して起きて15分で家を出て、皮膚科と整形外科を回って、久々に外で朝ごはん。たまにはいいかと🙃

◼️ 梶よう子「広重ぶるう」

火消し同心の荒っぽさがあり、口が先に立つがなんとも憎めない広重。ベロ藍を自在に使い当たりを取った、一代の物語。

安藤広重、現在は本姓ではなく絵師としての画号に由来する名前の方が適切だとして歌川広重と表記されることが多いとか。東海道五拾三次全てを展示してある展覧会で切り取っている風景、その発想と、絵の印象の強さに感嘆したことがある。しかしベロ藍といえばやはり北斎という固定観念があり、広重がここまで極めた人とは知らなかった。あまり伝記も聞かないし、今回半生の小説を読んでだいぶ認識を新たにしたなと。

美術もの、もちろん好きではあるのともうすぐドラマ化された番組がオンエアされると知ったからその前に読んどこうと入手した。

火消し同心、安藤重右衛門、画号は広重。15歳で歌川豊広門に入ったものの30代半ばに至っても売れない絵師だった。朝風呂が好き、矢立と絵筆を持ってふらりと家を出ては風景を書き写すのが好きで、妻の加代がやりくりに困っていても家計のことなぞ気にしない。ある日長い付き合いの版元、岩戸屋喜三郎に体たらくを詰られ、気分を悪くした重右衛門だったが、喜三郎の置いて帰った絵に使われていた藍色に興奮する。それはぷるしあんぶるう、日本に入って来ていたベロ藍だった。おりしも、葛飾北斎の冨嶽三十六景が世に出ようとしていたー。

ベロ藍を得た重右衛門は加代のつてで会ったある版元から、人気の滑稽本「東海道中膝栗毛」にちなみ「東海道五拾三次」という55枚の揃いものの企画を持ちかけられ、これが大当たりする。風景画家として地位を得た広重は、愛する江戸を描きたいという強い情熱を持っていた。

身内や一番弟子に早々に死なれたり、借金の肩代わりのために枕絵を描いて下手さを散々にけなされたり・・人生の禍福に翻弄されつつ、勇み肌でどこか憎めない広重。同時代に活躍した北斎や美人画・人物画の大家、歌川豊国との絡みもあり楽しめる作品になっている。

江戸は大地震、大火に見舞われる。今こそ江戸の絵を描くべきー広重の情熱が再燃する。

梶よう子さんは北斎ものの小説も書いておりなかなか面白かった。この作品ではあまりイメージのなかった広重像を人情味豊かに描いてみせるとともに、摺物の製作過程をも丹念に取り上げて述べている。さすがというか。

読んだから広重の作品を見てみた。早逝した一番弟子、昌吉が下絵を描いた、鷹が飛ぶ上空から江戸を見下ろす絵もあった。ふむふむ。ベロ藍のバリエーションでは北斎よりも一日の長があるという。小説の最後の方に出てくる、川の中央を濃く、岸に向かってぼかしている作品もあって納得。自在にベロ藍を使っている。広重ブルー、というのはもともと欧米の浮世絵愛好家が用いた通称のようだ。ちょっとだけ、映画監督北野武の色使い、キタノブルー、を思い出す。

もちろん藍だけではなく、暖色を使って描いた「名所江戸百景 亀戸梅屋敷」はゴッホが模写したし、私が東海道五拾三次で心に残っているのは「蒲原 夜の雪」だったりする。風景画ではさまざまな抽き出しがあったということだろう。

広重が死ぬ前に遺書を書き、コロリの大流行中で亡くなったというエピソードは手塚治虫「陽だまりの樹」にも出てきていたのを思い出した。

大阪でちょうど展覧会をやっているし、ドラマはこの週末。知見が深まったところで、楽しめそうだ^_^

ちなみにwebで調べたところ、劇中で広重が目の中に入れても痛くないほど可愛がっていた養女お辰は、二代目広重となる弟子の鎮平と夫婦になったが離縁、三代目広重の寅吉ともその後結婚している。へぇーと唸ってしまった。

2024年4月21日日曜日

川沿いランチは気持ちいー💕

北浜蚤の市を見て、お昼ごはんでもと考えてたものの、キッチンカーはけっこうな行列だし、近くの川沿いの店は軒並み多そう。歩いて少し離れたお店のテラスカウンターでランチ。薄曇り、川を渡る風が涼しく、快適すぎる。良い店でした。お茶デザートでも追加してもうしばらく読書していたかったけどもいわゆるけつカッチン、次の予定が迫ってたので断念。でも気持ちよく店を出ました。

先週までお出かけらしいお出かけってしばらくしてなかったので気が晴れた感じになりましたd(^_^o)

関西6オケ!後のイタリアン

こんな感じでした。前菜とピザとデザート。おなかいっぱいだー

気持ちいーランチ!

北浜蚤の市行ってどこかでお昼を食べようと思っていたものの、キッチンカーはけっこうな行列だし、近くの川沿いの店は軒並み多そう。歩いて少し離れたお店のテラスカウンターでランチ。良い店、この塩麹唐揚げ定食、おいしくがっつり男子用のボリュームがあって1000円っす。薄曇り、川を渡る風が涼しく、快適すぎる。お茶デザートでも追加してもうしばらく読書していたかったけどもいわゆるけつカッチン、次の予定が迫ってたので断念。でも気持ちよく店を出ました。

先週までお出かけらしいお出かけってしばらくしてなかったので気が晴れた感じになりましたd(^_^o)

北浜蚤の市

年に2回春秋開催の「北浜蚤の市」に行ってみました。スタートの11時ごろに着いたのに、すでにものすごい人が詰めかけててびっくり。スタイリストの私物やヴィンテージものが出品されているとかで各テントすごい熱気でした。食器やミニ絵画には惹かれるものもありました。次は何か買ってもいいかな😎

関西6オケ!

関西6オケ!に行って来ました。その名の通り関西に拠点を置く6つのオーケストラが一堂に会し、順番にフルオケの曲を披露するお祭り的催しです。そして指揮者はいずれ劣らぬ人気実力を備える方々。プレトークで全員がステージ上に並んださまは壮観でした。

去年までは4オケ、今年は6つ。休憩を2回挟み5時間、長丁場のショータイム。持ち時間の関係で大曲はなく、その分興味深いプログラムとなりました。シベリウス、エルガーがあれば初めて聴く野心的な曲もあり、コンダクターの振り方もさまざまで楽しめます。

キャパ大きめのフェスティバルホール満員のお客さんにひときわ大きな拍手、たくさんのブラヴォーをもらっていたのは近年良い評判を聞く新鋭・沖澤のどかさん。誰しも見て聴いてみたいと思っていたのでしょう。「ロメオとジュリエット」組曲でした。

そのステージは、ひと言、素晴らしかった。キビキビした意図の分かる動きでオケを引っ張る。メンバー全員が指揮者のタクトに全集中しているのが伝わります。沖澤さんは無駄なく、しかし表現力豊かに、小さな身体にエネルギーを漲らせて進行、その所作は観る人を惹きつけます。優駿、という言葉が浮かびました。

演奏が終わった後、万雷の拍手の中くるりと客席を向き、両手の肘から先を腰くらいの高さに広げて決めポーズ。

「このオケ、いいでしょう。きょうの演奏、良かったっしょ?」

なんて言葉が聞こえてきそうな。うむ、やられました😆

今回はプレトークや演奏後MCとのやりとりの間は自席から写真のみ撮影可。一部のアーティストはアンコール時は動画も含めて撮影OKにしていたり、オケにもそういう動きが見られるなど、美術の展覧会と同じくだんだん変わって来てますね。ここは声を大に。嬉しいことです!SNS社会の現在、そして満席にするのが難しくなっている今日このごろ、中身の良さを伝えていくようにする手段を探ったほうが、と思ったりします。

楽しかった。さすがに腰も痛く😎頭も少しぼーっと。疲れた後はイタリアンで乾杯。男性には少ないかもとwebに書いてた女子会セット、これがお腹いっぱいになりました😋満足。

4月書評の9

年に2回春秋開催の「北浜蚤の市」に行ってみました。スタートの11時ごろに着いたのに、すでにものすごい人が詰めかけててびっくり。スタイリストの私物やヴィンテージものが出品されているとかで各テントすごい熱気でした。食器やミニ絵画には惹かれるものもありました。次は何か買ってもいいかな😎


◼️ 三上延「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅳ
〜扉子たちと継がれる道〜」

鎌倉文庫の膨大な量の稀覯本をめぐる令和、昭和、平成の物語と、智恵子、栞子、扉子、本に魅入られた3世代の女たち。

シリーズ久々の新刊は90歳を超す老人から現代の高校生世代にわたる壮大な古書ミステリー。長い黒髪、セーラー服。同じ高校に在籍した祖母であり母の智恵子、母であり娘の栞子、娘であり孫の扉子。女性たちが三重写しとなる。

令和、戸塚夏目漱石の「鶉籠」という古い本。古書店・虚貝堂店主の孫、樋口恭一郎は先日の古本市で同じ高校の先輩であるビブリア古書堂の娘・篠川扉子と知り合う。夏目漱石の稀覯本「鶉籠」。この本が元で扉子は、もぐら堂の娘・戸山圭という親友を失っていた。ある週末、恭一郎は藤沢の高級住宅街に篠川智恵子の屋敷で扉子と待ち合わせる。「鶉籠」からの仲違い、その理由を聞くためだったー。

ずっとシリーズを読んできた身としては興味ある設定ではある。目的のためには手段を選ばない智恵子、おとなしく聡明さがより光る栞子、それぞれのもはや遠い少女時代が初めて?物語になる。後半の多くが栞子の亡き父のモノローグなのも新たな視点だ。オチとは別のところに楽しむ要素があったかな。

3世代の謎を追いつつ夏目漱石をそれとなくひもといていく。川端康成ら鎌倉文士が本を持ち寄ったという鎌倉文庫。土地の魅力、文芸的な香りも濃厚に漂う。

この物語は昭和の人間臭さがリアルに感じられる点が大きな特徴だと受け止めている。今回もそうではある。ただちょっと破天荒なきらいと謎の動きが強すぎるか。何人もいると都合よくなるかも。

おもはゆく恥ずかしい恋がまだ始まってなく、世代の谷間でキャラの魅力が後退している部分も正直ある。次はどうなるかな。

4月書評の8

◼️ Authur Conan Doyle
"The Naval Treaty"「海軍条約文書」

結末がおもしろいお話です。

ホームズ短編原文読み44篇め。残りはあと12。第2短編集The Memoirs of Sherlock Holmes「シャーロック・ホームズの回想」よりラス前のこの作品。次はThe Final Problem「最後の事件」で、ホームズは死んだこととなり、シリーズは10年間凍結されます。詳しくは別の機会に。

海軍条約文書事件、この短編は長かった。英語ページ数でも通常短編の2倍くらいありました。だいたい1か月に1本のペースが、先月は読みきれなかったっす。

まあともかくスタートです。ワトスンが結婚直後の7月の事件、と明記してあります。ワトスンは1887年か翌年の「四つの署名」事件で知り合ったメアリ・モースタンと結婚しますからその時期に発生したことになりますね。もちろん2人は別々に暮らしていました。

ワトスンには少年時代、パーシー・フェルプスという同窓生がいました。気弱でいじめられっ子、しかし成績優秀、しかも伯父が大物政治家のホールドバースト卿で、ケンブリッジから外務省に入り要職についていました。そのフェルプスから恐ろしい災難が起きた、ホームズさんに相談したいとの依頼を受け、ホームズと共に列車で1時間足らずのウォーキング、オーソン・ウェルズ「宇宙戦争」で火星人の宇宙船が墜落した土地ですね、へ着きました。

駅から歩いて数分のフェルプスの屋敷では太って愛想の良い40がらみの男、ジョセフ・ハリソンがホームズたちを迎えました。フェルプスは奥の部屋のソファで横になっていて、そばには婚約者のアニー・ハリソンが付いていました。ジョセフはアニーの兄だとのことでした。アニーの褐色の美しい肌と黒い艶のある髪は青白い顔で弱っているフェルプスと好対照でした。

さっそく事件のあらましが説明されました。5月、外務大臣の叔父、ホールドハースト卿はフェルプスを執務室に呼び、イギリスとイタリアの間で締結された国際条約の原本を渡します。海軍に関するもので、三国同盟でフランス艦隊の軍事力が優位に立った際、イギリスが取る立場、政策を予告するものでした。入手するためならロシアとフランスの大使館が大金を払うだろう、とした上で、大臣はきょう部署の者が全員帰ってから複写を作り、明日の朝原本とともに自分に渡すよう言いつけました。厳重に保管することを念押しして。

先に食事を済ませ、フェルプスは指示通り誰もいなくなったオフィスで作業を急ぎました。ジョセフがロンドンに出てきていて11時の列車でウォーキングに帰るはずだったので、できれば一緒にと思っていたのです。9時になり、疲れを感じたフェルプスはコーヒーを飲もうとベルを鳴らします。建物にはコミッショネア、使用人が階下に一晩中詰めていて、注文すればアルコールランプでコーヒーを沸かしてくれるのでした。コミッショネアというのは退役軍人で作った便利屋的な組織だそう。「青いガーネット」というお話でも出てきます。

びっくりすることに、やってきたのは女でした。使用人の妻で雑用をしているとのこと。フェルプスはコーヒーを発注しましたがなかなか来ません。フェルプスは様子を見に行くことにし、その階の一番奥にある執務室の唯一の出入り口から一本道の廊下に出ました。廊下はカーブして階段を降り、踊り場で2つに分かれています。直角に折れる道はさらに階段を降り通用口へ。まっすぐさらに階段を降りると正面入り口がありその手前脇に使用人が詰めている部屋があります。

行ってみると使用人が眠りこけていました。アルコールランプ上ではやかんが煮立ってお湯が吹きこぼれていました。フェルプスはアルコールランプを吹き消して使用人を起こそうとしました。その時、頭上のベルがけたたましく鳴り出し、コミッショネアは飛び起きました。

フェルプスはコーヒーが出来てるか見に来た、と言い、使用人はお湯を沸かしているうちに眠ってしまったと言い訳しました、顔に当惑が広がりました。

"If you was here, sir, then who rang the bell?"

「あなたがここにいらっしゃるということは、ベルを鳴らしたのは誰なんでしょう?」

あなたが仕事してらした部屋のベルですよ、という言葉に、フェルプスは事の重大さを突然悟ります。

死に物狂いで部屋に駆け戻ったフェルプス、廊下にも部屋にも人影はありませんでした。しかし・・

"All was exactly as I left it, save only that the papers which had been committed to my care had been taken from the desk on which they lay. The copy was there, and the original was gone."

「部屋のすべては私が出て行った時のままの状態でした。ただ、私が取り掛かっていた文書だけが、置かれていた場所から持ち去られていました。コピーはあり、原本がなくなっていたのです」

フェルプスが駆け戻った廊下には人が隠れられるところはなく、途中の踊り場から通用口の方へ向かい、外へ出ました。10時15分前の鐘が鳴りました。大通りは馬車の行き交いが多く、しかし歩いている者はいませんでした。通りに立っている警官は、この15分ほどで、使用人の妻らしき女以外誰も見ていない、と言いました。通りの反対側でも目撃者はいませんでした。

部屋につながる廊下や階段を捜しても何も見つかりません、雨の日でしたが足跡ひとつ残ってませんでした。使用人の妻は、詰所で靴を脱ぎ、布のスリッパを履いていたとのことでした。執務室も捜しましたが何もありません。天井や床、壁、暖炉に隠し扉や抜け道はなし、部屋は地上30フィート、約9m。窓は2つとも中から鍵がかかっていました。遺留品は何もなく、煙草のにおいなどもしませんでした。ベルの紐はフェルプスのデスクのすぐそばにありました。

スコットランドヤードのフォーブズという刑事が捜査にかかり、フェルプスととともに使用人タンギーの家へと行き、夫人の身柄拘束&家宅捜索。しかし文書は出てきません。一連の行動が落ち着くとフェルプスは自身の立場の重さに神経が耐えきれず、錯乱してしまいます。

家に送り届けられ、ジョセフの居室がその日から病室となり、フェルプスは9週間以上も伏せってしまいました。錯乱の発作に備えて夜はずっと付き添いの看護婦が付きました。ここ3日ほどでようやく回復しました。スコットランドヤードに問い合わせても操作の進展はなく、途方に暮れたフェルプスはワトスンを通じてホームズに助けを求めたというわけでした。

ホームズは極秘の仕事を他には、家族にも漏らしていないことなどを確認します。さらに、

"And none of your people had by chance been to see you?"
「ご家族の誰かがふらりと会いに来たこともなかったですか?」

"None."「ありません」

"Did any of them know their way about in the office?"
「家族の誰かが事務所内部を知ってるということはありますか?」

"Oh, yes, all of them had been shown over it."
「それならみな知ってます。見せて回ったことがあるんです」

というやりとりをしました。どうも変な質問ではあります。が、後に意図が分かります。

そしてここで、ホームズはなんと花瓶の薔薇を手にとり、まあ理屈のようなナルシストのようなことを口にし花の美しさを賞賛します。白昼夢、陶酔の世界に行っているような態度に、フェルプスの婚約者アニーがいらだって割り込みホームズをこちらの世界に引き戻します笑。

ア「事件の解決の見込みはあるんでしょうか」
ホ「あ、ああ、事件ですね!複雑です。分かったことは何でもお知らせしましょう」
ア「手がかりはありますの?」
ホ「今のお話に7つありました。申し上げる前に検証しなければなりませんが」

A:"You suspect someone?"
「誰が怪しいんですの?」

H:"I suspect myself."「ワタクシ自身が」

A:"What!"「まあなんですって?」

H:"Of coming to conclusions too rapidly."
「あまりにも早く結論に達してしまったので」

だったら早くロンドンで、それを確かめてこんかい、的なアニーのツッコミにホームズは、あなたのアドバイスはすばらしい、と返します。

かくてフェルプスはまたおかしくなりそうだ、と叫び、婚約者はいらだち、ホームズはあまり期待しすぎないように、と言い残す。何か舞台劇の一場面のようでもあります。

それでもフェルプスはホームズが捜査をしてくれることに感謝していました。彼は、ホールドハースト卿からこれは最重要な事件で、お前の将来がかかってるぞ、という内容の手紙が来ていたことを明かします。

ロンドンへ向かう列車の中でホームズは独自に調べた内容を披瀝します。ジョセフとアニーはノーサンバランド州あたりの鉄器製造業者のただ2人の子どもで、フェルプスが冬に旅行した時に知り合い婚約した。アニーはフェルプスの家族に紹介してもらうために兄に付き添われてウォーキングにやってきた。そこへ事件が起こり、彼女は婚約者の看護のためにずっと滞在していて、兄もそのまま居心地よく過ごしているー。ここまでそんな時間はなかったようにも思うんですが、いつ調べたんでしょうね笑。

ホームズは事件の晩9時45分ごろに外務省付近で乗客を降ろした馬車について情報を求める賞金付きの広告をすべての夕刊紙に出すよう手配していました。犯人は辻馬車で来た可能性が高い、と言ったあと、あのベルはなんだったんろう、とまた推理の思索に入り込みました。

次は刑事フォーブズ。最初は冷淡でした

「あんたのことは聞いてますよ。我々の情報を使って警察の面目をつぶしてるとね」

ホームズはひるみません。

「それは逆だな。直近53件のうち私の名前が出たのは4件で、あとは全部警察の手柄になっている。君は若くて経験も浅い。捜査をうまく進めたければ、私と敵対するのではなく協力することだね」

するとフォーブズはへにゃんとなって、実は何の進展もないんです、ヒントをいただけませんか、とへりくだります。同じ短編集の「名馬シルヴァー・プレイス」でも同様のやりとりがあったような。貫禄といったとこですね。バリバリの警部レストレードでもホームズを頼るんですから。読者にとっては胸のすく場面です。

警察は使用人タンギーと犯行当日にフェルプスのところへ御用聞きに来た夫人両方に尾行をつけていました。夫人は代わりに来たのは夫が疲れていたから助けてあげたいと思ったとのこと。これはタンギーが居眠りしていたことと辻褄が合います。あの時刻に建物を離れたのは時刻が遅かったので帰りたくなったからだと。さらに執務室で最も遅くまで仕事をしていた事務員も調べましたがすべて怪しいことは何も出てきていませんでした。

次はホールドハースト卿でした。運良くダウニング街の豪華な執務室、フェルプスに極秘任務を与えた部屋で話を聞くことができました。

身内だからこそ庇うことはできない。この事件は彼のキャリアに大きく影響する。文書が見つかったら別だが、という大臣。

ホームズは誰にもこの極秘作業のことは言っていない、と断言します。フェルプスも同じことを言っていました。ということは、犯人が執務室に来て文書を見つけたのはまったくの偶然ということになる、と結論づけます。

ホームズはさらに核心を衝きます。この条約の内容はすでに漏れ、フランスかロシアが内容を知ったのかと。ホールドハースト卿は、まだ何も起きていない、と答えます。そして、あと数か月もすれば秘密でなくなる、つまり公になると言ってるわけですね。

10週間近く経っても、何も起きていない・・これは何を意味するのでしょうか。買取先との金額交渉が難航してるのでしょうか?しかも偶然見つけた?計画的な犯行ではないのでしょうか。

そして今回の物語は、警察がマークした3人もそれぞれなんか怪しいな、と言える要素を持ってます。ホームズはホールドハースト卿をも疑い、この会見の後、卿の靴底は貼り替えてある、内証は苦しい、と看破します。金が必要な状況だ、と理由をつけてるわけですね。どうも腑に落ちないとは考えてしまいますが。現役の外相がそこまでお金ないもんなんですかね。

さらに、帰り際、なぜここまで文書が出てこないのか、という謎に対してホームズは

"it is a possible supposition that the thief has had a sudden illness– –"

「犯人が突然病気になった、などの可能性もあります」

"An attack of brain-fever, for example?"

そしてホールドハースト卿に
「脳熱の発作にですか?例えば?」

つまり脳熱で倒れていたフェルプスが自作自演した可能性まで匂わせるなど、著者ドイルは巧妙に雰囲気を作っています。泥棒は偶然に、その日に言われた極秘の命令と作業者と作業時刻を知っていたかのように即刻行動に出て人目につかずに盗んでいます。内部犯行を疑うことは事実に符合している。ただそうはっきりと書かずにただ登場人物たちにちょっとずつだけれど怪しいところをくっつけてムードを醸成していくのは見事。原文で読んでると、ドイルの上手さ巧みさが目について楽しいですね。

しかし真相はまったく違ったものなのでした。

この日の捜査は終了、翌日ウォーキングのフェルプス邸へ出向くと、新たな事件が起きていました。

フェルプスはホームズが捜査を快諾したという安心感もあってか快方に向かっていると判断したのでしょう、初めて看護人の夜番をなしにして独りで寝ました。

うつらうつらしていた午前2時ごろのことでした。フェルプスはねずみが板をかじるようなごく小さな音に気づき、やがて窓の方からカチリ、という金属音を聞きました。誰かが窓の隙間から器具を差し込み、鍵の留め金を外したに違いなく、フェルプスは思わず半身を起こしました。しばらくして窓をそっと開ける音が聞こえ、フェルプスはたまらずベッドから駆け寄り、ブラインドシャッターを開け放ちます。

"A man was crouching at the window. I could see little of him, for he was gone like a flash. He was wrapped in some sort of cloak which came across the lower part of his face. One thing only I am sure of,and that is that he had some weapon in his hand. It looked to me like a long knife. I distinctly saw the gleam of it as he turned to run."

「1人の男が窓のそばにうずくまっていて、すぐに閃光のように走り去りました。彼の姿をしっかり見ることはできませんでした。彼はマントのようなものに身を包み、顔の下半分まで覆っていました。間違いないのは何か武器を手にしていたことです。振り返って逃げる時、長いナイフのようなものがキラリと光るのをはっきりと見ました」

そりゃ実に興味深い、とホームズ。フェルプスは台所につながるベルを鳴らしましたが使用人は全員別の階で眠っていたため誰も来ない、だから大声で叫び、ようやくジョセフが降りて来て他の者を起こした、と。

足跡などがあるというのでホームズ、ワトスン、フェルプス、ジョセフで見に行くことに。この時、私も、というアニーを、ホームズはずっとそこに座っていてください、と制止します。

花壇の足跡ははっきりしないもので役に立ちませんでした。ホームズはなぜこの部屋なんだろう、食堂など大きな窓のある部屋ではなくて、などと言いながら家の周りを歩き回ります。賊が乗り越える時折ったのではないかという柵の横木も見ましたが、折れ口が古く、足跡もなくこれも手がかりにはなりませんでした。

帰り道、ゆっくりとしか歩けないフェルプスと付き添いのジョセフを置いて、ホームズは早足で帰ります。そして窓からアニーに熱心な口調で話しかけました。

"you must stay where you are all day. Let nothing prevent you from staying where you are all day. It is of the utmost importance."
"When you go to bed lock the door of this room on the outside and keep the key.Promise to do this."

「あなたは一日中ずっとそこに居てください。何があっても動かないで。これは大変重要な事なんです。寝室へ行く時は外側から鍵を閉めてそれを持っていてください。約束してくれますね」

アニーは同意のうなずきを返し、追いついた兄ジョセフの外へ出てみないか、という呼びかけにも頭痛がすると言い、そのまま部屋にいました。

そしてホームズは、フェルプスに、一緒にロンドンへ来てくれるとありがたい、1時間後に出発、泊まっていって欲しい、といきなり言い出します。ところが、言う通りにしたフェルプスとともに馬車でウォーキングの駅まで行くと、自分はこのまま残る、と平然と言ってのけたのでした。

ワトスンはベイカー街の部屋でフェルプスと過ごします。フェルプスはなにか大きな陰謀が働いていて自分の命が狙われていると思い込み、ホームズさんは本当に事件を解決してくれるだろうかと心配し、説得して寝かせるのに骨が折れました。ワトスンもその影響で事件のことを考えて睡眠不足。

そして、ホームズは翌朝ベイカー街に帰って来たのが2階の窓から見えました。左手に包帯を巻いて、上がってくるのに少し時間がかかりました。

"He looks like a beaten man,"
「うまくいかなかったみたいだな」
とフェルプスは暗澹たる気分。

傷は心配ない、とてもおもしろい体験をした、まずは朝ごはんだよ、とホームズ。

ハドソンさんがthree covers、3つの蓋つきの皿を運んできました。よく見る、半球形で皿の料理にかぶせる蓋がついた食器みたいなやつかなと思います。ともかくすっかり朝食の準備が整いました。

Holmes ravenous, I curious, and Phelps in the gloomiest state of depression.

ホームズは食欲旺盛、私は好奇心旺盛、そしてフェルプスは絶賛落ち込み中だった。

こういう遊びは見逃せませんね😎英語は韻を踏んでて、日本語訳は言葉遊び。

"Her cuisine is a little limited, but she has as good an idea of breakfast as a Scotchwoman."

「ハドソンさんの朝ごはんは🥘料理の種類が多いわけじゃないけど、工夫してる点ではスコットランド女性に負けてないね」

ホームズの前の料理はカレー味のチキン、ワトスンの皿はハムエッグでした。ホームズはフェルプスに食べるよう勧めます。フェルプスは食欲がない、と固辞、それでも自分の前のものだけでも、と重ねてプッシュするホームズ、いらないというフェルプス。

じゃあ、私がそれ貰ってもいいですか?とホームズ。フェルプスは仕方なく目前の料理の蓋を取りました。するとー

皿の中央に、巻かれて円筒形になっている青灰色の紙が置いてありました・・!

フェルプスはそれを手に取り食い入るように見て、歓喜の叫び声を上げ、文書を胸に抱いて部屋中踊り始めました。

"It was too bad to spring it on you like this, but Watson here will tell you that I never can resist a touch of the dramatic."

「こんなふうに突然目の前に出したりして申し訳ありません。ワトスンはよく知ってることですが、私はドラマチックなやりかたを好むほうでして、その誘惑に勝てないのです」

さて種明かしです。ホームズは近くの村の宿に夜までいて、水筒を持ちサンドイッチを紙で包んでポケットに入れ、フェルプスの家へと出かけました。寝ずの番です。フェルプスが伏せっていた部屋の窓の外でした。

約束通りその部屋にずっと頑張っていたアニーが10時15分に自分の寝室に下がり部屋に鍵をかけました。

長い夜、ホームズは「まだらのバンド(ひも)」事件を思い出したとか。そしてようやく、午前2時ごろでした。かすかな音がして、使用人用の扉が開けられ、黒いマントを羽織り、ナイフを手にした男が出てきました。ジョセフ・ハリスンでした。

ナイフを窓枠に差し込み、鍵を外して窓を開け、内側のシャッターもナイフで横棒の鍵を外し開け放ちました。部屋に入ってロウソクに火を灯したジョセフは、ドアの近くの敷物をめくり、床の板のうち水道管修理用に開くようになっている部分、を外して、そこから円筒形に丸めた文書を取り出したのですー。

目的を遂げたジョセフは全てを戻してロウソクを消し、窓から外に出て窓の外にいたホームズの手中に落ちたのでした。しかしナイフを持って飛びかかってきたのでホームズにしては苦戦して取り押さえ、拳に切り傷を負ったのでした。殺意のある目で睨んでいたジョセフも、説得を受け入れて文書を返してくれたとのこと。

ホームズはジョセフを放してやり、そしてジョーンズ刑事に連絡しました。

"If he is quick enough to catch his bird, well and good. But if, as I shrewdly suspect, he finds the nest empty before he gets there, why, all the better for the government. I fancy that Lord Holdhurst, for one, and Mr. Percy Phelps for another, would very much rather that the affair never got as far as a police-court."

「もしジョーンズ刑事がジョセフを速やかに捕まえられたらそれもけっこう。でももし、居どころを突き止めたとして、行ってみたらもう高飛びした後でしょう。ただ、そのほうが政府にとってはより都合がいい。思うにホールドハースト卿にとっても、そしてあなたにとっても絶対に警察沙汰にはならないほうが良いでしょう」

気が利いてますね。この辺、ホームズが、自分は警察ではない、と断言する理由でもあるでしょう。

しかしこの話は驚きの連続でした。

"Do you tell me that during these long ten weeks of agony the stolen papers were within the very room with me all the time?"

「悩み苦しんでいた長い10週間、盗まれた文書はずっと私の部屋にあったということですか?」

その通りだったのですね。ホームズが本人から聞き出したところによればジョセフは株で大損をして金が必要だったと。実の妹の幸せも、義弟の名誉も二の次というselfish、利己的な性格でした。

つまり真相はこうです。前半で、フェルプスは家族に、自分の職場を見せて回ったことがあると言っていました。おそらくアニーが結婚の挨拶に出てきた時だったのでしょう。

外務省に来たことがあったジョセフは、フェルプスと一緒に帰ろうと通用口から建物に入りオフィスに立ち寄りました。それはフェルプスがコーヒーの催促をしようと部屋を出た直後でした。ジョセフは執務室に誰もいないのでベルを鳴らします。と、たまたまデスクの上にあった国家機密の文書を見つけます。これはカネになると踏んで、即座に持ち去り、ウォーキングへと帰ったのでした。

"The principal difficulty in your case, lay in the fact of there being too much evidence."

「この事件の最も難解な点は、証拠となる事実があり過ぎるということでした」

そう、この物語の構成は、逆なんです。推理小説では起きたこと、ストーリーで出てきた現象はほぼ全てが真相に関係があっていわば無駄がない、というタイプの作品がよくあります。ホームズものもそういう話は少なくないと思います。

しかしこの話は紛れさせたり、疑念を起こさせたりする要素を目の前に散らしてある。意識がジョセフに行かないようになっています。そして読み手は刑事フォーブスと同じく、手詰まりになる感覚を味わうのではと思います。ガチのミステリというよりはサスペンスものに近い感覚ですね。


ホームズは最初からジョセフが怪しいと思っていたと。なぜならあの晩一緒に帰るつもりだったし、建物の内部をよく知っていたから。現在は有り得ませんが19世紀のイギリスで通用口にまで警備員を張り付けておくということは無かったのでしょう。

ジョセフは盗んだ海軍条約文書を自室の床下に隠して、処分の算段を練るつもりだった。しかしその夜のうちに部屋を追い出されてしまい、病人と看護人、常時2人が夜も昼も居る状態になってしまったのでした。

何者かが寝室に侵入しようとしたという事件があった時、ホームズの疑念は確信に変わった。その部屋に何かを隠すことができる者、その夜は看護人を置かずに寝る初めての夜だったことを知る人物は、ジョセフ以外にいなかったー。


どうでしたでしょうか。先に1つだけ抜けてる点を挙げれば、フェルプスは部屋、執務室に続く廊下に足跡はなかったと断言しています。雨の夜、踊り場から直角に曲がる階段方向の通用口から入ったとはいえ、執務室のそばの廊下は通るはずなので、厳密にはないはずがない。当時はガス灯からアーク灯への切り替え時期だったらしいのですが、動転した、捜査術には素人のフェルプスが、雨の降る外での初動を終え濡れた靴で帰った後、暗かったであろう廊下を調べた、ということなので、と予測はできるのですが、まあ言及がないのは抜けかと思います。

しかしそれを補って余りある構成の妙があります。一般にホームズシリーズは、本格推理小説の先駆けに過ぎず、ミステリというより「ものがたり」だという意見もあり、私も推理エンタテインメントという感じで捉えています。ただこう原文でつぶさに見ていくと、なかなかドイルの巧妙な仕掛けが目に入ります。もちろん、ちょっと都合の良さも感じはしますが、まあエンタメなので。

突飛で理屈の通った場面を演出して見せる才には最高に長けていますね。

ホームズにはワクワクさせられた経験を持つ者は世界中にいていまだに不動の人気を誇る理由がここにあるのではないでしょうか。おしまいです😊

それにしても、長かったっす😅

2024年4月14日日曜日

UNIQLOと図書館とジュンク堂とポラン堂古書店

1枚めの画像、武庫川土手沿いの桜の向こう左側、2つの塔は甲子園会館、かつての甲子園ホテル。帝国ホテルの設計をフランク・ロイド・ライトに依頼した支配人の林愛作は、工事費がかさみ工期も遅れたライトが帰国したのちに辞任する。

そして後を受けて帝国ホテルを完成させたライトの高弟の遠藤新が甲子園ホテルを、ライトそっくりに設計、竣工、林はその支配人となる。

このドラマの流れが好きで、電車が武庫川に差し掛かるとよく甲子園会館の、当時の面影を残す塔を見やる。見学にも行った。ホントに楽しめる近代建築遺産。いまは女子大の建築学部となっている。

さて今週、も先週と同じ。春夏用の服と生活雑貨をだだっと買い物して、図書館本屋をウロウロ。書評を上げた人気作家junaidaの絵本「Michi」を楽しみ、本屋行って「の」という作品を立ち読み。いやー工夫が凝らされていて楽しめる。新発見やね。絵本で人気がある作家作品には興味がある。

「広重ぶるう」はもうすぐNHKBSでスペシャルドラマがあるのでそれまでに読んどこうと。歌川広重のお話です。ほかビブリア古書堂最新刊と梨木香歩を買ってほくほく。宮沢賢治関連の読書が最近多く、ちょっとだけ気分がいい。

だいぶ暑くなったけれど、やはり風が吹くと肌寒さがあったりする。長袖シャツを買おうとして、半袖の売り物を見て、切り替えた。長袖の季節はすぐに終わる。

帰り道、夕方暗い薄暮にツルニチニチソウの紫が意味ありげに浮かび上がる。そういえば最近は怖い話をあんまり読んでない。

桜も葉桜ですぐ散る。次週からは少し活動。恒例のイスラーム映画祭も調べねば。

4月書評の7

立ち読みした「の」もおもしろかった。いやー頭を使ってコンセプトを組み立てている。いいもの見つけた気分😊

◼️ junaida「Michi」

字のない絵本。その実は・・仕掛けがあり、夢があり、色があるホント楽しい絵本。

ひと月半くらい美術展に行ってないな、何かないかと、友人の福田平八郎鑑賞記に触発されて探したら、よく絵本関連の展覧会があるミュージアムでjunaidaさんという方の展示があるとか。

ドイツの人かなと思い調べたら京都在住の日本人男性、この「Michi」という本が売れてるようだと分かり、図書館で即予約した。

分厚い本。昔の絵本のような熱い紙を使用している40数ページ。両面が表紙になっている。左開きのほうは赤いスカーフを巻いた男の子が、右開きのほうは長い髪をツインテールにした赤いロングスカートの女の子が、それぞれ大きめのミニチュアの町を歩いている。ここが、冒険の始まりで、読む人は必ず表紙に戻ってじっと見比べることになる。男の子も女の子も顔は見えない。

さて、私は予備知識なしで読んだからおもしろかったので、これからすぐ読もうという方は以下多少のネタバレがしてあります。おそらくは読んでから絵本を見ても楽しめるとは思います。百聞は一見にしかず。

どちらからでもページを開くと、まずは草原の長い道。次は入口のような町。ずっと行くと、さまざまなテーマ、色彩の町が・・季節感、自然科学、明暗、温暖・・ここまでに気づきはある。広い街をそれぞれのスカーフやスカートの赤を目印に男の子もしくは女の子を探すことが1つの楽しみ。そうやってぐるりと街を見回す。

男の子から入っても、女の子から入っても、途中でハッとして、もしや?とページを繰り直すだろう。でもことはそんなに単純ではない。ここまでに分かったことで本への理解を持ちながら後半も楽しんで進み、終わった後にもっと把握すべく読み直す。

「Michi」「みち」は道でもあり、未知でもある。町、も掛けてあるのかもしれない。字は表紙のみだ。

ただ概念的、メルヘンだけではないこの絵本。子どもの想像力を育み、大人も十分楽しめる。売れてるわけが分かる気がする。イケてると思いますd(^_^o)

絵本には興味がある、何が売れているかにも関心を惹かれる。新作も見たいし、展覧会も行くぞー。

2024年4月13日土曜日

4月書評の6

ユニバの花火♪

◼️ 伊勢英子「カザルスへの旅」

むき出しの心象。思い入れと表現。いやーこうあって欲しい。闘う絵本作家。

伊勢英子さん。画家・作家・絵本作家。自身が習っていたチェロとチェロ奏者パブロ・カザルス、自然、植物というものに強い思い入れを持つ。夫である柳田邦夫氏との共著&名著「見えないものを見る 絵描きの眼 作家の眼」、宮沢賢治の作品を描いた「水仙月の4月」、さらに「ルリユールおじさん」「大きな木のような人」「まつり」という連作のほかチェロに関する絵本など著作多数。

今回のようなエッセイも、いつも読み応えがある。なんつっても文章と言葉の使い方にところどころ唸ってしまう。

突然だが、ある話を。ある年のフィギュアスケート全日本選手権を観に行った。女子の優勝者の曲は「白鳥の湖」。選手は「わたしは、氷上の白鳥になりたい」と演技の前にコメントしたという。「こうでなければ!」と強く思った。トップの表現者は、どこか芸術家っぽく極端に振れててもいいと思う。伊勢さんにもそんなものを感じてしまう。

カザルスが亡命後を過ごした南フランスのプラド、生まれ育ったスペインの街の博物館。イタリアのクレモナで弦楽器の工房などを回って、心に刻まれる体験と考えた、感じたことをエピソードとして記してある。

第2章は自分の環境や日本の社会に矛盾と反発を感じ、もう帰らない、と突然パリで暮らし始めた若い頃の話。

カザルスへの旅は自分がすごく好きなものに対面しに行くわけなんだしワクワクしそうでもあるが、日常のこまごましたことに感性が押しつぶされそうになっていたから、とどこか後ろめたい気持ちがにじむ。そこには女性が社会的に突き当たることへの反発もほの見える。

伊勢さんは、アンニュイで、正直な方だと思う。人は社会的に卒なく過ごしながら、心にはむかつきも子どもっぽい不機嫌さも持っている。それらを隠さず、むしろ行動の原動力として、よりよい絵描きであろうとする方向に活かそうとしている。おそらく自分で描く自分の姿を読み手がどう思うか、ネガティブなものを含めて、把握しているはずだ。

その点は、やはりディープに心酔している宮沢賢治に対しても向けられる。第3章は遠野と花巻への旅。おおざっぱに言えば自分と社会に納得できない賢治は常に修羅として戦い続けていた、という部分に自分との共通項を見ているようだ、と考える。

賢治の実弟の清六氏にも直接会いに押しかけている。「兄のトランク」を著した宮沢清六氏は亡くなった後にその著作と生き様があまりにも有名になった兄について語ったり所持品、著作の管理をしていたようだ。計画的というよりは行き当たりばったり的。まあ旅はそうでなくては。

それにしても伊勢さんの文章、表現力そのものと著されている内容、どれも絶品だと思う。スペイン軍事政権に抗してフランスで暮らし続けたカザルスの姿を追い、自分の人生に深く染み付いているセロへの気持ちに感応させる。クレモナで、有名な弦楽器製作者に弾いてみろ、と言われ「鳥の歌」を弾く伊勢さんに、えもいわれぬ感動が湧いた。表現ではなく、成り行きと、そこまでの道のりに。

宮沢賢治もセロを弾いた。記念館でその実物を目の当たりにしたときの表現はこう。

「没後五十余年ーこのセロは誰にも弾かれるこたなく、眠りつづけてきたのだろう。にぶい光にくまどられて、何故か見るにしのびないような気がその時した」

前後のつながりが分からないだろう書評で少々申し訳なさも感じつつ書くと、このにぶい光にくまどられて、に私はやられてしまった。シンプルで短くて完璧な表現。ミニマムだけどもすごいなあ、と思う。読んだ後宮沢賢治学会員の古書店店主さんの店に行って記念館のパンフでセロを見てみた。写真は照明を当ててあるから分からなかった。

宮沢賢治に関してはもう、すごいというか、感じたことをもとに探究していくその勢いと文章量は大したものだと思う。感性の力が強いということはこういうことかと圧倒される。色彩的、構図的ではないもの。茫洋とした想いを可視化している力に思いがおよぶ。

カザルスの章の最後、乗り間違えて、くたくたで深夜に駅に着き、乗客が出迎えの人と抱き合う光景を見て、ああ、この時ほど家族に会いたかったことはないーと締めているのは、素直な感情にも、その巧みさにも感心した。

やっぱり伊勢さんは絵本も、エッセイも大好きだな。めっちゃ満足。

4月書評の5

22:30ごろ、街の上に赤い月が浮かんでいて、いい具合に禍々しかった😎

◼️ 永井路子「氷輪」(上)

鑑真の日本到着は大仏開眼の翌年。政治と授戒。小説というより新書の内容を機嫌よく読む。

鑑真が晩年を過ごした唐招提寺は、近くにある薬師寺のようにきらびやかではないし巨大寺院、という印象でもない。けれどもしっとりとした敷地内の雰囲気と、創建時の姿を残すという金堂の、空に映える屋根の反りに、天平の風情、かすかな時代の残滓を感じる気が、ホントにするのです。売店で買った井上靖「天平の甍」を家で開いた時、すうっと抹香が匂い立ちました。

753年、奈良の大盧舎那仏開眼法要の翌年の年末に日本に着いた鑑真の一行は年が明けてようやく平城京入りする。日本では受戒、僧となる資格を得る儀式と修行が確立されず、税金逃れのために出家する男女が後を絶たず、政府は正式な受戒のできる高僧を唐から招請するため日本人の僧侶を派遣、要請に応じた鑑真は足掛け10年、その間失明しながら6回めの渡航でようやく日本の地を踏んだ。

しかし奈良では藤原不比等の孫、仲麻呂が藤原氏出身で叔母の光明皇太后、さらに光明の娘で従兄妹にあたる孝謙天皇と手を取り合い、聖武天皇が孝謙天皇に譲位した後の最高権力を得ようと画策、政治が動いていた。その中で聖武天皇時代に企図された鑑真招来、授戒とその後の修行などは翻弄されるー。

最初は小説の体を取っているように見えて、実質は古代が得意の著者が専門的な史料にあたり、現代主流の説に対して自説を分析的に述べていく本。授戒というものは、など当時の仏教についても探究している。インドで生まれた仏教は、中国でものすごく細かいところまで体系化され、それが日本に入ってきた、という流れはおもしろい。当時日本で外国といえば朝鮮半島、中華の国だった。

著者は持統天皇、天武天皇の2代後の元明天皇、元正天皇といった女帝たちがいずれも蘇我氏系であることを看破、この勢力と、藤原不比等との対立との図式などを物語にした人。とにかく自分で一次史料にあたる方でその考察は定評があるらしい。

まあ今回はさまざまな点で、小説本ではなく限りなく新書に近いと思う。こだわり、自説の説明を繰り返し物語に入れていく。古代は不明のことがあまりに多くて推測の域を出ないものもある。難易度が高めだな、と思いつつ読んだ。

ただ私は亡くなられた永井路子さんがこの本で、さまざまなポイントにこだわり長く見解を述べているのをフンフン♪と快調に読んでいた。正直難度が高いとこは流しもしつつ。著者の本を読んで、奈良に実際に行ったり、体験を思い返したりというのが楽しみとして備わっているんだな、と再認識できたことが嬉しい。

ちなみにこれ上下巻。上巻だけでも完結できる感じではある。たまたまブックオフにあったのが上巻のみで、好みのジャンルではあるけれど、機嫌よく読んだけど、理屈っぽいこの調子からはいったん離脱したく笑、下巻は後の楽しみとしようと思います。図書館にはあるようなのでまた。

今作を書く前、永井さんは東大寺から唐招提寺まで歩いてみたそうだ。私は秋篠寺から平城京跡、光明皇后発願の国分尼寺である法華寺のルートを散歩したことがある。

東大寺の寺院群のあたりはザ・観光地。興福寺で混むことなく阿修羅像を見て、大仏様を拝んで、三月堂でぐるりと天平彫刻の木造に囲まれた異空間に座る、など数年に1度は行きたくなる。

ぼちぼち時期かな。その気になってきた。

2024年4月7日日曜日

4月です桜満開の時期は地元民はちょっと苦難。

今週もこれというお出掛けはなし。日本の桜百選に入ってる地元は人であふれ地元民は駅、電車🚃バス🚌に人が激増するので、スキマを縫って移動するのが習い性。経験からきょうも混まないバスを狙って買い物から帰ってきました🤗

朝少し寒いからTシャツに薄いパーカー。昼間の帰り道はあっつい。街の大半の人は上着を着てて暑そう。パーカー脱いでリュックに入れてあつーと帰ると山にある家の陰、屋根の下は肌寒い。調節しにくい季節です。どうも体調、良くはないんだよね。

⚾️わがLionsは3カード連続の勝ち越しを決め出だし好調🦁嬉しいねレオ。

バスケ🏀は女子Wリーグのセミファイナル、デンソーvs女王ENEOSは2戦ともデンソーが終始リードしてスウィープ。高田真希、赤穂ひまわりに馬瓜エブリンが加わったデンソーはG陣も成長して完勝した。

もう1つのカード、町田瑠唯、宮澤夕貴、林咲希を擁する富士通は1戦めは大差の勝ち。しかし強豪トヨタを下して勝ち上がってきたシャンソンは粘りに粘って最大19点差を逆転、大接戦を勝ち切った。あす第3戦。楽しみだ😊

男子Bリーグ横浜は1戦めはブザービーター逆転スリーで勝ったものの、次戦は逆に1点差負け。しかし劇的な試合が多くて退屈しなかった。この週は男子U-18代表の国際トーナメントも生観戦したし🏀観戦三昧。

モロゾフのプリンは我が家の定番。スーパーのエクレアも美味しい。少し前だけど、大阪市街の夜景の上に欠け始めの赤い下弦月が浮かび、いい具合に凶々しさを放ってたのでした😎

4月書評の4

◼️ 「わが心の銀河鉄道」

'90年代の宮沢賢治の映画ノベライズ。心に浮かぶキャストは最近の「銀河鉄道の父」の俳優さんたちだった。

去年「銀河鉄道の父」を観た。賢治は菅田将暉、妹トシは森七菜、父政次郎は役所広司。1996年の「わが心の銀河鉄道」は賢治が緒方直人、トシが水野真紀、政次郎は渡哲也、そして賢治に猛アタックする女性・高瀬露に斉藤由貴。「わが心」は知り合いの宮沢賢治学会員さんが絶賛していたからたまたま見かけて手に取った。やはり観た方に影響されるもので読みながら想像は「父」の方のキャストだった。

あらすじはおおむね同じ。質屋を営む宮沢家は地域の財産家。賢治は父の商売が農民たちを苦しめていると廃業まで迫る。貧しい農民たちを救いたいと農業のユートピアを夢見るが、理想と現実とのギャップに悩む。救いを求めて日蓮宗の法華経にハマり、人造宝石を売るとかアメリカに行くとか言い出して父に叱責ばかりされる日々。最愛のトシが亡くなり悲しみに打ちひしがれる。物語を書き、学校で作詞作曲、劇の創作など型破りで楽しい教師生活を送り、やがて肥料設計、農業指導を行う羅須地人協会を立ち上げるが、最後まで「道楽農民」と揶揄され身体を壊す。

生き方が不器用で物語や詩の創作に光を見出す賢治に、あれこれと言いながらも愛情を寄せる家族。政次郎も、人の言うことを聞かず突飛な行動をする賢治を心から心配し面倒を見ていた。


圧倒的な著作の魅力。生前に出版した詩集「春と修羅」、童話集「注文の多い料理店」はさっぱり売れなかったが、文人たちの尽力により賢治の死後すぐに全集が出版され、「雨ニモ負ケズ」は戦時下に広まったらしい。「銀河鉄道の夜」ほかの作品は現代に至るまで多くの人に、文芸作品はもとより映像作品やアニメーション作品に強い影響を与え続けてきた。

その一方で理想と自分の力の小ささ、実を結ばない努力に悩み苦しむ姿も合わせて読者を惹きつけている。

「父」と「わが心」の違いは学友、文芸仲間との交流があるかないか、だと学会員の方。こちらには確かに家族以外の理解者、支持者の姿がしっかりと描かれている。「父」は家族に特化している感じかなと。

折々に、創作に沿ったファンタジー風の場面が入る。宮沢賢治の話しで印象的なイギリス海岸も、トシの死による樺太への旅、センチメンタル・ジャーニーも、チェロ演奏も静かに挿入されている。好みだなあ。

先日原田マハ氏がテレビで、画家が題材の物語は史実1割と言っていた。まあそんなこともないだろうけど笑、伝記映画が絶対挿入しなければならないエピソードに縛られて結果面白くなくなる、というパターンもよく見てきた。

宮沢賢治はそこそこ関連本を読んだ読んでいて、どれかというと定番ものに出会う感じで人生のトピックを見る感覚。そして、フォーカスの仕方により作り方にもバリエーションがありそうだ。人生上のドラマと悲哀という点ではゴッホに似てるかな。

気になっていたので、読めて良かった。

4月書評の3

◼️ 野﨑まど「HELLO WORLD」

アニメ映画脚本の原作小説。観に行ったなあ。京都が舞台の高校生恋愛SF。

野﨑まどは「[映]アムリタ」が面白かったので何作か読み、脚本を担当したこの作品を観に行った。ちょうど京都によく行っていた頃でもあった。思い出しながら読む。もう1回観たくなるな。

京都・錦高校に通う堅書直実(かたがきなおみ)は気の弱い読書好きの高校1年生男子。ある日突然現れた10年後の自分に3か月後には同じ図書委員でちょっと変わり者の一行瑠璃(いちぎょうるり)と恋人になると告げられる。先生と呼ぶようになった未来の自分の言うとおり瑠璃にアプローチし、授けられた不思議な手袋で何者かと闘う特訓を始めるー。

いまアニメの情報を見返すと、直実は北村匠海、未来のナオミは松坂桃李、瑠璃は浜辺美波、図書委員会のアイドル・勘解由小路三鈴(かでのこうじみすず)は福原遥となかなかオールスターな声優陣。

未来のナオミは、一緒に行った花火大会で瑠璃が事故に遭う、過去を変えるためにやって来た、と言う。過去はシステムによりすべて記録されていて、記録を改ざんするのだと。しかし阻止しようとするシステムから狐面の刺客が湧き直実たちを襲う。ナオミには、目的があった。

雰囲気ある京都の街、伏見稲荷、鴨川、宇治の花火大会、巨大な京都駅と舞台は抜群。本好きでツンデレのヒロインが恋に目醒める。面映い感覚。高校生はいいな。気弱な男子が恋人のため成長する。妖しい的にヒーローグッズ、狐面や八咫烏という和風な仕掛け。そしてSF風味にデカいスケールでの戦闘、破壊、ホワイトホール。パターンを踏襲してる気もする。でもこうでなくっちゃね。

アニメはどこか唐突感のある場面があったりもしたがまあ面白かった。読んでから観たかった、という気分。うーん、メインとなる強い思い入れをもつほど一行さんが読み手、観客になじまない感覚があるかな。後半も戦闘シーンが目立ちすぎて一行さんどこ行ったのかな、と思ったし。

ただ、サラッとした中で定型に見えつつも、野﨑まどには、何か型にはまらない魅力が感じられるんだよね。会話の妙や、隠されたバランスの良さや発想の小粋さとでもいうか。だから次も読みたく、観たくなる。次は神戸でお願いします。

4月書評の2

写真は先日行ってきたスメタナ「わが祖国」指揮者は小林研一郎です。悪しからず。

◼️小澤征爾「ボクの音楽武者修行」

ドキュメンタリーを観て、著作を再読。その人間力に触れる。さよならマエストロ、でも作品は永遠だ。

小澤征爾の指揮した曲、リハーサル風景、インタビューなどがたっぷりと入っている、長めのドキュメンタリーを観た。会見の短い映像以外は観たことがなく、巨匠のリハは貴重なものを観た気になった。YouTubeでよく聴いていた「弦楽セレナード」は第1楽章だけが医師に許された指揮の時間だったことを初めて知った。気持ちが入り込む。

さて、本書は若き小澤征爾がヨーロッパで、アメリカで大活躍する。登場するのはビッグネームばかり。まさに歴史だ。1935年9月生まれの小澤は1959年2月にフランスに渡り、スクーターで各地を走り回った。同年のブザンソンコンクールで1位、翌年アメリカに渡り、シャルル・ミュンシュに師事するためのコンクールで1位となりレッスンを受ける。さらにベルリンでカラヤンの弟子になるためのコンクールも合格してベルリン・フィルでアシスタントとなり、アメリカにいた時期に仲良くなっていたバーンスタインのニューヨーク・フィルの副指揮者に就任する。この間およそ2年半。23歳から25歳。若くして、世界の音楽史を彩る偉大すぎる指揮者と多くの仕事をした。すごいなああ〜と思う。逆に世界を探してもこんな人あんまりいないんじゃないだろうか。

初めての海外がフランス。ヨーロッパで色んなことを感じながら物怖じせず、たくましく前に進む姿はスケールの大きさを感じさせる。特にベルリンは未だ戦災が癒えておらず、でも音楽の街だった。当地の時代感の描写には心惹かれるものがある。

巨匠との修行時代、音楽観、フランスとドイツ、アメリカとの違いからチロルの山奥でのスキー、修道院生活、ル・コルビュジェ設計のモダンな宿舎の生活、現地での邦人との触れ合いなど興味深い。

ドキュメンタリーの中で、小澤征爾は東洋人である自分が西洋の音楽を理解できるのか、という疑問に取り組み、音楽は、その時代のドイツやロシアの人々だけのものではなく、もっと高みにあって、人間なら誰でも感動できる、という考えを示していた。似たような疑問というかコンプレックスのようなものを岩城宏之も著者で書いていたのを思い出す。日本人音楽家には永遠のテーマなのかも。

20代前半でかなりの成功を収めてしまった小澤はこの後様々な経験をし成功するわけで、長年積み上げたものから解答を見出したのかと思わせる。

人懐こい、ユーモラスな笑顔、リハでの指示は明快、良い雰囲気を作り上げているのが伝わる。事もなげに、相当の努力をしているのが本からも見える。

リハでは小澤が指揮棒を上げ、下げた瞬間に弦楽セレナード冒頭、重厚なストリングスの音が流れる。時折り混ぜる「行くぜっ」という言葉がめっちゃカッコいい。

行くぜっ→すぐ上げてすぐ下ろす→重厚音

このテンポと流れが最高。人間力が良い外貌を取って現れる。とてもかなわないけど、少しでも見習いたいものだ。

良い番組鑑賞、良い読書でした。

4月書評の1

バテが・・最近は続けて外遊びするとバテるようになってきまして、先週に続きカウリスマキ映画特集を観たかったけれど諦め、午前地元買い物だけにして午後は家でのんびり各種スポーツや録画ものを観てた。⚾️わがLionsは開幕カード勝ち越し。打線の中軸が抜け、育成期間だからしばらく、とか言いつつ、やっぱり勝つと嬉しい😆

先週は早期退職の同期や定年の方の送別が相次いだ。色んな思いがある。若い頃はよく一緒に遊んだけど、みなそれぞれ家庭を持ったり職場変わったり。昔話は尽きないし、複雑な感慨もあるものだ。

んで送別ランチのちょっといいハンバーグと、我が家定番の楽しみ、京都の中華サカイのお取寄せ冷麺。いやー美味い😋。

美しき川よ モルダウよ

姉が大学の声楽科で、高3の受験の時毎日歌っていた。

小林研一郎指揮のスメタナ「わが祖国」歌はなかったけれど感動した。モルダウの冒頭のフルートのデュオ、弦の深さがまるで川の雄大さ、重く流れる風景を紡ぎ出す。抒情的だ。何か心に訴えるものは万国共通だと思う。パーカッションも、次の楽章ではクラリネットが頑張った。

録画しておいた小澤征爾のドキュメンタリーを観た。若くして渡欧、20代ですぐに頭角を表しカラヤン、ミュンシュ、バーンスタインといった巨匠、チョービッグネームに師事し、後年はロストロポーヴィチにも弟子入り。2人のドヴォルザークのチェロ協奏曲はホント名盤だと思う。

岩城宏之もなぜ日本の音楽を極めずに西洋音楽をするのか、ということに悩んだ様子を著書で読んだ。小澤征爾もまた、東洋人である自分に理解できるか、という疑問を抱いていた。しかし、音楽はその当時のオーストリアやロシアの人だけのものではなく、もっと高いところにあり、だから世界の人間は感動できる、という意味のことを話していた。深く頷く。

加えて、ユーモアとエスプリと求心力がある独特の表情、あまり語るところを見たことがなかったし、楽譜の解釈やリハーサル風景はめっちゃ興味深かった。リハーサルは小澤が手を動かすとすぐ演奏が始まる、その前にかける「行くぜっ」という言葉のカッコよさ。

その人間力って憧れる。(絶対かなわないけど)少しでも見習っていきたいね。

先週までダウンを着ていたところが週末は一気に暖かくなり春になると探す小さな小さなヒメオドリコソウほかカラフルな野草も花を開く。新年度やね。

◼️早瀬耕「未必のマクベス」

逃れられない運命?そこが未必か。魔女や森の演出が効いている。

シェイクスピアの四大悲劇の中ではマクベスとオセロが好きだ。アジアの壮大な舞台設定で運命が走り出す。きれいはきたない、きたないはきれい さあ飛んで行こう 霧の中、汚れた空をかいくぐりー

Jプロトコルという会社でアジア圏でICカードの営業をしている中井優一は高校同級生の部下・伴浩輔とバンコクのビジネスを成功させた後、カジノで大勝ち。声をかけてきた黒髪の娼婦ソフィに「あなたは王になって、旅に出なければならない」と告げられる。

中井は翌朝カフェで出会った男からHKプロトコルという会社の株譲渡を持ちかけられる。ほどなく中井と伴に会社の香港現地法人、Jプロトコル香港へ社長・副社長として赴任するという人事情報が突然もたらされる。中井はカジノの資金を使い、HKプロトコルの株を購入するー。

香港、澳門(マカオ)、ベトナムなどが主要な舞台。説明はさほどなく、ハイソな生活ぶりに漂うエスプリ、物語の芸術性を感じさせる。マクベスは魔女の予言が心に残り、妻とともに王を殺害、戦友のバンクォーをも暗殺し、やがて妻は死に、自らも非業の最期を遂げる。

中井と伴は理不尽な企業論理により命を狙われることになる。ハッキング、北朝鮮の亡命王子、殺人、ブローカー、殺し屋・・そして中井と伴の同級生、数学に異常な才能を持つ鍋島冬香の影が見え隠れする。

全てが妖しく、大きな力で運命が動いていくことを予感させる。鍋島と、香港での中井の秘書の森川佐和、王子のボディガードの呉蓮花さらにはJプロトコルの社員・陳霊、中井の恋人の由記子、魔女代わりのソフィと女性が多く、それぞれキャラが立っている。いやー映画的というか。サスペンスですね。マクベスのクライマックス「森が動く」仕掛けはふむふむ、と感心した。原作マクベスの見えない手に操られる悲劇性をよく活かしていると思う。

しかしま、実を言うと最初のほうに引っかかって、長い物語中、その疑問が消えないでいた。子会社の中井たちがバンコクのビジネスを成功させ、親会社で引き取るから、邪魔になって左遷・・?この理解でいいのかどうか。「稼げる」社員はよほど煙たい存在でもない限り、干さずに使うんじゃないのかなと、で、わざわざ裏金作りの会社に行かせる?とサラリーマンは思うのでした。それに殺すのはいくらなんでも物騒すぎるのではと。

物語なのでそれを言ってはというのはあるけれど、切れ者同士の会話、運命論も分かるようでもひとつ分からなかったし、うーん評価の難しい作品だ。